暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ソフィーの八面六臂の活躍によって、キルヘン=ベル周辺からはネームドの獣が消滅しました。

それはとても喜ばしい事でした。

とても……


3、竜狩り下ごしらえ

顔役を集めての会議が行われた。

 

キルヘン=ベル周辺の地図からはネームドが全て消え。それを見た顔役達は皆喜ぶ。東の街も、既に完全に食糧問題を解決。

 

今はせっせと防護壁の修復。家の修理などを実施し。

 

復興を行っているそうだ。

 

東の街からみて、危険域に入る地点にも、今の時点ではネームドは一体だけしかいない。

 

すなわちノーライフキングである。

 

「ノーライフキングの討伐についてですが。 先に此処を叩かなければなりません」

 

あたしが提案する。

 

皆が、此方を注目する中。

 

あたしは、地図の上の方。

 

北の谷に、指を滑らせた。

 

どよめきが起きる。

 

恐怖の声さえ混じった。

 

其処には、×印が着けられている。

 

何カ所か、地図には×印が着けられているのだが。そのいずれもが、絶対禁忌。すなわち、手に負えないから入るな、という意味である。

 

この谷には水晶がたくさんあり。

 

欲に駆られた匪賊やバカが足を運んだが。

 

ただの一人も生還していない。

 

原因は、ここに住んでいるドラゴンだ。

 

このドラゴンが、今、キルヘン=ベルに最も近い縄張りを持つ個体である。すなわち、此奴を始末しておかない限り。

 

キルヘン=ベルに完全な安全は来ない。

 

あたしは、にこりと。口元だけで笑う。

 

「ドラゴン狩りが必要です」

 

「しかし、此処のドラゴンは、谷から出る事がない。 敢えて獣の巣をつついて大けがをする真似は賛成できぬ」

 

年老いた戦士が挙手する。

 

彼は怖れているのだ。

 

ドラゴンの怒りを買うことを。

 

まあそうだろう。

 

だが、あたしは、それをただの怯懦だと見抜いていた。

 

「今までは、谷から出なかった、です。 ドラゴンはどいつもこいつも現時点で習性が分かっていません。 500年前から、よく分かっていない、仮説だらけの存在であったようです」

 

あたしがプラフタを視線で指すと。

 

彼女も頷く。

 

「私は現役時代、数十体のドラゴンを倒しました。 その中には、数十年間洞窟の中に潜んで静かにしていたのに、いきなり人里を襲い、多数の人間を喰らった者もいました」

 

「そんな……」

 

「ドラゴンは習性がまったくという程分からない存在なのです。 私も実際に解剖して調べましたが、それでも小首をかしげる事ばかりで、生物と言えば生物、そうでないといえばそうでない。 内臓にしても、何がどう動いて生きているかさえよく分かっていないのが実情で、今もその状況が変わったとは思えません。 そして、俗説のレベルではありますし、皆様も噂には聞いていると思われますが。 ドラゴンは、発展する集落を狙う可能性が高いのです」

 

うめき声が聞こえる。

 

つまり、だ。

 

いずれにしても、最終的にドラゴンとの対決は避けられなくなる。

 

ドラゴンを防ぐだけの力がなければ。

 

いずれキルヘン=ベルは焼き尽くされる。

 

それに、だ。

 

プラフタは言う。

 

「当時から噂はあったのですが、私なりに今の情報を、ソフィーの祖母の残した文献から調べて見ました。 それによると、ドラゴンは常時同じ個体数が世界に存在している、という仮説が成り立ちます。 つまり殺しても殺しても、何処かにまた即時に成体で出現しているのです。 ドラゴンの幼体については今まで目撃例がありませんが、その理由がこれだと推察されます」

 

「そんなバカな!」

 

「いや、噂には聞いたことがある」

 

思わず立ち上がったハイベルクさんに。

 

ヴァルガードさんがたしなめる。

 

こういうときには、ほぼ出てこないパメラさんまで、今日は出てきているのだが。彼女も柔和な笑みを浮かべて、そして言う。

 

「私も聞いたことがあるわあ、それ」

 

「一番の懸念はそれです。 今後あたしが遠征して、ドラゴンを処理しに行くなり、ネームドを退治しに行くなりで、この街を離れたとき。 ドラゴンに襲撃を受けるのが、一番の不安要素です」

 

そのために、やっておくことは。

 

少なくとも、ドラゴン相手に籠城を可能とする戦力を整える。

 

これが最低条件だ。

 

フリッツさんが咳払い。

 

「最高位のドラゴンになってくると、万の人間が住み、公認錬金術師が複数いる街でさえ滅ぼすと聞いている。 幸い滅多に起きることではないようだが、キルヘン=ベルも人口が増える一方だ。 現時点で街の自給自足は出来ているし、戦力も安定しているが、やはりソフィーが言うように、ドラゴンへの備えは最低限必須になるだろう」

 

「頭が痛い問題ですね……」

 

「高位の錬金術になると、特定地点への空間転移を可能とします」

 

不意に。

 

プラフタが提案する。

 

まあ、それは出来ても不思議では無いだろうと、あたしは思う。

 

事実上位次元に干渉したり、時空間を操作できると聞いているし。

 

何よりプラフタが、いずれ今のアトリエ内部の広さを、城くらいにしたい、と言っているのだから。

 

それこそ、一瞬でアトリエに戻る事くらいは可能だろう。

 

「現時点で、ソフィーとその護衛についている者達の戦力は、下位のドラゴンなら撃退可能な次元にまで到達しているとみています。 撃破出来るかは、また話が別ですが。 つまるところ、ソフィーが異変に気付いて戻るまでの間、持ちこたえることが出来れば……」

 

「ふむ、プラフタ。 具体的な案はありますか」

 

「現時点で三十人ほどいる自警団を、もう少し増強し、装備を調え、武装の備蓄も強化するしかありませんね」

 

腕組みするホルストさん。

 

現在、キルヘン=ベルは人間の流入が続き、既に人口は400人代後半に迫りつつある。各地の街に噂が流れているらしく、此処を目指す人間が増えているのだ。

 

主にそれらの人々は商人と一緒に来るか、東の街に集まったところを、受け入れに行っている。

 

全員がキルヘン=ベルに辿り着く訳でも無いし。

 

別の街で定住を決めてしまう者も多いようだ。

 

そして、この街に、悪い事を目当てに来る者もいて。

 

そういう者が、何度か既にトラブルを起こしている。

 

以前の苦い記憶もあり、当たり前の話だが、処分は厳しくなっている。

 

追放すれば荒野で匪賊になるだけ。

 

というわけで、街の片隅にある牢獄には。

 

現在数人がつながれている。

 

この街も大きくなるにつれて。

 

こういうことが起きるのは必然だと分かっていたので。

 

仕方が無い。

 

しかしながら、現在の街の人口に比べて。

 

自警団の人数が多すぎるのは、問題とされていた。

 

現時点では、信頼出来る者を武装し訓練し、自警団としているが。

 

常時活動している者の他にも、予備役の者もいる。

 

更に、最近は、傭兵が雇わないかと打診してきているケースもある。

 

傭兵の雇用はリスクが大きい。

 

フリッツさんのような凄腕を雇えれば良いのだが。

 

この手の商売は水物で。

 

時には金ばかりふんだくって、ロクに仕事をしないようなゴロツキを掴まされるケースも珍しくない。

 

ホルストさんも、おばあちゃんと一緒に各地を冒険したのだ。

 

その辺の事情は知っていて。故に、判断を迷っているのだろう。

 

「プラフタ、確認したいのですが」

 

「何でしょう」

 

「この規模の街が、ドラゴンに襲われた記憶はありますか」

 

「……まだ四百人代の人口しかいないキルヘン=ベルは、恐らく大丈夫だろうとは思いますが。 これが千人を超えると、可能性は跳ね上がると思います」

 

ホルストさんはしばし考えた後。

 

決断した。

 

「常時警備に当たる人間が一割を超える事は、街の経済を大きく圧迫します。 かといって、ドラゴンを防げなくては本末転倒と言えます。 其処で、ソフィー」

 

「はい」

 

「まずプラフタの言っていた、此処へ一瞬で戻れる道具の作成を急いで貰えますか。 それと、北の谷への威力偵察は行っても構いませんが、専門家であるプラフタの意見を良く聞き、深追いは避けなさい」

 

「分かりました」

 

条件として、ドラゴン狩りをそれで認めてくれるというのなら、安いものだ。

 

此方としても、ドラゴンから取れるという素材の数々には興味があったし。

 

どのみち、高度な錬金術を行って行くには、ドラゴン狩りは必須になる。

 

ネームドよりも更に高品質な素材を落とすドラゴンは。

 

それこそ、プラフタが言うような上位次元への干渉などには、倒す事が必須になってくるだろう。

 

既に準備は出来ている。

 

いずれにしても威力偵察。

 

旅人の靴を履いていても、片道は一日ちょっと掛かる。今回は、それほどに遠い場所なのである。

 

ただ、旅人の靴には、疲労緩和の効果もある。

 

行き来することは、さほどの負担にはならないだろう。

 

他にも幾つか顔役と決めた後。

 

アトリエに戻る。

 

皆には、すぐに出る事を告げて、その場で解散。

 

あたしもアトリエに戻り、準備を開始。

 

いつもは苦言を呈する事が多いモニカも。

 

今回は、反対しなかった。

 

この世界におけるドラゴンの脅威は。

 

モニカでも良く知っているし。

 

何より今回は専門家であるプラフタがいるのだ。

 

威力偵察ならば。

 

絶好の機会とも言える。

 

街の外に出ると、既に皆集合していた。

 

あたしは、皆に渡す。

 

新しい道具である。

 

桃色をした布で、リボンとしても使えるし。腕に巻いても機能する。

 

「はい、これをどうぞ」

 

「何かしら、これは」

 

「通称エンゼルリボン」

 

実は、おばあちゃんのレシピにあった中で、かなり難しいものなのだが。プラフタのアドバイスを受けながら、再現に成功したのだ。

 

簡単に説明すると、装着する事で、着けたもののバイタルを自動でチェックし。

 

調整してくれる、というものである。

 

勿論致死毒などは流石にどうにもならないが。

 

ちょっとした中毒性の食べ物や。

 

腐敗したものを口に入れてしまったり。

 

傷口から病気などが入った場合は。

 

自動的に体の力を強めて、排除してくれる。

 

魔術をかなり複雑に織り込んでいるため、今までは作るのが難しかったのだが。

 

この間リッチから得た情報もあり。

 

魔術に関して、あたしはかなり知見を得た。

 

結果として、解読が難しかったおばあちゃんのレシピの一つをこうやって解読できたのである。

 

なお、此処にいるメンバーには今回初めて配ったが。

 

ホルストさんには試作品を納品してある。

 

ホルストさんは懐かしいと喜んでいた。

 

おばあちゃんと旅に出たときには。

 

いざという時に備えていつも腕に巻いていたそうだ。ただ、デザインはかなり違うと言う事だったが。

 

そして今回から、プラフタが戦闘に参加する。

 

プラフタの拡張肉体は間に合わなかったのだけれども。

 

その代わり、レシピを書き込んでいた本と。

 

爆弾の使用を彼女に任せる。

 

この本、ずっと魂が宿っていたこともあり、魔術の発動媒体として機能する。

 

つまり、本来魔術が使えないらしいプラフタも。

 

コレを使えば、ある程度の魔術が使える、という事だ。

 

魔術使いとしてはあたしは自信があるので。

 

それに近い実力を発揮できるとなると、心強くもある。

 

また、爆弾に関しては、プラフタはあたし以上の専門家である。何しろ当時トップクラスの錬金術師だったのだ。

 

ドラゴン数十体の撃破実績というだけでも凄まじい。

 

今は拡張肉体がなくとも、

 

充分に戦力になってくれるだろう。

 

更に、常時浮遊している彼女を見て。

 

オスカーが、はあと感歎した。

 

「すごいなあプラフタ。 本の時と同じく、浮けるんだな」

 

「有難うございます、オスカー。 時に貴方、錬金術師になってみる気はありませんか?」

 

「ごめんよ、プラフタ。 嬉しい話だけれど、おいら、何より最初に世界中の植物と友達になりたいんだよ」

 

「そうでしたね。 しかし貴方には錬金術師としての才能があります。 それだけは覚えておいてください」

 

声が聞こえるのは、その証拠だとプラフタは言う。

 

あたしは心を無にして、その会話を聞き流す。

 

オスカーは、良い奴である。

 

良い奴だし、声が聞こえることで苦しんでいない。

 

だが、それは偶然の産物。

 

声が聞こえることで苦しめられたあたしや。

 

才能がある事で、不当な死を強いられ掛けたあたしは。

 

モニカが、不意に肩を叩く。

 

「行きましょう」

 

「……うん」

 

街を出る。

 

旅人の靴があるから、それこそ飛ぶように行くことが出来る。

 

前衛はジュリオさん。

 

そのすぐ後ろをプラフタ。

 

殿軍はフリッツさん。左をモニカ。右をレオンさんが固め。

 

荷車を先導するのはオスカー。

 

あたしとハロルさんは荷車の後ろ。コルちゃんは、レオンさんの後ろについていた。

 

コルちゃんは荷車に乗せてしまっても良かったのだけれど。

 

本人が、荷物をより多く積みたいと言ったので。こういう配置にした。

 

なお、全自動荷車を二台持ってきているが。

 

あたしが使わない素材は、コルちゃんに譲っているので。

 

自分の体積分の稼ぎが無駄になると思うと、コルちゃんにはあまり歓迎できない事態なのだろう。

 

荒野を走り抜ける。

 

この辺りは街道など存在しない。

 

たまに川が見えるが。

 

陸魚がいるから、近づかない方が良い。

 

ネームドは全て片付けたが。

 

いつまでこの周辺が安全かも分からない。

 

匪賊の襲撃も警戒しなければならないし。

 

街の外に出たら、常に何処かから狙われていると思わなければならないのだ。

 

影と時間を見て、方角を特定しながら進む。

 

此処から東にずっと行くと、ノーライフキングの洞窟だが。奴の攻略は、東の街と連携して行うつもりなので、まずは北の谷の威力偵察から。

 

いずれにしても、目的通りの事をして。

 

終わったらすぐに戻る。

 

本来なら欲を多少掻いても構わないだろうが。

 

今回は相手が相手だ。

 

専門家がいるとはいえ。

 

知らない相手と戦う時は。

 

油断は絶対にしてはならない。

 

当たり前の話である。

 

半日ほど走って、少し休憩。

 

旅人の靴の効果は正に絶大。足への負担を減らし、常時回復を掛ける機能によって、ほぼ消耗は考えなくても良い。

 

軽く休憩し、食事を済ませた後。

 

また走る。

 

夜になっているが、あまり関係無い。

 

ちなみにあたしの拡張肉体は上空に飛ばして、周辺の様子を確認しているが。今の時点で、此方を狙っている者はいない。

 

昼少し過ぎ。

 

目的の場所に到着。

 

荒野の中では、一際目立つ場所だ。

 

向こうで、虹色に輝く結晶が、多数。

 

文字通り、林立というに相応しい。

 

だが、ここに来るのは初めてだが。

 

妙だ。

 

何というか、谷が抉られているかのような形状なのである。

 

それだけではない。

 

手をかざして見てみるが。

 

奥の方は、あまりにも巨大な水晶の塊が鎮座している。

 

宝石は魔力を蓄える事が出来るため。

 

あれだけの巨大な水晶となると、どれだけの値段がつくかも分からない。

 

そう考えてみると。

 

思わず口をつぐんでしまう。

 

何だ此処は。

 

皆が呼吸を整えている中。

 

ずっと宙に浮いて、それ故に疲弊していないプラフタは。

 

あたしに話しかけてきた。

 

「ここに来るのは久しぶりです」

 

「!」

 

「500年前と何ら変わりませんね、此処は」

 

そうか。

 

プラフタも、知っている場所だったのか。

 

悲しそうな表情。

 

どうせろくでもない事があったのだろう。

 

フリッツさんとジュリオさんが、周囲の警戒に行く。あたしは拡張肉体を上空に待機させる。

 

ドラゴンらしき影が奥にいるが。

 

目立ちすぎると相手の攻撃を誘発する可能性がある。

 

サイズで言うと、正直イサナシウスの半分程度しかない。

 

しかしドラゴンは実力とサイズが全く関係なく。

 

どんなドラゴンも、同じような大きさだと言う事なので。

 

油断はしない方が良いだろう。

 

オスカーが、手をかざしているが。

 

表情は険しい。

 

「何か見える?」

 

「いや、植物の声が聞こえないんだ」

 

「それはそうでしょう」

 

「どういうことだ、プラフタ」

 

プラフタは、人形とは思えないほどに表情豊かだが。

 

彼女は悲しげだった。

 

「此処は人の過ちの土地です」




プラフタとともに、人の業見学ツアーです。
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