暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
それは知識だけとは言え。最強だった錬金術師の一人が、世に蘇ることを意味していました。
序、開始
錬金術は魔術と密接な関係がある。実際問題、魔術の上位互換と言っても良いのが錬金術だ。
あたしも魔術は使えるし。
故に錬金術の桁外れな破壊力もよく分かる。
これから始めるのは。
驚天の奇蹟の実現。
魔法陣を書く。
話に聞いた理論通りのものだ。
そして、完成させたプラフタの新しい体になる人形を寝かせる。
その上に、プラフタは横になった。
とはいっても、本なので。
本が置かれているようにしか見えないが。
別にプラフタは本を開かなくても喋る事が出来る。
少し居心地が悪い様子である。
「自分そっくりの人形の上に眠るなんて、不思議な体験です」
「問題はレシピ通りに行くか、だね」
「そうですね……」
人形の方は上手く行っている。
問題は、魂の移動。
あのリッチが言っていた、幽世の座標をずらす作業。
ずらしさえすれば、後は固定する事で。
プラフタの魂を、人形の方に移し。
そして人形の方は、幽世の羅針盤という超ド級の心臓部を宿しているため。これを核にして、動く事も可能だろう。
問題は、リッチになるためには。
十年単位の詠唱というとんでもない作業が必要だと言う事。
それを短縮するために。
プラフタと一緒に、理論そのものを確認した。
プラフタによると、やはり「幽世」と呼ばれているのは、位相がずれた世界そのもので間違いはないらしく。
高位次元というわけではないと思われる、だそうだ。
そもそも霊は物理干渉が可能な上。
邪神もそれは同じ。
邪神との交戦経験があるプラフタは。
物理攻撃がきちんと効く、と証言もしてくれた。
それならば、結論は確かである。
邪神は高位次元の存在ではないし。
「幽世」も恐らくはそう。
それならば、同じくらいの規模を持つ世界に対して、干渉して。
別の自分をずらす、くらいの事が必要になる。
魔術ではそれをやるのに十年以上かかるが。
高位の錬金術師は時空間を自在にするという話なので(もっとも、プラフタが高位と呼ぶほどの錬金術師だが)。
やり方はある筈だ。
まず考えたのが多重詠唱だが。
何しろ元が10年かかる代物だ。
理論は分かるのだが。
とにかくゆっくり丁寧に干渉して、それで最終的に存在の位置をずらす。今あたしは拡張肉体を四つ持っていて、これらに詠唱させることが可能だけれど。あたし自身が頑張って詠唱を手伝っても五倍。
要するに最低でも2年は掛かる。
手数を倍にしても1年。
これは正直実用的では無い。
更に問題として。
この拡張肉体、いちいち戦闘ごとに問題点を洗い出して、全部を同時にアップデートしているのである。
あたしの場合は、最終的には十二個くらいは作ろうと思っていて。
それによる超火力砲撃をやろうと考えてはいるが。
現時点でもかなりメンテナンスには手間が掛かるので。
いずれ他の方法を採ろうかとさえ思い始めているほどだ。
何しろ魔術を自動実行する本を、作らなければならないのだ。
文字を書くゼッテルも。
本の装丁も。
全てやらなければならないのだ。
錬金術である程度緩和できるが。
物量で押しきるのは、あまり現実的では無い。
そこで、プラフタと相談して考えたのが。
魔法陣を使う方法だが。
これは魔術師自体もやっている。
ここからが違う。
魔法陣は五芒星を使うが。
その全ての頂点に、詠唱を短縮するためだけに作った、特別な拡張肉体をセットする。
これは本と言うよりも、殆ど紙束で。
錬金術によって変質させて意思を宿らせ。
詠唱を自動実行させる。
そして詠唱そのものに特化しているため、それ以外には何の役にも立たない。
更にこの拡張肉体には、詠唱の相互高速化の詠唱を行う、別の拡張肉体もセット。
五芒星の頂点に、五つで1セット。つまり詠唱を行う拡張肉体と。詠唱相互高速化を行う拡張肉体をもう1セット配置する。
更に魔法陣の中枢部分に。
グラビ石から加工した、魔法陣強化のための玉を置く。
これは強大な魔力を宿すグラビ石に、更に例の深核から作った中和剤を使って変質させて、周囲の魔術を増幅するもので。
結果、今。
あたしのアトリエは。
床に敷いたゼッテルに書いた(このゼッテル自体が、強力に錬金術で魔力を持つように変質させた特別製で、中和剤に深核を使っている)魔法陣が置かれ。
その魔法陣の五芒星の頂点に詠唱を強化する拡張肉体十個が置かれている事で。
人が入る隙間がなくなっている。
釜も側に寄せているほどである。
この結果、プラフタと計算した結果、理論上は2500倍ほどの速度で詠唱が可能になるので。
リッチは10年掛かった詠唱を。
一日ちょっとで終わらせることが出来る。
仮にあたしが話を聞きだしたリッチと同じ17年が本来掛かるとしても。
それでも3日掛からずに終わらせられる。
ただ、これはあまりにも危険すぎる錬金術なので。
何回か検証を行ったし。
作業の下準備も念入りにした。
その結果、この作業に入るまでに、三週間以上掛かっている。
更に言うと。
この一連の作業を行う際。
レシピをプラフタに書き込んだのだけれど。
それ以降、プラフタは。
極端に無口になった。
恐らくは、記憶の重要部分が目覚めたのでは無いかとあたしは推察しているけれども。
ただ本人が何も言わないし。
相手の頭の中を覗く魔術なんてものも存在しないし、したとしてもあたしは使えないので。
プラフタが話してくれるのを待つだけだ。
いずれにしても、あたしとプラフタは今の時点では、利害関係で一致している。
あたしはもっと錬金術師として力を付けたいし。
プラフタはこの過酷な世界をどうにかしたい。
あたしだってその点も同じ。
狂気が心を侵食しているという点については、モニカとプラフタは時々心を痛めているようだが。
知らない。
そんなもの、あたしのせいなのか。
アトリエの外に出ると。
周囲に人がいないことを確認。
昨日のうちに、立ち入り禁止の縄張りをして。
更に入れないように、モニカに防御の魔術を掛けて貰ったのだ。
これは、少し前からあたしが大がかりな錬金術をやっていると、周囲が気付いていて。
子供とかが面白半分に覗きに来たりすると、大惨事になるからである。
勿論この三週間、ずっとアトリエにいたわけではなく。
検証作業をしながらも、同時に錬金術で薬や爆弾を作っていたし。
自警団に混じって狩りと偵察も行い。
ノーライフキング攻略への足がかりも作っていた。
また、街道周辺の緑化計画が開始され。
東西に延びている街道の緑化を行うことで。
猛獣による危険を減らすという計画を、顔役達と話し合いもし。
もし実現した場合。
旅人の靴で高速移動を可能にする面々で商人を護衛し。
隣街まで、安全かつ高速で移動が出来るようにする。
そういうサービスも始める予定だ。
その場合、匪賊が戻ってくる事を警戒しなければならないが。
現時点では、隣街は未曾有の豊作に沸いており。
今後匪賊としてドロップアウトする人間は出ないだろう。
ミゲルさん主導の下、再建も進んでいるようで。
ノーライフキング攻略の際には。
背後を守って貰えるかも知れない。
準備が全て整ったことを確認すると。
あたしはアトリエに戻る。
なお、ホルストさんに告げてある。
かなり大きな実験を行うので。
アトリエに近づかないように、注意は喚起して欲しいと。
ホルストさんも、プラフタが本のままでは不憫だと思っていたのだろう。
二つ返事で話を聞いてくれた。
とりあえず。
これで不慮の事故が起きる可能性もない。
粛々と。
着実に戦うだけだ。
錬金術は戦いである。
そして、今回の戦いに勝てば。
プラフタが人形の体で動けるようになる。
プラフタ用の拡張肉体についても、話はしているが。
まずは人形として動けるようになれば。
できる事は圧倒的に増える。
今でも軽いものを動かすくらいのことは出来るが。
それでも限界がある。
今後は、一緒に外に出て戦うくらいのことは出来るだろう。
今までも採取地にて、アドバイスを受けるくらいのことは出来たが。
護衛のための戦力が必要なくなるし。
非常にありがたい。
現役では無いとはいえ。
豊富な錬金術の知識がある戦士が一人いれば。
戦いもぐっと楽になる。
コルちゃん以外にも、爆弾を的確に扱える人間が増えると言う事で。
非常に嬉しい話である。
魔法陣の状態チェック。
拡張肉体の状態チェック。
プラフタに、体調を崩していないか確認。
全てが問題なし。
「それでは開始してください、ソフィー」
「うん。 じゃあ、いくね」
起動開始。
瞬時に、アトリエの中が。
淡い紫色の光に包まれた。
はて、この色。
何処かで見た事が。
ああ、なるほど。
道理で。
魔法陣が輝き始める。
五芒星が光と熱を帯び。最初から全開にしている冷却機能を超えて、アトリエ内部の温度が上がり始める。
窓は開けてあるが。
空気を遮断する魔術を掛けてあるので。
埃とかは入ってこない。
回転を速めていく魔力。
下手をするとアトリエが吹っ飛ぶかも知れないが。
要所要所では、あたしが詠唱を追加して、コントロールしなければいけないので。
この場を離れられない。
詠唱の相互補助により。
もはや聞き取れないほどのスピードで、詠唱が行われ。
多重展開した魔術が。
空間を歪ませる。
全てのコントロールは錬金術が行っているが。
それでも、この凄まじい魔力。
一歩コントロールを間違えば。
下手をすると、アトリエどころか。
キルヘン=ベルそのものが消し飛ぶのでは無いのか。
周囲からの雑音が。
一気に凄まじい音量になった。
ふと、気付く。
それらの中に。
意味がある単語が混じり始めている。
何だ。
これがモノの意思の声か。
呼吸を整えながら、段階を踏みつつ、詠唱に荷担。
自動で拡張肉体が展開している詠唱は、もはや速すぎて聞き取ることが出来ないけれども。
状況に応じて。
順次追加していく。
本が。
プラフタの体になっている本が。
輝き始める。
同時に、新しい体になる筈の人形も。
凄まじい光を放ちはじめる。
これは、失敗か。
一瞬不安になるが。
しかし、魔法陣は安定している。
凄まじい勢いで回転する魔力は、紫色から徐々に薄桃色に変わっていく。例のソウルストンがどうのこうの、という色だ。
ぱちん、ぱちんと周囲ではじける音。
気付くと、桃色の小さな結晶が。
彼方此方に出来ていた。
信じられない密度の魔力が、アトリエに満ちている。
あたしが故意にバランスを崩したら。
一瞬でキルヘン=ベルそのものが消し飛ぶだろう。
舌なめずりする。
あたしは、今。
扱ったことがないほどの力を。
自分で使っている。
コンテナの中にある爆弾は、一応ホルストさんの所に全部納品してあるし。
危険物も厳重に魔術で封をしているが。
それでも爆発した場合は。
ひとたまりもないだろう。
呼吸を整えながら、更に次の段階へ。
どうやら、本から。
プラフタの魂が離れたらしい。
今まで散々レシピを書き込んできた本が。
力を急速に失っていくのが見える。
魂の位置が。
リッチが言う幽世にて。
移動し始めたのだ。
代わりに、人形に宿る力が、凄まじい強化を遂げつつある。
元々リッチから取り出した石を加工し。体内に深核を中心としたコアを造り。それそのものが、錬金術による技術の塊みたいな存在なのだ。
元々強い魔力を秘めていたそれが。
燃え上がるようにして、魔力を放出している。
レオンさんが作ってくれたプラフタの服が保つかな。魔術防御の掛かった方では無く普段着の方が。
苦笑しながら、様子を見て。
準備が整ったのを確認後。
魂の位置固定の作業に取りかかる。
此処までで、ほぼ一日が経過しているが。
殆どあたしは休んでいない。
水をちょっと飲んでいるくらいだ。
どうしてか分からないけれど。
周囲の魔力が全部あたしに流れ込んでいるのかしらないが。
体が熱いくらいで。
更に腹も減らない。
これは、リバウンドが酷いかも知れない。
グラビ石を作ったとき。
あたしの体は凄まじいダメージを受けて血だらけになり。
周囲が悲鳴を上げたが。
それはそれだ。
今、あたしは。
作業から手を離すわけにはいかない。
固定成功。
後は、プラフタを起動させるだけ。
だが、どうしてか。
魔法陣が、其処で活動を停止。
呼吸を整えながら、状態を確認。
勿論、プラフタは。
目覚めない。