暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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ノーライフキングに鉄槌を下すときが来ました。

今まで好き放題に無法を働いてきた存在も。

年貢の納め時です。


1、死の洞窟へ

充分に準備を整えた後、まずは東の街へ向かう。

 

旅人の靴を全員が装備しているほか、今回は荷車を三連編成だ。これは、洞窟の攻略に相応の物資を必要とすると判断したからである。いざという時のための食糧も多めに積んで来ている。

 

東の街には、急がず慌てず一日で到着。

 

途中、巡回の自警団と何度かすれ違って、話を聞く。

 

最近は猛獣もかなり数を減らしているという。

 

これは猛獣の絶対数が減ったのでは無く。

 

近づくと殺されると学習して、キルヘン=ベルから離れたのだろう、という事だ。

 

更に、ホルストさんも珍しく外に出ていた。

 

キルヘン=ベル近郊を見回って、緑化できる土地がないか、見当を付けるためだろう。旅人の靴を履き、あたしが作った錬金術の道具でフル装備しているホルストさんは。腰に剣を帯びていて。

 

現役時代の、凄腕の剣士だった時代を、取り戻したようだった。

 

仕事を邪魔するわけにもいかないので、そのまま一礼だけして通り過ぎる。

 

街道の途中から、もう黄金の稲穂が見えていた。

 

二毛作で麦を作っている東の街だ。

 

森を拡げたことで保水力が上がり。

 

あたしの土地活性剤で、畑も強烈に収穫力が上がっている。

 

一方で、全部の土地でいきなり麦を育てるのでは無くて、計画的に収穫もしている様子で。

 

畑と、そうではない場所が。

 

かなり分かり易く区切られていた。

 

働いている農民と自警団が、あたしたちに気付くと敬礼してくる。

 

この街を救ったのはそれほど前の事では無いが。

 

それでも、感謝をしてくれているのは嬉しい。

 

街に入ると、以前は露骨だった貧困の臭いが、かなり緩和されている。

 

家などは補修ラッシュが起きていて。

 

防御壁もしっかり作り直されていた。

 

ミゲルさんが来る。

 

事前に伝令は言っていたし。

 

作戦の開始を喜んでいるのは、恐らくはミゲルさんだろう。

 

ミゲルさん自身も、多少格好がこぎれいになったかも知れない。

 

前は寝る間もないような状態で働いていたようだから。

 

これだけ街が改善したのなら。

 

休む余裕も出来ているだろう。

 

「ソフィー殿。 よう来てくれた」

 

「かなり街の状況は改善したようですね」

 

「おかげさまで助かっている。 嬉しい事に住民も少しずつ増え始めている」

 

街で傭兵を少し雇ったという。

 

それと同時に、錬金術による復興が行われたと聞いて。他の街に離れた住民が、少しずつ戻ってきているそうだ。

 

いずれキルヘン=ベルの規模が拡大したら。

 

合併してしまうのも有りかも知れない。

 

街道に沿って街を拡げて。

 

大きな一つの街にしてしまうのだ。

 

川が途中幾つか流れているから。

 

それを達成出来れば。万単位の人間を養える街が、また一つ新しく誕生する事になるだろう。

 

万を超える住民がいる街は、十を超えない。

 

十万を超える街に至っては、両大国の首都だけだ。

 

そんなこの世界である。

 

人口が万を超えるのが、如何なる意味を持つかなど、言う間でも無いだろう。

 

ただ、そのためには、やはりドラゴンが攻め寄せたとき。

 

撃退出来る程度の戦力はどうしても必要になってくる。

 

邪神の襲来も考慮に入れなければならない。

 

一旦街で休憩した後。

 

ミゲルさんの家に案内して貰う。

 

恐らく、どの住民も、一番苦しかったとき。ミゲルさんが一番身を粉にしていたことを覚えているのだろう。

 

家の中は質素ながら。

 

かなり綺麗になっていたし。

 

ものも増えていた。

 

格好良い剣も飾られている。

 

小さな鍛冶屋があったが。

 

其処で作ったもので。この街のシンボルになれば良いと、ミゲルさんの家に献上されたものであるそうだ。

 

「これを持って私もノーライフキングの巣穴に攻めこみたい所だが、残念ながら私はそれほどの武力を持たないし、この街の管理もしなければならない。 ソフィー殿。 補給と支援は任せて欲しい。 周辺の民の悲願である、巨悪の討伐をお願いしたく」

 

「分かっています」

 

ミゲルさんに頭を下げられてしまうと。

 

此方としても、はいとしか言えない。

 

この人は誠実で。

 

最前線で必ずしも有能に働けるわけではないが。

 

やるべき事を確実にこなして行く事で。

 

堅実に全てを解消していく事が出来る。

 

そんな得がたい人材だ。

 

奥さんの血色も少し良くなっているようで。

 

もう少し体調が回復したら、また子供を作ることを考えてもいいのではないかと、あたしは思ったが。

 

いちいちそういう事は口にしない。

 

一晩軽く休んで。

 

翌朝、東の街の自警団員数名に旅人の靴を提供。

 

共に街を出て、北上する。

 

此処からは川沿いに進み。

 

途中に現れる猛獣を或いは威嚇して追い払い。

 

或いは蹴散らして。

 

程なく、山裾に出る。

 

この山を越え。

 

複雑に入り組んでいる山の中腹にある洞窟が、ノーライフキングの巣穴だ。おばあちゃんが封印してもなお、外に手下を繰り出してくる鬼畜外道。根絶の力を己に使った世界の悪そのもの。

 

山の周辺には。崩れた杭が打ち込まれた痕がある。

 

これ以上進むな。

 

そういう意味だ。

 

だが今回は進む。

 

自警団の戦士達には。此処にキャンプを作ってもらう。

 

周辺にはネームドはいないし。

 

彼らもこの荒野で暮らしている戦士だ。

 

あたしも準備はしてきている。

 

幾つか、道具を持ってきた。

 

周辺に自動回復を展開する魔術を展開する宝玉。これは深核を変質させたもので。深核の強烈な力を利用して作ったものだ。

 

おいておくだけで、体力は一気に回復するし。

 

傷も徐々に治っていく。

 

ただまだ試作段階で、戦闘時に使えるほどでは無いので。

 

今回キャンプの中心に置いておくくらいには良いだろうと言う事で、持ってきた品である。

 

山を越えるのに一刻。

 

なに、枯れ果てた禿げ山だ。

 

迷う恐れなどない。

 

オスカーに聞いてみるが、植物の声さえしないという。

 

川の水源はもう少し北の山で。

 

その辺りには、深い森が拡がっているらしいのだが。

 

其処まで行かないと、基本的に大地は荒れ果て。

 

猛獣はいても。

 

緑はほぼないのだ。

 

山を降り。

 

そして、ノーライフキングの巣穴を確認。

 

周囲にネームドや猛獣が大挙して集まっていた事もあったらしいが。

 

今は静かだ。

 

入り口にはおばあちゃんが張った結界がまだ残っている。

 

淡く輝くそれは。

 

虹色の光を、周囲に放ち続けていた。

 

フリッツさんが頷く。

 

内部はかなり広いが。

 

何処にどんな罠があり。

 

何がどこから出てくるかまったく分からない危険地帯だ。

 

精神を操作された匪賊や。

 

動く屍も、相応の数が迎撃してくることが簡単に推察できる。

 

となれば、油断すれば即座の死が待っていると見て良いだろう。

 

入り口の側につく。

 

自然洞窟の場合、蝙蝠が住み着いたりすると。

 

入り口付近は分厚く糞が堆積し。

 

大量の虫が湧いていたりするのだけれども。

 

この洞窟にそれはない。

 

むしろ、気付かず入り込んでしまった可哀想な蝙蝠が。

 

干涸らびて死んでいる姿さえ見受けられた。

 

つまり入り口でさえ。

 

入ってきた相手を逃がさないし、許しもしないと言う訳だ。

 

そして、プラフタが、口元を抑えた。

 

「これは。 やはり根絶の力は、まだ残っています」

 

「あの谷と同じくらい?」

 

「いえ、この強力な結界でかなり弱まっているようです。 ただ、この様子では……中に尋常な生物はいないでしょう」

 

「そう」

 

あたしは無造作に。

 

干涸らびて死んでいたはずの蝙蝠が、飛びかかってきたのを。見もせず、指を鳴らし。拡張肉体が展開した魔術で焼き払った。

 

同時に、大量の気配が生じる。

 

うめき声と同時に。

 

洞窟の中からも。

 

外からも。

 

土が崩れ。

 

大量の白骨死体が、立ち上がってくる。

 

まだこんなにいたか。

 

いや、恐らくこれは、ノーライフキングの支配範囲に入っているからだろう。前に東の街の近辺で襲ってきた連中は、ノーライフキングが作り上げた軍団の内、比較的強力で、遠隔操作が可能だった奴ら。

 

此奴らはそれよりも弱く。

 

近くでしか動かせない者達だ。

 

「下がりつつ迎撃!」

 

フリッツさんの指示通り。

 

荷車を引きながら、後退。追いすがって来る死体どもを薙ぎ払いながら距離を取る。

 

拡張肉体が片っ端から魔術を展開して焼き払う中。

 

あたしも杖を振るって、掴みかかってきた白骨死体を吹っ飛ばし、木っ端微塵子にした。グナーデリングでパワーが上がっているのだ。

 

ただの白骨死体などこの通りである。

 

包囲網をすぐに抜けると。

 

モニカが詠唱を完了させる。

 

そして、剣を鞘に収めた。

 

ああ、アレをやる気か。

 

あたしは耳を塞ぐ。

 

怪訝そうにするジュリオさん。

 

モニカは、手を広げながら。聖歌を歌い始める。同時に、周囲がミルク色の光に満たされる。

 

いわゆるターンアンデッド。

 

この世に留まっている不死者に、致命傷を与える魔術だ。

 

モニカの使う奴は、周囲全域にそれを放つのでは無く。

 

指向性を持たせて、意図した方向に展開することが出来る。

 

言うまでも無く極めて強力な魔術であり。

 

単純な火力は兎も角。

 

アンデッドに対する攻撃性能という点では、文字通り一撃必殺と言える。

 

プラフタが慌ててあたしの後ろに下がったのも無理は無い。

 

あれを浴びてしまえば、どうなるか自信が無かったのだろう。

 

左右から迫ってくるアンデッドどもは、フリッツさんとジュリオさんが寄せ付けないし。たまに更に後ろに回り込んでくる奴も、オスカーとレオンさんが蹴散らす。

 

ハロルさんは周囲に目を光らせ、奇襲を狙って来る奴を周囲に警告。

 

自身も長身銃で、次々アンデッドどもを撃ち抜いていた。

 

そして正面から来る奴は、モニカが展開している聖歌でまとめて蒸発。

 

文字通り、骨が溶け砕けているのは、見ていて良い気持ちはしない。

 

モニカの側にはコルちゃんがついて、溶けながらも接近する奴を押し返しているが。

 

これはもう、あたしが手を出すまでも無いだろう。

 

激しくも短い戦いは、間もなく終わった。

 

ノーライフキングの住処の周辺と。

 

入り口付近にいた敵については、掃討完了とみて良いだろう。

 

モニカは流石に疲れたようで、あたしが栄養剤を渡すと、一気に飲み干す。

 

一度キャンプにまで戻る。

 

大量の骨は。

 

今までノーライフキングに殺された人々や、動物たちだ。

 

カタキはとってやらなければなるまい。

 

キャンプで休養。

 

今度は、見張りを東の街の自警団に任せ。

 

それぞれ武器の整備。

 

弾薬の補充。

 

休憩に当てる。

 

そして、あたしは。

 

荷車から、次の道具を取り出していた。

 

今回の洞窟を攻略するために。

 

作って置いたものだ。

 

とはいっても、そんなに大した造りの品ではないが。

 

形としてはじょうごのようなもので。

 

口元に当てることで、音に指向性を持たせ、遠くに届かせることが出来る。

 

仕組みとしては、このじょうご部分をインゴットを薄くする事で加工しているのだけれども。

 

非常に薄くする事で。

 

振動しやすくしている。

 

そうすることによって。

 

音が何倍にも増幅され。

 

そして遠くへ届く仕組みになっているのである。

 

更に魔術も自動展開するようにしてあり。

 

コレを使う事で。

 

洞窟の深部へ、モニカの使う聖歌を増幅して、直接叩き込む事が可能となるのである。

 

どうせ入り口付近で奇襲してくるのは目に見えていたし。

 

内部にも戦力が待ち構えているのは分かりきっている。

 

それだったら、まずは実働戦力をこれによって潰してしまう。

 

先ほどの小手調べで、敵の戦力が想定通りか、それの五割増しは超えないことは大体見当がついた。

 

なお、キャンプには。

 

既に、一瞬でアトリエに戻るための扉。旅人の道しるべが設置してある。

 

自警団の戦士達は、物珍しそうに見ていたが。

 

もう少し休憩したい。

 

周囲に柵を作り。

 

防御の魔術は展開し。

 

見張りもいる状態だ。

 

少しくらい遊ぶのも良いだろう。

 

交代で何人かずつ、旅人の道しるべを使って、異世界アトリエの中を見せる。

 

本当に異世界に通じている事。

 

キルヘン=ベルに出られる事を知ると。

 

彼らも驚いていた。

 

「コレは凄い」

 

「我々の街にこれをおいてくれないか。 すぐにキルヘン=ベルに助けを求める事が出来るし、商人を護衛する手間がなくなる」

 

「流石にそんなにたくさん簡単には作れないんですよ」

 

「そ、そうか。 それもそうだな……」

 

ちなみに、もう一つ作って納品した頃には、コルちゃんは痩せこけてダウン寸前になっていた事もあり。

 

当面は新しく作らない、とホルストさんには言われている。

 

まあそれもそうだ。

 

コルちゃんがいなくなると、非常にキルヘン=ベルにとって困ったことになるし。倒れられたら街全体が風邪を引くようなものだ。

 

ただ、それを加味しても。

 

この旅人の道しるべには価値がある。

 

更に。やりようによっては、機能を解除することも出来る事。

 

そうすることで敵の追撃を防げることも説明すると。

 

彼らは大喜びしていた。

 

「頼もしい」

 

「大きな街にいる錬金術師も、驚天の奇蹟を起こすと言うが、この道具はそれらにも劣らぬはずだ」

 

「今後もキルヘン=ベルと我等が街の発展は正に疑いない」

 

「洞窟に動きが!」

 

一瞬で、皆の熱狂が醒め。

 

全員が戦闘態勢になる。

 

キャンプに飛び込んできたまだ若い女性戦士は、最近東の街に来た傭兵らしい。というか、十代前半だろう。しかも、相当に一桁の数字が低い事は間違いない。

 

一丁前に剣をぶら下げているし。

 

話を聞く限り、現時点で既に普通の剣士くらいの腕前はあるらしいので。

 

足手まといにはならないだろうが。

 

それでも、幼すぎて少し心配になる。

 

しかもこの年で各地を旅しているらしく。

 

親がいないのか。

 

いるとしたら、それこそ伝承にあるような、猛獣は自分の子供を谷に蹴落として這い上がってきた者だけを育てるとか、お馬鹿な迷信を信じているのか。

 

そういう親なのか。

 

見かけも男の子みたいな髪型で、とてもではないが外に出して武者修行させるような姿では無い。

 

モニカも露骨に眉をひそめていた。

 

フリッツさんは、意外と平然としていたが。

 

或いはこのティアナという女の子の力量や将来性を評価しているのかも知れない。

 

「増援か」

 

「いえ、壁を展開しているようです」

 

「壁?」

 

「はい」

 

フリッツさんが腰を上げて、コルちゃんとティアナを連れて見に行く。

 

しばしして。

 

戻ってきたフリッツさんは。なるほどと呟いていた。

 

「敵も面白い事を考えよる」

 

「どうしたんですか」

 

「入り口を崩壊させた様子だ。 つまり、内部に入らせないようにした、という事だ」

 

「それは確かに考えましたね」

 

相手は死者の軍勢。

 

つまり空気など必要ない。

 

地盤を不安定にすることで、此方が入り込むのを防いだ、という事だ。

 

根絶の力を封じる結界は壊れないにしても、此方が踏み込めないようにするというのは手の一つとしてはある。

 

先ほどの戦闘で。

 

入り込まれたら負ける、と判断した可能性も高い。

 

相手は根絶の力を使い、人外と化した存在と言っても。

 

元は人間。

 

人間が使う戦術は知り尽くしている。

 

だが、あたしとしては。

 

むしろ好都合だ。

 

「ならばプランBに移りますか」

 

「そうだな。 それが良かろう」

 

皆頷く。

 

プランAは、そのまま敵地に乗り込み、敵の軍勢とトラップを打ち破りながら、ノーライフキングの元まで辿り着き、撃破する案。

 

これについては、確実に敵の滅びを確認できると言う最大のメリットがある。

 

その代わり、数々のトラップや、生きている事を考慮しなくて良い敵による奇襲などの、リスクが伴う上。

 

それらによる消耗を経た果てに、ノーライフキングと戦わなければならないという最大のリスクがある。

 

そこでプランBだ。

 

この間のドラゴン戦で、あたしが今全力で砲撃すればどうなるかはよく分かった。そしてこの辺りの地形についても、既に調べはついている。

 

そして今日の調査で、地図は補強。

 

どうすれば良いのかも、大体分かっている。

 

一応念のため、周辺に奴が脱出するための出口がないかを調べてからの作業になるけれども。

 

それを含めても、二日と掛からないだろう。

 

もう夕方だ。

 

今日はキャンプで警戒しながら休む。

 

警戒は自警団に任せる。

 

本番は。

 

明日だ。

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