暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
匪賊にとっては恐怖の象徴であっても。
多くの人々には、希望の光なのです。
それがどれだけ狂気に満ちた光でも。
実際にその光に救われた人が、大勢いるのです。
東の街に凱旋。
ネームド、デビルホーンを屠ったと聞くと。ミゲルさんは大喜びしてくれた。
いや、これは無理も無い。
ロックにさえ蹂躙されかけたこの街である。
彼奴よりも明らかに格上だったデビルホーンを葬ったのだ。
更に言えば、残りのネームドは、どちらかと言えばキルヘン=ベルに近い位置にいる。少なくとも、東の街の敵は、当面飢餓だけになる。勿論匪賊対策も考えなければいけないが、連中の戦闘力はネームドとは比較にもならないほど低い。あたしが作った爆弾で対策は充分にできる。
それだけでも、どれだけプレッシャーが減るか。
宿は粗末なものしかないが。
戻って一日はゆっくり休む事にする。
その間、何人かが来て。
あたしは薬を出して、対応をする事になった。
どんな病気も治るほど、流石に万能の薬は作る事が出来ないが。
側にプラフタがいるので。
どういう症状で。
何をすれば治る、というのはすぐに特定出来た。
それだけでも、治療法は大体見当がつく。
手当をし。
そして頭を下げて帰って行く街の人達を見送る。
あたしは。
そもそも、こういった治療だけでも。才能がなくても出来るようになれば、ずっと違うだろうにと。
思ってしまうのだが。
その怒りは。
今、ぶつけようがない。
不機嫌なまま寝床に横になっていると。
プラフタは言う。
「ソフィー。 不機嫌なようですが」
「いつもの理由だよ」
「そうですか……」
「ねえ、プラフタ。 さっきのプラフタも、凄く機械的に対応していたように思えたんだけれど」
黙り込むプラフタ。
別にいじわるをするつもりはなかったのだけれども、これは地雷を踏んだかも知れない。
プラフタとの関係は有益だ。もしも怒らせたのなら、関係修復を考えないといけないか。そう思い、憂鬱になるあたしだが。
だが、しばしして。
プラフタは。悔しそうに言った。
「記憶はまだ曖昧で、朧な部分も多いです。 ですが、今の言葉が、何か心に刺さったのは事実です。 私は誰かを治療できなかったのか、それとも手遅れになるまで気づけなかったのか……分かりません」
「そう。 プラフタでも、そんな事があったんだね」
「私が万能だったら、どれだけ……」
やはり記憶が不完全なのだろう。
プラフタは苦しんでいるようだが。
理由は分からない。
本人にも分からないのだ。
あたしに分かるはずもなかった。
いずれにしても、外で空気を吸ってくると言って、プラフタは出ていったが。本がどう空気を吸うのかはよく分からない。まあ、気分的な問題なのだろう。外の空気に触れると、気分転換くらいにはなるのかも知れない。
あたしは寝ることにする。
あいにくだが、どちらかというとあたしは精神が壊れている。
それもいわゆるサイコパスの方向に、である。
プラフタも普通の人間とは精神構造が違っている所があるが、それでも周囲と協調は出来るタイプだ。
あたしの場合は、致命的な所から壊れているので、いつ爆発するか分からないし。自分でも最悪の場合は制御出来ない。怒りたくて怒っているわけでもない。相手に悪気がないことが分かっていようが、関係無い。そういうものなのだ。
だからプラフタの助けになる事が出来るのは、物理的な意味で、だ。
精神的な意味でプラフタに寄り添えるのは、モニカとか、まともな奴だろう。ただ、あれは正直な話。
相当ヘビイな経験をしている筈だ。
寄り添うつもりが、一緒に地獄の底まで引きずり下ろされなければ良いけれど。
あくびをして。
そのまま寝る。
朝には、プラフタは戻ってきていた。
朝日がまぶしい。
顔を洗い。
着替えると。
外に出て、軽くストレッチをする。
そのまま、オスカーを見に行く。
案の定。あたしより早く起きていたオスカーは、もう緑化作業を始めていた。
せっせと全自動荷車を使って川の水を汲み。
植物の世話をし。
土地を耕している。
手伝おうかと聞いてみると。
あの辺りを耕してくれと言われたので、その通りにする。
土を耕して、空気を入れ。
そして、満足する。
既に乾いた土地には、充分な魔力が通り始めている。これならば、すぐにでも植物が繁茂するだろう。
勿論、根付くまでは世話をしなければならないが。
「ちょっと苗が足りないなあ」
「キルヘン=ベルに取りに戻る?」
「いや、おいらは此処を離れられない。 今が一番大事な時期なんだ。 植物の専門家というと、かあちゃんか。 ちょっと頼んで、幾つか苗を貰ってきてくれると嬉しいな」
「いいよ。 それくらいなら」
どのみち、行き来はするつもりだったのだ。
それに、オスカーが言ったのは、その辺の雑草の苗では無い。森の中心になる木や、森の初期段階を作るために必要な低木のものだ。その辺の荒れ地に生えている苗では駄目だし、当然専門知識もいる。
ジュリオさんとモニカに声を掛けて、帰り道の護衛を頼む。アトリエに戻るまで、少し急ぎで三日。
デビルホーンを殺して回収した素材をコンテナに入れ。
薬や爆弾を補充。
更に、オスカーに貰ったメモ通りに、八百屋で苗を貰い。
中間報告をホルストさんに実施。
少し忙しいけれど、まあこれくらいはどうということもない。ホルストさんは、デビルホーンを仕留めたという話をすると。喜んでくれた。
「人間ばかり好んで捕食するあの化け物を、良く倒してくれましたね。 この近辺では、恐らくノーライフキングを除くと最強のネームドだった筈です。 これで、かなり安全度が上がりましたよ」
果たしてそうだろうか。
だが、それは敢えて口にしない。
いずれにしても、報奨金を受け取る。
これでかなり生活が楽になる。
実は、此処に戻る途中、商人の隊列を追い越した。以前より商人が来るペースが上がっているらしい。
そうなってくると、もう少し納品しておいた方がいいか。
東の街にとんぼ返りする前に、コンテナに在庫として残しておいた爆弾と薬類を、全てホルストさんに渡しておく。
とりあえず、現状は手元に置いていても使い路がないし。
それならば、キルヘン=ベルの外貨獲得手段にした方が良い。
物資もこれで更に簡単に入手できるはずで。
現時点では、キルヘン=ベルが東の街のような惨状になる未来は見えない。
というよりも。
今回の件で確信したが。
しばらくは、更にキルヘン=ベルにネームドが集まることになるだろう。
此奴らを叩き潰しつつ。
ノーライフキングも滅ぼす。
つまり、である。
毎度毎度、あんな苦戦をしているわけにはいかない。
そろそろ、生半可なネームド程度なら。
苦労せず、蹴散らせる程度の実力は、身につけておかなければならない筈だ。
すぐにキルヘン=ベルを出る。
振り返ると。
街の周囲の畑や森が。
以前の倍に拡がっているのが、良く実感できた。
新しく作っている市街地も、順調に建物が増えていて。
きちんとお金も回っている。
この様子なら、ドロップアウトして匪賊になる者もいないだろう。
東の街に苗を持って移動すると。
其処も、かなり緑が目に見えて増えていた。
数日でも、植物は成長するものだ。
特に雑草に関しては、かなり成長が早い。オスカーはどこで捕まえてきたのか、もう地面に虫を入れ始めているようだった。
「苗持ってきたよ」
「おう、ありがとう。 後はおいらがやっておくよ」
「じゃ、何かあったら声を掛けて」
流石に、とんぼ返りしてきたあたしに、そのまま働けという気にはなれなかったのだろう。
ミゲルさんが来て、オスカーと何か話している。なお、畑の方は、少しずつ街の人間が耕し始めているようだ。
彼らにしても、畑仕事は素人では無い。
気付いたのだろう。土地が蘇っていることを。
ひょろひょろの作物しかなかった畑が、明らかに活力を取り戻している。
ミゲルさんがこっちに来た。また頭を下げられる。
「ソフィー殿。 毎度すまないな」
「いいえ。 此方としては、出来る事を手伝うだけですよ」
「この恩は必ず返すつもりだ。 困ったときには声を掛けて欲しい」
「ありがとうございます」
ミゲルさんは何というか、生真面目すぎて苦労するタイプだ。あたしが化け物同然の精神を心の奥底に宿していて。
いつ炸裂してもおかしくない爆弾だとは、想像も出来ないのかも知れない。
この人は私財をはたいて食糧に変えて、難民に渡したという話だけれども。
或いは余力がある世界だったら。
民のために暴動とかを起こしたりしていたのかも知れない。
あたしが、あくまでキルヘン=ベルの長期戦略のためにこの街を豊かにしているのであって。
この街の人達の幸せとかを願っているわけではないと、この人は理解していないだろう。
勿論積極的に不幸にするつもりもない。
ただし、誰も彼もを幸せにしようかと思うわけでもない。
匪賊は躊躇無く消毒するし。
あたしの荷物を盗もうとしたら、殴るくらいじゃ済まさない。
もっとも、ロックの襲撃からこの街を救い。
今も、現在進行形でこの街を救っているあたしに非礼を働くアホは流石にこの街にはいないが。
街を見回り、問題のある箇所を確認。
防護壁が壊れていたので、モニカに声を掛けて、修復する。
グナーデリングを着けて腕力が倍増しになっているモニカである。石材もひょいひょい運んでくれるので、簡単に修理ができた。ただ、細かい部分は削ったりしなければならないので、あたしがやる。
全体的に手直しがいると感じたが。
多分これ、直すとなると全部やらないと無理だろう。
その辺りは、食糧問題が解決してから、ミゲルさんにやってもらうしかない。
防護壁の上に上がって、周囲を確認。
問題のある場所をチェックしていく。
以前ロックとの戦いをした時、防護壁については地図を作ったので、それを元に問題箇所を作成。
ミゲルさんに手渡しておいた。
更に、家も見て回る。簡単に直せる場所は、直しておく。
この辺りの文化では、基本的に煉瓦、石材、後は土壁が普通だ。木材も使う事があるが、それはどちらかというと高級な家になる。
キルヘン=ベルは、おばあちゃんのおかげで木材を使った家も存在している、という状態で。
この街は、土壁の家が珍しくもない。
この場で錬金術は出来ないが。
軽い土木作業だったら簡単にこなせるので、家の人に声を掛け、必要があったら修理をしておく。
これらも全て恩を売るためだ。
後は、足りていない薬などを幾らか譲っておく。倉庫に行くと、コルちゃんが在庫をチェックし終えていた。
結果は、悲惨の一言だった。
「装備類は駄目ですね。 匪賊と同レベルの装備しか出来ない状態です」
「ああ、この街の様子ではそうだろうね。 爆弾や薬は?」
「この間のロック襲撃で爆弾類はほぼ枯渇。 支援物資で渡した分しか残っていないのです。 保存食に関しても、これを見てください」
コルちゃんが出してきたのは、一応カウントはされているらしいが。
口にはしたくないような、何年前のものか分からない燻製。
この間ロックを仕留めて、その肉を街の人達に振る舞ったが。
それも大半を既に食べ尽くしてしまった様子だ。
「これは、とてもではありませんが、数字通りには帳簿を読めないのです」
「うーん。 とりあえず、全チェックをお願い出来るかな」
「今やっているのです。 八割ほどは終わっています。 それで残り二割を好意的に見積もっても、食糧の備蓄は三割方駄目になっているのです」
「……」
腕組みして考え込んでしまう。
これはひょっとして。
ロック襲撃の際に救援依頼を受けたけれど。
あの時には既に、色々な意味で手遅れだったのではあるまいか。
ミゲルさんも、役人としてプライドがあるだろう。
いや、状況から考えて。
倉庫を細かくチェックできる時間があったとはとても思えない。
せめて数字に強いホムが一人でも常駐していて。ミゲルさんの補佐役でもしていれば、話は違ったのだろうが。
「穀物類は」
「幸い虫の類は沸いていないのです。 ただかなり古い穀物が目立つのです」
「仕方が無い。 ちょっと食糧調達に行くか……」
「お願いしますのです」
肉の味は落ちるが。
近場には、幾らでも猛獣がいる。
フリッツさんに状況を説明。
ミゲルさんも呼んで、事態について説明した。
倉庫のチェックを帳簿上でしか出来ていなかったミゲルさんは。やはりと、悔しそうに呟く。
帳簿上の数字と。
倉庫内の実態が。
一致しないケースはよくあるのだ。
キルヘン=ベルでも、それは同じで。
おばあちゃんが彼処まで発展させる前は、ほぼ似たような有様だったらしい。
基本的にラスティンでは、役人を街に常駐させない。錬金術師が発展させた場合は特にその傾向が強い。或いは住民の要望がない限りは役人を常駐させない形態を取っているのだけれども。
これは、各地の街の自治を重視するというよりも。そもそも税など取り立てている余裕が無いからだ。
特に辺境になると、税収よりも、軍隊を動かす方が金が掛かってしまう。
そのため、査察のための人間を派遣するのに止めている。
不思議な事に、これで上手く行ってしまっているのだが。
理由はよく分からない。
ただ、理由としては。
各地の都市が、独立国家を作ろうにも、無理だという事情もあるのだろう。
襲い来る匪賊や、ネームド、ドラゴン、それに邪神。
最悪の場合は、ラスティンに軍の支援を要請しなければならないわけで。
それでも対応出来ない場合は無理。
こんな状態で、独立国家なんぞ作っても、文字通り砂上の楼閣になる。
それに不思議な事に。
この査察の人間が、非常にまともだと言うこともあって。
それぞれの街が、賄賂の要求などに泣かされたという話は、少なくとも聞いた事がないと。ホルストさんに聞いた事がある。又聞きだが、嘘を言う事は考えにくい。
何かが、裏にあるのだろう。
だが、それが故に。
各地の都市では、顔役に真面目で数字に強いホムを加入させるか。それとも余程しっかりしている人間が管理しない限り。
こういうことが起きてしまうのだ。
ミゲルさんは真面目だが。明らかにこの街で起きたことは、彼のキャパを完全に超えてしまっている。
責めるのはあまりにも無体である。
「ソフィー。 周辺で獣狩りをするか」
「そうですね。 組織的にやりましょう。 それと、駄目になってしまっている穀物と干し肉は、此方で引き取ります」
「ソフィー殿、そのようなものをどうなさる」
「錬金術で変質させて、肥料にします。 土地の活性剤だけでは、周辺の土地を回復させきれるか分かりませんので」
ないものをあると言っても仕方が無い。
幸い、畑が復活したことで、食糧源は確保できている状態だ。数ヶ月ほど頑張れば、黄金の麦穂が頭を垂れる。
噂に聞く風車などがあれば更に楽になるのだけれど。
あれはラスティンでも首都に近い、しかも公認錬金術師がいる場所にしかないとか聞いている。
あたしも研究してみるとしても。
まだ作るのは先の話だ。
フリッツさんが提案。
「二手に分かれよう。 私はこの街の自警団員を連れて、周辺の獣を狩る。 この間の一件で、匪賊はあらかた駆除したが、まだこの街周辺にはかなりの数の猛獣が屯しているからな。 それらを片付けると同時に、食糧に変える」
「それなら、あたしは引き取った古い食材を錬金術で肥料に変えてきます」
「ソフィー、交渉を私とコルネリア君でやる。 少し待っていてくれるか」
「分かりました。 交渉の間、代わりにあたしが自警団と一緒に獣を狩ってきますよ」
フリッツさんは頷いた。
そして、追加で説明してくれる。
フリッツさんがいうには。
流石にただ働きが過ぎると問題になるという事で。古い食物を肥料に変える際に、その内何割かをキルヘン=ベルで引き取る、という事にしたいらしい。
なるほど、それも道理か。
こういう所は、流石にお賃金を貰って、傭兵をしているだけはある。ホルストさんも、この辺りの手腕を見込んで、彼に大金を払っているのだろう。
もし世界にもっと人間がいて。
食べるものに余裕があったら。
或いは、独立して王様とかになったりするタイプかも知れない。
だが今の時代はそんな事をする余裕も意味もない。
だから、彼のような人間も、血なまぐさい地獄を周囲に作らなくて済むのだろう。
交渉はフリッツさんに任せて、あたしはコルちゃんを呼びに行く。
いずれにしても、多分半日くらいは空くことになるだろう。
二ヶ月を見込んでいたが。
この様子だと。
下手をすると、更に一ヶ月は。
この街とキルヘン=ベルを往復することになるかも知れない。
コルちゃんが、交渉を始めるのを横目に。
モニカに声を掛け。自警団員の半分ほどを集めて貰う。レオンさんとハロルさんにも来て貰う。
実は、この東の街でも。
自警団の規模は、十数名程度と。人口が一気に増える前のキルヘン=ベルとほぼ同規模。守りにフリッツさんとジュリオさんを残して。威力偵察がてら獣を狩りに行くくらいなら、半分を連れていっても大丈夫だろう。
プラフタにも来て貰う。
せっかくだから、周辺をどう開拓していくか、意見が聞きたい。
彼女はもっと悲惨な状況から。
街を豊かに開拓していった経験を持っているのだから。
自警団員の内、動けそうな面子を見繕って、すぐに出る。装備がかなり貧弱なのが気になるが。
彼らもこの過酷な荒野で生きてきたのだ。
半日程度の狩りで、音を上げるほどヤワでは無いだろう。
魔族はいないが。その代わり獣人族の割合はキルヘン=ベルよりも多い。
年老いて、引退間近のヒト族戦士が指揮を執っているようだが。彼に何かがあったらかなりまずい。
彼は魔術も使えるようだし、残って貰う。
皆の指揮はモニカに任せる。
あたしは、作った道具類の試験や、自分の力の確認をしっかりしておきたい。
街を出て、南を見ると。
低木や草がすくすくと育ち始めている。
元気がなく、荒野に雑草が生えているようだった畑も。
青みが増して、働いている者達も気合いが入っている様子だ。
荷車は二つ持ってきているので、これがいっぱいになるくらい収穫はしたいが、まあ半日だし、そこまでは流石に期待出来ないか。
穴場については、地元の人間の方が詳しいはずだ。
獣がいる場所に、案内して貰う。
見ると、かなり大きな猪がいる。
何か食べているが、鹿か何かだろう。
雑食の猪は、荒野でもかなり多くの数を見かける獣だ。草食動物にとっては脅威だが、キメラビーストなどの猛獣にはただのカモ。その代わり、繁殖力を武器にして、生態系でのニッチを占めている。
余程の素人でもない限り遅れは取らないが。
それでも、倒せれば多くの美味しい肉が手に入るのだ。
モニカが、事前に決めたハンドサインで指示。
さっと周囲に展開、とまではいかないが。それでも、ハロルさんが想定される退路に銃口を向け。レオンさんが別の退路を塞ぐ。
鶴翼に展開した自警団メンバー数人。
あたしは念のために砲撃準備。爆弾はもったいないので使わず済ませたい。
詠唱を終え、準備完了とハンドサイン。
頷くと、猛然とモニカが突貫。
気付いていたらしい猪が、顔を上げ。
俊敏に牙で抉ろうとするが。
それを残像を作ってかいくぐると。
モニカは既に、剣を鞘に収めていた。
頸動脈を切り裂かれた猪が、竿立ちになり。
倒れる。
身体能力が上がると言う事は。
早さも上がると言う事だ。
グナーデリングの身体能力強化が如何に凄まじいか。今の動きだけでも明らか。モニカも、ふうと嘆息して、額の汗を拭っていた。
身体能力を強化する分、集中力も消費するらしい。
すぐに持ってきていた枯れ木をくみ上げて。
レオンさんと自警団員で猪をつり上げ。
あたしが拡張肉体を頭上に飛ばし、周囲の警戒を行いながら。猪を捌き始める。
「流石」
「このグナーデリング、凄いわね。 自分の力だとは思えないわ。 猪も、バターみたいに斬れた」
「猪程度が相手なら、モニカならそれくらいして貰わないとね」
「……そうね」
此処にいるメンバー全員を合計したくらいの重さはある猪である。なかなかの良い獲物だ。
捌いて肉に変え、燻製にして行く。
腹が減っているメンバーもいるようなので、その場で焼いてある程度は食べてしまう。肉の解体が終わると、すぐに次の狩りに。今度は鹿が取れたが。囲むまでもなく、ハロルさんが銃撃して一発。獲物の頭が吹っ飛んでしまったので、ハロルさんが苦々しげに口元を歪めた。
「ネームド対策に火力を上げたんだが、狩りにはオーバーキル過ぎるな」
「まあまあ、肉そのものは取れますし」
「……そうだな」
その調子で、丁度半日で、大小八頭の獣を仕留めて、街へと戻る。
街にはまだ食糧が充分に行き渡っていない。先に仕留めたばかりの獣は、皆の活力になるだろう。
丁度交渉と文書締結が終わったようなので、後はフリッツさんに引き継いで。あたしは駄目になった食糧を引き取る。
かなりの分量があるから、何往復かしないといけない。
此処からは、食糧の引き取りと、道中の護衛はモニカとレオンさん、ハロルさんと先の自警団メンバーに任せ。
帰りに肥料化した分を、東の街に運んで貰う形で、ピストン輸送開始だ。
プラフタに帰路で意見も聞くが。
それでも問題ないだろう、という応えが帰ってきた。
「古くはなっていますが、痛んではいない分だけマシです。 肥料としては、そこそこ良く仕上がるでしょう」
「それより、この街の復興についての意見を聞かせてくれる?」
「フリッツはよくやっていますし、ミゲルは責任感もあります。 後は、おかしな人間がいつの間にか復興の主導を握るような事態だけを避ければ問題は無いでしょう」
「……ふうん?」
アトリエに到着。
肥料の作成にすぐに着手する。その間、モニカ達には次の物資を輸送して貰う。モニカ達が往復して戻ってくる頃には、作業は終わっているだろう。
錬金術としてはそれほど難しくないとプラフタは言う。
頷くと、あたしは。
結局少し長引くかも知れないなと思いつつ。
まずは釜を蒸留水で洗う所から始めた。