暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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陸上戦艦に近い巨大ネームドが接近しています。

対応を間違えば。

例え緑化して守っていても、大きな被害が出かねません。

ましてや近隣の街や小集落は、ひとたまりもないでしょう。


2、驀進巨獣

ミゲルさんからの急使が来た。

 

イサナシウスが移動している、というのである。

 

あたしは昨日、丁度街の北近くに迫ってきていたネームドを潰したばかりである。少し疲れが溜まっているなと思いながら寝床で横になっているときに。飛び込んできたモニカに、その話をされた。

 

イサナシウスか。

 

話を聞く限り、とんでもない怪物だ。

 

ちょっとでも攻撃が擦ったら、それだけで死を覚悟しなければならないだろう。装備類も、少し整備しなければならないかも知れない。

 

爆弾も、である。

 

すぐにプラフタと一緒にカフェに。

 

街の重役は皆集まっていた。

 

不機嫌そうなヴァルガードさん。

 

今は早朝。

 

丁度寝たところを叩き起こされたのだろう。不機嫌なのは、仕方が無いとも言える。

 

「集まりましたね。 東の街からの急報は聞いているかと思います」

 

「イサナシウスと言えば、かなり東の方で、公認錬金術師が守る街を攻撃していたと聞いている。 どうしてこんな辺境に」

 

「それは分からないのですが、とにかく此方に向かっているのは事実のようです」

 

公認錬金術師がどうにか出来なかったのか。

 

そうぼやく声が聞こえるが。

 

あたしとしては、仕方が無いのかな、という気はする。

 

この間倒したデビルホーンも相当なタフネスを誇ったが。

 

イサナシウスは、城壁に背中が届いてしまうほどの巨体だ。まあ又聞きだが。公認錬金術師でも手間取っていたという相手である。文字通り、物理を超越したタフネスを誇るとみて良いだろう。

 

だが逆に。

 

其処まで力を蓄えたネームドなら。

 

相当に強力な魔力を蓄積した素材をはぎ取れる。

 

肉だって、たくさんとれる。

 

皆力がつく。

 

そして皮などを加工すれば。

 

強力な防具などに変えることが出来るだろう。

 

ホルストさんが地図を拡げる。

 

二枚である。

 

一枚はキルヘンベルの地図。

 

現在キルヘンベルは、城壁の移設工事と、畑の拡大工事を完了。森も順調に育っており。既に自給自足が可能な体制が出来ている。

 

そしてもう一枚の地図は。

 

この辺りの広域地図。

 

まず当然のことだが。

 

街に最低限の守備隊だけを残し。総力戦を街の外で挑む。

 

もしもそれで撃退出来ない場合は。

 

キルヘン=ベルは蹂躙されるだけだ。

 

森まで傷つけるとは思えないが。

 

城壁はぶっ壊されるだろうし。

 

何より家屋も畑も蹂躙されてしまうだろう。

 

イサナシウスはそこまで凶暴なネームドだとは聞いていないが、連中は共通して人間に敵意を持つ。

 

子供も老人も。

 

根こそぎエサにされてしまうのは目に見えている。

 

住民は早めに避難させる必要がある。

 

何処に避難させるかも。

 

事前に決めておかなければならない。

 

奴が直前まで迫った状態で、何処に逃げるか決めていたら、遅すぎるからだ。

 

「避難先は東の街だな」

 

フリッツさんが言う。

 

まあコレは当然か。

 

西にある隣街は、そもそもアダレットの領土だ。あまり領土だの境界線だのは五月蠅くないとはいっても。難民が大挙して押しかけて、良い対応をしてくれるとは思えない。

 

これに対して東の街の場合、そのまま東に行き続ければ、やがて公認錬金術師のいる街に辿り着く。

 

これならば。

 

難民もある程度は、まともな対応も出来るだろう。

 

続けて、敵の迎撃作戦の詳細に移る。

 

この世界の共通したルールとして。

 

基本的に森は貴重なものだと誰もが考える。

 

これは人間だけではなく。

 

邪神でさえ、だ。

 

森では猛獣でさえ凶暴さが押さえ込まれることからも分かるように。イサナシウスでさえ、それは例外ではないだろう。

 

それならば、敵の進軍ルートはある程度絞り込める。

 

迎撃地点は二箇所に設定。

 

どちらかに来る、という判断だが。

 

どうしてか東の街を避けているようなので。

 

街道の途中にある谷と。

 

その谷の北にある平原の内。

 

平原の方が可能性が高いと、フリッツさんは判断。

 

あたしもそう思ったが。

 

念には念を入れる必要がある。

 

「イサナシウスは動きが遅いようなので、偵察要員を出しておくべきでしょう」

 

「それなら私が行きます」

 

申し出てくれたのはタレントさんである。

 

だが、ホルストさんが、意外な提案をしてくれる。

 

「実は、東の街の自警団員が、ギリギリまで近くで監視をしてくれる事になっています」

 

「!」

 

「今回のようなときこそ、恩を返す番だとミゲル執政官が申し出てくれました。 我々は、此処に布陣して、敵を迎え撃つ状況に応じて対応し直しましょう」

 

ホルストさんが、谷のこちら側を指す。

 

此処ならば、谷を無理矢理イサナシウスが抜けてきた場合も。

 

その北から現れた場合も対応出来る。

 

後は具体的な対応の方法だが。

 

まずは足を止めなければならないだろう。

 

「ソフィー。 ギリギリまで爆弾の製造をお願いします。 薬に関しては、現状の蓄積分でどうにかしましょう」

 

「分かりました」

 

あたしは席を立つ。

 

細かい作戦はもう任せてしまって良いだろう。

 

イサナシウスは巨体が故に移動速度が遅い。まだ此処に到着するまで時間がある。

 

薬を後回しにするのは。

 

あまりにも非常識な巨体を誇る相手だからだ。

 

相手を殺しきれなければ。

 

一瞬で殺される。

 

今まで作ってきた装備類。

 

マイスターミトンや友愛のペルソナ。グナーデリング。

 

これらによる強化も。

 

暴力的なまでの大きさの前には。

 

もはや手の出しようが無い、というのが実情だ。

 

攻撃を受けたら即死する。

 

そう考えて。

 

相手が此方に攻撃をする前に。

 

叩き潰す。

 

そういう判断で、動くほかない。

 

カフェを後にするとき。

 

後ろでされている会話の内容が聞こえた。

 

「それにしても、公認錬金術師を放置して、どうして急に此方に鞍替えしたのか……」

 

「キルヘン=ベルにエサがたくさんいる事に気付いたのかも知れないな」

 

或いはそうかも知れないが。

 

だがそれならば、どちらかと言えば更に東。

 

ラスティンの首都であるライゼンベルグに向かうのが正しいような気もする。

 

いずれにしても、此方に向かっているというのであれば。

 

叩き潰す。

 

それだけだ。

 

アトリエに入ると、すぐに爆弾の製造に入る。

 

狙うは巨体の一点。其処をぶち抜いたら、穴に爆弾をどんどん投擲して、体内から敵を爆破する。

 

巨大な体だし。

 

何しろ公認錬金術師が攻めあぐねた相手だ。

 

さぞや外皮は硬いか。

 

それとも、凄まじい魔術による防御を展開していることだろう。

 

だが、魔術では防げないと、専門家であるヴァルガードさんが太鼓判を押してくれている道具も幾つかある。

 

それらを、より高品質に作っていく。

 

残念ながら、最近はプラフタから最高得点更新の墨付きを貰っていないのだが。

 

それでも、出来るだけ品質を上げていく必要はあるだろう。

 

ほぼ一日まるごと使って。

 

可能な限りの爆弾を仕上げる。

 

荷車に積み込み。

 

更にもう少し、出来るだけと思っている内に。

 

モニカが迎えに来た。

 

「ソフィー。 時間よ」

 

「もう来た!?」

 

「仕方が無いわ。 東の街の自警団が気付いて知らせてきたのだから」

 

それもそうか。

 

寝ていないが、仕方が無い。

 

荷車を出す。

 

全自動荷車のマスターにはモニカになって貰う。

 

あたしは手押しで使っていた荷車を出すと。

 

それにコンテナにあった残りの爆弾を全部詰め込む。

 

そして、種類ごとに束ねた。

 

今回は文字通り。

 

キルヘン=ベルを挙げての総力戦だ。

 

だが、近いうちに総力戦があるだろう事は、予想していた。

 

勿論相手はノーライフキングだが。

 

しかしながら、予想とは違う相手とは言え。

 

総力戦をやっておくことに損は無い。

 

あたしとしても。

 

現状の戦力の不足には不満を感じていたし。

 

キルヘン=ベルの機動部隊であるあたしとサポートの面々と。

 

守備隊との連携戦闘を、もう少しやっておきたいと思っていたからである。

 

今までは結局の所、戦略面での連携はやってきたが。

 

戦術面での連携はどうしても取れていない事が多かった。

 

今回は、戦略面だけでは無く、戦術面でも連携を取ることになるだろう。

 

今回の戦いは。

 

ノーライフキング戦での試金石になる筈だ。

 

キルヘン=ベルを出る。

 

何人か一組になりながら、目的地を目指し。

 

既に避難誘導も開始されていた。

 

前線が突破された場合。

 

即座にイサナシウスを南側に迂回しながら東に向かう予定だ。

 

もしもイサナシウスが南寄りの進路を通った場合と。

 

東寄りの進路を通った場合で。

 

避難する向きが多少変わってくるが。

 

いずれにしても、人間に追いつけるほど早くは無いので。

 

時間的余裕はある。

 

前線に到着。

 

イサナシウスはまだ見えないが。

 

前に、ミゲルさんの所で見た、獣人族の戦士が、此方に馬で来るのが見えた。

 

東の街には、馬が数頭飼われていたが。

 

その一頭らしい。

 

前に比べて、かなりつやつやしているのは。

 

エサが良くなったから、だろう。

 

「伝令っ!」

 

「聞きましょう」

 

今回は総力戦という事で、ホルストさんが前線に出てきている。

 

街の方は、ヴァルガードさんが守りについているが。彼方は引退間近のベテランばかりが残っている状態だ。

 

新人は全部前線に出てきている。

 

というのも、避難誘導に新人は役立たないから、である。

 

「イサナシウスは、予定通りの進路で此方に向かっています」

 

「今どこにいますか」

 

「此方です」

 

地図を拡げて確認。

 

どうやら谷の北を抜けるつもりらしい。

 

相手がこの辺の地図を知っているとは思えないから、恐らく単に奴の気分だろうと思ったのだが。

 

妙な話が聞こえてきた。

 

「何か気付いたことはありますか」

 

「そういえば、イサナシウスがかなり殺気立っているようです。 それに傷ついてもいるようでした」

 

「傷ついている?」

 

「はい。 恐らく錬金術の道具によるダメージかと思うのですが、体の左側にかなり多くの傷が見受けられました。 公認錬金術師による攻撃だと思われるのですが……」

 

まて。

 

そんなダメージを与えられる相手なら。

 

今頃とっくに倒せているはずだ。

 

となると、誰かしらが。

 

何かしらの方法で、干渉した可能性が高い。

 

あたしと同じ考えに至ったのだろう。

 

フリッツさんが聞く。

 

「東の街で、戦闘音は聞いていないか」

 

「いえ、特には」

 

「……分かった」

 

ホルストさんが礼を言い。

 

伝令が戻っていく。

 

東の街にしても、イサナシウスがいきなり方向転換して、迫ってきた場合の事を考えなければならないのだ。

 

流石にないとは思うが。

 

それでも、備えはしなければならない。

 

貴重な馬まで出して伝令を送ってくれているのである。

 

情報が多少足りなくても。

 

それでも感謝はしなければならない。

 

「布陣を変えます。 全員、移動開始」

 

「予定地点北に展開する! 各自急げ!」

 

「ソフィー、その様子だと、ギリギリまで爆弾を作っていましたね。 少し休んでいなさい」

 

「分かりました。 お言葉に甘えて」

 

荷車は、皆に任せ。

 

布陣する地点に到着すると、荷車の中で丸まって眠る。

 

爆弾は全て出した後だし。

 

下地がある分、荷車の方が地面で眠るよりもかなり寝心地が良い。

 

疲れが溜まっていたし。

 

すぐに眠りに落ちる事が出来る。

 

だが、妙だ。

 

やはり、何かと交戦していたとみるべきだろう。

 

イサナシウスは何と戦った。

 

そして戦った奴は。

 

間違いなく公認錬金術師以上の実力者と見て良い。

 

だとすると、考えられるのは邪神か、それともドラゴンか。或いは深淵の者か。

 

邪神がネームドを傷つけるなど、聞いた事も無いし。

 

そもそもプラフタが言うように、倒された邪神の力を取り込んだ存在が、ネームドである可能性が高い。

 

ドラゴンはそもそも、動物を襲うことはあっても。

 

執拗にネームドに攻撃など加えるだろうか。

 

ドラゴンが狙って来るのは今も昔も人間だ。

 

勿論おやつ感覚で動物を食べる事もあるだろうが。

 

ネームドに仕掛ける事は考えにくい。

 

そうなると深淵の者か。

 

今までも動きがおかしいネームドはいたが。

 

今回は明確に深淵の者に追い立てられたと見て良い。

 

それも、である。

 

今までは消耗していたネームドはいなかったのに。

 

イサナシウスは違っている。

 

色々考えている内に疲れが出て。

 

少し眠ってしまった。

 

そして起きだした頃には。

 

既に周囲は、戦闘態勢を整えていた。

 

あたしは体を軽く動かし。

 

更に用意されている井戸水で顔を洗って、気分を切り替える。

 

皆の所に行くが。

 

その時には、既に。

 

イサナシウスが見えていた。

 

文字通り、動く山だ。

 

背中は確かに、東の街の防護壁に届くほどだろう。元々横に長い生物なのに、である。

 

陸魚の特徴を備えていて。魚と蜥蜴の中間のような姿をしているが。

 

陸上を歩くことを苦にしているようには見えない。

 

陸魚の中には、長大な角を備えているものがいるが。

 

あのイサナシウスは、少なくとも持ってはいないようだった。というか、鼻に当たる部分を見る限り、折れてしまったのだろう。

 

何かの戦いの結果かは分からないが。

 

いずれにしても、とんでも無い巨体だ。

 

その分動きは鈍いものの。

 

既に此方を捕捉し。

 

エサにしようと、まっすぐ向かってきている。

 

手をかざして見る。

 

身を守るように、凄まじい魔力が迸っているが。それ以上に、体の左側に、多くの傷が見て取れた。

 

それも一部は、ひれを抉るような規模のダメージである。

 

長年公認錬金術師が守る街と戦っていたと聞くし。

 

それによるダメージかとも思ったが。

 

違うと判断。

 

遠目に見ても、明らかに最近受けた傷だ。

 

そうなると、追い立てられたのだ。それも、傷跡からして、恐らくは錬金術による生成物。

 

爆弾などによるものと見て良いだろう。

 

物好きな流れの錬金術師が攻撃を仕掛けた、とかなら兎も角。

 

そんな話は考えにくい。

 

となると、今回の此奴は。

 

あからさまなほどに。

 

深淵の者に追い立てられたとみて良い。

 

だが、どうして左側だけについている。

 

「そろそろ交戦距離に入ります。 総員、戦闘準備!」

 

まあいい。

 

せっかくのダメージだ。

 

戦闘では有効活用させて貰うのが一番だろう。

 

あたしは、ホルストさんに事前に許可を貰っているので、いつものメンバーで動く。そして仕掛けるタイミングは。

 

イサナシウスが、陣地の至近に近づいた時だ。

 

移動開始。

 

奴の左側に回り込む。

 

獣人族の戦士であるベンさんが、角笛を鳴らしている。

 

周辺に知らせているのだ。

 

此処で。

 

これから、近づくと即死必須の、苛烈な戦闘が行われるのだと。

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