暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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キルヘンベル周辺の荒野に潜む複数の脅威。
確実に力を増しているソフィーは、それらの排除に向けて本格的に動きます。


魂の形
序、紡ぐ糸


本は貴重品だ。

 

この街キルヘン=ベルは、たまたまおばあちゃんが発展させたから本がある。だがそも、紙そのものが稀少なのである。辺境の街で、これほど本がある街は。あまり多くないどころか、例外中の例外だろう。

 

あたしはエリーゼさんの所を訪れると。

 

在庫の中に、魂を扱っているものが無いか確認した。

 

魔術師の間でも、魂については意見が分かれているのである。

 

いわゆる霊と魂を別と考える説。

 

魂にも位階があって、それぞれ違っているとする説。

 

そも死んだ後魂はどうなるのか。

 

神の下に行くのか。

 

転生するのか。

 

その仕組みはどうなっているのか。

 

いずれもが、諸説あって、結局分かっていない。それが実情なのである。

 

故に、今回。

 

プラフタの魂を移動させる、という作業に関して。

 

あたしは参考資料を必要とした。

 

だからエリーゼさんの所に、魂を扱っている本を見に来たのだけれども。

 

彼女が出してきたのは、数冊の本だけだった。

 

それも決して分厚いとは言えない。

 

「これだけですか?」

 

「プラフタさんの事を疑うつもりはないのだけれど、そもそも魂というのは諸説あるのは貴方も知っているわよね、ソフィー」

 

「はあ、まあ」

 

「分かっていない学問なの。 要するに」

 

ああ、そういう事か。

 

エリーゼさんの言いたいことは分かった。

 

要するに彼女は、これは言った者勝ちの世界である、と突き放しているのだ。

 

確かに、神学もそうだが。

 

世界に満ちている邪神がどういう存在なのかは、厳密に言うと分かっていない。世界の要素を構成する存在だという説が主流だし、あたしもそうだろうとは思っている。

 

だとすると、どうして奴らは。

 

邪神なのか。

 

創造神についてもそうだ。

 

創造神が昼寝しているところを見た、という話を聞いたことがある。フリッツさん経由の情報だが。

 

実はあれから色々調べて見たのだが。

 

他にも目撃例が各地にあるらしいのだ。

 

創造神が複数いるとは思えないし。

 

或いは端末か何かなのかも知れないが。

 

いずれにしても、はっきりしているのは。

 

「分からない」という事だ。

 

ざっと本に目を通してみるが。

 

案の定である。

 

エリーゼさんが、見るなら自己責任にしろという目をしていたが。正にその通りであった。

 

どれもこれもが、マイ理論を好き勝手に展開している本で。

 

頭がくらくらしてくる。

 

全てを返却すると。

 

エリーゼさんは、嘆息した。

 

「本を愛している私でも、全てを肯定することは出来ないわ。 この手の本は、特にそう」

 

「こうも論理に欠けていると、確かに」

 

「いや、それだけではないの。 悪意に満ちているから」

 

「?」

 

エリーゼさんは言う。

 

今でこそほぼ存在しないが。

 

昔は教会の求心力を利用して、街などで好き勝手する腐れ坊主があふれかえっていたという。

 

神の名の下に幼児に暴虐を働き。

 

或いは子供を売り買いし。

 

酷い場合には解体して喰らっていた。

 

今でこそ、各地の教会は、ある程度自浄作用が働いているが。

 

それも理由はよく分かっていなくて。

 

各地の腐れ坊主を片っ端から何者かが粛正したからではないか、という説まであるとか。

 

「これらの本は、ジャンクよ。 貴方の助けになるとは思えない」

 

「そのようですね。 お手数お掛けしました」

 

「……」

 

無駄な言葉を発する気は無いのか。

 

エリーゼさんは座り直すと、あたしを無言で見送った。

 

さて、本はだめか。

 

実のところ、プラフタに聞いてみても。

 

魂というものは、「存在している」事が分かっているだけで。

 

それ以上については、良く分からないと言う、頼りない答えが返ってきている。

 

そこでもう少し詳しく、と思ったのだが。

 

それぞれ好き勝手なことを妄想に基づいて書いているような本なんて、それこそ娯楽として笑い飛ばす位にしか役に立たない。

 

仕方が無い。

 

一度戻るとしよう。

 

東の街の緑化計画は完全に予定を完遂。もうオスカーも戻ってきている。更に東の街は自給体制が回復し、援助は必要ない状態になった。畑の収穫はまだ先だが、それも結果だけ見に行けば良い。

 

これであたしの方も、色々と自分の作業に専念できると思ったのだが。

 

プラフタの記憶回復と。

 

肉体回復のうち。

 

後者がいきなり躓いた形になる。

 

魂について詳しく分からない限り。

 

それを定着させる、という事は当然ながら不可能に近い。

 

アトリエの本も調べて見たのだけれど。

 

魂については直接扱う道具もなく。

 

何となく、魂に干渉して操作しているらしい、という道具は幾つかあったが。

 

それでは頼りなさ過ぎる。

 

何しろこれは、文字通り命に関わる問題だ。

 

プラフタという貴重な存在を失うと。

 

今あたしは、錬金術師として頓挫してしまう。

 

アトリエに戻ると。

 

モニカが掃除をしていた。

 

窓は開けている。

 

プラフタもいるので、許可を取っての事だろう。

 

アトリエのものの場所を全て把握しているモニカだ。勝手な事をする可能性はないので、好きにさせておく。

 

「肥料の臭いがまだ取れないわね」

 

「仕方が無いよ。 でも、おかげで畑はとても豊かになった」

 

「確かに、ね」

 

あの肥料は、キルヘン=ベルの畑にも使っている。みるみる作物が育つというので評判だ。

 

オスカーも、植物たちがみな喜んでいる、と言っていたし。

 

それだけ植物にとっての良い栄養に満ちているのだろう。

 

人間と植物で、必要になる栄養が同じかと言えば、それは否だ。

 

魔族とヒト族で好む食物が違うように。

 

動物と植物では。

 

好む食物が違うのは当然である。

 

「プラフタ、良い資料無かったよ」

 

「そうでしょうね。 大きめの図書館なら一冊くらいはまともな本があるかも知れませんが……」

 

「大きめの図書館と言えば、ラスティンの首都近郊の山中に、大きいのがあるらしいわね」

 

「山中?」

 

プラフタがモニカに聞き返しているという事は。

 

少なくとも、彼女が存命の時代には、なかったという事なのだろう。

 

あたしも初耳だ。

 

「何でも、極めて峻険な山奥にある図書館らしくて。 ラスティンの知識の全てがある、と言われるほど巨大な図書館らしいわ」

 

「なんでそんなものを山奥に!?」

 

「恐らくですが、何かの遺跡を利用したのだと思います。 もしくは錬金術師の誰かが、物好きにも山奥に本を集めたか……」

 

「それじゃあ誰もが読めないよ」

 

呆れ果てたあたしが苦笑い。

 

いずれにしても、モニカの掃除はまだ時間が掛かる。

 

一旦外に出ると。

 

プラフタは、何か思い出せるかも知れないと言って、街の側の森に。

 

彼処は獣も出ないし、霊も出ない。

 

危険は無いだろう。

 

あたしは切り口を変えて。

 

他の人に話を聞いて回ることにする。

 

まず話を聞きに行ったのは。

 

以前、モニカの設計図を作る時に、協力して貰ったレオンさんだ。

 

彼女は今日もちまちまと服を作っていた。

 

豪華そうな服も売っている様子だが。

 

基本は、逃れてきた難民達用のもので。

 

質素ながら、実用的で。

 

肌触りも良く。

 

皆満足している様子だ。

 

此処に逃げるのを助けたのはあたしだから。難民達は皆あたしをみると、頭を下げて行く。

 

此方も返礼して見送る。

 

レオンさんは、ため息をついた。

 

「昔はシルクなんかの高級生地を使って、完全に趣味の世界の服を作って悦に入っていたものなのだけれど。 昔のあたしが、今の実用一辺倒の服を作っている様子を見たら、なんというかしらね」

 

「昔の自分と今の自分で対立しても、それはそれで面白いのでは?」

 

「そうかも知れないわね」

 

シルクか。

 

この辺には殆ど出回らない生地だ。

 

話によると、相当な高値がつくらしい。

 

レオンさんは、前々から思っていたが。

 

やはり良家の子女なのだろう。

 

一万以上の人間が暮らす街は、夜も灯りが絶えないと聞いている。

 

魔族がそれなりの数生活しているというのもあるのだろうが。

 

夜も働いている人間が多い、と言う単純な事実もある。

 

人間が増えると、夜にも働く必要が生じてくる。

 

軍などの警備関係者もそうだし。

 

体を売る人もいる。

 

夜にも仕事をして、商売をする者もいるそうで。

 

キルヘン=ベルのような辺境とは、何から何までもが違う、という事だ。

 

「何か参考になること知りませんか? 魂について」

 

「流石に本職の錬金術師でも分からない事は、私にも分からないわ」

 

「うーん、そうですよねえ」

 

「ただ、参考になるかは分からないけれど。 私達の業界では、とても良く出来た服には魂が宿る、という事をいうのよ。 これは何も、服だけに限った話ではないのだけれども」

 

ふむ。

 

確かにそういう話は聞く。

 

というよりも、そもそも全自動で動く道具類に関しては。

 

最初から、そういった事を想定している。

 

ある意味擬似的な魂を与えているとも言える道具類は。

 

ものの意思を操作して。

 

ある程度の自主判断力を持たせているからだ。

 

それは、「とても良く出来た」ものと。

 

根本的には同じなのではあるまいか。

 

レオンさんに礼を言って。

 

その場を離れる。

 

今度はハロルさんの所に行く。

 

ハロルさんは、ずっと遠征続きだからという理由で、ここ数日店を閉じていたが。渋々という感じで店を開けていた。

 

お客さんはいない。

 

というか、今丁度、ロジーさんとすれ違った。

 

「何だ、せっかくダラダラ出来ると思ったのに」

 

「ロジーさんと何を話していたの?」

 

「大した事じゃあない。 ハイベルクの旦那が、自分の剣に銘を彫って欲しい、とか言っているらしくてな」

 

「銘、ねえ」

 

剣に銘。

 

余程裕福な人でもない限り、そういう事はあまり考えない。

 

というのも、剣は消耗品だからである。

 

どんなに上手に使っても、刃こぼれする。

 

そしていずれは折れる。

 

長く戦いを続けた人ほど、剣を消耗品扱いする傾向が強い。

 

剣の達人になると、多少は剣をもたせる事も出来るけれど。

 

それもあくまで多少だ。

 

この世界では。

 

剣を飾っておくような余裕など、ありはしないのである。

 

故に剣に銘など彫っても、折れてしまえばそれまで。

 

そして剣は。

 

複雑に鉱物を折り返してハンマーで叩き。

 

幾重にも重なった層が、強さを引き出す。

 

要するに、折れてしまった剣は、そのままつなげたりすることは出来ない。一度全部溶かして、作り直すしかない。

 

剣とは。

 

そういうものなのだ。

 

「街の裕福さの象徴として、もう折れそうな剣に銘を彫り、残しておきたいのだそうだ」

 

「それって」

 

「要するに、もう引退するつもりなんだろう。 あの旦那には確か子供が三人くらいいたよな」

 

「いるけれど、戦士としては皆あまり出来が良くないよ」

 

それでだろうと、ハロルさんは紋章の一覧らしいのをしまいながらぼやく。

 

ああ、なるほど。

 

つまり、自分が死んだ後。

 

あまり出来が良くない子孫達が、金に困ったとき。

 

多少なりと値段がつくように。

 

自分と一緒に戦場を駆けた剣に。

 

銘を彫っておこう、というわけだ。

 

銘がつけば、或いは物好きがそれなりに高く買ってくれるかも知れない、というのだろう。

 

とはいっても、この荒野の世界。

 

剣は実用性を重視される。

 

そんな物好きがいるとしたら。

 

レオンさんが臭わせていたような。

 

大都市の金持ち一家とか。

 

そんな存在くらいだろうが。

 

「馬鹿馬鹿しい話だと思ってな」

 

相当に不機嫌そうなハロルさんだが。

 

あたしは苦笑い。

 

まあコレばっかりは仕方が無い。

 

「それでロジーさんは?」

 

「彼奴は仕事なら何でもやるって奴だからな。 ある意味柔軟で羨ましい考え方の持ち主だ」

 

「あれでいろんな街を回って仕事をしてきたみたいだからね」

 

「色男で仕事も出来るか。 嫌な話だ」

 

ハロルさんは不健康そうな事もあって。

 

あまり女子にもてるとは言い難い。

 

こういった時代。

 

まずもてるのは頑健か、優秀か。そのどちらかだ。

 

ハロルさんは、どうにも自分に強烈なコンプレックスを持っているらしくて。それはあたしの地雷と同じ。

 

機械技術者として、非常に優秀だった父親に比べて。

 

自分が無能だと思い込んでいるのが原因らしいが。

 

あたしからして見れば。

 

あれだけ銃をカスタマイズして、戦闘では的確な狙撃で確実に敵の隙を作ってくれる。それだけで充分だ。

 

「それで何だ。 俺の愚痴を聞きに来たわけでもないだろう」

 

「ああ、そうそう。 参考に聞きたいんだけれど、良く出来たものには魂が宿ると思う?」

 

「……また随分と抽象的な話だな」

 

「どう思う?」

 

ハロルさんは少し考え込んだ後に。

 

視線で時計を指す。

 

そもそもこんな小さな街だ。

 

時計なんてあまり売れない。

 

おばあちゃんが現役だった時代。仕事の時間を計るために、時計は売れていたらしいけれど。

 

あたしがやっと街を復興している今。

 

昔の時計を手直しするくらいしか、ハロルさんには仕事がないと聞いている。

 

「宿るだろうな」

 

「お、断言」

 

「錬金術でどう魂を扱っているかはわからないが、ホンモノの銘品には何というか、気品というかオーラというか、そういうものがある」

 

俺が作るものには。

 

それがどうしても出せない。

 

そう吐き捨てると。

 

ハロルさんは気まずそうに視線をそらした。

 

こうなると、ハロルさんは自分の世界に閉じこもってしまう。兄貴分として、あたしとモニカとオスカーを引き連れていた頃には。もう少し明るかったような気もするのだけれども。

 

このお店を継いでから。

 

色々と気むずかしくなってしまった。

 

でも、参考にはなった。

 

礼を言うと、今度はロジーさんの店に。

 

まともな本が手元にない以上。

 

できる限り。

 

本職の話は聞いておいた方が良い。

 

それだけだ。

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