暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
この世界での緑化作業というのは、大いなる意味があるのです。
キルヘンベル周辺の森の緑化が、大体完了した。
予定通りほぼ二ヶ月。
せっせとオスカーが世話をして。
そしてそれに伴い、土地の保水力が大幅に上がり。
更に土地活性剤が利いたのだ。
予定通りに耕していた畑も、充分に豊かな土に仕上がっていた。
本来はこれだけの潜在力がある土地だったものが。
元々の力を取り戻した。
それだけの事だったのだろうけれど。
それでもとてもとても大きな成果だ。
新しくこの間受け入れた25名も、すっかり極限の飢餓によるダメージからは立ち直り。
今では新しく作っている市街地の建築作業と。
防護壁の移動、新築作業。
それに畑仕事に加わってくれている。
自警団の新規メンバーもかなりなれてきた様子で。
更に規模を拡大する予定だという話も、ホルストさんから聞いた。
そろそろ頃合いだろう。
あたしは、この間の25名受け入れの時から、丁度二ヶ月が経過した今日、開かれた重役会議で。
提案する。
「ノーライフキングの住まう洞窟の攻略作戦を提案したいのですが」
「!」
一斉に、重役達が、緊張するのが分かった。
ノーライフキングは、勢力こそ衰え、奴の巣穴から出てこられなくなったとは言え。
噂に聞く「根絶」の力に手を染め。
邪悪の限りを尽くした極悪の輩。
生半可なネームドとは意味が違う存在で。
文字通り、この周辺における「悪」の象徴そのものだ。
匪賊なんぞ、奴から比べれば小虫か羽虫に等しく。
だからこそ。
奴を倒す事には意味がある。
「ソフィー。 貴方がこの間の東の街救援作戦で、獅子奮迅の活躍をした事はこの場の誰もが知っています。 最近のキルヘン=ベル発展のために身を粉にして、多くの有用な道具を作ってくれたことも。 しかしながら、ノーライフキングをいきなり討つことには賛成できません」
「同意だな」
ヴァルガードさんが言う。
フリッツさんも頷いた。
「ノーライフキングに何かしらの影響を受けたのだろう。 ネームドの移動がかなり激しくなっている。 東の街に対するこの間のロックの襲撃も、無関係とは言えないと私は思っている。 現時点で確認されているめぼしいネームドを全て駆除し、念入りな威力偵察をしてからでも遅くはあるまい」
この間。
プラフタの設計図を持っていったとき。
素晴らしいと感動していたフリッツさんは。
どう素体となる人形を作るか、興奮して手をわきわきさせていた。
今はその時とは別人のよう。
冷静な武人としての顔を見せ。
論理的にあたしの積極攻勢策を否定した。
そして、周囲もフリッツさんの言葉に賛同している。戦略も戦術も知り尽くした本職中の本職の言葉だ。当たり前である。
流石にコレでは無理か。
あたしも、いつものメンバーだけであの巨怪を叩き潰すつもりだったし。
多分奴の巣穴に侵入さえすれば、可能だろうとも思っているのだけれども。
しかしながら、言われるとおり。
ネームドの駆除は最優先事項だ。
それに、である。
「東の街の困窮は目に余るものがあります。 ミゲル殿からも、緑化作業が出来るのであれば、是非にという声が上がっています」
「東の街がもし失われると、キルヘン=ベルに来る商人が、非常に難儀することになる」
ヴァルガードさんが言う通り。
東の街は、北東、更に東、南に、三日ほどの距離に街がある。それも、いずれも相応の規模の街である。
ただ、いずれも錬金術師はいない。
そして、東の街から二つ東の方に行った街に。
ようやく公認錬金術師がいる。
この世界。
人口万を超える都市は十を超えず。
十万を超える都市に至っては、両大国の首都にしか存在していない。
東の街の悲惨な現状は。
決して珍しいものではなく。
むしろありふれているのだ。
キルヘン=ベルとしては、いずれナーセリーを復活させて至近に連携できる資源回収都市を造り。
東の街、更にその東の街と友好関係を拡げ。支援を行い。
商人が比較的安全に通ることが出来。
その結果、多くの人が流れ込み、金も出入りする、経済的に見ても重要な場所への発展を基礎の戦略とする。
そう重役達は考えている。
あたしもそれには賛成。
で、ノーライフキングは。
近辺最強のネームドである事に変わりは無く。
北の方に住んでいるというドラゴンを除くと、近隣最強最悪の脅威だろう。
だが、皆が言う通り。
今、ネームドの動きがおかしい。
ならば、フリッツさんの言う通り。
戦略を変える訳にはいかないだろう。
「ソフィー。 東の街の緑化について、お願い出来ますか」
「分かりました。 しかしながら、時間が掛かりますよ」
「オスカーは当面出向、となりますね。 更にもう一つ問題があります」
「ネームドの駆除に裂ける戦力が減る、ですか」
頷くホルストさん。
オスカーはなんだかんだ言って、あたしとモニカと、ずっと一緒にやってきた大事な幼なじみだ。
いなくなられると非常に困る。
勿論、緑化作業はずっと貼り付きでやらなければならないものではない。
ただ、東の街への移動が、四日もかかるのが現状としては大問題で。
これをどうにか解決できないか。今考え中なのである。
いずれにしても。
この間ヤキトリにしたロックからも、土地活性剤の材料となる心臓をえぐり出しているし。
土地活性剤に関しても。
プラフタに51点を貰っている。
最近は50点越えの評価が珍しくなくなってきていて。
あたしとしても嬉しいけれど。
ただ、これは埋め込めば何でもかんでも解決、と言う訳には行かないのだ。
それに、である。
東の街はキルヘン=ベルとは違う。
錬金術師がいないため、安定させるためにラスティンから役人である執政官ミゲルさんが派遣されていて。
街の運営の仕組みも大きく異なっている。
だがある意味好機か。
「フリッツ。 ソフィー達を率いて、東の街に行って貰えますか。 自警団は、しばらくキルヘン=ベル近辺の目立った活動をしている猛獣の排除に努めます」
「異存はありませんが、つまるところ、現地の疲弊した自警団と、ソフィーと遊撃部隊だけで動けと」
「そうなります」
「難度が高いですな」
コルちゃんも連れて行け、とホルストさんは言う。
東の街は、もうズタズタの状態だ。
コルちゃんが現地で、ホルストさんの代理として。色々と物資の管理や情報の整理をした方が良い、とホルストさんは言うのである。
其処まですると、東の街は、キルヘン=ベルの植民地状態になってしまうのでは無いかと一瞬不安視したが。
しかしながら考えて見ると。
それが故に。
あたしと、いつものメンバーだけで向こうに行き。
緑化作業をする、という事になっているのだろう。
つまり連れていく戦力を最小限にすることで。
向こうの不安を、最大限和らげる、と言う分けだ。
ましてや、街を再三襲撃していたロックを屠り去ったあたしがいけば。
向こうの人達は、安心もするだろう。
「しかし、分かりました。 数日以内に準備を終えて向かいます」
「お願いします。 それでは、解散」
重役が敬礼して、ぞろぞろとカフェを出て行く。
それを見送るテスさん。
ふと気付いたことがあるが。
まあそれは口にしないでおく。
テスさんはCQCの達人で、いずれモニカの副官としてこの街の自警団をまとめる役割を期待されている俊英だ。
彼女と変な軋轢を作るのも問題だろう。
敢えてそのまま、気付かないフリをして、アトリエに戻る。
途中。
フリッツさんが声を掛けてきた。
「ソフィー。 どうして急にあんな提案を? 容れられないことは最初から分かっていた筈だが」
「……個人的には、威力偵察の許可だけでも引き出したかったんですよ」
「ふむ」
「ネームドの動きがおかしい事はフリッツさんも分かっていると思います。 ノーライフキングの外道がそれに関与しているのかいないのか、確認しておきたいんです」
フリッツさんは考え込むが。
結果は見えているはずだ。
もしも、ノーライフキングが関与していないのであれば。
関与する勢力など、一つしか無い。
すなわち。
深淵の者だ。
ジュリオさんは、深淵の者とのコンタクトを取りにこの街を訪れている。
その辺りも考慮して、そろそろ威力偵察が必要だと思うのだが。
誰もそう思わないのだろうか。
アダレットとラスティンが戦争になる事はまず考えられない。
むしろ今後は、世界の発展のために、より強固な協力関係を作っていかなければならない。
今の人類には。
戦争なんかやっている余裕は無いからだ。
数百年くらい前には、小さな都市や村がそれぞれ国家を名乗ることもあり。それらが戦う事もあったらしいのだが。
今ではそういった小競り合いは起きることもない。
だが、気になっていたのだ。
プラフタの話を聞く限り。
500年前も今も。
人間の下劣さ加減は変わっていない。
実際問題、プラフタもそれは忸怩たる思いで見ている筈だ。
それなのに、どうして二大国が出来。
錬金術師の質が上がり。
匪賊が巨大な組織を作ることもなくなり。
人間にとっての脅威は、猛獣と邪神とドラゴンが主体になった。
本来これほどの凄まじい力を持つ錬金術だ。
人間という生物の性質上。
錬金術師を主力とした戦争が、行われていてもおかしくなかった筈。
深淵の者がそれに何かしらの関与をしているか。
或いは知っているか。
このどちらかは確実だろうと、あたしは見ている。
それも出来るだけ早く。
解明できるならしておきたいとも思っている。
「分かった。 東の街の近くには、ネームドがまだ何体か確認されている。 緑化作業の合間に、叩き潰しに行こう。 そうすれば、ノーライフキングの洞窟攻略に弾みを付けることができる筈だ」
「ありがとうございます。 あと、人形の方もお願いいたします」
「分かっているさ」
アトリエの前で別れる。
今回は、長丁場になる。
それを告げると、プラフタは、珍しくついてくると言った。
アトリエに関しては、保存するべく、あたしが空気の流れを遮断する術式を掛けておく。セキュリティに関しては、自警団がどうにかしてくれるだろう。
勿論二ヶ月東の街に貼り付きっぱなしと言う訳にもいかない。
多分二三回は戻る事になるだろうが。
それも長時間はいられないだろう。
三日ほど準備をしてから。
アトリエを出る。
出る前に、作るだけ作った爆弾や薬を、カフェに納入しておく。
二ヶ月向こうに貼り付きっぱなしになるわけではないにしても。
この間の支援と、それからの街の回収作業で。
相当にお金を消費している。
商人は今も時々来ているので。
外貨獲得のためにも、物資は必要だ。
ただ今回はコルちゃんに来て貰うので。
商人とのやりとりは、ホルストさんが久々に直にやる事になるだろうが。
「それでは、頼みますよ、ソフィー」
「分かっています」
荷車は二つ。
それだけ長期的な滞在を想定しての事だ。
以前に比べて、東の街の状態は、少しはマシになっている筈だが。
それでも油断は出来ないだろう。
いつもの面子と一緒に急ぐ。
特に今回、オスカーの責任は重い。
モニカはまだしらけた様子で見ているが。ただ、流石に実績もあるし。これ以上文句も言えないのだろう。
街道を行く。
獣は、たくさんいたが。
ネームド級のものとは遭遇せず。
荷車に対して、仕掛けてくる愚か者も、見かける事は無かった。
東の街に着く。
前ほど悲惨な状態ではないが。それでも、濃厚な貧困の臭いが漂っていた。
どうにか食糧の消費が抑えられたことにより。
人肉を食べるような事態は避けられたようだが。
それでも最低限の家屋。
最低限の食糧。
そして最低限の防護壁に。
明らかに酷使しすぎて枯れる寸前の畑。
碌な状態ではない。
ミゲルさんが、すぐに来た。
彼も顔色は悪い。
話によると、戦力的に劣る自警団には守りだけ任せ。少しでも街の食糧事情を改善するために、毎日外に獣を狩りに出かけ。
そしてこの街から東にある街にも使者を出し。
更に東の街にあると言う、公認錬金術師にも救援を求めているらしいのだが。
それも上手く行っていないそうだ。
「手助けに来てくれないんですか?」
「それどころではないそうだ」
「それどころって」
モニカが露骨に眉を跳ね上げたが。
ハロルさんが、咳払いをした。
優等生のモニカだが。
案外けんかっ早い。
こういう所では、昔からの地が出る。
それは、兄貴分だったハロルさんが良く知っていることだ。
「実は公認錬金術師のいる街の近くで、強力なネームドが住処を作っているらしく、応戦に手一杯らしい。 公認錬金術師が街を離れたら、一瞬で防護壁を喰い破りかねない難敵だそうだ」
「それは厄介だな。 ちなみにどんな奴だ」
「確か、イサナシウスとかいうらしいが」
「陸魚の最上位種の一つですね」
ジュリオさんが説明してくれる。
ネームドとしては複数存在するタイプのものらしく。特に巨大に成長した陸魚を指すという。
もともと陸魚は非常に巨大な体を持つが。
イサナシウスはその中でも特に凄まじい巨体を持ち。ジュリオさんは、側にある、あたしの背丈の五倍くらいはある防護壁を視線で指した。
「あの防護壁に、背中が届いてしまうくらいはあると聞いているよ」
「どちらかというと横に長い陸魚が!?」
「そういうことだね。 余程の巨大な化け物だ、と見て良いだろう」
「ドラゴン並みですね」
あたしの言葉に。
ジュリオさんは頷く。
多分苦い思い出でもあるのか、それ以上は語らなかったが。
ロックの時も、アダレット騎士団が同種を討伐したときに四人の戦死者を出していたと言っていた。
アダレット騎士団は、かなり厳しい戦いを、連日続けているのかも知れない。
イサナシウスとやらは。今の話を聞く限り、ロックと同等か、それ以上の実力を持つネームドだろう。
そんなのを真正面から相手にしていたとなれば。
どれだけの被害が出ていたことか。
とにかく、街の司令部に案内して貰うが。
それもカフェのような施設はなく。
ミゲルさんの自宅だった。
それも質素な造りで。
あまり大人数が入れるほどの大きさはなかった。
奥さんがいるようだが。
子供はいない。
一人は疫病で。
一人は猛獣に襲われて。
死んだと言うことだ。
この世界では、珍しくもない。
大人になれる子供の方が、珍しい位なのだ。
奥さんは陰鬱で。
子供を二人とも亡くして、或いは少し病んでいるのかも知れない。一礼だけすると、すぐにその場を離れた。
ミゲルさんは咳払いすると。
地図を出してくれた。
「これが現時点でのこの街だ。 畑がこのようにして拡がっている」
「ふむ。 川は」
「此処からこう流れているが、水量が少なくてな」
この街もそうだが。
キルヘン=ベルも、北部にある山脈を水源とする川の近くに作られたのが始まりだ。
水がなければ人間は生きていけない。
地形を見る限り、一応無秩序に作られた街では無い様子だが。
畑の位置については。どうも妙だ。
「これらの畑は、どうして川に沿って作っていないのですか」
「この間のロックもそうだが、この街には多くのネームド襲来の歴史が有り、その度に多くの犠牲者が出た。 この間のロックほど手酷く痛めつけられたことはないが、倒すまでに多くの犠牲を払い、その結果それらの縄張りから出来るだけ離れた場所に畑を拡げる、という事で話が一致したのだ」
「……」
オスカーが考え込んでいる。
やがて彼は。
丸っこい指を、地図上に走らせた。
「この辺りを緑化しても良いですか」
「街から南、か。 理由を聞かせて貰いたい」
「畑の疲弊が一番酷いからです。 いっそ畑は潰して、この辺りを新しく畑にしましょう」
「……ソフィー殿。 どう思われる」
いきなり敬語で話されたので、ちょっと驚いたが。
そういえばこの人にとって、ロック撃墜を果たしたあたしは恩人か。
それに今、この街の生命線を握っているのもあたしだ。
あたしが機嫌を損ねたら、この街は終わる。
丁寧に接しなければならないのは、ミゲルさんにとっても当然とは言える。ただ、あたしはあまりそれを想定していなかった。
「土地活性剤に関しては、問題ありません。 植物の苗も持ってきましたし、オスカーならすぐにどうにかしてくれるでしょう」
「分かった。 専門家の発言に従おう。 畑も蘇るのか」
「蘇りますが、休作を挟みながら使ってください。 それと問題が一つ」
「聞かせてくれ」
あたしが地図上で指したのは。
街の南にある×印。
ネームドの縄張りを示している場所だ。
「このネームドが邪魔です。 これから消してきます」
「まて、此奴は」
今まで冷静だったミゲルさんが。
顔面を見る間に蒼白にした。
無理もない話である。
このネームドは。
此奴の近くには匪賊さえ近寄らないと言う、筋金入りのマンイーターである。
獰猛とか凶暴とか、そういうネームドは幾らでもいる。
人間を襲って喰う奴もいる。
というか、ネームド認定されるのは、ほぼそういう超危険猛獣だ。
だが此処にいる奴は、「えり好みして人間を喰う」のである。
普段は冬眠していて。
起きだすと、おこぼれ狙いのスカベンジャーと共に近くの街に大挙して押し寄せ。
そして人間を喰らう。
キルヘン=ベルにも、おばあちゃんが生きている頃に攻め寄せて来たことが一度あり。
その時はおばあちゃんがぼこぼこにぶちのめしたが。
しかしながら、狡猾にも逃げ延びた。
ちなみに、動物ではなく。
植物である。
通称、デビルホーン。
見かけは魔族に似ているのだが。
魔族では無い。
本来は、力尽きた魔族の死体に、寄生植物が取り憑いたらしい。これが屍の魔力を吸い上げたことで強大な力を得てネームド化。
更に、この魔族が匪賊で。
人間の味を知っていたことが最悪の結果を招いた。
今では全身が口と触手で覆われており、人間を捕らえては栄養分として喰らう文字通りの貪食の怪物となっている。
もとの魔族の姿は「外見」くらいしか残っておらず、それも普通の魔族の二倍近いサイズの異形。
魔族の中でも特にレアな巨人族なら、これくらいのサイズはあるかも知れないが。
それでも、もはや形しか人型ではないこれは、生物に分類して良いかも怪しい存在だ。
そしてこのはた迷惑な怪物は。
冬眠して力を蓄えるのと。
街道などに姿を見せ、目についた人間を根こそぎ喰らっていくのを繰り返し。
怖れられている。
住処は突き止められてはいるのだが。
周辺に無数の猛獣が住み着いていて。
今までは手出しできない状態だった。
そう、今までは。
何しろ此奴、人間しか喰わないので。
猛獣たちにとっては、非常に居心地が良い場所になっていたのである。
だがそれも終わりだ。
今回、プラフタに64点を貰ったフラムとクラフト。更にクラスタークラフトことうに袋に、レヘルンも持ってきている。
レヘルンは改良を更に重ねて、68点を出したものを、コルちゃんに増やして貰った。
更にあたしの拡張肉体。
本も、今回は三冊に増えている。
この間二冊でも、あたしを上空に持ち上げることが出来たのだ。
三冊になれば、更に出来る事が増える。
近隣に恐怖をばらまいたマンイーター、デビルホーンを今回の遠征で潰す。
そして此奴の心臓くらい強力な素材があれば。
恐らく、ナーセリー復活用の素材にできる筈だ。
人間を散々喰らったのだ。
今度は人間を生かすための道具になって貰おう。
それだけの話である。
「くれぐれも無理はなさらぬようにな、ソフィー殿。 彼奴は今まで、幾多の腕自慢が挑み、返り討ちにされてきたのだ。 その中には、流れの錬金術師もいた」
「勿論、作戦には細心の注意を払います」
「頼む。 貴殿を失ったら、キルヘン=ベルは勿論、この街も終わりなのだ」
そうか。そういう風に言ってくれるか。
だが、個人的にはあまり嬉しくない。
話し合いで決めた予定地点に、土地活性剤を埋め込み。周囲を柵で覆う。これくらいの物資は、東の街にもある。
作業はミゲルさんに実施して貰い。
土地を耕し。
持ち込んだ全自動荷車で水を運搬して、撒く。
流石に全自動荷物積み降ろし装置は持ち込めなかったが。
それでも、水の入った桶だし、それほどの苦労はしない。
元々柔らかくなっている土地はそのままでいい。
自警団にも手伝って貰って、一通り土地を柔らかくしている内に。
土地にみずみずしい魔力が巡り始めていた。
土を確認して、オスカーと話し合い。
最初に、持ち込んだ草の苗を植える。
後は、デビルホーンを駆除してからだ。
どのみち、デビルホーンを駆除しなければ、ノーライフキングの討伐許可だってでないだろう。
そして今回。
フリッツさんにも、デビルホーン駆除作戦については。
ここに来るまでに、話を付けてある。
あたしが勝手に決めたことでは無い。
下ごしらえが終わった所で。
作業に取りかかる事にする。
皆に声を掛けて、その場を離れる。
コルちゃんは、少し残りたそうな顔をしていた。
「コルちゃん、怖くなった?」
「いえ。 倉庫の状態を、実際に確認しておきたかったのです」
「そっか。 それはごめん」
「いいのです。 ……少し怖いのは事実です」
今回の作戦は、一瞬で決まる。
失敗した場合は、殿軍を置いての、かなり厳しい追撃戦が展開されることになるだろう。
この間のロックでも分かったが。
ネームドの猛獣は、基本的にはあり得ない次元でタフだ。
通常の動物とは。
一線を画していると見て良い。
そんなものをまともに相手にしていたら、身が持たない。
それと、検証しておきたいことがある。
気になっていたのだ。
キルヘン=ベルが発展し始めて以降、急激に近隣のネームドが活性化している。
もしも関連があるとしたら。
いずれドラゴンも来るかも知れない。
さて、見えてきた。
険しい岩山の中。
ずっと昔の錬金術師が作ったらしい、宮殿の残骸らしきものがある。
周囲を意思を持たせた道具類で固め。
それらを番犬にし。
街を支配していた、強欲な男だったという噂である。
ただその街も、邪神に襲われて、ひとたまりもなく錬金術師ごと滅ぼされてしまったらしく。
しかもその邪神は、ナーセリーを滅ぼしたのと同一個体だという噂もある。
岩陰に隠れて様子を確認。
今回はついてきているプラフタが、ようやく顔を出した。
「……技術的に見て、かなりの実力を持つ錬金術師が作ったもののようですね。 意思をもった複雑な道具が維持することを前提とした構造が随所に見られます」
「それを難なく滅ぼした邪神が、まだ近くにいると」
「……いえ。 ナーセリーを滅ぼしたものが同一個体だとすると、恐らくそれはある程度人間が増えた街を狙うタイプでしょう。 この破壊の痕からして、抵抗を一蹴していますし、相当に厳しい戦いになるでしょうね」
そうか。
少なくとも、これだけ大規模な宮殿を作る錬金術師が、手も足も出なかった相手と言う事か。
ハロルさんが手を上げる。
見つけた、という合図だ。
邪神が滅ぼしたとしても。
今、此処の主はデビルホーンだ。
人間を襲って喰う化け物だとしても。
根本的には植物。
そいつは。
崩れた宮殿の一角。
形容しがたい姿で。膨張と収縮を繰り返していた。
眠っている、のだろうか。
噂通り、凄まじい異形だ。体は魔族らしき形をしてはいるが。元が寄生植物である事さえ、よく見ないと分からない。噂通り全身に、ヒト族をひと呑みにするほどの口がついており。触手は吸盤とかぎ爪。そして、今は閉じているが。恐らく目だろう器官が、体中にある。
奇襲は無駄だな。
あたしはそう判断した。
ならば予定通りにやるだけだ。
それと、ついでだ。
この宮殿、どうせもはや壊れるようなものは、そうなってしまっているだろう。倒壊を防ぐためにも、一度徹底的にぶっ壊してしまった方が良いはず。
あたしが頷くと。
フリッツさんが、ハンドサインを出した。
展開。作戦開始。
駆除の始まりである。
※獣について2
本作シリーズで獣が際限なく湧くことは以前説明しました。
しかしながら、緑化が成功した地点では話が変わってきます。
基本的に荒野しかない世界。その中にある緑地は異物であり、同時に安全地帯なのです。
なんと緑化地帯では、ごく一部の例外や、獣以上の恐怖である邪神を除くと人は襲われないのです。というか、獣が無茶苦茶大人しくなって殺し合いさえしません。
例外的な獣や邪神、或いは匪賊は話が別ですが。
これがこの世界で緑化に命を賭けてもいい理由の一つ。
この世界で街の周囲を緑化する事に成功するというのは、凄まじい偉業なのです。