暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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空間操作について。

これが出来る時点で、既に此方の現在文明を超えています。

アトリエシリーズの錬金術師には、時間操作をこなす者もいますが。

空間操作をこなす者も、また多いのです。


1、空間のくびき

アトリエに戻る。

 

注文した品が揃うのは二週間後だが、順番に受け取る間に、順番に出来る事をやっていく予定だ。

 

まず最初に、以前作った深核の中和剤を使って。

 

順番に作業を進めていく。

 

採寸した排熱口のサイズのままに、まずは型を作り。其処に溶かしたインゴットを流し込んで成形する。

 

これは外側の部分で。

 

型に流し込んだ後、炉で熱し、冷やす。型から取り出すと不純物がどうしても出るので、不純物を取り除いた後。またインゴットを追加し。最終的に満足がいくまで成形を繰り返す。

 

やがて凹字にくぼみが出来た金属が完成。

 

問題なし。

 

此処に水を流し込み。

 

炉で冷やして、今度はこの氷を使って型どりをする。

 

そう。

 

この型通りに、中核となる部分を作るのである。

 

この作業だけで二日。

 

そして、作業をする合間に。

 

コルちゃんから受け取った箱を調べる。

 

箱を調べていくと、内部はかなり複雑な機構になっている。

 

なるほど、これは機械細工か。

 

動かす手順は聞いているが。

 

その通りやっても何も起きない。

 

コレを直して欲しい、というのがコルちゃんの依頼。なお、ハロルさんには既に頼んだらしいのだが。

 

手に負えなかったらしい。

 

ハロルさんに手に負えないものが、あたしの手に負えるとは思わないが。

 

しかし、コルちゃんは涙ぐんでいた。

 

感情が薄いコルちゃんではあるが。

 

あたしの逆鱗に触れることが何を意味するかは知っているし。

 

その上で、決死の思いで依頼をして来たのである。

 

それならば、最低限の努力をするのは当然だ。

 

それに、コルちゃんとのコネは重要だし、今此処で失う訳にもいかないのである。

 

プラフタが型通りに出来たかどうかをチェックしている間に。

 

あたしは上から下から、機械の構造をチェック。

 

動かそうとするけれど、駄目。

 

勿論動かない理由については、ハロルさんに聞きに行った。

 

その結果、ハロルさんは非常に面倒くさそうに答えてはくれた。

 

「歯車が駄目になっているんだよ」

 

「どの歯車?」

 

「これだ」

 

ハロルさんが、レンズを使って、示してくれる。

 

どうやら歯車の一つが完全に壊れてしまっているらしい。

 

そしてこの機械。

 

そもそも、多数の歯車が連動することによって動いているらしく。

 

一つでも欠けてしまうと、全体が一気に壊れてしまう、というのだ。

 

なるほど。機械には正直あまり詳しくないのだが、随分と神経質なものなのだと感心してしまう。

 

「随分精密ですね」

 

「機械ってのはそういうもんなんだ。 魔術も似たようなものだろう」

 

「確かにそうですけれど」

 

確かに、魔術でも詠唱を間違うと、とんでも無い事が起こりやすい。

 

それを機械でやっているのが、歯車という訳か。

 

なるほど、理解出来た。

 

それで、この欠けた歯車。どうにかならないから、ハロルさんは修理を無理だと言ったのだろう。

 

其処までは簡単に推理できるが。

 

問題は其処からだ。

 

「こういった機械類は、専門の旋盤なんかを使って作るんだよ。 それこそ、今の時代だと両大国の首都や、人口が万を超えているような都市くらいにしかない」

 

「つまり此処には無いと」

 

「そういう事になる」

 

そもそもだ。

 

こういった機械技術は、魔術や錬金術の利便性に押されて、どうしても「進歩」から無縁の場所にあると言う。

 

誰にでも使えるという利点がある反面。

 

技術そのものが複雑すぎる。純度の高い鉱物が大量にいる。専門の機械が必要になる、などの問題点があり。

 

更に錬金術師のように、一人でもいると周囲のパワーバランスがひっくり返るような圧倒的な性能がない。

 

加えて言うと、銃火器は思ったほど威力がない。

 

ハロルさんは長身の銃を使っているが。これは火力を最大限上げているにもかかわらず、普通の獣ならともかく、ネームド以上の相手には、急所に当てないとそれこそかすり傷さえ負わせられない。

 

魔術で防がれる事さえある。

 

こういうこともあって、わざわざ難しい勉強をしてまで機械を学ぶよりも。簡単な鍛冶に走ったり。使える者が比較的多い上、機械と同等以上の火力をたたき出せる魔術に頼ったりするケースが多いそうだ。

 

その結果。

 

失われてしまう技術まであるのだとか。

 

ハロルさんの不満そうな顔。

 

あたしもよく分かる。

 

「機械技術が極限まで伸びれば、それこそ錬金術に並ぶのかもしれない。 だがな、今の機械技術では、魔術とせいぜい互角、というのが良い所なんだよ」

 

「なるほど。 では、歯車をあたしが直したら?」

 

「……その時は責任を持ってどうにかしてやる」

 

機械をばらし始めるハロルさん。

 

そして、小さな小さな歯車を、手渡してくれた。

 

なるほど、コレを修復するのか。

 

少しばかり手間だが。

 

しかしやってみる価値はありそうだ。

 

アトリエに戻る。

 

丁度炉の状態が良くなっていた。プラフタはおばあちゃんの本を片っ端から目を通していたが。そろそろ読む本がなくなりそうである。その内、エリーゼさんの店に行って、参考になりそうな本を漁りはじめそうだ。

 

歯車の件はコルちゃんに取っても重要なので、片手間とはいえきちんとこなさないといけないだろう。

 

だがそれより先に。

 

空間に関する錬金術を学ばなければならない。

 

「ソフィー。 炉は良い感じですよ」

 

「どれ」

 

見てみるが、確かにこれで充分だろう。

 

取り出したインゴットを、中和剤につけ。叩いて伸ばしつつ、変質を促していく。かなりクリアな音が聞こえるようになって来ているが。最近分かってきたが、高品質な素材ほど、この雑音が綺麗に聞こえる。

 

更にインゴットを強化しつつ。

 

魔術を順番に仕込んでいく。

 

座標をそらす術式に似ているが。それを何十倍も強化した結果、「穴を開けていく」感じが説明としては近い。

 

問題は魔術では出力不足で出来ない事だ。魔王と呼ばれるクラスの魔族でも無理。

 

空間に穴を開けること自体は出来るが。

 

これからやるのは、それだけではないのだ。

 

更に、拡張肉体を使ったときの容量で。

 

インゴット自体を魔法陣化し。

 

呪文を刻み込んでいく。

 

更に、五芒星魔法陣の頂点に。

 

前にやったように増幅を行う拡張肉体と同じものと。

 

更に、座標固定の術式を展開するものを。

 

それぞれ着ける。

 

このうち、座標固定の方は。

 

任意に切り替えが出来るようにする。

 

しばし四苦八苦した後。

 

一応、理屈上は成功。

 

腕組みして、小首を捻る。

 

本当にコレで上手く行ったのだろうか。

 

数日がかりの錬金術だったので。

 

おなかがすいた。

 

プラフタは基本的に食事がいらないので。

 

カフェに出向く。

 

カフェでしばらく無心に料理を貪った後。ホルストさんに、例のものが準備できているか確認。

 

答えは是、だった。

 

例のものとは、今人が住んでいない家である。

 

というか、正確には、人が住みたがらない家の残骸、だ。

 

前にこの家に住んでいた老夫婦が変死。

 

恐らくは病死だろう事は、検死に当たった何人かから聞いているのだけれども。

 

噂が流れたのである。

 

伝染病にやられたのでは無いかと。

 

この世界では、霊よりも邪神が怖れられるし。同様にして、匪賊よりも伝染病が怖れられる。

 

勿論現在に至るまで、キルヘン=ベルでは伝染病は起きていないし。

 

伝染病が発生したとしても、すぐに初期消火に成功している。

 

これでも今までおばあちゃんが造り貯めた薬があったし。

 

あたしも最近は、一通り伝染病の特効薬については作れるようになっている。

 

だが、それでもなお。

 

伝染病が発生した(という噂の)家には住みたくない。

 

そう考えるのが、心理であるらしい。

 

あたしは頷くと。

 

下見に行く。

 

途中、声を掛けられた。

 

土地に古くから住んでいるお婆さんだ。おばあちゃんに比べると年は少し下だけれども、この街の最古参の一人である。

 

「ソフィーちゃんや」

 

「どうしました、アデラおばあちゃん」

 

「あの家を買ったんだって?」

 

「そうですよ。 錬金術に必要ですから」

 

しばし黙り込むアデラお婆さん。

 

この人は、おばあちゃんがキルヘン=ベルを拡大していく過程も知っている、歴史の生き証人である。

 

だからないがしろには絶対に出来ない。

 

だが、同時に。

 

年寄りの言う事を、全て鵜呑みにすることも出来ない。

 

「伝染病が発生したという話だよ」

 

「大丈夫ですよ。 あたしには伝染病なんて効きませんし、それも噂話です」

 

「そうなのかねえ」

 

「そうです。 安心してください」

 

笑顔で応じると。

 

奥の方を見ながら歩く。

 

既に防護壁は完成。

 

新市街地の建設が急ピッチで進んでいる。

 

新しく街の住人になる人が主に住み着いているのだけれど。中には、古くからの住人で、家を其方に変える人もいた。

 

新しい家の方が良いだろう、という事らしい。

 

いずれにしても、今の時点では、家は充分に余っている。

 

ただ、それにも限度がある。

 

現時点では、人口が1000人を超えるくらいまでは、防護壁を拡張しなくても良いだろう、という結論が出ているが。

 

だが、それでも。

 

無駄な土地はなくしたい。

 

これか。

 

足を止めると。

 

石積みの古い家があった。

 

既に話は通っている。

 

獣人族のたくましい男達が来て、あたしが頷くと、解体を始めた。

 

既に誰も住んでいない家だ。

 

荷車に石材を積み込み、移動させていく。移動させるのは、あたしのアトリエの近くである。

 

この家程度の規模であれば。

 

全自動荷物積み降ろし装置も使う必要はないだろう。

 

あれはそもそも、誰でも重い荷物の積み降ろしが出来るようにしたものだ。

 

ただ、全自動荷車は使う。

 

獣人族の男達にも、勿論お給金は払う。

 

流石に彼らのパワーはたいしたもので。

 

グナーデリングを支給している事もあり。

 

更に倍増し。

 

またたくまに、不吉な噂のある家は、基礎から解体され。

 

あたしの家の前に、その残骸を運ばれて行った。

 

その後、更地になった土地に、あたしは周囲の目がある事を承知の上で、解毒薬を撒いておく。

 

更に伝染病の対策薬も、無駄と言う事を分かった上で撒く。

 

不安になっている人達も。

 

これで安心できるだろう。

 

胸をなで下ろす住民達。

 

主に年配の人が多かった。

 

「見ての通り、疫病対策はしっかりしておきましたよ。 今後此処で何か起きることはありませんから、安心してください」

 

「ありがとう、ソフィーちゃん」

 

「助かったよ」

 

「いえいえ」

 

老人達に笑顔で返すが。

 

あたしは内心舌打ちしている。

 

こんな過酷な世界で生きていても、人間年老いるとどうしても思考回路が硬直化してしまう。

 

この老人達だって、若い頃は荒野と戦い。

 

猛獣を仕留め。

 

この理不尽な世界に抗って。

 

現実的に生きてきた人達なのだ。

 

それなのに、年老いると、こんな噂に流されてしまう。これはとても良くない事だと、あたしは思う。

 

だが、それは敢えて口にはしない。

 

咳払いすると、あたしはアトリエの前に戻り。

 

山積みされている石材を見て、満足した。

 

コレを使い。

 

座標が固定された異世界に、もう一つのアトリエを作るのだ。

 

そして、今後は。

 

今のアトリエと。

 

そのアトリエを。

 

セットで有効活用していく事になる。

 

最終的には、異世界に固定してしまいたいが。当面は二面運用で良いだろう。

 

拡張肉体を飛ばし。

 

放熱口の状態を確認する。

 

視界も共有しているので。

 

炉の放熱口が、異世界に通じるかのチェックはこれで出来る。

 

現時点では。

 

出来ている。

 

なんというか、虹色の光が満ちた、不思議な空間だ。

 

拡張肉体を通じて入ってくる情報は他にも幾つかあるが。

 

気温は正常。

 

多分死ぬ事は無いだろう。

 

後、息も出来そう。

 

前に実験で、拡張肉体を煙の中に突っ込んだことがあるのだが。

 

その時は息が出来ないと、一瞬で理解した。

 

拡張肉体で共有しているのは、五感も、なのである。同時に体にとって危険かどうかも、自動判断出来るようにしている。

 

つまり現時点では、得体が知れない空間に投げ出されることはあっても。

 

其処で即死することは無い、という事だ。

 

プラフタに聞いてみると。

 

ふふと、優しそうに笑った。

 

「今、指定した座標の世界は、我々の住んでいる世界に極めて近しく、環境も安定しているのです。 ただ、あまりにも目に悪すぎると言うことだけが悪条件で、それも中で家を作ってしまえば、解決できます」

 

「じゃあ、もう少し大きなドアをまず作らないとね」

 

「そうです」

 

小さな煙突用の、異世界への扉は出来た。

 

だがこれから、同じようなものを幾つか作っていくし。更に言えば増やしていかなければならない。

 

当面は現実世界に存在するアトリエと。

 

異世界に作ったアトリエを。

 

用途によって使い分けていくことになる。

 

異世界に作ったアトリエは、どんどん拡張していくし。

 

現実世界に残したアトリエの方は、普段使うような薬をおいたり、或いは応接に使用したりする。

 

このおばあちゃんの作ったアトリエを根こそぎ無くすつもりは無い。

 

ただ、異世界にもアトリエを造り。

 

それを有効活用する。

 

其方に主体を移動させていく。

 

それだけである。

 

ドアについては、切り替え機能を付けて。

 

現時点で存在するアトリエと。

 

異世界にあるアトリエと。

 

両方に行けるようにする。

 

また、異世界に作るアトリエには。

 

現実世界にあるアトリエのドアに、問答無用で出るようにドアを作っておく。

 

というか、そのドアは、現実世界に存在するものなので。

 

ある意味改めて作り直すわけではないのだが。

 

石材は別に放置していても、痛むようなものではない。

 

コルちゃんに頼んだ素材が仕上がる前に。

 

せっせと必要な部材を作っていく。

 

流石に放熱口のものよりかなり大きくなるが。

 

基本的な仕組みは同じだ。

 

問題は、外にいる時に、このアトリエに一瞬で移動するためのもので。

 

それを機能させるためにも。

 

速いところ、異世界に形だけでも、家を作らなければならない。

 

ともかく。

 

ドアは仕上げてしまいたい。

 

インゴットの調整開始。

 

炉に放り込んでから、話を聞くことにする。

 

「時にプラフタ。 位相の異なる世界とか、上位次元を活用できていた錬金術師って、プラフタの時代はどれくらいいたの?」

 

「少なくとも私と、私の相棒だった人は実施できていました。 アトリエをまるごと、この世界の別の座標に転送した事もあった気がします」

 

「へえ、凄いね」

 

「……そうですね。 後は、世界でもトップクラスの錬金術師、二十人くらいでしょうか」

 

そうなると、当時より精鋭が多いと聞く今の錬金術師でも。

 

多く見積もって出来るのは五十人、というところか。

 

公認錬金術師がそもそも二百人を超えないと聞いている。

 

その上、商人などの話で聞く限り。

 

公認錬金術師試験は狭き門で。

 

年に三人から五人程度しか合格しないそうだ。

 

そのほかの錬金術師に関しては、あまり質も高くないという話も聞いていて。

 

だからあたし(当然そのほかに含まれる)の錬金術の産物の質の高さを見て、商人が驚いて買いに来る、という仕組みになっている。

 

もっとも、あたしは。

 

公認錬金術師になっても、薬などの売り上げの管理は、ホルストさん達に任せるつもりだが。

 

有り体に言うと、商人としても活動するのは煩わしいのである。

 

ただし、あたしがやる気を無くしたら、街が立ちゆかなくなる、という事はしっかり理解して貰わないといけない。

 

ホルストさんもいつまでも明晰なわけでは無い。

 

昔は明晰でリアリストだった老人達のあの耄碌を見たばかりだ。あたしは頭が花畑ではない。

 

街のためにあたしが錬金術をやるのは当然、みたいな事を言い出すようになるようなら。相応の措置を執る。

 

それくらいの危険人物であることは。

 

時々街の住民には、見せておく必要があるだろう。

 

作業をしながら。

 

拡張肉体を使って、石材を異世界にどんどん運び込む。

 

元々が家だったのだ。

 

組み合わせれば、元の家に戻る。

 

分解するときに数字を書き込んであるので、その通りに組み合わせるだけの上。

 

異世界は地面も空もなく。

 

石材を運び込んでしまえば後は簡単だった。

 

ただ、どうも体が浮いてしまうようなので。

 

一方向に体が固定されるような仕組みを考えなければならないだろうが。

 

グラビ石を応用すれば、どうにかなるだろう。

 

並行作業で幾つか同時にこなしつつ。

 

あたしは今後のための準備を着実に整えていく。

 

本人には言わないが。今までの情報を総合する限り、プラフタは失敗したとあたしは考えている。

 

おそらく、彼女とパートナーは、あまりにも人が良すぎたのだ。

 

故に最もタチが悪い連中に目をつけられてしまった。

 

あたしはそうはならない。

 

タチが悪い連中が寄ってきたら、その場で叩き潰す。それについては、今のうちから周囲に理解させておく。

 

鏖殺のソフィーという渾名が、既に匪賊の間では囁かれているらしいが。

 

その渾名。

 

噂では無く、本当にしておくべきだろう。

 

雑作業をこなしつつ、コルちゃんの錬金術の仕上がりを待つ。

 

そして、材料が揃ったタイミングで。

 

ついにあたしは。

 

本格的に、アトリエの拡張作業と。

 

アトリエに一瞬で戻れる道具の作成を始めた。

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