暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ドラゴン戦。

アトリエシリーズではシナリオの転機になったり、エンディングの条件となったりする重要な戦闘です。

この作品でも、それを扱うときがやってきました。


転変飛翔
序、空間を超えて


ドラゴンと戦う。

 

それが現実味を帯びた今。ホルストさんに指定された条件をクリアしなければならない。キルヘン=ベルそのものを守るためにも、絶対に必要な事でもあるし。あたしとしても拠点を失う訳にはいかないのだ。

 

故に作る。

 

まず、プラフタから。

 

空間跳躍について話を聞く。

 

空間跳躍というのは、プラフタによると、案外簡単なのだという。理論と条件さえ限定すれば、だが。

 

「簡単に説明すると、行き先の空間が決まっている状態であれば、空間転送はさほど難しくありません」

 

「行き先……ようするに帰り道限定、という事?」

 

「そういう事になります」

 

プラフタの座学を、向かい合って受ける。

 

あたしはどうしても読むよりも、座学を受ける方が性に合う。これはどうしようもない性質なのだろう。

 

実際座学によって頭に入る知識量は。

 

本を読むより遙かに多い。

 

あたしは客観的に自分を見る事には優れている。

 

多分コレは。

 

自分に対して、異常に無頓着であることと、関係が深いのだろうが。

 

今はそれよりも、話をしっかり聞く事だ。

 

プラフタによると。

 

この世界は、常に動き続けていると言う。

 

星の動きを読む装置がある。

 

これは魔術などに関連している他、非常に微細な錬金術を行うときに、必要になるからだそうだが。

 

星を観察していると。

 

その動きから。

 

この世界が動き続けている事が、明らかなのだとか。

 

故に、その動きまで計算して。

 

出現先を固定する事により。

 

理論上は、空間転移を行う。

 

つまり、決まった場所に移動する事を。

 

空間を飛び越えて行う。という事だ。

 

「それって、一度行った場所に、ぽんと飛ぶ事は出来ないの?」

 

「そもそも、飛ぶ先を固定する事自体が相応に時間が掛かります。 つまり、このアトリエに移動する事は難しくありませんが、狙った場所に移動するのはあまり現実的ではありません」

 

更に、と。

 

プラフタは言う。

 

いっそのこと、このアトリエの中の位相をずらしてしまうと。

 

更に難易度は下がるというのだ。

 

アトリエ内を城のように広くしたいと以前プラフタは言っていた。

 

その理由の一つが、これだという。

 

「内部空間を広くすれば、多くの設備を作る事が出来るのですが。 それと同時に、「入り口だけ」空間転移する場所を作れば良いという事にもなります」

 

「要するに、内部の空間を独自に切り取ることで、飛ぶ場所を「完全固定」する事が出来ると言うこと?」

 

「そういう事です。 アトリエの入り口だけ、空間が移動する事を計算すれば、後の場所は「戻ってくる」事のみを考慮すれば良くなります」

 

「なるほど……」

 

廊下にずらっと並んだ扉。

 

それらは全てアトリエに戻ってくるためのもの、という事。

 

何処にいようと、アトリエに逃げ込めるとなると。

 

戦闘における戦略も、戦術も。

 

いずれも非常に選択肢が豊富になる。

 

例えば、時限式の超強力爆弾を仕掛けて。

 

さっさとアトリエに逃げ込む、という策も取ることが可能になる。

 

如何にドラゴンでも、どうしようもないような爆弾を造り。

 

それだけ残して時間差起爆。

 

ドラゴンも周囲もまとめて木っ端みじん、と言う訳だ。

 

勿論被害が洒落にならなくなるから、あまり好ましい戦術では無いが。

 

手としてはある。

 

理解出来た。

 

早速、具体的な方法について確認する。

 

プラフタは頷くと、まずは空間への干渉についての基礎理論を教えてくれる。

 

簡単に説明すると、この世界は三次元空間と呼ばれるものであり。

 

それと時間が混ざり合っている。

 

この空間そのものに干渉するには。

 

上位次元からのアクセスがどうしても必要になるという。

 

上位次元になってくると、更に世界を構成する要素が増え。

 

その要素を操作する事で、下位次元を自在に操ることが出来るようになるのだとか。

 

細かい理論についても説明を聞く。

 

あたしがゼッテルにこんな感じかと、書いてみせると。

 

プラフタは頷いた。

 

「ソフィー。 貴方は人に話を聞くのと、自分で本を読むので、理解力に雲泥の差が生じますね。 それは不思議な事であるように思います」

 

「不思議な話なんだけれど、あたしが自分で書いた本の場合、どんなにぐっちゃに書いていても、後から読んでもすぐ理解出来るんだよねえ」

 

「……思考回路が非常に独特なのかも知れませんね」

 

「まあ別にそれはどうでもいいよ。 続けて」

 

授業をそのまま続ける。

 

途中モニカが来たので、少し中断。

 

そして、今後アトリエの中が広くなるかも知れない、という話はした。

 

前もその話は限定的ではあったがしていたので。

 

モニカは驚かなかった。

 

「それよりも、コルネリアさんが用事がある様子よ」

 

「何だろう。 戦略物資については納入している筈だけれど?」

 

壁にある依頼のボードをチェック。

 

全部終了している。

 

爆弾も薬も。

 

現時点で出来るものは、全て納入済みだ。

 

マイスターミトン、友愛のペルソナ、グナーデリング。それに全自動荷車や全自動荷物積み降ろし装置。旅人の靴。

 

これら戦略級の物資についても、要求量は全て納入している。

 

特に薬に関しては、最近は伝染病に対応したものも作ってくれと頼まれていて。それらも既に何種類か準備してある。

 

特定の内臓が壊れている場合に修復する薬などもだ。

 

実は、おばあちゃんのレシピを見ると。

 

アンチエイジングの薬についてもあるのだが。

 

これらは、その内手を出そうと考えている。

 

あたしにとっては、人間の寿命は短すぎる。

 

何も、人間という枠組みのまま生きる必要はないし。

 

出来る事があるのなら、更にやってみたい。

 

老いは判断力を鈍らせるし。

 

身体能力も衰えさせる。

 

それから逃げるためには。

 

錬金術でのアンチエイジングは必須だ。

 

いずれにしても、今の時点で、あたしがやるべき仕事は、無い筈なのだが。ともかく、コルちゃんには今後も世話になる。

 

話は聞いておいた方が良いだろう。

 

「後で顔を出すよ」

 

「そう。 それと、差し入れ。 この間のクッキーのお礼だって」

 

「ありがとう」

 

受け取ったのは、保存用の燻製肉だ。

 

現在三十名ほどいる自警団の内、半数はまだ訓練中だが。その訓練中のメンバーが、仕留めた野牛のものだという。

 

野牛は大きいものだと陸魚並のサイズになる事もあり。

 

ネームドになる事もあるそうだ。

 

肉が美味な分、戦闘力は非常に高く。

 

荒野で見かけた場合、必ず仕留める事が要求される。

 

一方で、この巨体。

 

どうやって維持しているのか、よく分かっていない。

 

基本的に植物を専門で食べる生物は大きくなりがちらしいのだが。この世界で、どうやって栄養を取っているのかは。プラフタの時代から、分からないらしい。

 

モニカにもその話を振ってみるが。

 

やはり分からないらしい。

 

まあそうだろう。

 

500年前にも賢者と呼ばれていた人間にも分からないのだから。

 

燻製を受け取った後。

 

座学を続ける。

 

食事を挟んで、基礎理論の講座を続けて。

 

三日ほどで。

 

どうにか理論は理解出来た。

 

プラフタが言う通り。

 

アトリエの入り口ドアを改装してしまった方が良いだろう。

 

一度アトリエを異空間化すれば、内部のカスタマイズは容易だという話であるからだ。

 

ひょっとするとだが。

 

最終的には、アトリエを同じ原理で、持ち運びできるようになるかも知れない。

 

ただ、今の時点では。

 

外に固定されたドアを。

 

どう変質させるか、が重要だろう。

 

理論を理解した後は。

 

レシピを作る。

 

まずはアトリエを、空間的に固定する。

 

問題は、その場合。

 

アトリエそのものが、異空間の中に浮かぶことになるため。

 

息をするための空気などが無くなる場合があるそうだ。

 

そのため、空気などは提供する仕組みを作らなければならないのだが。

 

ドアを開ければ、勝手に外とつながるとはいえ。

 

何かしらの工夫が必要になってくるだろう。

 

或いは、空気を取り入れるためだけに、一箇所実験的に空気の入れ換えを行う場所を作って見るのも有りかも知れない。

 

それと、だ。

 

現在、もっとも外と密接になる必要性のある場所がある。

 

炉の煙突である。

 

熱を操作する炉は、このアトリエの中枢部と言っても良く。

 

今後拡げるにしても何にしても。

 

これが外に対して解放されなければ、非常に危険な事態を起こすことはほぼ間違いないと判断して良いだろう。

 

そうなると、だ。

 

少なくとも三箇所。

 

アトリエをこの世界から切り離すとしても。

 

この世界とつながった場所を作る必要が生じてくる。

 

入り口。

 

空気の入れ換え場所。

 

それに放熱を行う場所、である。

 

実際問題、異空間がどうなっているか知れたものではないので。下手に異空間に放熱口をだしたりしたら。

 

逆に超がつくほどの冷気が流れ込み。

 

一瞬でアトリエ全てが凍結してしまうかも知れない。

 

ただ、いきなり其処までやるのは無理だろう。

 

最初は、異世界にアトリエを別に造り。このアトリエはアトリエとして、活用するべきだ。

 

プラフタはその辺りの話をすると。

 

何度も感心して頷いた。

 

「素晴らしい着眼点ですね。 特に説明もしてないのに、その辺りまで考えつくというのは、1を知って10を知るという言葉通りです」

 

「ありがとう。 それでこんな感じでどう?」

 

まずあたしは。

 

放熱口から試してみることにした。

 

レシピとしては、それほど難しくは無い。

 

だが。プラフタは、幾つかの修正点を上げる。そして、更にもう一つ、難しい注文を付けてきた。

 

「これから行う錬金術は、極めて高い精度が必要になります。 中核となる素材は、最低でも私の採点で65点以上が必須です。 更には、コルネリアに複製して貰った方が良いでしょう」

 

「少し出費がかさむけれど仕方が無いか」

 

「必要な出費です」

 

レシピを手直しする。

 

また、少し修正を入れられた。

 

恐らく、プラフタは完全なレシピを書けるのだろうけれど。

 

あたしの場合は、此処で自力でレシピを作らないと意味がない。

 

後、プラフタは。

 

最近時々、文句を言うようになって来た。

 

「仕方が無いとは言え、もの凄いくせ字ですね」

 

「これはね……」

 

実は、である。

 

これはおばあちゃんが、もの凄いくせ字だったのだ。

 

あたしに読み書きを教えてくれた人は何人かいるが、その中でもおばあちゃんは非常に癖が強い字を書き。

 

ホルストさん達も、一緒に冒険するときは。

 

宿の記帳などは、自分達でやっていたらしい。

 

それがまんまあたしにうつった。

 

ただ、この字そのものは、あたしは好きだ。

 

おばあちゃんが中にいるようで。

 

だから、あたしはこのくせ字を直すつもりはないし。

 

今後も何を言われようと、変えるつもりも無い。

 

また手直しが入る。

 

あれ。

 

今度は完璧かと思ったのだが。

 

理由が分かった。

 

そういう事か。

 

外に晒される部分があるので、ガードを付けた方が良い。

 

バードストライクなどの要因で破損した場合、何が起きるか分からないからだ。

 

錬金術で変質させたインゴットで強固な外部防御壁を造り。更に魔術でのガードも行うように、意思を持たせる。

 

これでどうだ。

 

プラフタは、レシピを見た後。

 

頷いた。

 

「大体良いでしょう。 後はメンテナンスを行えるようにしてください」

 

「了解、と」

 

これで最後の手直し。

 

結局、理論を習ってから、良しを貰うまで10日ほど掛かってしまったが。

 

それも仕方が無い。

 

何しろ、下手をすれば。

 

それこそ何が起きるか。

 

知れたものではないのだから。

 

レシピをチェックして、必要な素材を見繕う。コンテナをチェック。素材については、大丈夫だ。

 

最近は、周辺を哨戒している自警団が、あたしの所に肉類や毛皮類は届けてくれるので、それらについては必要ない。

 

ネームドから取れる貴重な素材については、コルちゃんに預けて、増やせる体勢を整えている。

 

幾つか直接増やす必要があるものを見つけたので。

 

リストアップ。

 

コルちゃんに呼ばれていたこともあるので、アトリエを出た。

 

雨が降っている。

 

モニカが出て行ってから、四刻ほど過ぎていた。

 

朝だったのに、もう夕方だ。

 

集中して勉強すると、結構こういう事が起きやすい。

 

雨はかなり陰湿な感じで。

 

非常に冷たく。

 

それでいて、激しすぎもなく。

 

何というか。

 

真綿で首を絞めるような感触だった。

 

コルちゃんは商売をしていた。

 

かなり早めに店を閉めるコルちゃんなのだが。あたしが忙しい事は彼女も知っている。何より商売道具の納入元だ。コルちゃんとあたしは一蓮托生である。

 

「待っていたのです」

 

「少し痩せた?」

 

「いえ、だいぶ回復してきたのです……」

 

そういえば、プラフタを人形にするときに、かなり無理をして貰ったし、仕方が無いとは言える。

 

気付くと、ぺこりと一礼された。

 

ホムの子供だ。

 

女の子であるらしい。ホムはヒト族からは性別も見分けづらいので、色々工夫して、衣服でそう分かるようにしてくれている。

 

「少し前に来た商人の所から離れて、この街に定住することになったのです。 しばらくは私の所で見習いなのです」

 

「よろしくお願いしますのです」

 

「よろしく。 あたしはソフィー。 貴方は?」

 

「ガンマ22と申しますのです」

 

名前に数字を着けるとは珍しいが。

 

コルちゃんの話だと。

 

大商人の子供には珍しくないという。

 

「大商人のホムは、たくさんたくさん子供を作るのです。 その結果、名前に数字を入れる場合が出てくるのです。 この子もそうなのです」

 

「そう」

 

コルちゃんに比べると質素な衣服だけれど。

 

良い所のお嬢だったのか。

 

だが、それにしては、どうして。

 

コルちゃんによると、強欲なヒト族商人の所に見習いに出されたはいいものの、あまりにも不真面目な態度と、いい加減な計算に頭に来ていて。この街の発展ぶりを見て、商売をするなら此処だと考えたらしい。

 

コルちゃんは、今の時点で人手が足りないと感じていたらしいが。

 

現時点で、キルヘン=ベルでは、幾つか機能していない商売がある。

 

一例が肉の専門店で。

 

現時点では、カフェで獲物を引き取って、其処から分配する仕組みになっている。

 

これを専門の肉屋が請け負うようになれば。

 

それだけ経済が回り。

 

皆豊かになる。

 

現時点では、困窮している住民もいないし。出そうな場合は早めにホルストさんが手を打っているので。

 

新しい商人が来るのは歓迎だ。

 

なお、ガンマ22ちゃんには、錬金術は使えないそうだが。

 

コルちゃんが言う限り、商人としては充分なレベルで能力はあり。真面目で、適切に数字を扱えるという。

 

「いずれ業務としてスタートさせるのです」

 

「なるほどね」

 

「それで、ですね」

 

コルちゃんが口元を抑えると。

 

ガンマ22ちゃんは、頷いて倉庫の方へ行った。席を外してくれたという事だ。

 

雨の中。

 

傘を差したあたしと。

 

傘の下で商売をしているコルちゃんが向かい合う。

 

少し躊躇った後。

 

コルちゃんは言う。

 

「ソフィーさんにお願いがあるのです」

 

「なあに。 ああ、それなら先に商売の話をしておこうか」

 

「ああ、はい」

 

増やして貰うものと、その期限を指定。

 

コルちゃんは少し青ざめたが。期限内なら何とか、と言ってくれた。

 

計算を終えたコルちゃんが嘆息するのを見届けてから、改めて話を聞く。どうせ、あたしにとって愉快な話ではないのだろうが。

 

それはコルちゃんの態度から分かっていたので。

 

敢えて何も言わない。

 

「ソフィーさんが、その。 親の話をとても嫌うのは知っています。 その上で、お願いなのです。 これを……直して欲しいのです」

 

「どれ」

 

受け取ったそれは。

 

箱に見えた。

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