暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
しかしルアードは違いました。
容姿も体の機能も生まれついて恵まれていなかったルアードは。
それだけで差別を受け。
この世界には現在すらないと、絶望していったのです。
※5も扱います。
もう、人間に頼ろうとは思わなかった。
独自に活動を続け。
世界をよくするべきだとプラフタは思い。ルアードも、それに賛成した。だが、どうしてだろう。
回復してから。
ルアードと、時々意見の相違が出るようになりはじめていた。
アトリエは錬金術の御技で拡大し。
更に機能を拡張した。
欠陥住宅だったルアードのパーソナルスペースも改良した。
また、錬金術で作った疑似生命体を使い。
命令だけを実行するそれらを用いて、煩わしい作業は全て任せてしまった。
本にさえ疑似生命を与えた。
いちいち本棚にしまったり取り出したりするのが面倒だったし。
何より、放置すれば勝手に片付くようにしたかったからである。
荷車を引いて、彼方此方の街に出かける。
顔を隠したのは。
もうプラフタという名前を、周囲に出したくなかったからだ。
ただ、世界をよくするためだけに動きたい。
そう思うようになっていた。
大きめの街にも足を運び。
他の錬金術師にも会った。
それで驚かされたのは。
殆ど錬金術師と名乗る資格が無いような人間が、金だけは持っていて。それで権力を独占しているケースがある事だった。
先祖が作ったらしい道具を使い、周囲を恐怖で支配して。
玉座にふんぞり返り。
自身は何も実際には錬金術が使えない。
そんな輩が幾人もいた。
また、殆ど初歩の錬金術しか使えないのに。
街の人間から、子供だましの薬で大金をむしりとり。
貧困に喘がせている錬金術師もいた。
勉強が圧倒的に足りない。
錬金術そのものを金がなる木くらいにしか考えていない。
以前、邪神に滅ぼされた街があると言う話を聞いたことがあるが。
その時は、凄腕の錬金術師が束になってもかなわないほどの強大な邪神だったのではないのかと思っていた。
だが、彼方此方の街で、苦しんでいる人々を救ってみて分かった。
錬金術師そのものが。
堕落し、弱体化しているのだ。
ショックを受けた。
皆、錬金術という奇跡の御技に感動し。
世界を良くしようと少しでも考えているのでは無いかと思っていたのだ。
それが、児戯にも等しい初歩だけで満足し。
自分のためだけに錬金術を使う。
それが当たり前なのだと思い知らされてしまった。
プラフタは無償で多くの人々を救ったが。
そういった能力の低い錬金術師にはむしろ恨まれた。余計な事をしやがって、というのである。
暴力によって弱者を支配する。
それがどんな悲惨な世界を作り出しているか、彼らは知った上でやっている。
君臨している玉座を揺るがされるのが。
余程不快だったのだろう。
何度も暗殺者に襲撃された。
ヒト族も魔族も、獣人族も。ホムのケースさえあった。
アトリエに戻る度、疲弊した。
ルアードには。今回はどのような町に行き、どのように人を救ったかという話をした。ルアードも、独自に活動し。各地で人々を救っていたが。驚くべき話をされた。
「街の近くに住み着いていた人食いドラゴンを退治したら、暗殺者を送られたよ」
「どういうことですか」
「街の領主は錬金術師でね。 どうやら、ドラゴンを自分の権力保持のために利用していたらしいんだ。 人々が襲われようが喰われようが、自分の権力のためには知った事では無い、という風情でね。 ドラゴンがいれば、人々は自分に頼らざるを得なくなるからね」
「無事でしたか」
ルアードはあれから。
もう人間としての自分に、興味を示さなくなったらしい。
周囲に錬金術で作った人工生命体を複数侍らせ。
自衛を簡単にできるようにしていた。
暗殺者も殺さずに見逃したらしい。
「それと私達が離れた街だが、あれから軍が進駐して、アダレットという国家に接収されたようだよ」
「ああ、武王の威名を持つ王が統治していると聞いています。 強力な武人を多数有して、治安を確保することに重きを置いているとか」
「私達がいなくなった後、すぐに匪賊や猛獣の襲撃が相次ぐようになって、まったく手に負えなくなったらしいね。 それで必死に庇護を求めたらしいよ。 庇護はして貰った代わりに、私達が残した錬金術の産物は、全てアダレットが接収したようだけれども」
「……そうですか」
ならば、もう此方でする事も無い。
多くの人々の中で、錬金術を使って皆を救おうとする事そのものが、間違いだったのかも知れない。
そうプラフタは思い始めていた。
それに反省もした。
人間を信じすぎた。
もっと人間には注意を払わなければならない。
ルアードに如何に頼りっきりだったのか思い知らされたプラフタは。
性格も几帳面に変わり始めていた。
一番大事な存在が、最も理不尽な理由で傷つけられたから、かも知れない。
基本的に言葉で人間は変わらない。
現実が変わると人間も変わる。
それを身を以て、プラフタは理解した。
二人は同時に研究する時間も減り。
時々、研究成果のすりあわせをする以外は。
会話も減っていった。
そして、ルアードは。
深淵の者と呼ばれる者達を、いつの間にか連れてくるようになった。
彼らは世界に対して不満を持つ者。
この世界が、創造神が途中でやる気を無くした結果、荒れ果てているという話は、色々な所で耳にする。
実際神々は各地で目撃例があるし。
下等なものであれば、プラフタも撃破したことがある。
深淵の者達は、あらゆる種族で構成されていたが。
彼らは一様に。
世界を恨む目をしていた。
彼らの中に、魔族がいたのだが。
プラフタは聞かされた。
「俺は創造神を見た。 創世の乙女と呼ばれる存在だ」
「確か各地で信仰の対象になっている神ですね。 神々の中でも図抜けた力を持ち、他の神々が束になっても、竜族の最高位の者でもかなわない程の力を持つとか」
「それに間違いない。 何をしていたと思う」
「不満を感じる行為だったのですか」
プラフタの倍も背丈があり。
ヤギのような角と。赤い肌を持つイフリータと名乗る魔族は雄叫びを上げた。
凄まじい怒りを感じる。
「奴は昼寝をしていた! 昼寝だぞ! 創造神が、多くの苦しむ者を見捨て、この荒れ果てた世界を完全に放置して! そして遊ぶことにしか興味が無いようだった!」
「本当ですか……それはいくら何でも酷い」
「うむ! 怒りに猛った俺を叩きのめすと、奴はつまらないと言って消えた。 昼寝をしながら、各地を転々としているのだろう。 許せぬ。 奴に仕事をさせない限り、俺の一族の無念は晴らされん! ……貴方とルアード様には感謝している。 いつか奴の目を覚まさせる事を期待しているぞ」
深淵の者達は。
皆そのように怒りに狂っていた。
獣人族の中にも。
似たような存在がいた。
ケンタウルスと呼ばれるタイプの、足が四本で。上半身がそれとは別についている、特に戦闘力が高いタイプの獣人族だ。ちなみに組み合わせは千差万別で、上半身が人間になっていたり、足の部分は馬だったり犬科だったり、様々である。
彼らは非常に稀少な反面、高い戦闘力と気性の荒さから周囲から疎まれており。
獣人族の中でも、特に世界への不満が大きいようだった。
ティオグレンと呼ばれる、王の称号を持つケンタウルスは、特に不満が大きい様子であった。
迫害され続ける一族の事を放置していること。
そして創造神が昼寝と遊ぶことにしか興味が無いこと。
それらに対する不満を、ルアードに訴えているところを、何度もプラフタは見た。
ルアードは、彼らに対して諭すように接し。
そして崇拝を集めていた。
プラフタも怪我をしている様なら回復の薬を造り。少しでも住みやすくなるように便宜も図った。
彼らが住むための場所を、ルアードは粛々と造り。
そしてアトリエの周囲に、世界に恨みを持つ者達の集落が出来ていった。
プラフタは、少しそれに疑念を感じた。
如何に今の世界がおかしいとは言え。
世界に不満を持つ者ばかりを集めて、どうしようというのか。
そして、ある日。
決定的な亀裂が生まれる事になった。
「私には力が足りない」
ルアードの言葉は。
今までのルアードが発した言葉のどれとも、決定的に違っていた。
何もかも相談し合った二人なのに。
どうしてか、その言葉は何故出てきたのか、想像もできなかった。
プラフタは何かとても嫌な予感がした。
「貴方ほどの錬金術師はそういません。 私とも同格です。 あの街に固執しなくなり、世界を巡って貴方も見てきた筈です。 堕落し、力を失った錬金術師達を。 世界を救おうともせず、我欲を満たすためだけに錬金術を使う愚かな者達を。 世界を我が物顔で歩き回る神々やドラゴンたちを。 そうしていない貴方は、力ある錬金術師です」
「そうではないんだ、プラフタ。 それは君の主観でしかない。 事実君は何をしても「光の錬金術師」と呼ばれた。 それに対して、私はどれだけの努力を重ねても、「醜悪のルアード」と拒絶された。 それは要するに、私がその侮蔑を覆すだけの力を持たず、努力も怠ってきたから、だろう」
「貴方が努力をしていないなんてあり得ません」
「あり得るんだよ。 そしてこのままでは、恐らく創造神の目を覚まさせる事だって出来ないだろう」
歯車が。
何処かで壊れ、外れるような感覚を覚えた。
今までも、技術的な話をしているときに、意見が分かれることはあった。だが、話を詰めていくと、最終的に互いに理解に至った。
錬金術は文字通り神の御技だが。
しかし理論によって行えるものだ。
素質が必要だと言う致命的な欠点があるものの。
素質さえあれば、錬金術は理論に沿って使って行くことが出来るものなのだ。
嫌な予感がした。
プラフタは、ルアードが今まで回った街を確認しに行くことにした。
そして、結論する。
何処の街でも。
ルアードはプラフタが出来る限界と同等の作業をしている。
洪水を食い止め。
悪竜を倒し。
疫病を止め。
そして苦しんでいる人々を、的確極まりなく救っている。
それなのに。
感謝の言葉は、何処の誰からも出てこない。
「ああ、あの気持ち悪い錬金術師。 ドラゴンを倒したとか言うのも、どうせ嘘なんだろう。 彼奴がドラゴンをけしかけていたって聞いたぜ」
人食いの邪悪なドラゴンに苦しめられていた街の人間は。
事もあろうにそうせせら笑った。
疫病を止めた街でも。
住民は、ルアードが疫病を撒いたと認識しているようだった。
有力者を締め上げて話を聞く。
プラフタは、この時。
既に充分に好戦的な気分になっていた。
街を捨てた後も。
プラフタは各地で歓迎されていたし。光の錬金術師の名を聞くと、畏敬を抱く民も多かったが。
この差は一体何だ。
そう思ったら、おぞましい答えが返ってきた。
「気持ち悪いんだよ彼奴! キモイんだよ! 顔が!」
錬金術とは名ばかりの、手品のような事しか出来ない有力者は。
用心棒を全て叩きのめされ。
プラフタに空中につり上げられると、そうわめき散らした。
「あれがドラゴンを倒したのは知ってる! だけどあんな気持ち悪い奴に感謝なんか出来るか!」
「つまり貴方は、街の人々を救った英雄を、自分の主観で気持ち悪いという理由だけで貶めたと言うのですか」
「人間は見かけが九割なんだよ! あんただって、なんで歓迎されると思ってる! 単に容姿が美しいからだろうが!」
失禁しているそいつを投げ捨てると。
プラフタは。茫然自失としていた。
そんな腐った主観が。
多数集まることで客観になり。
ルアードを、「努力が足りない」「力が足りない」と錯覚させるまでに追い詰めていたのか。
ましてやルアードは悪意に極めて敏感だ。
プラフタをそれで何度も助けてくれた。
だが、ルアードを誰が救った。
プラフタは側にいたが。
悪意から本当にルアードを守ったのか。
どの街を巡っても。
結果は同じだった。
死病から救われた人間でさえ。
ルアードを気持ちが悪かったから、と言う理由で拒絶していた。
恐らくは、あの街の顔役達も。
同じ理由だったのだろう。
プラフタと同格の実力だと言う事を、「主観で劣ったように見える」という点から、「主観」で否定していたのだ。
嗚呼。
そうだったのか。
自分が救おうとしてきた人々は。これほどまでに愚かだったのか。
世界とは。
此処まで醜かったのか。
呆然としながら、アトリエに戻る。
そして、感じ取る。
圧倒的な力を。
そして、世界から全てを吸い上げる力を。
これでも、様々な文献に目を通してきたプラフタだ。その正体には、すぐに思い当たった。
禁忌と呼ばれる御技は幾つもあるが。
その中の一つ。
世界の未来を吸い取り。
現在の力へと変える御技。
その名は。
根絶。
それを錬金術と組み合わせたとき。
それこそ、どんな邪神でも出来ない事が出来るようになる。
すなわち、根絶の錬金術。
どれだけ愚かでも。
未来のために、現在を変えなければならない。
意見は一致していたはずだった。
だが、ルアードは。
ついに、その意見を変えてしまったようだった。
膝から崩れ落ちそうになる。
だが、必死に踏みとどまった。
凡百の錬金術師なら。根絶の力に手を出そうと、どうと言うことも無い。大した被害も出ないだろう。
だが、ルアードほどの錬金術師が、本気で根絶の錬金術を駆使したらどうなるか。
錬金術は神の御技だ。
世界の意思を汲み取り。
それによって世界を変える力なのだ。
何度か、乱暴に涙を拭う。
未来だけは。
未来だけは奪ってはいけない。
例え世界がどれだけ醜くても。
どれだけ人々の心が腐っていても。
いつか必ず変えられると信じて、現在を変えていかなければならない。
そのためには。
ルアードを討たなければならないかも知れない。
ただでさえ互角の力量を持っている相手だ。
根絶の力に手を出したとなると。
もはや差し違えるほかに道はないだろう。
プラフタは覚悟を決める。
そして、二人で世界のために作り上げたアトリエに向け。
歩き出したのだった。
5、そして時は始まる
意識が定まらない。
あれからどうなったのだろう。
そうだ、思い出した。
誰かと。
大事な誰かと戦って。
そして相打ちになった。
出来るだけ被害は自分と相手だけにしか出ないようにした。
かろうじて相打ちには持ち込むことが出来た。
自分も相手も肉体を失った。
そして失った肉体を離れた魂は。
彷徨い。
それからどうなったのだったか。
何かが見える。
光だ。
それもとても強い光。
触られている。
持ち上げられている。
体が動かない。
いや、無くなったのだから、それは当たり前だろう。
やがて、どういう原理か。
周囲が見え始めた。
触られているのが嫌で、浮き上がる。
それくらいは出来た。
「うわ!? 何?」
まだ若い娘の声。
それなりにしっかりした錬金術師の格好をしている。年は十代半ば。栄養状態は良い様子で、背は低すぎもなく、高過ぎもしない。少し身繕いは雑なようだが、磨けばとても綺麗になりそうだ。
ふと、その綺麗という言葉に、強烈な嫌悪感が湧くが。
どうしてかは分からなかった。
殆ど何も思い出せない。
思い出せるのは一つだけ。
プラフタという自分の名前だけだ。
「……此処は何処ですか」
「本が喋ったあ!?」
「本……」
本か。
そういえば、本だ。
体を失ったことは何となく分かる。魂が本に宿ったのだろう。
周囲を見回すと。
どうやら、質素ながら。
釜もある、錬金術師のアトリエのようだった。
「私はプラフタ。 貴方は」
「本に名前があるの?」
「貴方の名前は」
「え、ええと。 あたしはソフィー。 ソフィー=ノイエンミュラー。 それと、さっきの質問だけれど、此処はキルヘン=ベル。 ラスティン連邦国に所属する辺境街だよ」
そうか。ノイエンミュラーという家名も。ラスティン連邦国という国家も。聞いた事がない名前だ。
或いは覚えていないからかも知れないが。
「あ、貴方はどういう本なの?」
「私は……」
プラフタは、少し悩んだ後、答える。
それ以外に、言葉は無かった。
「体を失った錬金術師です」
(続)
かくして比翼は引き裂かれ。
世界に深淵の者が登場しました。
深淵の者は現在すらない世界を必死にまとめ、この世界に現在を作ろうとしました。
それから五百年。
この詰んだ世界に。
希望をもたらせるかも知れない。しかし劇薬である存在が出現します。
世界の特異点となる最強の錬金術師となる存在。
ソフィー=ノイエンミュラーが降臨しようとしていました。