暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
これはソフィーが作りあげた後、世界中に爆発的に拡散していく事になるのですが。
それはまた、別の時代の話です。
全自動荷物積み降ろし装置のお披露目会を実施。
既に存在を知っている重役も多かったようなので。その性能と。全自動荷車を組み合わせた際の有用性を知ると、やはり皆喜んでいた。
「これで荷物の積み降ろしの負担が半減どころかゼロになる。 しかも訓練などしなくても、単純な命令で全自動で実施してくれる」
「重要な戦略物資になるな。 今実施している防御壁の移動作業にも、すぐに投入したい程だ」
「この二つであれば、即座に納入できます。 ただしアーム部分の耐用期間は1年。 本体の耐用期間は10年程度です。 壊れる寸前になると自動警告を発しますので、その時には使用を中止してあたしに連絡をください」
「うむ」
ホルストさんは、さっそく二つの全自動荷物積み降ろし装置を引き取り。他の重役と話しながら、運んでいった。
追加納入の話は後ですると言う。
あたしもついていく。
現場できちんと動くか、確認しておきたいからだ。
街の南。
まだ緑化作業を進めてもいない地点がひとつ。
これは新市街地の予定地区。此処を挟んで、南北二箇所で緑化が進められている。主導しているのはオスカーだが。現時点で既に緑の絨毯が拡がっていて。畑を耕す作業も開始されているようだった。
もう一つは、街の現在の市街地の、更に北。
石材を積み上げている箇所がある。
普通の石材だったら、別にあたしが集めてこなくても、いくらでもある。ナーセリーの近辺から切り出してきても良いし。他に穴場はいくらでもあるのだ。
石材の加工は、それぞれ専門の人間がやる。時々ロジーさんも手が空いたときには手伝っているようだ。
そして組み立てられる状態になったものに番号を割り振り。
全自動荷車に乗せて、南側に運ぶ。
本当は緑化作業を全て完遂した後、畑も含む街全体を包む防護壁も作る予定なのだが、今はまず人間が住んでいる場所を守る防護壁を作るのである。
既に測量などは済んでいて。
石壁を積み上げる作業が始まっている。
荷車から石材を降ろす作業を丁度今やっているのだが。
ホルストさんが、大喜びしていた。
「これは凄い」
全自動積み降ろし装置が、アームで掴むと。大の大人でも汗を流しながら運ばなければならない石材が。冗談のように簡単に荷車から降りる。
勿論そこから防壁にするために、石壁に積み上げなければならないのだけれども。
それは非常に繊細な作業なので。
流石に自動化は出来ない。
ただこれも負担軽減できないかなと、見ていて思う。
しかしながら、そればかりは難しいだろう。
全自動積み降ろし装置とは、また別次元の難易度になってくる。
「ソフィー。 コレは素晴らしい。 戦略物資として、更にもう幾つか欲しい所ですね」
「分かりました。 もうレシピは出来ていますので、増やす事はそれほど難しくありません」
「頼りになります。 それともう一つ。 緑化作業が一段落したら、少し頼みたい事があります」
はて。
あたしをご指名とは何か。
現時点では武装にしても街の発展貢献にしても、充分な事をしている筈だが。そうなると、東の街の貧民受け入れの件か。
此処の作業の手伝いについて聞くが、これ以上は大丈夫と言われる。まあ、あたしが此処で更に働いたら、此処で働いている人達の仕事と、それ以上に賃金を奪ってしまうか。
この世界は貧しい。
見たところ、今の時点では、過剰な労働は行われていない。
悲惨な状態になると、それこそ倒れそうになりながら、疲労困憊の労働者が死んだ目で行き交うそうだが。
少なくともこの街で。
そういう場面はない。
肉体労働は最小限に抑えられているし。
非常に重い石材などは、魔術を使える面子が手伝ったりして、かなり負担を減らしながら積み上げている。
それも、負担が大きかった積み降ろしは、今自動化された。
これ以上、あたしが此処にしゃしゃり出るのは、むしろ良くないだろう。
一度アトリエに戻る。
そして、ぼんやりしていると。
モニカが来た。
「またゴロゴロして」
「少し休ませてよ。 お披露目会のために、突貫工事でもう一個作ったんだから」
「あれは確かに凄いけれど。 ほら、掃除するから」
「はいはい」
アトリエの外に出て、其処で壁に背中を預けてぼんやりする。
モニカは黙々と掃除をしてくれたが。
不意に、アトリエの中から、話しかけてくる。
「ソフィー。 東の街の件は聞いている?」
「前に寄ったとき悲惨な状態だったし、新しく人員受け入れするって話なら前に聞いたけれど」
「そう、ならば最新の情報を教えておくわ。 どうやら食糧が足りなくなりそうだと言う事よ」
「!」
それは。
大事だ。
前に難民を受け入れた時に、色々ごたごたしていた。50人の難民を此方に押しつけたのも、現実問題として、今住んでいる住民の食糧がなくなるからだ。
そして前に東の街を見に行った時。
家ももてず。
地べたで死んだようにぐったりしている人を何人も見た。
食糧が足りなくなるというのは、「満足に食べられない」事を意味していない。
老人や子供など。
労働力にならない人間を食糧としなければならなくなる事を意味している。
悲惨な食糧事情の街になると、時々あると聞いているが。
確かにあの有様だと。
考えられない話ではない。
かといって、キルヘン=ベルだって、食糧が膨大に余っているわけではない。
勿論、東の街も、ラスティンに支援を要請しているだろう。
だが、この間、北の方の街がドラゴンに襲撃された騒ぎの余波がまだ残っている筈で。
とてもではないが、迅速な対応など期待出来ないだろう。
とりあえず、貧民を可能な限り早くキルヘン=ベルに受け入れる。
畑の生産能力を上げる。
この二つは必須だ。
更に、自警団は周辺を周り、食糧となる獣を積極的に狩らなければならなくなる。
どういうわけか、荒野には獣が際限なく沸く。
ドラゴンと同じだ。
狩れば狩るほど食糧は得られるが。
基本的に獣は自衛能力を備えている。
自警団がどれだけ頑張っても。
損耗はするだろう。
あたしが作ったマイスターミトンと友愛のペルソナ。それにグナーデリングを標準装備としても、である。
ましてや、街の規模が拡大している今。
人員を派遣して、東の街を援護する余裕は無い。
今は街の周辺から一掃されたとはいっても。
匪賊どもが此方を狙っているのは、現在進行形の事実なのである。
「それでモニカはどうするの?」
「今日から新規に入った自警団のメンバーと、獣狩りよ。 大物を仕留められたらいいのだけれどね」
「気を付けてよ」
「大丈夫。 ジュリオさんも来てくれるそうだから」
あたしも行こうか、と声を掛けるけれど。
大丈夫、と断られた。
爆弾は持っていくし、薬もである。
ただ、現在のキルヘン=ベルの人口を考えると、少なくとも陸魚の数頭は仕留めないと、話にもならないだろう。
畑だってフル回転させていたら、そのうち痩せて使い物にならなくなる。
今ある畑の全てを使うわけには行かず。作物を取ったらしばらくはやすませなければならないのだ。
そして新しく増やしている街の側の森にしても。
食べられる木の実などが出来るのは、まだしばらく先だ。
木苺などはもう実がなりはじめているが、残念ながらまだまだ青い。食用草も小さい。
オスカーが、絶対に駄目、と即時駄目出しするだろう。
「食糧を生み出せる錬金術とかないの?」
「モニカ。 流石にそれは不可能ですよ。 料理なら錬金術で応用はできますけれど」
「ごめんなさい。 分かっているけれど、愚痴りたくもなるの」
「それは分かります。 ……何とかしなければなりませんね」
掃除が終わったらしく、モニカが出てきた。
彼女はこの足で、すぐに狩りに出かけるという。
東の街との交渉はまだ終わっていないのだろう。或いは、今頃終わって、書状をもった人間が此方に急いでいるのかも知れない。
あたしはアトリエに戻ると。
釜をまず掃除して。
薬を作る事にした。
理由は簡単。
恐らく、モニカ達自警団が戻ると同時に、東の街への出立をしなければならなくなるはずだ。
傷薬だけではなく。
栄養剤も作る。
即効性のある栄養剤で。固形物を食べられないほど弱っている人に飲ませるためのものだ。
これを飲む事により、寝たきりから歩けるくらいまでは状態を改善させられる。
仕組みとしては、体内に栄養と同時に強力な魔力を入れる事で。体の機能を一気に増幅するもので。
基本的には、人間は種族を問わず体内に魔力を循環させている。魔術を使える人間は、特に魔族などが顕著だが、この魔力が多いのだ。
要するに体内の重要なエネルギーである魔力を栄養と一緒に補給することで。
致命的な衰弱から、人間を回復させる。
ただし、体が治るわけでは無いので。
栄養剤を飲ませた後、少しずつ固形物を食べて貰い、回復を図るのがセオリーになる。
この辺りは徹底的に色々な人に教わった。
錬金術師として芽が出なかったころは。
自警団に混じって、魔術で戦っていたのだ。
その頃にサバイバルの技術はあらかた覚えた。
続けて止血剤、消毒剤などを造り。
荷車にあらかじめ詰め込んでおく。
油紙をかぶせて完了。
これでいつでも出られる。
街の様子を見に行く。
今回は、メンバーが偏るかも知れない。でも、いずれにしても引き取る人数は十人程度では済まないだろう。この間のように五十人、という事は無いにしても。二十人から三十人は引き取るのではないか。
ハロルさんの処に顔を出す。
本当に面倒くさそうに頭を掻いた。
「何だソフィー。 仕事か」
「いえ、これから大きめの仕事が入る可能性があります。 ……それ、時計ですか?」
「ああ。 天才と呼ばれた親父のな」
冷たい空気が流れるが。
ハロルさんは、あたしとモニカ、オスカーの三人の兄貴分だった。あたしの扱いは心得ている。
咳払いすると。
それだけで、凍り付くような空気を弛緩させた。
「どうせ東の街の件だろ。 もう出立が決まったのか」
「いいえ、ただし数日以内には」
「分かった。 準備をしておく」
ぺこりと一礼すると、他を見に行く。
自警団は半数ほどが狩りにでているが、モニカとジュリオさん以外は新人ばかりのようで。タレントさん達ベテランはみな残っていた。これは匪賊の襲撃を警戒するためだ。あたしが積極的に採集に出かけて、その度に匪賊を消毒しているため、キルヘン=ベルの近くからは姿を消しているが。
それでも連中は、どこからいつ現れてもおかしくない。
コルちゃんを見に行く。
どうやら、いそいそと準備をしている様子だ。あたしを見ると、すぐに用件に気付いたようである。
「東の街の件ですね」
「話が早くて助かるよ。 頼める?」
「東の街の状況把握は必要なので、もとより同行を頼みたいと思っていましたのです」
「そう、それは良かった」
他人事では無い。
もしも飢餓が極限まで達すると、最初にエジキになるのはホムなのだ。
匪賊どももホムの肉を好むけれど。
飢餓が限界に達すると、普通の人間でも、まずは子供から。続いて老人。次はホムを喰らい始める。コルちゃんにとっては、他人事ではあるまい。
レオンさんはというと、やはり向こうから話を振ってくる。
フリッツさんはいない。
そうなると、恐らく使者の護衛をしていると見て良さそうだ。
オスカーの様子を見に行く。
オスカーは何か植物と話していたが。
いずれにしても、この短期間で実際に緑化を成功させたのはオスカーだ。いつもは陰口をたたく人も。今ばかりはオスカーに対して、奇異の目は向けていなかった。
「何だ、ソフィー」
「東の街の件は聞いている?」
「ああ、分かってる。 他人事じゃないもんな」
どうやら、必要最低限の面子は揃いそうだ。
自警団からも、何人か回して貰えれば完璧。指揮はフリッツさんに執って貰えば良いだろう。
アトリエに戻ると。
その日の夕方には、モニカ達が帰ってきた。
やはりフリッツさんもいる。
そして、見慣れない馬と、それに乗っている役人らしい人がいた。遠目だと分からないが。多分隣街の顔役だろう。
あたしも重役だ。
プラフタと一緒に様子を見に行く。
そうすると、丁度真剣な顔で。街の入り口で、ホルストさんが書状を読んでいる所だった。
ヴァルガードさんとハイベルクさんもいる。
つまり、予想通りの事態だろう。
「ホルスト殿。 本当に申し訳がない。 だが、此方の状況が、想像以上の有様でな」
「分かっております、ミゲル執政官。 此方には幸い錬金術師がおりますので、どうにかできるでしょう」
「すまぬ。 この間も、五十人という無茶な人数を、碌な護衛も無しに其方に押しつけたというのに」
「困ったときはお互い様ですよ。 この過酷な世界を生き残るためにも、協力をして行きましょう」
ミゲルという役人は。
非常に生真面目そうで、それが故に悔しそうだった。
ハイベルクさんがあたしに気付いて、声を掛けてくる。
「この間の難民の時もな。 あのミゲルという役人、私財をなげうって難民達の食糧を必死に捻出したそうだ」
「……」
そうか。責任感がある人なんだな。
だが、それでも。
あんな中途半端な護衛と。
食糧しか用意できなかった。
錬金術はそれだけ圧倒的な力を持つ技術であり。
役人がどれだけそろばんを弾いても。
錬金術と言うものがあるだけで、これだけの差が出てきてしまう。
やはりこの世界はおかしい。
フリッツさんが、此方に来る。
なお、ミゲルという役人は、馬を飛ばし、単騎で帰って行った。一応見たところ相応の腕前のようだが、大丈夫だろうか。
「ソフィー。 丁度良いところに来てくれたな。 少し問題がある」
「どうかしましたか」
「ネームドの猛獣、ロックの出現報告がある」
ロック。
通称である。そういう種族では無く、特に巨大に成長したアードラの個体らしい。つまり他のネームド同様、世界の力を己にため込み、巨大化した存在、と言う訳だ。
戦闘力はネームドに相応しく。
当然のように多彩な魔術を使うばかりか。
最大の問題はそのサイズ。
馬車を掴んで、そのまま飛び去ったという噂があるほどで。
小型のドラゴンほどもある。
その上、この巨体で飛び回るのだから、始末に負えない。
確か、以前討伐目標として、フリッツさんが上げていた猛獣の一体なのだが。
その時の生息域は、ずっと北だった筈だが。
「恐らくは、東の街の惨状を察知して、エサを漁りに来ていると見て良いだろう。 現在は東の街の自警団が必死に牽制しているようだが、それも破られるのは時間の問題だ」
「それほど疲弊が酷いんですか?」
「ああ。 このままだとロックは街の中に乱入して、手当たり次第に住民を食い始めるだろう。 先発隊として我々はすぐに出て、ロックと、集まり始めているようならスカベンジャーを駆除する」
最悪の状況だ。
だが、荷車は既に準備してある。
手分けして、いつもの面子を招集。
後は、飛び出すようにして街を出た。
モニカとジュリオさんは戻ってきて早々で悪いのだけれど、我慢してもらうしかない。
事前に声を掛けておいたというと、フリッツさんは薄く笑う。
「傭兵としてもやっていけそうだな」
「あたしよりモニカの方が向いてそうですけど」
「あら、どういう意味かしら」
「安定して指揮を執れるんじゃない、って事」
何か納得していないようだけれど。
走りながら、モニカに栄養剤を渡す。
これは避難民用のものではなくて、単純に栄養を入れただけのものだ。多少は疲れが取れるだろう。
ジュリオさんにも渡す。
「すまないね」
「良いって事です。 それよりも、ロックとの交戦経験は」
「一回だけあるよ。 その時は、二十名からなる討伐隊の四名が戦死した。 今回のロックがどれほどの怪物かは分からないけれども、手強いから覚悟は決めて欲しい」
そうか。ジュリオさんが混じっていた討伐隊となると精鋭だろうに、それでも死者を出したか。
此方には錬金術がある。
多分どうにかなるとは思うが。
油断だけは出来ないな。
そう思いながら走る。
四日かかる日程だが。
かなり飛ばして、一日早く東の街に到着。
ロックの姿はない。
街の中に入ると。
死臭がした。
いや、これは。
極限の貧困の臭いだ。
「キルヘン=ベルの錬金術師か……?」
ふらふらと歩み寄ってきたのは、傷だらけの戦士である。街の自警団の一人だろう。
そうだ、と答えると。
男は倒れてしまった。
モニカが寝かせて、手当を始める。ロックを相手に良く持ちこたえたものだ。
話によると、以前キルヘン=ベルが譲った爆弾を使って、ロックを迎撃し続けていたのだが。それも尽きてしまい。昨日の戦いで、大きな被害を出したという。
どうにか死者だけはだしていないが。
今日襲われたら確実に街が壊滅していた。
そう男は、傷口に薬をねじ込まれながら、ゆっくり話す。
「栄養が足りていませんね」
「みんなまともに喰っていない。 聞いていると思うが、このままだと、みんな共倒れになる」
「分かっています。 後続部隊が来ます。 ある程度の支援物資を積んでいますので、分けてください。 それと引き取る人数は」
「二十五人だ」
フリッツさんが後ろで言う。
そうか。
結局それだけ引き取るのか。
錬金術師の数が少なすぎる。
公認錬金術師となると更に少ない。
だからこうなる。
どうして才能がないと錬金術師になれないのか。魔術師ではどうにもできないこの世界だ。
錬金術師がもっとたくさんいれば。
奥歯を噛みしめながら、それでも怒りを抑えて座り込む。
他の自警団員も、似たり寄ったりの状況だ。あたしは手当の薬を分けながら、戦闘の経緯を聞く。敵の動きにはパターンがある。となると、此方が弱っているのを察知している以上。相手は最初は偵察から始め、それから強襲に移るだろう。
フリッツさんと話すが。
同じ見解のようだった。
皆に一旦休んで貰う。
ロックは東の街の疲弊を分かっていて、今度はゆっくりエサを食いに来る筈だ。其処を袋だたきにして瞬殺する。
失敗したら大きな被害を出すだろう。
だから、勝負は一瞬で決める。
すぐにフリッツさんとあたしで、作戦を決める。
聴取の結果、ロックは此処から見て北西の方向からいつも飛んできていることが分かっている。
問題は、今まであたしの爆弾を使って迎撃している、という事で。
普通に爆弾を投げても対応される可能性が高い、という事だ。
つまり初撃は。
奴が知らない攻撃を行わなければならない。
勿論増援の存在にも気付かれてはならないだろう。
防護壁の上に登る。
多分ロックの攻撃でだろう。かなり傷ついていたが、此処からなら行けるか。
降りた後、作戦を提案。
フリッツさんは少し悩んだ後。
許可してくれた。
オスカーにも話をしておく。
この作戦の肝になるのは。
身軽なオスカーだからである。
コルちゃんが戻ってきた。彼女はレオンさんと一緒に、街の状態を見に行っていたのだ。食糧についても、現存する量と。畑の状態。それに人口から考えられる消費量を、確認してくれていた。
「コルちゃん、どうだった?」
「最悪の状態なのです」
「やっぱり」
「このままだと、本当に共食いが始まってしまうのです。 それに、見てください」
街の彼方此方には。
家さえなく。
膝を抱えて、蹲っている多数の人影が見えている。
この街では、生産力と人口のバランスが取れておらず。更に、疲弊から働けない人間が出ているのだ。
これでは、本当に。
子供がまず最初に食糧になるのは、遠くない未来のことだっただろう。
「これからおっきなヤキトリが来るから、それで十日分くらいの食糧になるとして……」
「えっ!? ああ、はい。 ロックを、焼き鳥に、するのですか?」
「そうだけど。 羽はむしるし心臓は回収するけれどね。 膨大な魔力を全身に、勿論肉にも含んでいるだろうから。 きっと栄養がたっぷりの筈だよ」
「相変わらず独特の発想ね」
レオンさんが苦笑い。
あたしも苦笑いすると。
他の皆も集めて、作戦について説明。フリッツさんとオスカーは既に説明済みなので、それぞれやる事をやって貰う。フリッツさんはロック迎撃作戦についての説明を自警団員にしに行っているし。オスカーは栄養のあるハーブを調合して、動く気力も残っていない貧民に分けて回っている。
恐らくだが。
この街が大変な事になっているのを嗅ぎつけているのは、ロックだけではないだろう。
ロックを叩き潰した後。
キルヘン=ベルから離れた匪賊どもが、この周囲に来ているだろうから。
それも消毒しなければならない。
色々と面倒ではあるが。
此処で消耗しすぎるわけにはいかないのだ。
作戦の内容を聞いて、皆がぎょっとしたが。
あたしが、そばに浮いている赤い本。
つまりこの間グラビ石を利用して作った拡張肉体を顎で指すと。納得して、頷いてくれた。
さて、後は。
餌をたらふく食えると思ったバカなトリがノコノコやってくるのを待つだけだ。