暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
「人の過ち?」
「私は500年前の錬金術師ですが、当時の錬金術師達は腐敗しきっていました。 自分達の先祖達の遺産にすがって努力を忘れ、錬金術師を名乗るに値しないような者も大勢いました。 かといって、彼らの先祖が優れていたかと言われれば、それは否です」
プラフタは、出来るだけ声を抑えながら。
水晶の谷を見据えた。
「優秀ではあっても、倫理観に決定的に欠ける錬金術師は、私の前の世代には多かったのです。 そしてこの土地は、そんな錬金術師の一人が、多くの人間を材料にして、宝石を作ろうとした呪われた土地なのです」
「! じゃあ、此処の水晶って」
「全て元人間です」
モニカが口を押さえる。
流石のレオンさんも言葉がないようだった。
プラフタに促され。
よく観察する。
そういえば魔力の流れがおかしい。
まるで谷の中に誘引していくかのようだ。
「私が調査した結果ですが、此処では大規模な錬金術が行われました。 現在とは比較にならないほど跋扈していた匪賊と手を組んだその錬金術師は、世界の富を独占しようともくろみ。 匪賊に多くの人間を捕らえさせました。 そして巨大な魔法陣をこの荒野に描き。 多くの錬金術の道具によって増幅して、全てを宝石に変えようと目論んだのです」
「いかれてやがる」
ハロルさんが吐き捨てた。
流石にあたしも同感だ。
そうか、昔は。
匪賊と結託する錬金術師がいたのか。
どうしようもないカスだ。
そんなものがいたのでは、世界の災厄と呼べたのは、むしろ人間の錬金術師だったのではあるまいか。
「結果は見ての通りです。 発動した錬金術は、生け贄に用意された数百人ばかりか、術を使った錬金術師も、離れて見ていた匪賊も全て巻き込みました。 地面を激しく抉り去り、その場にあった多くの命を奪い去り、そして土地の未来の可能性さえ抉り去って、此処に宝石の虚しい輝きを晒すに至りました」
「……」
「根絶の力を行使した結果です」
「これが、根絶」
そうか。
リッチがやっていたのが、根絶の真似事だというのが、納得いった。
なるほど、これが本物の根絶の結果か。
プラフタが未来を奪う、というのも分かる。
この谷からは、一切の命を感じられない。
奥にある宝石からも、あの雑音が聞こえない。
周囲からは聞こえるという事は。
やっと、そこまで「声が聞こえる」ように回復した、という事なのだろう。
愚かしい錬金術師によって。
世界は滅亡に追い込まれていてもおかしくなかった。
膨大な水晶だが。
こんなもの、そう考えてみれば。
価値などありはしないだろう。
「ひょっとして、此処に入り込んだ奴って、ドラゴンに襲われて死んだんじゃないのかも知れない?」
「可能性はあります。 出来るだけ、この谷には足を運ばない方が良いでしょう。 地図を見たときにもしやとは思ったのですが、キルヘン=ベルに戻ったら伝えた方が良いかと思います。 足を踏み入れれば、根絶の力に飲まれて死にますよ」
「ドラゴンはどうして此処に生きているのだろう」
「分かりません。 ドラゴンは、本当に分からない存在なのです」
コルちゃんが、袖を引く。
どうやら、フリッツさんとジュリオさんが戻ってきた様子だ。
地図を拡げ、周辺を確認。
現時点で、匪賊はいないし。
猛獣も見かけないという。
匪賊は、これを目当てに谷に入り込んで、全部勝手に死んだとして。
猛獣も見かけないという事は。
恐らく本能的に危険を察知している、という事だろう。
ある意味運が良かったのかも知れない。
プラフタがいなければ。
此処の危険性には、気づけなかったのだろうから。
フリッツさんとジュリオさんにも説明はする。
ジュリオさんは、唸った。
「実は、アダレットでも何カ所か、禁忌とされている土地が確認されているんだ。 ドラゴンが住んでいるケースもあるが、多くの場合は入り込んだ人間が生還できない。 部隊を送り込んで、全滅して、二次遭難さえしたケースもある」
「実際に見ないと何とも言えませんが、私が生きていた時代の前には、根絶の力を使って、未来を奪い、自分だけが利益を得ようとした錬金術師が何名もいて、破滅したと聞いています。 此処と同じようになっている可能性は否定出来ないでしょう」
「……本国に情報を伝えておきたい。 キルヘン=ベルに戻った後、数日間留守にさせて貰うよ。 此処の情報を伝えて、本国に情報の洗い直しを要請するよ」
「それが良いでしょう」
ジュリオさんは騎士団でも精鋭で。
更には、深淵の者とのアクセスを考えて、此処に来ているという。
それならば、その話を、騎士団は無視出来ないはずだ。
いずれにしても、ドラゴンとの戦闘は、今回はやめておいた方が良いだろう。
ただし地図はしっかり作っておく。
念入りに作戦を立て。
そしてドラゴンを確実に仕留めさる。
此処のドラゴンが何をしているか知った事では無いが。
いずれ確実に来襲するドラゴンに対抗するためにも。
キルヘン=ベルの関係者が、ドラゴンに対する戦闘経験を積んでおく事は、必須なのである。
一度戻る。
かなり谷から離れると。
猛獣も見かけるようになった。
そういえば、以前から気になっていた事がある。
「プラフタ、知っていたら教えてくれる?」
「私に分かる事であれば」
「この荒野で、あの獣たち、何を食べて生きているんだろう。 上位捕食者は、下位のものを食べているとすれば説明もつくけれど。 この荒野に食べるものはあまりにも少なすぎる」
「……」
プラフタは黙り込んだ後。
しばしして、答えてくれた。
「それは私達の時代にも分かっていませんでした。 どういうわけか、それが当たり前の事になっているので、誰も疑問に思わなかったのです」
「……当たり前、か」
考えて見れば。
おかしな事はいくらでもある。
ドラゴンはどうして根絶の力が満ちた谷でも平然としている。
そもそも、どうしてドラゴンは。
敢えて好んで発展する街を襲う。
とにかく、今は一旦キルヘン=ベルに戻る事だ。
おばあちゃんはこの谷のことを知っていたようだが。
足を踏み入れたとすれば。
何かしらの「根絶」に対する備えをした、という事なのだろう。
だが、そうだとすると。
一体何をした。
根絶が奪う「未来」とは、本当に文字通りのものか。
一つこの世界のおかしな事に対する疑念が湧くと。
どんどんふくれあがっていく。
そもそもだ。
どうしてあたし達は。
一緒にいられる。
コルちゃんを見る。
力が弱くて勤勉な種族。
ヒト族は。
こういう種族と、仲良くやっていけるほど、本来は頭が良い種族だっただろうか。
頭を振って、雑念を追い払う。
此処は荒野だ。
陣形を組んで高速移動中とは言え、雑念は危険すぎる。
じっくり考えるのはキルヘン=ベルに戻ってから。それに、ホルストさんが言っていたように。一瞬でアトリエに戻れる道具も作っておきたい。
今の実力。
そう、プラフタの魂を移動させるという、驚天の奇蹟を成し遂げた今なら。
出来る可能性が高い。
いずれにしても、この世界は許せないが。
それ以前に。
何処かでおかしな形で歯車が噛み合っていないか。
もしも創造神が意図的にそうしているのだとしたら。
それは、どういう意図のもとでだ。
正しい判断を導き出すには、情報が少なすぎる。
今はただ。
力を付けるしかない。
(続)
トラブルはあったものの、ついに体を得る事に成功したプラフタ。
問題はまだまだ山積みではありますが。
これがソフィーにとっての転機の一つになったのは事実です。
全てでは無いにしても、ある程度の記憶を取り戻したプラフタ。
それは、ソフィーの力を更に引き出す事にもつながります。
その結末がどうであろうとも。