暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
材料が揃ったので、プラフタと一緒に相談しつつ、ドアの改造に入る。
基本的には、現在のアトリエに入れるようにするのだが。
条件が整うことで、組み立てが終わった異世界のアトリエに行けるようにするのである。
座標の固定は済んでいる。
放熱口の方で実験して。ノウハウは掴めているし。
あたしは一旦覚えると、それをすらすらとこなせるらしい。
プラフタがその辺りは保証してくれたので。
一流の錬金術師のお墨付き、というわけだ。
問題は切り替えについてだけれども。
ドアノブを特定手順で廻す事により。
異世界へと飛べるようにする。
この扉は、異世界側の方は弄らない。
つまり、異世界側からは、そのままつながっているアトリエのドアへと出られる、というわけだ。
サイズが違うだけなので。
理論は同じ。
ただ、放熱口は正方形だったのに対して。
ドアは長方形になるので。
少しばかり工夫がいる。
インゴットを叩いて伸ばし。
変質させながら。
額の汗を拭った。
プラフタはというと、色々な本を徹底的に読みあさって。
やはり予想通り、ついにおばあちゃんの本を読了。
エリーゼさんのお店に行って。
本を借りては、種類を問わずに徹底的に読み込んでいるようだった。
500年。
文明は進歩したわけではない。
錬金術と言うバランスブレイカーな技術。
魔術は既に技術的に頭打ち。
機械技術もそれは同じ。
故に、500年間で、画期的な技術は殆ど発明されていない。
プラフタが学んでいるのは、歴史だ。
彼女が死んでから500年で何が起きたのか。
そして、どのように人々が推移していったのか。
それらを徹底的に調べる。
何かをたどるように。
あたしは、四苦八苦しながらも、レシピを完成させて。
そしてプラフタに見せる。
長方形に変わったことで、ちょっと異空間への穴を開けて、座標を固定する魔法陣に修正が必要になった事もあり。
微調整が何回か入った。
一応、既に内部では、アトリエの組み立てが完成はしているのだけれども。
まだ小さな廃屋、程度のもので。
拡張肉体の精度からしても、掃除などは出来ないし。
何よりも、入ると浮いてしまう。
これらもあって。
扉を作っても、その先にやらなければならない事はかなり多いのだ。
まずは、レシピを完成させ。
そして、用意しておいた材料で、調合を始める。
サイズは違うが。
放熱口と基本的な仕組みは同じだ。
せっせと作業を進めていく。
途中、モニカが様子を見に来たが。
煤だらけになっているあたしを見て呆れた。
更に食事も疎かになっている様子を見て、更に呆れ。
料理を作ってくれる。
その間、あたしは黙々と、ハンマーを振るい。
金属を加工し。
変質させ。
更には、自動詠唱の仕組みを組み込んでいく。
モニカも、その様子を見てぎょっとする。
彼女も魔術使いだ。
如何にとんでも無い魔術が、しかも凄まじい増幅が掛かって行われているかは、一目で分かるのだろう。
「ほら、出来たわよ」
「ありがとう。 其処において……」
「駄目。 今食べなさい」
恐らく、この様子では、無理矢理食べさせないと倒れるまで働く、と判断したのだろう。
モニカもむくれているし。
あたしも少し苦笑いすると、食事に掛かる。
美味しい事は美味しいが。
今は作業を進めることが最優先で。
どちらかというと、味よりも栄養が有り難かった。
しばし無言で食事をし。
礼を言って、また作業に戻る。
モニカが、プラフタに愚痴を言っていた。
「ソフィーの体調管理はしっかりしてもらわないと」
「分かっています。 ただ、私も体が人ではなくなってしまってから、色々と感覚が狂ってしまっていて」
「……そうね、ごめんなさい」
「いえ。 むしろ、この姿になっただけでも、とても便利になって助かっています。 出来れば、完全にずれてしまっている私では補助しきれないソフィーを助けてあげてください」
そんなやりとりを聞き流しながら。
あたしは黙々と作業する。
数日がかりで基本的な仕組みを作成。
問題は此処からだ。
ドアノブを工夫して。
条件が整わない限り、詠唱が開始されないように。
更に詠唱が完了しない限り、ドアが開かないようにする。
このためだけに、ドアノブの金属を変質させ。
更に意思を持たせて。
魔術の完成を確認した場合しか、ドアを開けられないようにした。
この仕組みはレシピで一番修正が入った部分で。
あたしも苦労したが。
ともあれ。予定通りに作成。
まずは、普通に使えるかどうかを、確認する。
ドアを開けて、拡張肉体を送り込む。
中には、異世界が拡がっていた。
恐ろしい事に、放熱口からはいるのとは、少し座標がずれている。
これだから、先に実験は必須だ。
冷や汗ものである。
すぐに微調整。
そうすると、やはり長方形にした影響で。
魔法陣に歪みが生じていることが分かった。
微調整を行う。
元々凄まじい増幅を掛けているのだ。
プラフタを人形に移すときも、本来の詠唱を2500倍に増幅したが。今回の増幅は4000倍に達している。
ほんのちょっとでもずれれば。
内部での座標ぶれは、とんでも無い事になる。
二日がかりで、検証を挟みながら、調整を実施。
途中プラフタの言葉が気になったからか、モニカが様子を見に来て。
あたしのために、黙々淡々と食事を作っていった。
これは、街のためでもある。
あたし達が瞬時に街に戻るためには。
この異空間への転移が必須になる。
この扉が完成したら。
他にも幾つか、異世界に設置したアトリエのための調整を行った後。移動先にも持って行ける扉を作らなければならない。
ノウハウの蓄積は必須だ。
丁度モニカが何かを獣脂で炒めている間に。
扉の調整が完了。
開けて、拡張肉体を送り込む。
今度は、上手く行った。
廃屋の中のような空間に出る。
あたしも顔を突っ込んでみるが。特に致命的な事も無い。息をすることも出来る。ただ、何というか。
上下の感覚がなくなるような、不思議な感触を味わいはするが。
「よし、上手く行ったね」
「次はドアノブですね」
「うん」
此方は既に出来上がっているので、試す。
詠唱の完成までには、半刻ほど掛かるので。
丁度その時間を利用して。
モニカの作ってくれた食事を食べる。
薬草と根菜と肉を炒めたもので。
恐らくオスカーの店で買ってきたものだろう。
畑で取れたばかりのもののようだ。
「ん、身がしっかりつまっていて美味しいね」
「オスカーは、植物を見る目に関しては確かね。 もう少し街が拡がれば、この野菜も商人に売れるのかしら」
「……まあホルストさんに任せよう」
「そうね」
モニカも食事にしていく。彼女は食事の時は寡黙で、黙々と食べる。
少し羨ましそうにしているプラフタ。
彼女も元人間だ。
食事は当然しただろう。
自分が今食事を出来ないと思うと。
色々忸怩たる思いもあるのかも知れない。
元人間であるという事は、色々と不便だなとも、あたしは思う。
感覚も何もかもがずれる。
そういう意味では、出来るだけ早く人間にしてあげたい所ではあるが。
人形を人間に変化させるというのは、更なる驚天の奇蹟だ。
プラフタに聞いてみたところ。
この世界の錬金術師でも、間違いなくトップクラスのもので無いと無理で。それも相当に入念な準備がいると言う。
まあそれは、神々の御技に近い代物なので。
当然とも言えるか。
食事を終えた後。
モニカにも実験に立ち会って貰う。
ドアノブを切り替えてから、空くようになって。
開けてみると、普通に床が拡がっていた。
この時点では問題ない。
では、ドアノブを更に切り替えて。
異世界に行けるようにする。
詠唱が開始され。
しばし待つ。
その間にあたしはお薬をちょっと増やした。
薬が調合し終わると同時に、カチっと音がする。
ドアノブが、大丈夫だと知らせてきたのである。
頷くと、ドアノブを開ける。
異世界が拡がっていたし。
アトリエにつながってもいる。
とりあえず、これで大丈夫だとみて良いだろう。
第一段階は成功だ。
モニカに手伝って貰って、このドアを外に運び出し。元々のドアを外して、付け替える。
少しばかり手間が掛かるが。
これくらいのメンテナンスは特に本職を呼ぶまでもない。
きっちり付け替えた後。
モニカが感想を言う。
「扉、随分と重厚ね」
「腐食を防ぐために、頑強にしてあるんだよ。 防護用の魔術も展開しているから、生半可な攻撃では傷一つつかないよ」
「すぐに戻れるようにするための道具の実験も兼ねているのね」
「そういう事」
では、この状態では使えるか。
早速ドアを開けてみるが。
中には異世界が拡がっている。
良い感触だ。
顔を突っ込んでみるが、座標にずれなどは生じていない。これで充分である。
ドアノブを切り替え。
しばし外で待つ。
雨がしとしとと降っていたが。
それも全て、ドアの屋根部分で弾かれている。
防御魔術は雨も容赦なく弾いていて。
空気の膜のようなものに、雨粒が弾かれて、空中で滝を作って流れている様子は、少し面白い。
「教会に行かない?」
「いや」
「でしょうね。 少し寒いけれど、ならば私も待つわ」
「……」
プラフタは、読んでいた本を、エリーゼさんのお店に返しに行くという。
モニカはしばし黙り込んでいたが。
ため息をついた。
「正式にホルストさんに言われたわ。 次期自警団の団長確定よ。 ただし、三年後だけれども」
「大出世だね。 おめでとう」
「余程の凄腕の新人がでない限り、当面は自警団で手一杯という事よ。 聖歌隊も面倒を見なければならないし」
そうか。
モニカにとっては、少し憂鬱か。
聖歌隊は、あたしには興味は無いけれど。
歌が好きなモニカには、それこそ死活問題だろうし。
教会の子供達に、歌という娯楽を与えるという意味もある。
この過酷な世界だ。
娯楽など知らずに、この街に流れてきた子供だっている。
そういう子供は目の奥に地獄が宿っている事も多く。
普通に生活するのでさえ、四苦八苦しているケースが目立つ。
教会は大嫌いだが。
そういう闇を抱えてしまっている子を、しっかり面倒を見ているパメラさんについては尊敬はしている。
パメラさんが、恐らくはこの街における深淵の者の最高幹部である事も分かっているが。
だとしても、である。
「モニカがそういうなら、あたしも言っておこうかな」
「何かあるの」
「いつでも此処に戻れる道具が作れるようになったら、旅に出ることを考えていてね」
「!」
とはいっても、最低でも近辺の問題を全て片付けてから、だが。
あたしも今のキルヘンベルをすぐに離れて大丈夫かどうかくらいは判断出来る。今は大丈夫ではない。
異世界にアトリエを作れば。
此処へ戻る事は容易になるし。
旅そのものも、此処に戻るための扉を完成させれば。
片道だけを確保すれば、補給にしても回復にしても、睡眠などにしても容易になる。
プラフタは、アトリエを城くらいまで大きくしたいと言っていたが。
異世界のアトリエをそうすれば良いのであって。
何もキルヘン=ベルの土地を圧迫してまで。
巨大なアトリエを作る必要はない。
モニカは嘆息した。
「貴方の性格だから、出歩き始めると此処に戻ってこなくなりそうで怖いわ」
「大丈夫、それはないよ」
「本当に?」
「本当に」
プラフタが戻ってくる。
丁度ドアも開いたので、現実世界のアトリエに戻る。
扉はこれで完成か。
後は、二つの行程をクリアすればいい。
一つは、異世界アトリエ内の、浮いてしまう問題。
これについては、既にプラフタと話しあって。グラビ石を利用した仕組みで、どうにかする目処がついている。
もう一つは、持ち運び式の扉。
荷車を持って行く関係上、荷車が通れなければならない。しかしながら、大きくしすぎると持ち運びが大変になる。
こればかりは少し悩ましいが。
方法については、既に決まっている。
「折りたたみ式」を採用するつもりだ。
モニカが茶を飲んで温まっているのを横目に。
グラビ石をコンテナから取りだし。
加工を始める。
プラフタのアドバイスに従いながら。
グラビ石の性質を反転させる。
ものの意思に沿って、ものを変質させる。
錬金術の真骨頂だ。
グラビ石はどれだけあっても足りない。今回は、これから作る分だけで充分だけれども。
今後は、更にコルちゃんに増やして貰わないと、足りなくなるだろう。
モニカが帰った頃には。
外は夜になり。
レシピはプラフタに六度の駄目出しの後。
完成していた。
久々にお披露目会を行う。
旅人の靴をお披露目して以来か。
あの日以降、しばらく生産に注力したおかげもあって。街の方の資金も、ある程度備蓄が回復。
商人も、東の街とこの街の安全が確保されていることもあって。
かなりの数が訪れ。
お金が流入するだけではなく。
珍しい物資もかなり入ってきていた。
ただ、その過程で怪しいものを売りつけようとするものも増えてきていて。
プラフタがその度に見に行き。
変なものを売りつけようとした商人には、此処での商売に関してペナルティを与える事にしていた。
難儀な話で。
問題を起こすのはヒト族の商人ばかりだ。
少数のホムの商人は、種族上の特性もあって、殆ど問題は起こさない。
非常に誠実な仕事をしてくれるし。
計算ミスなどをした場合も、慌てて戻ってきて、きちんとミスをリカバーしてくれたりするので。
こればかりは、誠実で数字に強いホム達の商人が、重宝されるのも目に見えて分かってしまう。
一度だけ魔族の商人が来たが。
非常に簡単な取引だけをして、すぐに去って行った。
ともあれ、である。
資金に余裕が出来。
あたしの所には、ホルストさんから、アレを作って欲しい、コレを作って欲しいと、依頼が結構来て。
それらを納品した結果、キルヘン=ベルのインフラ整備能力と。
自警団の武装。
更に全体的な住民幸福度は著しく向上している。
故に、だろう。
今回のあたしの作った道具に関しての期待も、大きいようだった。
「今回は、一瞬でキルヘン=ベルのあたしのアトリエに戻る道具です」
「おおっ!」
「いよいよノーライフキングとドラゴンの排除が現実味を帯びて来たな!」
興奮の声が上がる。
あたしが討伐に行っている間、街に脅威が迫る。
それが最大の懸念事項だったのだ。
克服できる道具を作るようにと、ホルストさんは指示をしていたし。
あたしもそれに答えた。
今回のは、待ちに待った道具、という事になる。
更にこの道具が完成した事で。
最悪の場合にも、撤退できる可能性が高くなる。
長距離の撤退戦は悲惨だ。
戦死者が出る可能性も増える。
だが、それも。この道具を使って一瞬で安全地帯に逃げ込めるのであれば、その可能性も減る。
それも、著しく、である。
先に説明する。
まずこの道具で転移するのは、異世界に作っている新しいアトリエ。
そのアトリエには、あたしのアトリエのドアにつながる扉がある。
この扉を経由することで、キルヘン=ベルに戻る事が出来る。
以上である。
実際に、実施してみせる。
持ち運び式の扉だが。
まずは、荷車がそのまま中を通れる大きな形態だ。
それを見て、気付いた者もいるようだ。
この扉は、可変式であると。
簡単に言うと、金属部品をスライドさせる事によって。
ほぼ半分まで、サイズを圧縮する事が可能だ。
これにより、全自動荷車に積み込むことが出来る。
ただし、幾つかクリアする問題がある。
まず第一に、最大サイズにしている状態でないと、異世界アトリエには移動出来ない。
第二に、最大サイズにしてから、異世界アトリエに行くための道が出来るためには、半刻ほど掛かる。
これらはアトリエの扉と同じ仕組みを採用しているから、である。
更に第三の問題。
この扉を設置した場合。
回収は手動で行わなければならない。
つまり本当の緊急避難用、という事だ。
そして最後に、第四の問題。
基本的に、アトリエの扉は、出かけるときは異世界につなげておく。
これを怠ると、緊急避難時に異世界のアトリエに逃げ込んだはいいが。
キルヘン=ベルに脱出できなくなる。
これをクリアするために。
あたしがアトリエを離れてから、一定時間が経過すると。自動的に異世界のアトリエに行くように、扉が切り替わるように追加で仕組みをセットした。
ドアノブの設定を追加しただけだが。
これで異世界のアトリエに取り残されることはなくなる。
なるほどと、皆が頷いていた。
今回の道具は、文字通り専門職であるあたしが。専門的に使う道具である。
更に言うと、戦略物資中の戦略物資であり。
あたしだけが、仲間と一緒に使う事を想定している。
錬金術師が、そもそも戦力としては戦略級という事もあって。
今回はお披露目回でわざわざ提示するのだ。
なお、最悪誰かに持ち去られた場合には。遠距離から自壊させるための仕組みも作ってある。
それらを全て説明した後。
使い方を順番に説明していく。
まず扉を開けてみせる。
中を覗き込んだ顔役達は。
皆驚いていた。
「本当だ。 別の世界につながっているぞ!」
「此方からは真っ暗にしかみえないな。 一方通行になるのか」
「中へどうぞ」
「う、うむ」
最初にハイベルクさんがあたしと一緒にはいる。
既にグラビ石を利用して、床に向けて引きつける仕組みは出来ているので。内部は自由に歩き回れる。
そして、あたしのアトリエの扉が壁にあり。
それを開けると、当然あたしのアトリエの外に出る。
ハイベルクさんは驚いて。
何度も扉をくぐって、そしてお披露目回の会場に戻っていった。
「私も試してみましょう」
ホルストさんも同じようにやってみるが。
此方はハイベルクさんより頭が柔軟だからか、驚きは少なく。
一度試してみてから、何度か頷いていた。
更に、全員に満足して貰った後で、折りたたみをやってみせる。
扉を折りたたんでも重さは変わらないが。
その代わり、全自動荷車に積み込めるサイズになる。
しかし、同時に詠唱が停止するので、もう一度拡げてから再度異世界アトリエに入るには、半刻を待たなければならない。
折りたたみをした後、ドアを開けてみせると。
ただ普通に向こうの景色が見えるだけ。
ドアノブを設定して動かす。
半刻は待たなければならないのが多少苦だが。
まあそれは仕方が無い。
半刻が経過すると、かちりと音がする。
そして、ドアを開けると、再び異世界アトリエに入れるようになっていた。
「素晴らしいな」
「ただ、最悪の場合、このドアを放棄しなければならないのか」
「現時点では、ソフィーだけが使えれば充分だろう。 実績が積まれ、更に改良が進んでから、自警団用にもう一つくらいあれば良かろう」
ヴァルガードさんが、重苦しい声で言うと。
皆もそれに納得する。
そして、ヴァルガードさんに指摘された。
「アトリエの入り口だが、もう一つ作れば良いのでは無いのか」
「え?」
「こんな複雑な仕組みを組み込むと、事故も起きやすくなるだろう。 異世界のアトリエにつながった扉と、通用口のような通常の扉を作っておけば、特に問題はなかろう」
「あ……」
しまった。
そういえばそうだ。
苦笑いする。
ちょっとばかり、技術に関してこだわり過ぎていたかも知れない。プラフタを見ると、やっと気付いたか、という目で此方を見ていた。さては敢えて指摘しなかったな。
元々、今のアトリエを空間的に切り離す、と言う所から話が始まった。
だからそれで、固定観念が出来てしまっていた。
最初から、異世界アトリエから、此方の世界に飛ぶための専用扉は作ろうと思っていたのだし。
色々考えている内に。
基本をすっかり忘れてしまっていた。
「ありがとうございます。 足下がお留守になっていました」
「それでも現時点では充分なものが出来たのだから喜ばしい。 それに、この世には完璧など存在しないのだから、気にするな」
ヴァルガードさんに苦笑い。
確かにその通りだ。
とりあえず、お披露目会は終了。
皆が戻っていく。
比較的緩やかな雰囲気の中で終わったが。
コレは戦いの始まりを告げてもいる。
まずは北の谷のドラゴン。
そしてノーライフキング。
立て続けに叩き潰す。
以前、ホルストさんが言った条件はこれでクリア出来たのだ。最悪の事態に対する備えは、これで達成された。
後は、実際に戦うだけ。
そして、ドラゴン戦を経験しているプラフタがいる。
キルヘン=ベルを完全な安全圏にし。
そしてノーライフキングも仕留めれば。
この辺りが、万を超える人口を維持する人間にとっての大型安全圏になる可能性さえ出てくる。
アトリエに戻る。
ドアノブの設定は固定。これはこれで、いずれ使い路があるだろうから、取っておく。
そして、すぐにヴァルガードさんが手配した職人達が来てくれて。通用口を作ってくれた。
通用口のドアと、異世界アトリエに行けるドアを入れ替える。
これは間違って、異世界アトリエに行けるドアを使って、大惨事になるのを避ける為である。
交換した後、異世界アトリエに行けるドアは、ドアノブの設定を固定。完全に異世界アトリエに行くためだけのものにする。まあ当面は、この設定に固定しておいて大丈夫だろう。
異世界アトリエの方は、炉と釜が必要になる。それと、広さを倍くらいに拡張しておきたい。
いずれプラフタが言うように、城のようなサイズにするにしても。
空気を入れ換えるための窓と。
中に炉を作った後は、事前に作った排熱口の取り付けが作業として必要になる。
更に、他の街に、この異世界アトリエに行くためのドアを設置すれば。街から街へと移動するための手間が大幅に省ける。
喜ばしい事だ。
ドア関連の作業が一通り終わったので。
対ドラゴン戦の作戦立案に移る。
プラフタに話を聞きながら、戦術をくみ上げる。なお、空いた時間を利用して、プラフタの拡張肉体は作ってある。
あたしとしても、ドラゴンを叩き潰す事には興味がある。
準備が整った今。
もはや、躊躇う事は、何も無い。