暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

50 / 126
4、舞えよ

コルちゃんの処にグラビ石を持ち込み、増やして貰う。コルちゃんは、手を離すと浮いて行ってしまうそれを見て、唖然としたが。それでも、複製には取りかかってくれた。ただ、提示された値段を聞いて、今度はこっちが唖然としたが。

 

青黒いグラビ石は。

 

常に強力な魔力を帯びている、沈黙の魔獣の毛皮に包んでおかなければならない。

 

その性質は鉱物と言うよりも、魔術で作った道具に近く。

 

インゴットよりも複製が難しい、というのだ。

 

「これを複製すると、私は多分、その日は他に何もできなくなってしまうのです。 ですので、お値段も高くなるのです」

 

「それじゃあ仕方が無いか。 お願いね」

 

コルちゃんは、ひょっとして。

 

あたしが相当な無理をしてグラビ石を作った事に、気付いているのかも知れない。

 

だが、それについて、何かを言うことは無かった。

 

グラビ石を増やす間に。

 

重役を集めて、グナーデリングのお披露目会をする。

 

この間から極端に無口になったプラフタも参加している。

 

驚いている者も多かった。グナーデリングは、相応に有名な錬金術の道具で。此処までのアレンジレシピは珍しいらしい。

 

「ベルト状になっているのだな。 腕に巻くことにより、調整が非情に容易になっていると」

 

「起動ワードを唱えると能力が発動します。 グナーデリングは身体能力を極限まで引き上げます。 おばあちゃんが作った物ほどではないですが、それでも倍くらいにはなりますよ」

 

「素晴らしい。 見せてくれるか」

 

頷くと、あたしは手頃な石材を引っ張り出してくる。

 

グナーデリング起動前だと、抱えて運ぶのがやっとだが。

 

起動後だと、簡単に持ち運びができる。

 

コレは便利だと、声が上がった。

 

取り外しについても、やってみせる。

 

固定をしなくても、吸着機能があるので、ちょっとやそっとでは外れない。

 

手を振り回してもまったく取れないのを見て。

 

重役達は喜んでいた。

 

「使わせてくれるか」

 

「どうぞ」

 

前に出たのは、ハイベルクさんだ。

 

重役である彼も見に来ていたのだが。

 

単純に身体能力を上げる道具と聞いて、興味を持ったのだろう。しかも機構的に、鎧と食い合わない。最悪の場合、鎧の上から巻けば良いのである。

 

装着をしてもらい。

 

そして剣を振るったハイベルクさんは、非常に満足そうだった。老いたとは言え、まだまだ現役の戦士なのだ。

 

「剣が羽のように軽い。 これは素晴らしい」

 

「普段から発動していると筋力が衰えるかも知れないので、戦闘時や大荷物を持つ時だけ使ってください」

 

「分かっている。 流石だ」

 

グナーデリングを返して貰う。

 

後はタレントさんやベンさんなどの自警団メンバーも使って見て、使い心地の良さに喜んでいるようだった。

 

今回は特に文句も出ない。

 

ホルストさんが聞いてくる。

 

「力の弱い人がこれを使って、本来出来ない力仕事をすることは可能ですか?」

 

「可能ですよ」

 

「そうですか。 ならば納入数を少し増やしたいですね……」

 

キルヘン=ベルは拡張の過程で、多くの力仕事を必要としている。

 

流れ込んでくる富も多いが。

 

それ以上に仕事も多く。

 

賃金はそれだけ発生し。

 

経済はしっかり回っている。

 

ならばあたしが作る道具はどれも有用だ。必要数を揃えていかなければならないだろう。

 

しかもこのグナーデリングは、効果が分かり易い上に、非常に使いやすい。外貨獲得の手段にもなるだろう。

 

30セットを、何回かに分けて納入して欲しい。

 

そう言われたので、頷く。

 

此方が受け取る金額も、労力に見合うものだし。

 

損にはならない。

 

お披露目会も終わったので、引き上げようとしたとき。

 

ヴァルガードさんに引き留められた。

 

「ソフィー。 かなり無茶な魔力の使い方をしたな」

 

「そうみたいですね。 自覚はありませんが」

 

「二度とするな。 死ぬぞ」

 

「そこまで危険なんですか」

 

ヴァルガードさんは沈黙で答えた。という事は、素直に忠告を聞いた方が良さそうだ。この人は、この街随一の魔術の使い手。あたしも魔術に関しては、この人に色々と教わったのだ。

 

其処で、相談もする。

 

そうすると、ヴァルガードさんは、少し考え込んだ後。

 

丁寧に答えてくれる。

 

「方法は間違っていない。 作る量が多すぎたのだ」

 

「なるほど」

 

「どうせしばらくはそのグラビ石を使っての道具作成にいそしむのだろう? その間は体力の回復に努めろ。 無茶さえしなければ、お前はまだ若いし、きっちり回復しきるだろう」

 

「分かりました。 有難うございます」

 

一礼すると。

 

その場を離れる。

 

アトリエに戻ると、モニカは掃除を済ませて帰ったようで、もう姿は無かった。

 

プラフタが、久しぶりに話しかけてきたのは。

 

あたしが、何も書かれていない本に、魔術を実行する呪文を書き始めてから、だった。

 

「少しばかり後悔しています」

 

「あたしに錬金術を教えたことを?」

 

「違います。 それは後悔していません。 貴方は金の卵も同じです。 それなのに、下手をすると台無しにしてしまう所だった」

 

プラフタは、普段と様子が違う。

 

ひょっとして。

 

泣いているのか。

 

「次からは、レシピをもっと精査しなければなりません。 貴方が自分の命を何とも思っていない事は分かってしまいました」

 

「そう」

 

「……」

 

沈黙が続く。

 

あたしがどうでもいいと思っているのは、自分の命ではない。正確には、少しばかり違う。

 

どうでもいいと思っているのは。

 

この世界に蔓延している。

 

どうしようもない不平等さだ。

 

その権化である自分も。

 

だから、厳密には少し違っているが。いずれにしても、この世界そのものをどうにかしたいというのは事実。

 

「それで、何をしているのですか」

 

「あたしの空飛ぶ第三の腕の作成」

 

「本を作っているように見えますが」

 

「見てて」

 

どうせしばらくは無理は出来ない。

 

魔術による浮遊。

 

マナの吸収。

 

そして、あたしと同じ、エーテルによる魔術砲。魔術による防御壁の展開。それらを出来るようにする。更に少し考えた後、実行魔術に優先順位を付ける。第一に浮遊。第二に防御。そして第三に砲撃。

 

指示を出すとその行動をするようにした方が良いか。

 

いずれにしても、普段はあたしの周囲を飛び回り。

 

命令を待つようにする。

 

そして、おばあちゃんのレシピを確認。

 

更に今までの知識を総動員して、レシピを作る。

 

思ったよりスムーズに。

 

レシピは書き上がった。

 

最初からイメージが出来ていたから、かも知れない。

 

後半は白紙にするが。

 

これは使いながら、魔術の優先順位とかを変える場合とか。或いは追加で魔術を突っ込んだりとか。

 

そういった拡張を想定しての事だ。

 

そして、本に命を吹き込む。

 

魔術による浮遊の負担を最小限にするために。

 

グラビ石を使うのだ。

 

「これは、まるで私のよう……ですね」

 

「プラフタを見て思いついたのは事実だよ。 でも最終的には、これを十冊くらい常時周囲に展開して、防御の時は連携して防壁を展開して、攻撃の時は集中して敵に火力投射する予定」

 

「十冊、同時ですか」

 

「同時」

 

流石にプラフタも唖然としたようだが。

 

しかしながら、自分で魔力を供給するわけでもない。プラフタにしても、巨大な腕を外付けで追加して、それで戦闘などを行っていたと聞いている。あたしは元が魔術師だから、それを生かした発想に基づいて、拡張肉体を作るだけだ。

 

プラフタは錬金術の話なら。

 

会話をしてくれる。

 

だが、今日はもう休めと言われた。

 

一段落したのだからと。

 

仕方が無い。

 

休むか。

 

だが、プラフタがどうして其処まで悲しんでいるのか、正直な所よく分からない。いずれにしても。あたしは。

 

この世界の不平等を。

 

こんなどうでもいい命に替えても。

 

打ち砕かなければならない。

 

 

 

レシピ通りに作成し。

 

コルちゃんのところから引き取ったグラビ石を用いて。

 

ついに拡張肉体が完成した。

 

とはいっても、本だが。

 

通常時は。あたしの周囲を浮いている。飛んでいる姿はプラフタそっくりだが、装丁は真っ赤。

 

これはエリーゼさんの処で、見繕ってもらった。

 

外で軽く実験をする。

 

まずは命令をしっかり聞くか。

 

立ち会いには、モニカに来て貰う。モニカは、あたしが面白いものを作ったと聞くと悲しそうにしたが。

 

体に負担が掛かるものではないと聞いて、安心したようだった。

 

ちょっと露骨すぎたが。

 

まあそれでもいいだろう。

 

順番に命令していく。

 

浮遊。

 

指示を出すと、大体あたしの想定通りに飛んでくれる。これはそう飛ぶように魔術を組んだし、何よりグラビ石を組み込んで、ものの性質を変質させている。浮くのが当たり前だし、飛ぶのはその機能の添え物のようなものだ。

 

防御。

 

指示を出した後、モニカに剣撃を頼む。

 

かなり加減してもらう。

 

防ぎきってみせる本。

 

中々だ。

 

少しずつ威力を上げて貰うが。いずれも本は防ぎきった。

 

適当な所で切り上げる。

 

本気でモニカが切るつもりだったらどうなるかは分からないが、いずれにしてもこれは複数を同時運用する想定で作っているのだ。

 

最後に攻撃。

 

魔術砲をぶっ放す。

 

こればかりは、あたしも少し魔力を供給する。大気中のマナだけでは足りないからだ。

 

迸った閃光が。

 

岩を粉々に吹き飛ばす。

 

まあこのくらいか。

 

砲撃の後には、クレーターが出来ていた。赤熱した岩が、じゅうじゅうと凄まじい音を立てている。

 

此奴を十個。

 

収束砲撃させれば。

 

充分な火力ソースとして期待出来るだろう。普通に爆弾を投擲しながら、これで補助攻撃し。

 

更にあたしが本気で砲撃を叩きこめば。

 

その連携さえ邪魔されなければ、ドラゴンにも手が届くかも知れない。

 

ふうと、あたしは興奮を覚えて、額を拭った。

 

これで完成だ。

 

後は増やすだけである。

 

「ソフィー。 この魔物のような本は……?」

 

「あたしの三本目の腕。 もう九冊、いや九本増やす予定」

 

「そう……」

 

モニカが、どうしてか悲しそうにする。

 

グラビ石を作ってから。

 

あたしが決定的におかしくなった。

 

そう顔に書いてある。

 

だが、あたしは最初からおかしかった。モニカと喧嘩が昔は絶えなかったのは。この世界を作った創造神を許せないから。

 

創造神に対して反旗を翻す時点で。

 

あたしは最初から狂っているのだ。

 

もっとも、そのオリジンは。

 

あの腐れ親父にあるだろうが。

 

「しばらくはアトリエに籠もりっきりになるかな」

 

この本を増やせば、防御力も攻撃力も、格段に増す。

 

本に対する知識が増えれば。

 

プラフタを、元の姿にしたり。知識を取り戻す手助けになるかも知れない。

 

そしてあたしが充分な力を得たときには。

 

この世界に。変革をもたらすのだ。

 

二人に、帰ろうと促す。

 

あたしは。

 

笑っていたかも知れない。

 

 

 

(続)




力を得て満足し、更に先を目指していくソフィー。
特異点の成長は止まることがありません。

人の領域を超えて成長して行くソフィーは。
既に致命的に壊れ始めています。

天才とはそういうものです。

特に特異点となるような天才は、もはや人の理屈など通じない世界に、精神を飛ばしていくものなのです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。