暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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体を失った錬金術師であるプラフタ。

彼女への、ソフィーなりの対応が、大詰めに近付いています。


糸と体
序、鮮血に染まる地


そいつはあたしから逃げようとしない。

 

普通、猛獣は勝ち目無しと判断すると、命を優先して逃げようとする。だが、やはりというか何というか。

 

ネームドは違った。

 

今回狩りに来たネームドは、あたし達から見てかなりの格下である。

 

今まで戦って来た相手が相手だから。かなり余裕を持って圧倒出来たのだが。

 

それでも逃げようとする気配はなく。

 

人間に対して牙を剥き続けた。

 

結局、動けなくなって、横たわっても。

 

鋭い角を持つそのウサギのネームドは。あたしに対する敵意を収めなかった。

 

殺してやる。

 

喰らってやる。

 

そう視線が告げている。

 

あたしは無言で魔術砲撃。

 

命を絶ちきった。

 

これで、キルヘン=ベル近辺に巣くうネームドは一掃されたことになる。

 

あまりにも派手に殺すと、せっかくの膨大な魔力を帯びた体が無くなってしまう。イサナシウスのように爆発する恐れさえある。だからあたしも、爆弾で粉々にするのでは無く。ただし手加減もせず、容赦なく葬った。

 

なおウサギと言っても、体のサイズは牛並み。

 

その突進力は凄まじく、頭についている角は岩を軽々と粉砕するほどであり。更に魔術に寄る加速や、遠距離への雷撃も使いこなした。

 

腐ってもネームドである。

 

いずれにしても、余裕は持って倒す事は出来たが、油断は一切しないし。結果、比較的余裕を持って駆除できた訳だが。

 

解体を始める。

 

まず木の棒を組んでつり下げ。

 

腹を割って内臓を出し。

 

血を採り。

 

皮を剥いで。

 

肉を削ぎ。

 

そして骨を割って、軟骨を取り出す。

 

体のあらゆるパーツが、非常に強い魔力を秘めているのは嬉しい。レオンさんが、傷ついていない部分の毛皮を触って、喜んでいた。

 

「これはとても素晴らしい防具の素材になるわね」

 

「それならば、譲りますよ」

 

「本当? ありがとう、ソフィーちゃん」

 

レオンさんは大喜びしている。

 

少し前から多少余裕が出てきたからか。少しずつ、「好きな」服を作れるようになってきたらしい。

 

街に流れ込んできた、東の街経由で訪れた最貧困層のための服を手がけていたが。

 

彼らが街のための労働で賃金を得て。

 

その結果、服などを買う余裕が出てきたこともあり。

 

街全体の富裕度が増している。

 

結果、元々金持ちだった層も、趣味に金を使えるようになり。

 

レオンさんに、実用品にも凝った意匠を求めたり。趣味の服を欲しがったり。「実用」以外の仕事が生じ始めたらしい。

 

頭蓋骨を砕いて。角を取る。

 

これはかなり強力な魔力を秘めている。

 

多分このネームドの心臓部だろう。

 

素材として使えば、強力な錬金術の道具を作り出せることは、ほぼ間違いない。

 

手際よく解体を進め。

 

そして、後には何も残さない。

 

この辺りも荒野が拡がっているが。

 

いずれ、最終的には緑化したい。

 

実は、もう既に、キルヘン=ベル周辺の街道を中心に、緑化を進めていこうという計画がホルストさんから提案されていて。

 

実際森で獣が大人しくなる傾向から、実行に移そうという話も出てきている。

 

ただあたしは。

 

その前に、ドラゴンに対する備えと。

 

邪神に対抗するため手段を得ておきたいと、ホルストさんに提案している。

 

いずれも街の顔役が集まる場での話では無いので。

 

まだ正式な計画にはなっていないのだが。

 

いずれにしても、ネームドの駆除が完了した今が好機。

 

ノーライフキングを倒すのは、今だろうとも思うのだが。

 

ホルストさんとは、色々と調整をしなければならないだろう。

 

ジュリオさんが来る。

 

「周囲の安全は確認してきたよ」

 

「それでは帰りましょうか」

 

「この靴になってから移動が楽で良い」

 

フリッツさんが褒めてくれる。

 

流石に年齢が年齢だ。

 

技がどれだけ研ぎ澄まされていっても。

 

それでも体力的に問題は出てくる。

 

およそ通常時の四倍の速度で、しかも足にも体力にも負担無く走れるようになった事で。フリッツさんも喜んでいるようだ。

 

ただ戦闘が想定される場所では、いつも愛用している靴に切り替えている。

 

コレは恐らく、体の隅々まで把握して、戦っているからだろう。

 

戦闘時に妙な要素が入り込む事で。

 

不要な怪我をすることを避けている、という事だ。

 

それに、動きが速くなりすぎると、逆に事故も起こる。

 

戦闘時は、自分で把握できる範囲内で動きたいのだろう。

 

何より、速くなるのは足だけなので。

 

戦闘時にこれでギャップが生じて。

 

色々と問題が起きることも想定はしなければならない。

 

慣れれば問題は無いとは思うが。

 

流石にフリッツさんの年齢で、新しいものを即座に受け入れ、取り入れるのは厳しい。

 

それはあたしもよく分かる。

 

なお、あたしが外に持っていく全自動荷車も、この靴にあわせて改良した。今までの四倍近いスピードで移動するため、車軸がもたないからだ。

 

多少お金は掛かったが。

 

その代わり、隣の町には急げば一日かからず行ける。

 

近場の採集場には、それこそ日帰り出来る。

 

良い事づくめだ。

 

東の街の顔役であるミゲルさんも、片道を一日で突破出来ると聞くと、愕然としていたようだった。

 

そして、靴を欲しがっている。

 

今、ホルストさんが、どうするか検討中のようである。

 

流石に戦略物資という事もあり。

 

安易に拡散はさせられない、と判断しているのかも知れない。

 

この辺りは、良い関係を構築するためにも。

 

何でもハイハイと言う事を聞くわけにはいかない、という事だ。

 

色々難しいが。

 

片方がもう片方に依存する関係を作ると。

 

碌な事にならないのは、分かりきっている。

 

皆が帰る準備を完了させるのを確認。

 

隊列を組み直すと、風のように走って戻る。

 

ネームドがキルヘン=ベル周辺から一掃された、というのは良いニュースとして受け取られるはずだ。生半可な猛獣など屁でもないほど強力な化け物どもである。

 

それがいなくなれば。

 

どれだけ人間にとって有益か分からない。

 

自警団の方でも、偵察要員が旅人の靴を活用して、フォーマンセルで高速偵察をしてくれているらしく。

 

情報が非常に速く入るようになったため。

 

大変に有り難い。

 

情報が早く入れば入るほど、対応も早くなるからである。

 

キルヘン=ベルまでは特に何も起こらず。

 

帰り道、凄まじいスピードで走るあたし達を見て、愕然とする獣は見かけたけれど。充分な肉を積んでいるし。人間に害を為す猛獣でもない。

 

だから放置。

 

そのまま無視して、キルヘン=ベルに到着。

 

殆ど疲弊がない。

 

常時回復が掛かる上に。

 

足に負担がまったく掛からないので。

 

それだけで、移動が極めてスムーズになる、という事だ。

 

一旦街の入り口で解散。

 

アトリエに行って、コンテナに戦利品を収める。

 

プラフタは、おばあちゃんのレシピを見て、少し考え込んでいるようだったが。

 

あたしがモニカとジュリオさんと一緒に来るのを見ると、読書を止めて、顔を上げたというか浮き上がった。

 

「随分と早かったですね。 その様子では圧勝ですか?」

 

「まあ油断も手加減もしなかったから。 何か目につくものはある?」

 

「この角は素晴らしいですね。 後で形を整えた後、コルネリアに増やして貰うと良いでしょう」

 

「そうだね」

 

コルちゃんは譲渡した燻製肉などを、早速ホルストさんの所に持っていったようだ。

 

一部は倉庫にしまい。

 

残りは食費などが足りていない家に分配する。

 

料金に関しては、低利で貸し付ける。

 

後で労働に参加して払えるくらいの低利なので。

 

今の時点で、これで問題は起きていない。

 

酒などの金が掛かる娯楽が一般化しているのなら兎も角。

 

こういう辺境の民は、基本的にお祭りの時くらいしか、大酒は飲まないし。何よりカフェでしかお酒は扱わない。

 

借金があるのに、顔役が経営しているカフェに顔を出して。

 

ツケで酒を飲んでいくような厚顔無恥の人間は、流石にいない。

 

うちのクズがそうだったらしいが。

 

アレはとっくに墓の下だ。

 

コンテナに戦利品を格納。

 

今回は、ネームドを退治するのと同時に、鉱石や薬草も集めて来た。

 

何より帰ってきて疲れが殆ど溜まっていない。ジュリオさんが、ぼやいているほどだ。

 

「実はアダレット騎士団でも、錬金術師が作った装備が支給されている。 君の作ったものに勝るとも劣らない性能のものもあるが、この靴に関しては確実に君の作ったものが素晴らしすぎる。 是非騎士団員全員に配備したいほどだ」

 

「あたしの腕が上がって、更にホルストさんの判断次第、ですね。 何より、この街はラスティンの所属ですし」

 

「それが色々と問題だ。 アダレットともっと国交を深めて、こういう装備を支給すれば、ネームドとの戦いの前に疲れ切ってしまうような愚行は避けられるだろうに」

 

ぼやくと言う事は。

 

あったのだろう。

 

そしてネームドほど強力な相手になると。

 

ちょっとした体調不良が、戦闘時に致命打につながりやすい。

 

ロックとの戦闘で戦死者を出した、とジュリオさんが言っていたが。

 

そんな調子で精鋭を消耗していたら、とてもではないけれど、騎士団はやっていけないだろう。

 

ジュリオさんがここに来たのも、それだけ大変な事で。

 

普段は騎士団は、人員の不足に嘆いているのではあるまいか。

 

作業が完了したので、ジュリオさんが戻っていく。

 

モニカは引き続きお掃除をしてくれるので、あたしはその間にカフェに。

 

カフェに出ると、丁度コルちゃんとホルストさんが話をしていた。

 

「この靴、とにかく素晴らしいのです。 製造コストの問題はありますが、恐らく爆弾などと比べても、相当な収入源として期待出来るのです」

 

「それは分かっているよ。 しかしながらコルネリア、これが匪賊に渡った場合を考えるとね」

 

「爆弾もそれは同じなのでは?」

 

「流石に匪賊に奪われるような貧弱な護衛を連れている商人には売っていないし、そも今の時代匪賊は極めて困窮している。 うちに限らず、錬金術師が作る爆弾を買う余裕など無いだろう」

 

あたしに気付くと、二人は顔を上げる。

 

旅人の靴の販売について、絶賛話し中だったか。

 

確かに、これが匪賊の手に渡ると脅威になる。

 

戦闘要員だけが身につけるようにしているのもそれが理由で。

 

あたしとしても、東の街に売るのは慎重にならざるを得ないのも、それが理由の一つとしてある。

 

隣の町は、ついこの間麦の収穫を迎えたらしく。

 

今までに無い豊作で、食糧不足の危機を完全に脱したらしいが。

 

それでもまだまだ不安は残っているだろう。

 

壊れかけの城壁の改修に。

 

それぞれの装備の強化。

 

課題はいくらでもある。

 

咳払いをすると、後で良いので、声を掛けてくれと言って、近くの席に。

 

テスさんがホットミルクを持ってきた。

 

「どうぞ。 ソフィーちゃん、正式な報告はまだみたいだけれど、近くのネームドを全部片付けたって?」

 

「はい。 時にテスさん」

 

「何?」

 

「貴方、深淵の者ですね」

 

意図的に声を落として周囲に聞こえないようにしたが。

 

テスさんは、青ざめた。

 

露骨な反応。

 

腹芸が出来るほど賢い人では無いとは知っていたが。あたしは平然とホットミルクを飲み干す。

 

恐らくこの街にも、顔役クラスに深淵の者がいるだろうとあたしは判断しているのだけれども。

 

テスさんがそうだろうと判断したのは。

 

要所要所であたしを見張っていたからだ。

 

ネームドがこの街を狙って来るようになってから、恐らく奴らは繁栄に引き寄せられるだろうと判断したのだが。

 

それだけではないだろうとも思っている。

 

実際、あたしがやっと復興を始めた時期にも。

 

不自然に此方に近づいてくる深淵の者はいた。

 

そしてここ数百年。

 

深淵の者の暗躍と同時に、各地で腐敗錬金術師が、腐敗坊主や商人や役人と一緒に淘汰され。

 

社会の健全化が行われている。

 

よく分かっていない深淵の者だが。

 

恐らくは、それとは無関係では無いはずで。

 

この街でも、おばあちゃんという偉大な錬金術師が昔はいたし。

 

ずっと昔から生きている、偉大なシスターであるパメラさんがいる。

 

パメラさんに至っては街の最古老で。

 

魔術師としての力量も確かだと聞いている。

 

ならば、深淵の者が監視していてもおかしくはない。

 

簡単な理屈だ。

 

そして監視が続いているなら。

 

監視の対象は。

 

あたし以外にはあり得まい。

 

「な、何を言って」

 

「敵対的な行動を取ってこない内は此方から何もしませんよ。 ただテスさん、もうCQCでもあたしを倒せると思わない方が良いですよ」

 

すっと視線を向ける。

 

笑顔のままで。

 

ホルストさんとコルちゃんは、此方の会話に気付いていない。

 

あたしはここしばらくの連戦で実力を付けた。

 

近接戦闘の達人であるテスさんは充分に手強いとも思うが。

 

既に身につけている幾つかの装備の助けもあって。

 

戦闘になったら勝てる自信がついた。

 

不意を突かれても、である。

 

だからこういう話をしている。

 

実のところ、彼女が深淵の者であると気付いたのはもっとずっと前から、なのだけれども。

 

話をする機会は。

 

勝てるようになってからにしようと、決めていたのである。

 

どう動くか、判断できなかったからだ。

 

「ソフィーちゃん、その」

 

「誰にも言いませんよ。 ただ、監視をするつもりなら、もうあたしは気付いている事くらいは覚えておいてください」

 

「……」

 

そそくさと、テスさんが下がる。

 

腹芸が出来ない人だな。

 

だが、それでも良い。

 

あの人は悪い人じゃあない。

 

いずれジュリオさんに、彼女を接触させるつもりだ。その場合、芋づるで。この街における深淵の者の最高幹部が出てくるだろう。

 

消去法で恐らくあの人しかいないが。

 

それは別に此処で口にしなくても良い。

 

コルちゃんとホルストさんの話が終わる。

 

戦略の大まかな方針が決まったのだろう。

 

コルちゃんがいそいそとカフェを出て行くのを横目に。あたしはカウンターについて、肉料理を注文。

 

ホルストさんが、咳払いした。

 

「ネームドを倒した事、コルネリアから聞きました。 これで街の周辺から当面の脅威は去りましたね」

 

「今後ですが、ドラゴンか邪神が現れる可能性があります。 ドラゴンについては確実でしょう」

 

「!」

 

「迎撃のための準備が必要です」

 

さて、どう出る。

 

深淵の者にも発破は掛けた。

 

そしてホルストさんにも、此処で注意喚起をしておく。

 

何となくは知っている筈だ。

 

発展している街が、ドラゴンに襲われやすいことは。

 

「ナーセリーの復旧前に、ドラゴンを撃退出来る戦力を整える必要があるとあたしは思います」

 

「……そうですね。 いずれにしても、錬金術師が常時いないと話にならない状況は、どうにかしなければならないでしょう」

 

此処からだ。

 

一番危惧しているのは、ノーライフキングを叩き潰しに行くのと入れ違いに、ドラゴンがキルヘン=ベルを襲撃すること。

 

常に最悪の状態を想定して。

 

対応出来るようにしなければならない。

 

それが荒野まみれのこの世界で生きていく上で、最低限の注意事項だ。

 

「ソフィー、何か案はありますか」

 

「まずは、ドラゴンを狩る必要があります」

 

「実際の戦力をはかる、という事ですね」

 

頷く。

 

そしてあたしは。

 

同時にもう一つの話を始めた。

 

プラフタの魂をまず人形に移すために。

 

クリアしなければならない事が、一つあるのだ。




プラフタを本から人形にするために、ソフィーは順番に作業をしていきます。

既にこの辺り、凡百の錬金術師が出来る事ではありません。

ソフィーは人間から乖離しつつあります。

本人もそれを自覚していますが。それに対しては、既に何とも思っていません。

それ以上の強い怒りが全てを突き動かしているのです。
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