暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、名持つもの

ノーライフキングの住まう洞窟付近に、多くのネームドと猛獣が集まっている。その報告を受けてからしばしして。

 

アトミナとメクレットは。

 

護衛を連れて、その場に赴いていた。

 

ノーライフキングを潰すつもりはない。

 

あれはソフィーのエサにする予定だからだ。

 

問題なのは、確認しておくべきことが出来たからだ。

 

キルヘン=ベルの方にネームドを以前何体か追いやった。

 

それらは全てソフィーのエサになったが。

 

それ以降も。

 

実は此方で手を出さなくても、どうやらキルヘン=ベルに向けて、ネームドが移動しているようなのである。

 

その様子を確認したいと考えていたのだが。

 

どうやら当たりらしい。

 

あれほど集まっていた猛獣とネームドは。

 

殆どが姿を消していた。

 

一部はノーライフキングの住処に入り込んだようだが。

 

それ以外は、縄張りを移したようである。

 

それだけではない。

 

此処から遙か東に存在を確認されている巨大陸魚、イサナシウスが移動を開始したという報告が入っている。

 

まっすぐ西に向かっている。

 

つまり、此方を目指している、という事だ。

 

イサナシウスが暴れていた近辺では、公認錬金術師が何度も討伐隊を編成して攻撃を行っていたが。

 

桁外れの防御力と巨体の前に討伐どころか身を守るのが手一杯で。

 

かといってライゼンベルグに救援を求めても、そんな戦力は無いから自力で何とかしろと突き放され。

 

右往左往している様子が、現地にいる深淵の者から二人に情報としてもたらされていた。

 

情けない話だが。

 

公認錬金術師は優秀でも。

 

万能では無い。

 

流石に弱めのドラゴン並みの実力を持つネームドになってくると。

 

その戦闘力は非常に高く。

 

倒せる人員は限られてくる。

 

アダレットでもネームドの討伐部隊が毎回大きな被害を出しているが。

 

ラスティンでもそれは同じで。

 

時には、首都を防衛するために、公認錬金術師複数を含む部隊が、多大な被害を出したりもしているのだ。

 

ましてやラスティンはどちらかと言えば文治国家の性質が強く。

 

アダレットのように、戦士の育成に力を入れていない。

 

その分錬金術師は精鋭だが。

 

錬金術師は数が少なすぎる。

 

更に言えば、ネームドの中には、実力が高い場合錬金術師を返り討ちにするような奴もいる。

 

少し前にソフィーが倒したデビルホーンや。

 

今話題になっているイサナシウスがそれで。

 

此奴らを本気で倒すつもりなら。

 

それこそ、ドラゴンスレイヤーとしての実績がある、一握りの精鋭錬金術師を動かさなければならない。

 

人間の戦力とは。

 

その程度のものなのだ。

 

それに、である。

 

邪神を散々倒して処理したせいか。

 

その力がネームドに拡散し。

 

ネームドがパワーアップしている節が見られる。

 

イフリータなどに話を聞くと。

 

明らかに500年前よりネームドが強いと言う。

 

昔は良かった、という類の言葉はあまり信用できないが。

 

逆に今の方が状況が厳しい、と言う言葉については、信頼しても良い。

 

ましてや直言で知られるイフリータがそう言うのである。

 

或いは、だが。

 

何かしらの作用が働いていて。

 

本来邪神が担当する人間への攻撃を。

 

ネームドが肩代わりしているのかも知れない。

 

ドラゴンは数も質も相変わらずなので。

 

この辺りは想像するしか無いが。

 

現場の視察は終わる。

 

護衛を連れたヒュペリオンと合流。

 

幾つかの話を聞いた後。

 

最近創造神が姿を見せたという場所に向かう。

 

その場所は、此処から遙かに東。通称、「世界樹」と呼ばれる木の麓だ。

 

世界樹は、その存在自体がよく分からない巨大樹木で。

 

この枯れ果てた世界において、珍しいというか。明らかに不自然すぎる巨大さを持つ植物である。

 

周辺は危険な猛獣の巣窟で。

 

その分強力な素材も入手できるが。

 

彷徨いている猛獣でさえ、生半可なネームド並の実力があり。

 

更には、この周辺には匪賊の一種がコロニーを作っている。

 

獣人族を中心とした集団で。

 

自然との生活を営むことを選んだ者達であり。

 

極めて排他的かつ攻撃的な性質を持つため。

 

ラスティンが裏側から接触し。

 

一部を傭兵として取り込んで。

 

戦闘で役立てている、という噂がある。

 

ラスティンの重役として潜り込ませている深淵の者でさえ真実だと断言できない事からして。

 

これは都市伝説にすぎないという説と。

 

最高機密だという説があるが。

 

いずれにしても調査が待たれる。

 

幾つかの、空間転移装置を通って。

 

世界樹の麓に。

 

此処は、非常に貴重な素材が大量に取れるため。

 

アトミナとメクレットにとっても、重要な場所なのである。

 

何より世界一緑が豊かとも言われていて。

 

世界の彼方此方にある、錬金術師が緑化した土地とは根本的に緑の濃さが違う。

 

地面も複雑でふしくれた巨大な根が、苔むして縦横無尽に走っていて。

 

彼方此方に、巨大な猛獣の姿が見て取れた。

 

護衛達が気を引き締めるのを横目に。

 

まっすぐ進む。

 

多少の悪路だが。

 

これくらいはどうと言うことも無い。

 

此処には、ごくごくたまにだが。

 

創造神が姿を見せることが知られている。

 

他にも世界の何カ所かに、創造神がたまに姿を見せる場所がある。これらは確認されているのだが。

 

今、都合が良い事に。

 

その「たまに」の時期である。

 

途中、何度か猛獣が威嚇してきたが。

 

連れてきているのは、深淵の者を支える精鋭中の精鋭達である。

 

彼らがひと睨みするだけで逃げていく。

 

「今回の目的は、やはり創造神の討伐ですか」

 

「いや、違うわよ」

 

「確認することがあるんだ」

 

小首をかしげるヒュペリオンに。

 

軽く説明をする。

 

簡単に言うと。

 

今回するのは、創造神が「本体かどうか」調べる事だ。

 

もしも本体だったら、それはそれで構わない。

 

今回揃えてきた戦力でぶちのめし。

 

捕縛して、連れていくだけだ。

 

今回は、それが可能な戦力を連れてきている。

 

更にその気になれば、相手を弱体化させる空間転移を実施して、周囲の空間を書き換えた上で。

 

魔王をぶつける事も出来る。

 

以前雷神ファルギオルを滅ぼしたときに使った手だが。

 

当然創造神にも使える筈だ。

 

まあ無理なら逃げるだけだが。

 

それに、前にイフリータが、此処にいる創造神に挑んで負けたが、相手は退屈だと言って姿を消したと聞いている。

 

つまり、創造神は本当に遊んでいるだけで。

 

何ら悪意がない、という事を意味している。

 

ドラゴンが飛んでいる。

 

金の体を持つ上位ドラゴンだ。

 

戦闘力は非常に高く、下位の邪神ほどもある。ただあれは、世界樹を縄張りにしていて、巡回しているだけ。

 

その縄張りも調査済みで。

 

入らなければなんら害は無い。

 

「見えました」

 

ヒュペリオンが注意を促してくる。

 

頷くと、アトミナとメクレットは、苔むした世界樹の根を踏みながら、前に出る。

 

丘を越えるようにして、根を乗り越えると。

 

そいつがいた。

 

姿は子供としか言いようが無い。四色の丸っこい翼。いわゆる四元素を表しているのだろう。それぞれ色が違う翼を展開し。その中央で、船を漕いでいる。要するに惰眠を貪っている。

 

魔族達が、怒りを滾らせるが。

 

アトミナが視線で黙るように威圧。

 

メクレットは、その間に。

 

眠っている創造神の側に降り立っていた。

 

パルミラと名乗ることもあるらしい創造神は。

 

こうしていつも眠っていて。

 

力があるものが近づくと反応。

 

遊んでくれとせがむという。

 

その遊びというのは、純粋な闘争で。

 

相手を殺す事は無い代わり。

 

あまりの凄まじい強さに、今まで勝ったものはいないともいわれている。

 

アトミナがメクレットの隣に並ぶと。

 

創造神は、ゆっくり目を開けた。

 

「だれー?」

 

幼い女の子の声。

 

だが、関係無く。

 

アトミナとメクレットは、二手に分かれ、周囲に幾つかの装置を設置。数字を確認していった。

 

なるほど。

 

これではっきりした。

 

「遊んでくれるの?」

 

「いいや。 それはまた今度だ。 皆、引き上げるぞ」

 

「しかし、此奴は……!」

 

「此奴を今殴っても意味がない」

 

きょとんとしている「パルミラ」。

 

空間転移の装置を経由して、一度魔界にまで戻る。

 

魔王の膝元に座ると。

 

やれやれと、メクレットは自分の肩を揉み。

 

アトミナは大きく嘆息した。

 

怒りの声を上げたのは、連れていった戦士の一人である。この世界の理不尽によって、家族を失った一人だ。常に連れている護衛で、多分剣の腕に関しては世界最強だろう。

 

「倒せと命じていただければ!」

 

「いや、今回の情報収集ではっきり分かった。 あれは、創造神の影に過ぎない存在だ」

 

「影?」

 

「この世界に創造神は多大な影響を及ぼしているのよ。 今まで数多倒して来た邪神達でさえ、創造神に比べれば小指の先にも及ばないほどにね」

 

だが。

 

今確認してきたアレは。

 

明らかに違う。

 

確かに実力は圧倒的だが。

 

少なくともその力は。ファルギオルに比べて絶対的に高い、と言う訳でもなかった。

 

はっきりいって空間を切り替えて、奴の力を弱体化させ。

 

魔王をぶつければ、倒す事は可能だっただろう。

 

いや、魔王をぶつけなくても、捕縛できる程度の戦力だった。

 

だが先も説明したとおり、あれは所詮ただの影。

 

倒したところで「遊んでくれて有難う」と喜ぶだけだし。

 

粉々に消し飛ばしても、その内、いやすぐに復活する。

 

それでは意味がない。

 

「我々の目的は、あくまで創造神本体との接触だからね。 小指の先に接触しても意味がないんだよ」

 

「しかし、何かを聞き出せたのでは」

 

「無理だね」

 

断言するメクレットに、皆が言葉を失う。

 

咳払いすると。

 

メクレットは、丁寧に説明していった。

 

あれは、この世界に伸ばしている端末の一つに過ぎず。

 

出力は出来ても、入力は出来ない。

 

知識に関しても、恐らく限定的なものしか与えられておらず。役割はあったとしても世界の監視。

 

つまり話を聞いても。

 

分からないと答えられるか。

 

答えられないと言われるか。

 

そのどちらかだ。

 

しかも、その答えを引き出すには。

 

ファルギオルと同等かそれ以上の実力を持つ端末相手に、相当な物資を消耗する覚悟をした上で挑まなければならない。

 

そんな無駄なことに貴重な物資を使うわけにはいかないのだ。

 

深淵の者の中には。

 

家族が病気だったり。

 

一族の存亡を背負っている者もいる。

 

彼らにずっと手をさしのべて来たが。それには、多くの道具類が必要なのだ。

 

「そもそもパルミラという名前そのものが、創造神本体と一致しているかさえ分からないのが事実だ。 今回は皆、怒りを飲み込んで貰えないか」

 

「貴方方が、そう言われるのであれば……」

 

「何、あれが端末で。 端末が出現する位置が特定出来ただけで大きな意味がある。 好機はこれからも巡ってくるから、心配せずに待つと良いさ」

 

メクレットが静かに笑うと。

 

それ以上、不満を述べる者もいなかった。

 

一度、皆を休憩させる。

 

アトミナは、魔王の膝元で足をぶらつかせながら言う。

 

「あのクソガキ、ぶちのめしておけば良かったんじゃないの? 今回連れていった戦力だったら、可能だっただろうし」

 

「それは無意味だ」

 

「そうだけどさ」

 

「無意味なことに物資を使っている余裕は無いよ」

 

アトミナが嘆息。

 

視点を増やすために分裂したが。

 

やはり時間が経つと、性格も変わってくる。

 

この様子だと、一つに戻った時には。

 

精神が混乱するかも知れない。

 

だが、それはまたそれで構わない。

 

いずれにしても、今回は大きな成果を出す事が出来た。この世界に創造神が何をしたのかも。

 

本体にアクセス出来れば、明らかになるだろう。

 

ただ、どう考えても良い理由だとは思えない。

 

神話に埋もれていた歴史の真実と。

 

その後の変貌ぶり。

 

人類が全て洗脳されたとして。

 

その理由は何だ。

 

美しくないとか、気に入らないとか。そんな理由だとは思えない。空白の500年も気になる。

 

一体この世界に。

 

何があったのか。

 

そしてそもそも。

 

この世界に招かれたという神話は、本当だったのか。

 

だとしたら何故。

 

迫害されていたというのはどうしてか。

 

魔族ほど強靱な種族を迫害していたとなると。

 

そいつらは一体どんな奴らだったのか。

 

分からない事が多すぎる。

 

アルファが来た。

 

報告があると言う。

 

「キルヘン=ベルの東の街が整備されたことで、ラスティンとアダレットの間の通商ルートが物理的な意味でほぼ回復した様子です」

 

「ふむ。 今後の物流が活発化するとみて良いのかな」

 

「いえ。 イサナシウスが動き出したことが既に知られていて、商人達は動く事に二の足を踏んでいます」

 

考え込む。

 

イサナシウスがキルヘン=ベルに向かっているという話だし、ソフィーのエサにしようと思っていた。

 

いずれソフィーはドラゴンくらい一ひねりに出来るくらいには成長して貰わなければならないのだ。

 

下級のドラゴンとどっこい程度のイサナシウスだったら、倒せるくらいの実力がなければ話にならない。

 

だが、東の街は。

 

キルヘン=ベルにとっては、東への通商路確保の戦略重要拠点だ。

 

イサナシウスの動き次第では。

 

此方も動かないとまずいか。

 

「こっちで消す?」

 

「いや、動きをそらそう。 邪神狩り部隊を動かして、イサナシウスの進路をそらし、キルヘン=ベル近辺の街を脅かさないように追い立てさせろ」

 

「分かりました。 すぐに手配するのです」

 

「……」

 

アルファが去る。

 

敢えて醜く作っている義手で、不器用に礼をして。

 

さて、ここからが難しい。

 

ソフィーの側に来ているアダレットの騎士、ジュリオと言ったか。騎士団長候補にも挙がっている精鋭らしいが。

 

そのアダレット騎士団長が。

 

深淵の者に所属していると知ったら、どう思うだろうか。

 

ソフィーとはいずれにしても、その内接触しなければならない。

 

挫折については。

 

ソフィーは今まで、嫌と言うほど味わっている事を確認済みだ。

 

それならば。

 

此処からは、多少手を貸してやらなければなるまい。

 

だが、動き次第では全てが台無しになる。

 

慎重に駒を進めなければならない。

 

「メクレット」

 

「うん?」

 

「プラフタだけれど、ひょっとして記憶をもう取り戻してるんじゃないの?」

 

「何とも言えないな」

 

それも加味して、計画は進めていかなければならないか。

 

まだ、この世界の真相に辿り着くには。

 

先が長い。

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