暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、拡大の過程で

順番に荷車を納品し。

 

薬類や爆弾も納品していく。

 

やはり、土木作業をしていると、けが人も出る。危険作業を行う場合は、友愛のペルソナとマイスターミトンを身につけるように義務づけ。それでかなり怪我を減らすことも出来るのだが。

 

それでも完全に無くすことは不可能だ。

 

先手を打ってあたしが薬を納品すると。

 

ホルストさんは喜んでくれた。

 

「気が利きますね」

 

「あの仕事の様子を見ていると、どうしても気はつきますよ」

 

「続けて作業をお願いします」

 

「はい」

 

それと、グナーデリングについても近々お披露目会をしたい話をしておくが。グナーデリングのことは、ホルストさんは知っていた。

 

「モニカから報告は受けています。 一段落したら、すぐに性能試験をやりましょう」

 

「前にお披露目をしていた場所はもう畑ですね。 何処でやりますか?」

 

「そうですね。 森の裏手、今後開発の予定が無い窪地があります。 彼処でやりましょうか」

 

「分かりました」

 

彼処か。

 

森を突っ切らなければならない利便性の悪い場所で、それ故に放棄されている処だ。土地としても利用方法が無いし、何より水はけが悪い。キルヘン=ベルからは丸見えになる場所なので、匪賊などが潜むことも出来ない。

 

利用価値が無い土地なのだけれど。

 

まあこういう形でなら、利用できるか。

 

アトリエに戻る。

 

途中まで仕上げた荷車を、完成まで持って行くべく黙々と作業をする。

 

不意に、プラフタが言う。

 

「この荷車は便利ですが、ものの運び入れ、運び出しは結局人力ですね」

 

「そればっかりは仕方が無いよ……て錬金術でどうにかなるの?」

 

「なると思います」

 

図鑑を見せてくれる。

 

グラビ石と呼ばれる存在があると言う。

 

何でもものの重さを消滅させる存在で。

 

場合によっては、コレを使う事で、空を自在に舞うことも出来るとか。

 

「こんな便利なものがあったんだ」

 

「問題が幾つかあります。 加工が難しいという事。 それに、この辺りでは採集できる土地がありません」

 

「調べたの?」

 

「ホルストと時々話をして、貴方の祖母との冒険について聞いています。 ホルストは記憶力が良いので、どのような土地で何を採集していたかは覚えています。 少なくとも、貴方の祖母が足を運んだ場所には、存在していないようですね」

 

そうか。

 

それは厄介だ。

 

おばあちゃんは邪神を葬った事もあると言う話で、それが足を運んでいないとなると。キルヘン=ベルから相当な距離がある土地に行かなければならないか。

 

もしくは商人から買うか。

 

或いは、この辺でタブーになっている土地に赴くか。

 

いずれにしても、危険は冒さなければならない。

 

「プラフタは昔拡張肉体を使っていた、という話だったよね。 それにもグラビ石は使っていたの?」

 

「使っていました。 当時の私には、魔術の才能はありませんでしたから」

 

「欲しいな……」

 

一度こなした作業だ。

 

荷車の作成はそれほど苦労するものでもない。

 

ただし時間は掛かる。

 

意思が荷車に宿ったのを確認。

 

後は乾燥させて終わり。

 

だが、外は。

 

雨が降り出していた。

 

オスカーの言う通り、ここ数日は雨が多い。仕方が無いので、魔術で空気の流れを操作して。乾燥させる。

 

これが多少手間だが。

 

まあ仕方が無い。

 

魔術を展開後、地図を出す。

 

プラフタとも何度か見た地図だが。ありそうな場所に、見当はつかないか聞いてみる。しばし考え込んだプラフタが。

 

何カ所か候補を挙げた。

 

「まずは此処ですね」

 

「ここって、ノーライフキングの」

 

「はい。 地底湖だそうですが、恐らくノーライフキングが長年封じ込まれたことで、相当量の魔力が流入出を繰り返したはずです。 その結果、鉱石が変質して、グラビ石が出来ていても不思議ではありません」

 

本来グラビ石は、自然に出来るものではないそうだ。

 

邪神クラスなどの強力すぎる魔力の塊が住処にしていたり。

 

ドラゴンが巣を作っていたり。

 

そういう場所にできるらしい。

 

もう一つは、北にある谷。

 

大量の巨大な水晶の塊がある事で知られているのだが。

 

此処は知る人ぞ知るドラゴンの住処だ。

 

幸い、縄張りに入らなければ人間を襲撃するような真似はしないが。此処には絶対近づかない、というのが地元民の暗黙のルールとなっている。良くしたもので、匪賊でさえ此処には近づかないという。

 

水晶の塊は、どうやらドラゴンが運んできたらしく。

 

コレを目当てに入り込むバカが最初はそれなりにいたらしいのだが。

 

その全員が生還できず。

 

結局、此処は人間がタブーとするに至ったようだ。

 

なおおばあちゃんだが。

 

別に人間を積極的に襲いに来るドラゴンでも無いし、放置で良いだろうという事で、此処には結局手を出さなかったそうだ。

 

まあお婆ちゃんらしいといえばらしい。

 

更に、何カ所かの、街からかなり離れた場所をプラフタは指定。

 

いずれもが。人跡未踏。

 

街道からも離れ。

 

どんなネームドがいるかもよく分からない危険な土地ばかりである。

 

そうなってくると、ノーライフキングの洞窟が一番近いか。

 

「ただ、貴方の祖母ほどの錬金術師なら、グラビ石を用いた調合は確実にしているでしょう。 商人から買っていたのか、或いはもっと遠くを旅しているときに、既に安全になった元危険地帯から入手したのかは分かりませんが……」

 

「うーん、そうなると、一人前から一流になるための壁か……」

 

「まだ貴方は一人前になったばかりです。 いきなり壁にぶつかっても、滑り落ちるだけですよ」

 

「分かってる」

 

コンテナを漁ってみる。

 

あたしもコンテナの全てを把握しているわけではない。ひょっとしたら、あるかも知れないと思ったのだが。

 

ない。

 

まあ当たり前か。

 

話に聞く限り、相当な貴重品だ。

 

ほいほい入手することは出来ないだろう。

 

だが、どうやらグラビ石は、おばあちゃんも入手していたらしい。

 

プラフタが、コンテナの一角で、じっと浮いていたからだ。

 

「この一角に、数は少ないですが、グラビ石を置いていたようですね。 力の残り香があります」

 

「欠片でも残っていないかな」

 

「……欠片なら」

 

促されて覗き込むと。

 

そのコンテナの棚の天井に。

 

小さな石片が、少しだけ貼り付いていた。

 

気を付けながら剥がしてみると、確かに浮き上がる。力そのものは、とても弱々しいが。

 

なるほど。

 

これがグラビ石。

 

確かに、こんなものが自然に出来るとは思えない。強力な魔力を流し続ければ、或いは出来るのかも知れないが。

 

同じような破片が幾つかあったので。

 

全部まとめて、袋に入れておく。

 

興味が湧いてきた。

 

プラフタに、グラビ石について聞いてみる。

 

「人工的に作り上げる事はできないの?」

 

「出来るには出来ます。 ……そうですね。 ソフィー、貴方の並外れた魔力であれば、むしろその方が現実的かも知れません」

 

「教えてくれる? 丁度時間もあるし、座学で」

 

「仕方がありませんね……」

 

プラフタは少し呆れたが。

 

しかし、座学だと頭に入りやすいのも確かだ。

 

それによると、である。

 

そもそも、多くの邪神やドラゴンは、本来の自然の法則に従って飛んでいるわけではないそうである。

 

これについては、霊や。

 

ある意味プラフタも同じだそうだ。

 

「一種の魔術を使っているという話は聞いているけれど」

 

「その通りです。 特にドラゴンや邪神は、本来巨体過ぎて、飛ぶ事が出来るはずも無いのです。 この世界には機械の技術もあり、それの頂点では空を飛ぶ事も可能だそうですが。 それでも、ドラゴンや邪神の巨体を浮かせることは本来ならできる筈もないのだとか」

 

「ふむふむ」

 

プラフタは機械にもある程度知識があるらしく。

 

更に説明は進む。

 

「ドラゴンはまだ謎が多いのですが、邪神は世界の構成要素そのものです。 その存在は、世界の「要素」の圧縮体で、膨大な魔力を常時周囲に放っています。 この魔力の内、「浮く」事に特化した部分が、グラビ石になるとか」

 

「実証実験はしていないの?」

 

「していますよ」

 

つまり、プラフタも試したことがあると。

 

邪神をじっと観察して、グラビ石が出来るところは流石に見た事がないらしいが。

 

生前のプラフタは、邪神を倒した事もある錬金術師だ。

 

当然その周囲に膨大なグラビ石や、もっと貴重な鉱石類が出来ているのは、直接目で見たそうである。

 

更に、環境を再現して。

 

グラビ石を作る事にも成功しているそうだ。

 

「中和剤をぐっと圧縮する感じですが、その圧縮の度合いが桁外れです。 そうですね、百倍、いや二百倍。 それも浮くことに特化した魔術をつぎ込まないと難しいでしょう」

 

「プラフタはそれをどうやってやったの?」

 

「魔術は使えなくても、ものの意思を操作して、魔術を使わせる事は出来ましたから」

 

「ああ、なるほどね」

 

それなら納得だ。

 

少し考える。

 

魔術だったら、あたしは錬金術よりも現時点では得意なくらいだ。

 

やってやれないことは無い。

 

荷車の乾燥が終わるまで、少し時間がある。

 

更に言うと、その後には、どうせグナーデリングを作成して、納品する作業が待っている。

 

その時間を使って。

 

グラビ石を自作し。

 

そして活用方法を考えて見るのも悪くは無いだろう。

 

外を見る。

 

雨がますます激しくなっている。

 

せっかくの全自動荷車も、綺麗なまま納品するのは難しいだろうな。あたしは、ぼんやりそう思っていた。

 

 

 

時間は掛かったが。荷車の納品は完了。

 

ただ魔術を展開し続けた事や。荷車のサイズがまちまちだった事もある。

 

思ったより、時間は掛かってしまった。

 

ホルストさんは、ねぎらいの言葉を掛けてくれたが。

 

グラビ石について聞いてみると、流石に在庫はない、という事だった。

 

コルちゃんにも聞いてみる。

 

そうすると、小首をかしげた後。

 

記憶から引っ張り出してくれた。

 

「今までに、此処で取引をした商人の中には、珍しい素材だとかを売りつけようとしてきた者はいましたのです。 しかしグラビ石という名前には聞き覚えが無いのです」

 

「浮く石なんだけれど」

 

「そのようなもの、ますます見た事がないのです」

 

そうか。ならば仕方が無い。

 

プラフタはヴァルガードさんとハイベルクさんの所に行って話を聞くが。

 

二人とも、見た事はあるが、今手元にはないし、ある場所も見当がつかないと素直に答えてくれた。

 

街の古老格といえば、後はパメラさんか。

 

だが教会で子供達と遊んでいた彼女も。

 

持ってはいないと言う。

 

「聞いた事はあるのだけれどねえ。 魔力が籠もった石ならあるわよ。 これとかどうかしらあ」

 

「見せていただけますか?」

 

見せてくれたのは、不思議な鋭角的な石。

 

ああ、これなら見た事がある。

 

ペンデロークだ。

 

霊などを滅ぼすと、たまに落とす石である。石とは言っても圧縮された魔力の結晶で。非常に強力な魔力を引っ張り出すことが出来る。

 

これは使えるかも知れない。

 

「どれくらい持っていますか? 品質が良いものに限ります」

 

「そうねえ。 勿論ただじゃないけれど、それでも良いかしら?」

 

「教会にはあまり顔を出していませんし、その代わりということで、寄付金という事で払いますよ。 子供達においしいものでも食べさせてあげてください」

 

「まあ。 感心ね」

 

パメラさんはおっとりした笑顔を浮かべるが。

 

実際問題、こういった場所では「やらない善よりやる偽善」である。

 

子供達においしいものを食べさせてあげるには、お金がいる。

 

お服だって同じ事だ。

 

パメラさんはこの街の最古老だが。それでも彼女が街のお金を好き勝手に出来る訳でもない。

 

最低限の食糧などは、善意で貰っているようだが。

 

それでも、この間の難民にしてもそうだが。此処で世話をして貰っている子供はいるし。そういう子の生活費は、空中から沸いてくるわけでも無い。

 

噂によると、悪辣な教会には、信者から金を巻き上げて、贅沢三昧をしている様な場所もあるらしいが。

 

不思議な話で、そういう事をしている連中は。基本的に数年と生きられないらしい。

 

理由は分からないが。

 

或いはその手の腐敗坊主を暗殺する組織でもあるのかも知れない。

 

パメラさんがくれたペンデロークは六つ。

 

いずれも品質は悪くない。

 

これだけあれば充分だ。

 

礼を言うと、アトリエに戻る。

 

なお、まだ忙しいという事で、グナーデリングのお披露目は先だ。話はしてあるので、その内やってくれと言われるだろうが。声を掛けられるまでは、グラビ石の作成に注力したい。

 

というのも、現時点では確実に入手する方法が他に無いから、である。

 

ノーライフキングはしばき倒しに行きたいが、それもホルストさん達の許可を得ないと駄目だし。

 

遠くの採集地は危険すぎるし。

 

何より今は、人員が集まらないだろう。

 

キルヘン=ベルとの協調態勢をとって錬金術をしている以上。

 

こういう場合もある。

 

仕方が無い。

 

だが、だからといって。

 

あたしが好きなことをしないというのもおかしな話で。

 

好きな事をある程度やらせて貰うのも、協調関係には大事なのだ。

 

アトリエに戻ると。

 

早速レシピを書く。

 

プラフタに見せると。

 

流石に驚かれた。

 

「これは、正気ですか」

 

「大まじめ」

 

「……そうですね。 確かに貴方の並外れた魔力と。 それにペンデローク6つ。 しかもこのペンデロークは、いずれも品質が優れています。 これならば、出来るかもしれませんね」

 

よし。

 

ではさっそく試してみるか。

 

まず、さっきまで展開していた乾燥のための魔術を消去。魔力を吸収。

 

呼吸を整えると。

 

床にゼッテルを拡げて、魔法陣を描く。

 

いわゆる六芒星だ。

 

それぞれの頂点にペンデロークを置き。

 

そして六芒星の真ん中に、ただの石を置く。サイズは、拳大。その辺から適当に拾ってきたものだ。

 

「ちょっと全力で魔力を叩きこむから、人払いよろしく」

 

「良いのですか。 負担も尋常ではありませんよ」

 

「何、一つ作れば、後はコルちゃんに増やして貰えば良いから」

 

「そういう問題では……」

 

プラフタが二の足を踏んでいるが。

 

理由は簡単。

 

生半可な魔術使いだったら。

 

ミイラになるような方法だからである。

 

だが、あたしは魔術にも魔力にも自信がある。

 

やってやれないことはないし。

 

これで駄目なら。

 

あたしもそれまでということだ。

 

そもそも才能だとかが偏っているこの世界がおかしい。コレで死ぬなら、あたしもそれで本望である。

 

飲み干すのは、この街特産のミルク。

 

結構美味しいし栄養もある。

 

さて、準備は充分か。

 

軽くストレッチをした後。

 

詠唱をして、魔力を極限まで高め。

 

魔法陣の端に手を置き。

 

起爆ワードを唱えた。

 

瞬時に、全身の魔力が吸い上げられる。

 

ペンデロークに蓄えられていた魔力が、凄まじい勢いで魔法陣を循環し始め。全てが石に集まっていく。

 

流石に強烈な倦怠感を覚えるが。しかし、まだまだ。

 

ペンデロークがひび割れ始める。

 

強烈すぎる魔力に耐えられなくなったのだ。

 

全身が焼けるように熱く。

 

そして痛い。

 

特に直接触れている手は、皮膚が内側から引きはがされていくような感触を味わっていたが。

 

どうでもいい。

 

ペンデロークが砕ける。

 

一つが砕けると、残りも立て続けに砕けていき。

 

超高密度の魔力が収束した先には。

 

確かに、浮かぶ石が出来上がっていた。

 

ペンデロークの破片が、それに吸い寄せられ。

 

溶けるように一体化していく。

 

呼吸を整えながら。

 

鮮血が垂れ落ちている手を、ゼッテルから「剥がす」。

 

丁度そんな風な感触がしたが。

 

見ると手はひび割れ状に傷が走っていて。

 

肉が見えるほど傷ついていた。

 

垂れ落ちる鮮血。

 

感覚がなくなっている。

 

無言で、自分用にとってある薬を使って、傷を回復させていくけれど。

 

流石に全身の魔力を吸い上げられたからか。

 

あまり力が入らなかった。

 

「ソフィー!」

 

珍しく、プラフタが動揺しきっている。

 

あたしはいつもより若干鈍い動きで手を洗う。くみ置きの水を、蒸留水にしてあるのだが。

 

手を洗うために、いつも一定量を用意してあるのだ。

 

その蒸留水が。

 

瞬時に真っ赤に染まった。

 

傷は治っているから、もう痛みは無いが。

 

虚脱感が強烈で。

 

その場に倒れそうである。

 

そうか。

 

頑健に育った。

 

あのクソ親父のせいで。以降は何が起きても生きられるようにと、意識して育っていった。

 

自分で計画的に。

 

強くなって行ったと言っても良いだろう。

 

だからか、危険な目にあっても。激しい戦闘を行っても。その戦闘で、死の臭いを間近で嗅いでも。

 

それでも、何処かで力をセーブしていた。

 

今回は、恐らく。

 

あたしの力を、フルパワーで。何の躊躇も無く。全てつぎ込むつもりで使った筈だ。自分でも試すのは初めてだったが、そうか。此処まで強烈な負荷が掛かるのか。

 

蒸留水を捨てる。

 

そして別の蒸留水を入れて洗い、煮沸消毒した。

 

調合の際に手を綺麗にするのは当たり前のことで。

 

ここずっと、蒸留水はため込んでいる。

 

こんな風に使ったのは。

 

実は初めてだったかも知れない。

 

爪は。剥がれていないか。

 

手を見るが。

 

どうにもぼんやりと見える。

 

あたしの目はこんなに悪かったか。眼鏡を貰わないといけないだろうか。

 

プラフタが、寝るようにと側でしつこく言っている。五月蠅い。とりあえず、完成したグラビ石をとる。天井に貼り付いていたので、脚立を持ち込んで、それでようやく掴めた。普段だったら、魔術で身体能力を強化して、跳躍して取ってしまうのだが。今はそれも出来そうに無かった。

 

触ってみると分かるが、凄まじい熱を含んでいる。魔力の凝縮体だ。それは浮かぶわけである。ペンデロークなどとは比較にならない凄まじい魔力が、これに籠もっているのが分かった。

 

後でコルちゃんに量産して貰うとして。

 

外に持ち出すときには、気を付けて扱わないといけない。

 

強い魔力を含んでいる沈黙の魔獣の毛皮で包んで、コンテナに入れる。おばあちゃんがグラビ石をおいていたらしい場所に置くと。其処でどうしてか、天井近くまで浮き上がらず、安定した。

 

何か仕掛けがしてあるのだろう。

 

気付くと、プラフタが呼びに行ったのか、血相を変えてモニカが飛び込んできた。

 

そして絶句する。

 

「ソフィー! どうしたの、その手……」

 

「洗ったよ?」

 

「服が血だらけよ! それにその血だらけの魔法陣、どうしたの!?」

 

「ああ、ちょっとした調合をしただけだよ。 魔力を強烈につぎ込んだから、手の皮膚とか爆ぜ割れただけ」

 

モニカはしばらく拳を固めて俯いていたが。

 

やがて、ベッドに押し倒して。フトンをかぶせて、寝るように言った。かなり強い口調で、である。

 

回復魔術も使い始める。

 

其処までしなくても、寝ていればどうにかなると思うのだが。

 

「プラフタ、大げさじゃない?」

 

「……」

 

プラフタは答えない。

 

沸点が低いくせに。

 

今日はどうしてか、怒っていないようだった。

 

 

 

目が覚めたのは翌日の昼。

 

一日以上眠ってしまった。

 

起きだす。

 

同時に、激痛が走った。

 

筋肉痛に近いが、それ以上のものだ。

 

多分魔力の過剰使用のフィードバックだろう。

 

似たような経験は前にもあったから、すぐに特定することが出来た。

 

外に出ると、軽く体を動かす。

 

痛いのはまあ仕方が無い。

 

今すぐ戦わなければならない、とかならばかなり厄介な状況だけれども。別に街を歩くくらいならどうでもいい。

 

井戸水で顔を洗い。

 

意識をはっきりさせる。

 

ちょっと栄養価が高い食事を口に入れたい。

 

そういえば、家でモニカが寝ていたが。あれはずっと治療でもしていたのだろうか。何か大げさではあるまいか。

 

家の戸の鍵を掛けると、カフェにふらふらと出向く。

 

ホルストさんは、あたしが来たのを見て、顔色を変えたが。注文した料理の量を聞いて、更に青ざめた。

 

「大丈夫ですか。 倒れたと聞きましたが」

 

「少しばかり魔力を使いすぎただけです」

 

「貴方ほどの魔術師が、魔力を極限まで使うとは、一体何をしたのです」

 

「錬金術の素材の作成ですよ」

 

そう、所詮は素材の作成だ。

 

アレを使って。

 

これから色々と凄いものを作る事が出来る。

 

ただ、手を離すと空に飛んでいってしまいかねないから。

 

気を付けて扱わないと行けない。

 

少し手元が怪しい。

 

テスさんが料理を運んできたが。

 

あたしの服が血まみれなのを見て、青ざめていた。

 

「ソフィーちゃん、獣を捌くときにも殆ど返り血を浴びないのに、一体どんな魔術を使ったの!?」

 

「全身の魔力を絞り出しただけです」

 

「どんな絞り出し方をしたの……!?」

 

完全に真っ青になっているテスさん。

 

何を大げさな。

 

料理が出てきたので、手当たり次第に口に入れる。

 

がっつくような食べ方はしないが。

 

それでも、一つずつ、徹底的に平らげていった。

 

手元が怪しいので、少し服が汚れる。

 

心配げに見ていたホルストさんだが。

 

注文を全て平らげ終えると。

 

苦言を呈した。

 

「ソフィー、あまり無理をしてはいけませんよ。 錬金術も魔術もです。 貴方の双肩に、この街の未来が掛かっている事を忘れてはなりません」

 

「分かっています」

 

「分かっているなら……」

 

「もう二皿お願いします」

 

更に注文して。

 

出てきた肉料理を無言で平らげる。

 

少し、回復してきたかも知れない。そのまま、オスカーの実家の八百屋に出向き。適当に野菜を買うと。

 

名物女将が見ている前で。

 

全てそのまま生で食べた。

 

ごちそうさまですと言うと、そのままアトリエに戻る。

 

モニカは今起きたようで。

 

あたしが外に出ていたのを知って、愕然としていた。

 

「ソフィー! 何処へ行っていたの!?」

 

「食事」

 

「食事って……」

 

「もう少し寝る」

 

もう何も言えないようで。

 

モニカは口をつぐんで、項垂れた。

 

さて、起きる頃には、多少回復もするだろう。頭の方も、働くようになってくる筈だ。そうしたら、試してみたい調合がある。

 

前はまだ無理だと言われていたが。

 

今なら。

 

できる筈だ。

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