暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、頭上強襲

ロックが来る。

 

大体予定通りの時間。予定通りの方向だ。あたしは想定通りの状態に、笑みを浮かべていた。

 

奴は基本的に、街の近くに来ると。

 

迎撃部隊を誘うように周囲を飛び。

 

そして爆弾による攻撃も、魔術による攻撃も。

 

全て翼からの風で、はたき落とすようにして寄せ付けなかった。

 

爆風さえ、ガードしてきた。

 

それらは証言によって言質が取れている。

 

アードラ種の猛獣は、基本的に大きなトリだ。

 

翼をやってしまえば、後は地面でもがいている所を料理するだけ。陸に上がった普通の魚と同じである。

 

だが流石にネームドともなると。

 

魔術を普通に使いこなす。

 

つまり、自分の翼にダメージを与える攻撃を、事前に防御するくらいのことはしてのける、と言う訳だ。

 

奴は自分の目で確認する。

 

疲弊しきって、既に貧弱な魔術しか唱えてこない自警団の姿を。

 

奴は風を操る。

 

翼を羽ばたかせ。

 

真空に魔術で指向性を持たせ、壁の上に展開している自警団の弱り切った戦士達に叩きこむ。

 

わっと悲鳴を上げて、とうとう逃げ散る戦士達を見て。

 

奴が、急降下からの捕食に移ろうとした瞬間。

 

その背中には。

 

あたしが降り立っていた。

 

「こーんにちわー、未来のヤキトリさん」

 

そしてあたしは。

 

ロックの背中に、特大の雷撃を発生させる、ドナーストーンを吸着。

 

吸着は魔術によるものだ。

 

躊躇無く飛び降りるあたしの上で、ロックが悲鳴を上げながら、爆弾を振り落とそうとしていたが。

 

次の瞬間には、起爆。

 

至近距離で、雷が炸裂したのと同じである。

 

ドナーストーンは、帯電するライデン鋼と呼ばれるものを、錬金術で変質させて、魔術ではまず防御不可能な超強力な電撃を周囲に放つものであり。ヴァルガードさんにも魔術で防ぐのは不可能、と太鼓判を押して貰っている。

 

如何にネームドとはいえ。

 

それを防ぐのは無理だ。

 

あたしはこのチャンスを待つため。

 

ロックが現れる前から。

 

二冊持ってきていた拡張肉体に持ち上げて貰って。

 

上空に待機していたのだ。

 

トリにはそれぞれ、縄張りとする高度があり。

 

基本的に天敵がいない大型猛禽類は、自分の頭上では無く、下を確認する傾向がある。つまりどんなに強くても。逆に強いが故に。

 

猛禽類は、人間以上に。

 

頭上からの強襲には、為す術がないのである。

 

天敵がいないことを逆手に取っての作戦だ。

 

雷が直撃したロックが、悲鳴を上げ。

 

落ちてくる。

 

だが、高高度を飛ぶロックだ。恐らく雷撃を、直撃では無いにしても受けた経験はある可能性が高い。

 

あたしの落下地点に待ち構えていたオスカーが、手を振っている。身軽なオスカーは、クッションを重ねて、待ち構えていた。

 

魔術による砲撃を、威力を落として行い。

 

落下速度を調整。

 

オスカーのクッションに柔らかく着地。

 

そして、必死にもがいて体勢を立て直そうとしているロックの左右に。

 

跳躍したフリッツさんとジュリオさんが。

 

それぞれ剣を振るい上げていた。

 

一刀両断。

 

双刃乱舞。

 

それぞれの剣が、ロックの翼を滅茶苦茶に切り裂き、大量の羽毛が舞う。体勢を立て直そうとしていたロックが悲鳴を上げ。

 

結果地面に叩き付けられた。

 

あの高度から墜落して即死しないのは、流石ネームドの底力か。

 

頭上から躍りかかるレオンさん。

 

背後から突貫するモニカ。

 

翼を滅茶苦茶にまだ斬り付けているジュリオさんとフリッツさんに、ロックが対応を迷うその瞬間を狙い。

 

城壁に伏せていたハロルさんが。

 

目を長身銃で撃ち抜く。

 

狙撃による一撃。

 

弾丸が、混乱していたロックの目をぶち抜く。

 

普段だったら貫通するどころか弾かれていたかも知れないが。

 

地面に叩き付けられた上、命の次に大事な翼を現在進行形で無茶苦茶にされている状態では、流石に対応出来なかったのだろう。

 

レオンさんの槍がロックの背中に突き刺さり、深々と抉る。内臓にまで通ったはずだ。

 

モニカが剣を振るい。

 

尾羽を根元から叩き落とした。

 

それでも必死に立ち上がったロックだが。

 

全員が一斉に離れたのを見て、まずいと判断したのだろう。

 

その勘は当たりだ。

 

死角から接近したコルちゃんが。

 

奴の足下に向けて。

 

レヘルンを投擲。

 

コルちゃんを迎撃しようとして、それでも即応したロックは流石だ。

 

奴が甲高い声で鳴くと。

 

レヘルンが風で吹っ飛ばされる。

 

だがそれは想定済みだ。

 

迎撃の際に、レヘルンは何度か使われていると聞いている。

 

つまり敢えて奴が知っているレヘルンを使う事によって、対応を誘発させたのである。

 

本命は。

 

あたしだ。

 

二冊の拡張肉体と一緒に詠唱完了。

 

オスカーはそのままクッションであたしの背中を支えている。

 

流石に三倍の魔術砲撃である。

 

あたしもその場に踏ん張れるか、あまり自信が無かったからだ。

 

「さあ、ヤキトリにしてあげようねー! ファイエルッ!」

 

視界が漂白される。

 

悲鳴を上げて、必死に防御魔術を展開しようとするロックだが、砲撃が奴を貫く方が早い。

 

爆裂した砲撃が、奴の巨体を揺るがせ。

 

そして、起爆ワードを入れていないレヘルンを拾い直したコルちゃんが。

 

今度こそ、奴の頭部に向けて、レヘルンを投げ直す。

 

爆圧で完全に態勢を崩したロックに。

 

容赦なく投擲されたレヘルンが。

 

炸裂した。

 

頭部が凍ったロックは、それでももがいていた。

 

恐らく、余程強烈な術による防御を、体に掛けているのだろう。

 

だが、その時。

 

動きが止まった上。

 

凍り付いたロックに。

 

フリッツさんが。

 

剣を振るい上げていた。

 

フリッツさんが、剣を鞘に収めたときには。

 

ロックの首は、地面に落ち。

 

霜が生えたその巨体は。

 

ゆっくりと。

 

地面に倒れ伏していた。

 

傲慢なる空の王者は。

 

一人の人間も殺せず。大地に這うことになった。

 

 

 

数人がかりで、防護壁にロックをつるし上げると。

 

捌き始める。

 

落とした首は、解凍するまで待つとして。

 

体の方は、ぼろぼろになった翼をまず切りおとし。

 

腹を割いて内臓を出し。

 

足を落とし。

 

骨格に合わせて、体を順番に分解していく。

 

その過程で出る血液も保管する。

 

血液は栄養の塊だ。

 

蚊など、血液を栄養源にしている生物は多いが。

 

それは栄養が豊富だから、なのである。

 

心臓部分を取り出す。

 

コレは使える。

 

また、緑化作業を行うにしても。

 

何にしても。

 

桁外れの魔力を蓄えたこれは、大いに役立つだろう。

 

痛まないように防腐剤で処置をして。

 

更に油紙で包む。

 

ロックの巨体から切り出した肉は、その場で内臓と一緒に大半を燻製にするが。今飢えている人達のために、穀物と一緒に柔らかく煮込む。

 

そのかゆには、オスカーが栄養のある薬草を入れていた。

 

しばらくの間、ロックの恐怖に怯え。

 

絶望していた人達に配る。

 

極限まで飢えている人には、いきなり固形物を与えては駄目だ。まずは液体状の食べ物から与え。

 

それから徐々に固形物を与えていく。

 

そのために、肉は可能な限り細かく切り刻み。

 

なおかつ柔らかく煮込まなければならない。

 

ロックの肉は。少し味見してみたが、ちょっと堅すぎる。ただ、処置次第では柔らかく出来る。

 

街にある鍋を総動員して、ロックを調理するが。

 

久しぶりのごちそうだったのだろう。

 

住民達は、皆ががっつくように食べ始めていた。

 

ミゲル氏が来る。

 

頭を下げられた。

 

「本当に済まない。 民の引き受けばかりか、ロックの撃破も此処まで見事にこなしてくれるとは」

 

「いや、ソフィーの成長が著しいが故です」

 

フリッツさんが、あたしに前に出るよう促す。

 

あまりこういうのは得意ではないのだけれど。

 

まあ、頭を下げられたら。此方も礼を失してはならない。

 

「この過酷な世界です。 互いに助け合っていきましょう」

 

「この礼はいつか必ず」

 

目を細める。

 

この街も、周囲を緑化する必要があるかも知れない。だが人員がそもそも足りないのだ。

 

とにかくまずやる事は。

 

あたしに出来る範囲で。

 

世界を豊かに変えていくこと。

 

皆が幸せになる世界、等というものが来ると思うほど、あたしは甘くは無い。だが、これ以上匪賊が増えたり。匪賊になる人間が出るような仕組みが街に作られたり。猛獣やドラゴンに為す術無く蹂躙される人々が出たり。

 

そういう世界の仕組みそのものは。

 

あたしの手の届く範囲内では、変えなければならない。

 

だが、本来は。

 

皆に力があれば。

 

それはあたしだけでなく、皆でやっていけることでは無いのか。

 

どうして錬金術は。

 

才能のある者にしか出来ない。

 

そもそも、才能がある者だって。

 

発掘されるケースは、今の時代では希だ。

 

プラフタも、奇蹟みたいな出来事の結果、錬金術師になったようだし。

 

街によっては、読み書きさえ覚えられない子供だって珍しくない。

 

王都などの大型都市に住んでいる富裕層の子供なら話は分からないでもないのだが。

 

そんな例外は、本当に少数に過ぎないのだ。

 

モニカが来る。

 

「ソフィー。 深呼吸して」

 

「ん」

 

流石にモニカは。あたしの心情を理解してくれている。というよりも、此処で爆発されたらたまらないと思ったのかも知れない。

 

ともあれあたしも深呼吸して。

 

一旦頭を切り換える。

 

「今回の作戦は見事だったわ。 まさかロックを逆に頭上から強襲するなんてね」

 

「「腕を増やして」から、やってみたかったんだよ。 空を飛ぶ。 二冊もあれば、頭上にあたしを運べることは分かった。 砲撃の威力も充分。 多分12冊もあれば、大体思った事が自由自在に出来るんじゃないのかな」

 

「それは凄いわね……」

 

「それで?」

 

まさかあたしを褒めるだけが目的ではあるまい。故に本来の目的を話すよう咳払いすると。

 

モニカは本題に入った。

 

解体作業が始まると同時に、フリッツさんが後続部隊を迎えに行った事。そしてジュリオさんが、レオンさんと一緒に、恐らく様子を窺っているだろう匪賊を威力偵察に行ったことを教えてくれる。

 

なるほど。

 

燻製作業は、ぶつぶつ文句を言いながら、ハロルさんが、まだ余力がある街の人達と行ってくれている。

 

あっちは任せても大丈夫だろう。

 

料理の方はオスカーが見てくれている。

 

コルちゃんは、素早くロックの肉の量を計算して。

 

それで何日分の食糧になるかを提示。ミゲルさんと、今後の事について話をしているようだった。

 

「この街も緑化しておかないと駄目かも知れないね」

 

「しかし距離が離れすぎている。 余裕が無いわよ」

 

「移動時間を短縮できればなあ」

 

例えば。ミゲルさんのような強者が、単騎で馬で移動するなら、徒歩で行くよりもずっと早いだろう。

 

浮くことそのものは可能だが。

 

それでびゅんと飛んでいくことはちょっと難しい。

 

錬金術の道具には、浮くことを可能とするものが幾つもあるのだが。

 

例えば、いっそのこと。

 

この街に、一瞬で飛ぶ事は出来ないか。

 

帰ったらプラフタに相談するとして。

 

周囲を見回すが。

 

畑も痩せている。

 

昔恐らく、品質の低い栄養剤を、高値で買って。

 

それでどうにか、畑に出来るようにしたのだろう。

 

だがそれも、長年の無理のせいで、土地がすっかり痩せてしまっている。そして食糧が足りないから、更に畑を酷使しなければならない。

 

負の無限ループだ。

 

やがて畑が完全に死んだら。

 

この街は終わる。

 

その前に、手を打たなければならないだろう。

 

やむを得ないか。

 

根本的な解決をするためにも。

 

此処で腰を据えて、緑化作業をするしかない。

 

戻ったら、ホルストさんに相談してみよう。

 

モニカは周囲の警戒に行ってしまったので。

 

あたしは土地を見て回る。

 

途中、何人かの自警団員に礼を言われた。

 

獣人族の自警団員は。

 

とても痩せていて。気の毒なくらいひ弱そうだった。ヒト族より力が本来強い獣人族なのに。

 

「凄い魔術だったな。 あんなもの凄い砲撃、はじめて見たよ」

 

「ありがとうございます。 でもこの子達のおかげですよ」

 

「それは!?」

 

「錬金術で作った、あたしの三本目、四本目の腕です。 魔術を同調して詠唱したり、色々やってくれるんですよ」

 

周囲の土地について教えて貰う。

 

やはり痩せていて、作物も取れにくくなっていると、悔しそうに言う。

 

頷くと、キルヘン=ベルの方が落ち着いたら、此方もどうにかすると言う話をして。それで別れる。

 

ほどなく、フリッツさんとジュリオさんが戻ってきた。

 

やはりというかなんというか。

 

匪賊が何グループか、威力偵察に来ているという。

 

消毒するか。

 

あたしが爆弾を持ち出すと。

 

二人はあたしを案内してくれた。

 

ロックにこの街が壊滅させられたら、次は自分達だろうに。

 

そんな事も考えられず。

 

弱者を貪り喰らう連中は。

 

消毒以外に処置がない。

 

そしてあたしは。

 

此方の接近に気づき、逃げ腰になった匪賊どもを。

 

容赦なく。

 

一人も逃さず。

 

消毒した。




匪賊は消毒だ(無慈悲)
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