暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、人食いの邪花

植物というのは、オスカーに聞く所によると、太陽の光を栄養に出来る力を持つ存在なのだという。

 

しかしながら、太陽の光だけではどうしても栄養が足りない。

 

殆どの植物は、大地から栄養を得ているが。

 

何しろこの枯れ果てた世界だ。

 

異形の変化を遂げていった植物も珍しくは無い。

 

勝手に歩き回り。

 

動物を補食するような輩である。

 

元々、待ち伏せて虫を食べるような植物は存在していたらしいのだけれども。

 

此処までアグレッシブになると。

 

今回滅殺をはかるデビルホーンのように。

 

何かしらの理由で膨大な魔力に晒され。

 

ネームドになった場合が殆どだとか。

 

勿論戦闘力は、猛獣のネームドとまるで遜色がなく。

 

実力から言っても生半可な猛獣など、束になってもかなわないほど。

 

しかも此奴は、人間ばかりを偏食する。

 

そして今まで、討伐隊を悉く退けてきた。

 

戦いの前に。

 

ホルストさんに話して、情報は集めてある。

 

その性質も、である。

 

上空に移動したあたしが、まずはぶちまけたのは。

 

高濃度に圧縮した油である。

 

当然、人食い植物デビルホーンは。

 

雨ならぬ油を浴びて、緩慢に無数の目を開ける。

 

植物には本来こういう器官は無いのだが。

 

膨大な魔力を吸い、喰らった人間の構造を取り込んだのだろう。

 

周囲全体を見ていた目が、頭上にいるあたしを捕らえたときには。

 

その体には、複数のフラムが着地していた。

 

起爆。

 

宮殿が、まとめて吹き飛ぶような爆発が起きていた。

 

勿論直上にいてはあたしも巻き込まれてしまう。

 

だから既に頭上とは言っても、かなり皆がいる側寄りに移動していたのだが。

 

それでも巨大なキノコ雲が上がるほどの爆発だ。

 

マイスターミトンと友愛のペルソナの防御。更に高度が落ちることを前提で、拡張肉体の本達に展開させた防御魔術でも、強烈な衝撃波を防ぎきれず、ぐっと押される。

 

そして、炎の中。

 

雄叫びを上げながら。

 

形だけしか魔族では無いもはや生物と呼んで良いかも分からない化け物が。

 

その巨体を起き上がらせる。

 

全身を無数の触手に覆われており。

 

今のでかなり傷つきはしたものの。

 

体内に蓄えている栄養で、一気に回復を始めたのだろう。

 

そしてその目は。

 

半分ほどを失いながらも、ゆっくり地面に降りていくあたしを、ずっと捕らえていた。

 

突進を開始する人食い。

 

凄まじい迫力だ。

 

だが。それが、ある一点を踏んだ瞬間。

 

起爆。

 

其処には、事前に魔術で防御を掛けたレヘルンを埋めてあったのだ。

 

しかも複数、である。

 

防御は、爆発を耐えた後に解除もしている。

 

一瞬で、強烈な冷気と。

 

巨大な氷柱が、人食いを貫く。

 

痛いはずもないのに。

 

痛みを感じているかのように。

 

巨体をよじらせ、化け物が触手を振るった。

 

体の半分以上が凍結しただろうに。

 

それでもまだ、まるで関係無く動いているのは。

 

やはり此奴が、寄生植物がベースで。

 

元の肉体など、とうに朽ち果てているから、だろう。

 

「GO!」

 

フリッツさんが叫び。

 

一斉攻撃が開始される。

 

ハロルさんが、長身銃で、精密な射撃で敵の目を潰しつつ。

 

突貫したジュリオさんとフリッツさんが、降り下ろされた巨大な触手を斬り飛ばす。

 

だが、ばくりと音を立てて、巨大な口が。

 

化け物の体の真ん中に開くと。

 

其処に光が収束していく。

 

前に出たのはモニカ。

 

防ぐのは一瞬で良いと告げてある。

 

光の壁を展開するモニカに。

 

バカめと言わんばかりに。

 

デビルホーンが、極太の魔力砲を発射。

 

たくさんの人を食い。

 

そして土地から膨大な魔力を奪った怪物だ。

 

ロックに致命打を与えたあたしの三倍砲撃を遙かに上回る火力である。

 

モニカが冷や汗を掻き、じりじりと押されながらも、必死に防ぐ。

 

そしてその時には、コルちゃんが。

 

真横に周り。

 

仕込み手甲での一撃を、叩き混んでいた。

 

爆裂。

 

コルちゃんを抱えて、オスカーが飛び退く。

 

今のでバランスを崩した化け物の体に、複数の傷が出来。

 

そこから光が迸り。

 

爆裂。

 

大量の体液が周囲に飛び散り。

 

内側から吹っ飛んだ触手が、辺りに降り注いだ。

 

怒りの声を上げる化け物の頭上から、レオンさんが槍を突き刺し、そして引き抜く。レオンさんを残った触手ではたき落とそうとする化け物は、形態を緩慢に変えつつあった。

 

元の形は残さず。

 

ダメージを受けた場所も全て廃棄。

 

さながら脱皮するかのように。

 

内側から、赤黒い巨体が出てくる。

 

それはさっきの巨大な口を中心にして。

 

無数の昆虫を思わせる足を生やし。

 

そして、魔族の名残らしい翼の欠片のような小さな突起が背中に。

 

体中に、眼球がついていた。

 

何がどうしたら。

 

死体に宿った寄生植物が、此処までの化け物になるのか。

 

散開。

 

フリッツさんが叫ぶ。

 

長身銃を乱射していたハロルさんが、腰を上げて、バックステップ。更に後ろの岩陰に隠れる。

 

それは、目立つ行動であり。

 

奴はそれによって。

 

既に杖を構えているあたしを見つける。

 

吠える化け物。

 

しかし、突貫はしてこない。

 

さっきの突貫で、レヘルンをもろに喰らった事を覚えているのだろう。

 

だが。

 

それが命取りだ。

 

あたしの側にいる本が、一冊足りない事に、気付いたのか。

 

周囲を慌てて見回す。

 

さっきの形態だったら、即座に見つけられただろう本は。

 

奴の真上から。

 

吸着していた、オリフラムを投下。

 

突き刺さったオリフラムを。

 

あたしは容赦なく起爆した。

 

一点集中の砲火が、脱皮したての体を突き抜く。

 

動いていれば、こんな事は無かっただろうに。

 

そして間髪容れず。

 

あたしが全力での砲撃をぶっ放す。

 

あたし自身も、連戦で力を付けている。

 

火力は、この間のロック戦より更に上がっている。

 

直撃する魔術砲。

 

爆裂。

 

だが、まだだ。

 

奴の殺気は、まだ消えていない。

 

嫌な臭いがする。

 

フリッツさんが、退避と叫ぶが、遅い。

 

爆発が、巻き起こっていた。

 

全員が手酷く負傷する中。

 

巨体が、盛り上がるようにして。

 

爆炎の中から姿を見せる。

 

そうか、地中に可燃性のガスを蓄えた内臓を隠していたのか。

 

冬眠している場所だ。

 

襲われる事を考慮して。

 

周囲全てを薙ぎ払うこんな仕掛けを準備していたわけだ。

 

くつくつと、あたしは笑いが零れる。

 

これではっきりした。

 

ネームドは、生物と呼ぶに値しない。

 

此奴らは、恐らく。

 

世界の悪意の具現体だ。

 

そして、これはまだ推測に過ぎないのだが。

 

ドラゴンも同じなのではあるまいか。

 

「後退! 負傷者を庇え!」

 

「ソフィー、無事か!」

 

「何とかね」

 

とっさに本達が。側にいた二冊も、奴にオリフラムをお届けした一冊も。間に合って、防御魔術を展開してくれた。

 

それでも強烈だったが。

 

まだあたしは立っている。

 

煙の中でふくれあがったデビルホーンは。

 

今の一撃で、自分をも吹き飛ばしたか。

 

かなりの細身になっていた。

 

というか、これが本来の、寄生植物としての姿なのだろう。

 

無数の赤黒い蔓が巻き付き。

 

巨大な口と。

 

一対の目。

 

大きさも、かなり縮んでいた。

 

だが、触手を撓ませると。

 

ダメージを受けた分を補填させろとでもいわんばかりに。

 

コルちゃんを抱えているオスカーに、躍りかかり。

 

同時に、無数の巨大な棘を放ってきた。

 

あたしの方に飛んできた棘を、ジュリオさんが切り払い。

 

ハロルさんの方に飛んできた棘を、モニカが弾く。

 

レオンさんが躍り出ると、奴の真横から槍を突き刺す。コルちゃんの仕込み手甲の一撃が入ったからか、容易く貫通。

 

だがレオンさんは、即時で飛び退く。

 

手応えがなかったからだろう。

 

フリッツさんが人食いの前に飛び出ると。

 

剣を振るって、触手を薙ぎ払うが。

 

いつの間にか、ハンマーのように束ね上げた触手を振るい上げたデビルホーンが。

 

フリッツさんに降り下ろす。

 

かろうじて避けるフリッツさんだが。

 

しかし間髪容れず繰り出される横殴りの一撃の前には、為す術がなく。

 

吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられた。

 

そして逃げるオスカーと。背負ったコルちゃんに向けて。

 

見るからに強酸性の唾液をばらまき。

 

一口で二人をかみ砕けそうな巨大な口を開いて。

 

襲いかかる人食い。

 

あたしは苦笑い。

 

なるほど、これは今まで討伐隊が退治できないわけだ。

 

だが、その歴史も。

 

コレで終わりである。

 

オスカーが、想像以上に身軽に跳ぶ。

 

それを見て、多少の知能があれば、気付いただろう。

 

妙に身軽に動けると。

 

その通りだ。

 

そして、やはり知能を備えていた人食いは。

 

さっと動きを止める。

 

その時には、瀕死の筈のコルちゃんが、オスカーの背中にはいない。

 

更に言えば。

 

あたしも、元の位置にはいない。

 

強烈なドロップキックを食らって、巨体が揺らいだのは次の瞬間。

 

本達に足場を作ってもらい。

 

更にグナーデリングで身体能力を倍加。

 

奴が動いているのを観察。重心が明らかに掛かっている位置を特定し。其処に叩き混んだのである。

 

ぐらりと、巨体が揺れる。

 

あたしに触手を降り下ろそうとする化け物は、見た筈だ。

 

至近に降り立ったコルちゃんが。

 

奴の口の中に。

 

クラフトと、フラムを、複数束ねたものを放り込むのを。

 

更にそれが、吸着するのを。

 

悲鳴を上げた化け物から、あたしとコルちゃんが全速力で離れる。

 

触手があたしの足を掴もうとするが。

 

無慈悲に踏み砕いた。

 

二人揃って、岩陰に飛び込むのと。

 

起爆は殆ど同時。

 

レオンさんの槍が。

 

二度目の大爆発の直撃を受けて。

 

奴の体からはじき出され。

 

空高く舞うのが、此処からも見えていた。

 

やがてそれは地面に突き刺さる。

 

何度も激しい爆発に晒され焼け焦げた地面に高い音が響く。

 

化け物の死を告げるかのように。

 

 

 

流石にこれだけの攻撃を食らってはひとたまりもない。

 

煤だらけのモニカが、肩を押さえながら、びっこを引いて此方に来る。彼女は、苦笑いしていた。

 

「追撃戦も考えたわよ」

 

「想像以上に手強かったね」

 

「まったく、もう少し余裕のある作戦を立てなさい」

 

手当を始める。

 

最も手傷が酷かったのはジュリオさんだ。

 

ジュリオさんは諸肌を脱いで座ると。薬による手当を受ける。その間にあたしは、周囲に飛び散った奴の肉片を集め。更に埋まっているスペアがないかも徹底的に確認していった。

 

種らしいものも埋まっていたので。

 

全て掘り出して、焼いておく。

 

また、奴の体内には、巨大な球体があった。

 

これはあの大爆発でも破損せず。

 

今でも凄まじい魔力を放っている。

 

これは何だ。

 

プラフタが見に来て、そして教えてくれる。

 

「これは、深核と呼ばれるものです」

 

「何それ」

 

「主に強力な生物……ドラゴンに近い力を持つような生物。 それも、極めて強力な負の力を身に蓄えたネームドの体内に出来るようなものですね。 小ぶりではありますが、非常に強力な素材として活用できるでしょう」

 

「……つまり此奴は、ドラゴンに近い力を持っていた、という事だね」

 

プラフタは頷いた。

 

そうか。

 

ならば、もう少し力を付ければ。

 

ドラゴンを倒す事も可能になるだろう。

 

ドラゴンは、錬金術における重要な素材の塊だとも聞いている。勿論その戦闘力は、単独で街を滅ぼす程だが。

 

とにかくあたしは。

 

手傷を無視して辺りを調べ。

 

奴の残骸や、残り香がないかを徹底的に調べ。

 

焼いておく。

 

変質した寄生植物だ。

 

簡単に子孫を残せるとは思えないが、それでも念のため、である。

 

なお、喰われた人の遺物らしいものは見当たらない。

 

あの口だ。

 

丸ごと全部喰ってしまって。

 

そしてあの強烈な酸で。

 

何も残さず消滅させてしまっていたのだろう。

 

それであれば仕方が無い。

 

奴の死体を集め、燃やしながら。

 

あたしは黙祷した。

 

なお、周囲にいた猛獣どもは。

 

最初のあたしの空爆で逃げ散るか、もろに巻き込まれて死んだ。

 

今も遠くから伺っているが。

 

フリッツさんとレオンさんが目を光らせているので。

 

仕掛ける隙が無い様子だ。

 

モニカに呼ばれる。

 

「手当するわよ」

 

「その前に、あれも片付けておこうか」

 

「……そうね。 放置は出来ないわね」

 

まだ爆弾は持ってきている。

 

猛獣といっても、所詮は化け物の庇護を求めて寄り集まったような雑魚の群れ。

 

あたしは容赦なくうに袋を放り投げ。

 

広域を一気に薙ぎ払い。

 

焼け野原にした。

 

もうこれは無理だと判断したのか、逃げようとしたのもいるが。

 

それはハロルさんが、長身銃で背後から狙い撃つ。

 

いずれにしても、一匹も残さない。

 

どいつもこいつも人間の味を覚えていただろうし。

 

生かしておく訳にはいかないのだ。

 

動く者は、間もなく消えた。

 

血の臭いが濃い。

 

だが、此処に。

 

しばらく、死臭が漂うことはないだろう。

 

あたしも腰を下ろすと。

 

モニカの手当を受ける。

 

モニカは、目を伏せた。

 

「つくづく錬金術は凄まじいわね。 プラフタさん、貴方は全盛期にはアレより強いのを何度も倒していたのでしょう?」

 

「そうですね。 ですが、私が生きていた時代には……妙な話だと思われるかも知れませんが、ネームドはこれほど多くもなく、強くもなかった気がするのです」

 

「え?」

 

「ドラゴンや邪神については、話を聞く限り弱体化しているとは思えません。 何か、理由があるのかも知れませんね」

 

手当を終える。

 

コルちゃんが、出来るだけ早く戻りたいと言う。

 

ならば。死体の処理を急ぐしかないか。

 

奴の死体は既に燃やし尽くし。

 

周囲も調べて、地面の下に変な魔力がないかも確認。もしも奴の種が隠されていたとしても。

 

強力な魔力がなければ、あんなネームドには育たないだろう。

 

放置して構わない。

 

これに関しては、プラフタも考えが正しいと言ってくれた。

 

フリッツさんとジュリオさんと協力し。

 

倒した獣の肉と毛皮を処置していく。

 

大物はいなかったので、それこそ流れ作業だ。

 

その間、モニカとレオンさんは周囲を見張り。

 

ハロルさんはオスカーと組んで辺りを調べてきて。

 

コルちゃんは、自分用のメモで、収穫物をリストアップしていた。

 

こんな荒野でも、

 

小さな植物は生えている。

 

オスカーはそれらに話を聞き。

 

そして戻ってきた。

 

「ソフィー。 植物たちも、あの戦いは見ていたらしいぜ。 凄かったって褒めてたよ」

 

「それはありがとう。 それだけ?」

 

「いいや。 もうああなるとどうにもならないらしいし、死なせてあげてくれてありがとうとも言っていた」

 

「……」

 

ああなると、か。

 

確かにあれが、寄生植物としての本来の姿だとは思えない。

 

そしてプラフタの言葉も気になる。

 

昔のネームドは。

 

これほど強くなかった。

 

だとすると。

 

何だか、嫌な予感が加速する。この世界、現在進行形で、とんでも無い事が起こっているのではあるまいか。

 

処置完了。

 

完全に倒壊した宮殿を後にする。

 

近隣を脅かしていたネームドは、これでまた減った。

 

残りも容赦なく潰して行くとして。

 

まずは、東の街が、一段落できるようにしなければならない。

 

やるべきことは。

 

まだまだたくさん残っている。

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