暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
二人も交えて、プラフタの話を聞く。
如何にして、世界を良くしようとした錬金術師二人が失敗したのか、の話を。
重い病を生まれたときから患い。
奴隷として売り飛ばされる所を、家族を皆殺しにされ。さすらうようになったルアード。
出自もよく分からず。
物心ついたときには、既に荒野を彷徨っていたプラフタ。
二人が出会ったのは単純な偶然だったけれど。
たまたま一緒に彷徨うようになり。
周囲で多くの人間が命を落としていくのを見ながら。
いつの間にか本を手に入れていた。
その本は。
錬金術の基礎解説書。
器具らしい器具もない状態で、二人は錬金術を始め。
文字通り、滅びる寸前だった街を。
一気に今のキルヘン=ベルと同等の都市に発展させた。
二人はあたし以上の天才だったのだろう。
だが、二人の扱いは違っていた。
それこそ、対照的なほどに。
「私は色々な綺麗な二つ名を周囲からつけられていました。 それに対してルアードは、冒涜と侮蔑に満ちた二つ名で嘲られていました。 理由は容姿です。 私は自覚はありませんでしたが、周囲からは美しい、と見なされていたようです。 一方ルアードは、重い病気を煩っていたことから、周囲からは人間扱いされていませんでした。 私は側で見ていました。 だからルアードが如何に優れた錬金術師であるか知っていました。 それに、言いたい者には言わせておけば良いとも思っていました」
「それは失策だったな」
フリッツさんが即答。
ジュリオさんが咳払いしたが。
意見は同じようだった。
「……そう、失策でした。 いつの間にか私達が救った街には、化け物のようなエゴの怪物達が巣くい。 勝手に施政を回すようになっていました。 私の事を持ち上げて、ルアードを貶めて。 そして権力のエサにするようになっていました。 挙げ句の果てに、ルアードを暗殺しようとまでしたのです」
それ以降。
プラフタとルアードは。
街から離れた。
巨大なアトリエを人里離れた場所に造り。
二人で世界をよくするために動いた。
だが。決定的な溝がいつの間にか出来ていた。
「ルアードは言いました。 この世界には、現在さえもないと」
「ふむ」
一理ある。
いつドラゴンや邪神に街が蹂躙されるか分からないこの時代。
外に出れば容赦なく弱者は殺され。
生活できない人間は匪賊となって殺戮の限りを尽くし。
何より、才能の偏りにより。
何をやっても努力が無駄になる場合もあれば。
努力をロクにしなくても、ちやほやされる場合もある。
そんな不公正な世界には。
確かに現在もない。
「私は、それでも未来を奪うことはあってはならないと考えました。 やがてルアードは、根絶の力に手を出してしまったのです」
そうか。
それは辛かっただろう。
だが、根絶の力に手を出すというのがどういうことか。
あたしは実例を見てよく分かっている。
許されることでは無い。
何があったとしても。
やっては行けない事はあるのだ。
根絶の力は、ドラゴンや邪神ですらかなわない程の、究極クラスの災厄だ。
それによって得られるものもまた桁外れではあるのだろうが。
それでも手を出す事は許されない。
「戦いになりました。 相打ちになった事だけは覚えています」
「本にどうして宿ったの?」
「分かりません。 根絶の力を手にしたルアードを滅ぼすために、差し違える以外の選択肢はありませんでしたし、その時に肉体をどちらも失いました。 恐らくは、その時使った、対消滅を行う爆弾によって、魂の座標がずれたのだと思います。 私も、ルアードも、です」
「……」
そうか。
そして、あらゆる状況証拠が告げている。
恐らく世界に蠢く深淵の者の主は。
あの子供達だ。
プラフタとは違い。
ルアードは、恐らく即座に目覚めたのだろう。
そして深淵の者達を組織し。
力尽くで世界を改革していった。
数百年前と今とでは。
世界がまるで違っている。
今は二大国に勢力が統一され。
汚職管理も生臭坊主も、強欲で他者を苦しめ続ける商人も、自分のためだけに錬金術を振るう輩も。
悉くが消される。
匪賊も組織が大型化する前に潰されるし。
ドラゴンや邪神の被害も。
昔は今の比では無かったと聞いている。
それらは深淵の者達が、必死に「現在」を作ろうとしてやってきた事なのだろう。
それでも、だ。
世界は地獄。
闇に満ちている。
こんな世界に誰がしてしまったのか。
創造神か。
だとしたら、あたしは世界そのものを許さないし。
恐らくはだが。
深淵の者達も、同じように考えているのであるまいか。
「思えば、あの不自然な二人、ずっとプラフタを監視していたのだな」
「どうしてすぐに気付くことが出来なかったのか。 悔しくてなりません」
フリッツさんに、プラフタが口惜しそうに言う。
あたしが二人の分の茶も出す。
茶を口にしながら、ジュリオさんは言う。
「しかし妙だとは思う」
「何がです」
「実は根絶の力について調べて見たんだ。 アダレットにも錬金術師はいるし、根絶は禁忌の中の禁忌として知られていたよ。 だが、500年前から現在に至るまで、使われている形跡が無い」
「……!」
どういうことか。
あの二人、いやルアードは。
未来を奪ってでも、現在を作る事を目論んでいたのでは無いのか。
ひょっとして、だが。
ああなるほど。
そういうことか。
プラフタと、もう一度しっかり話をしておきたいと思っているのか。
プラフタは命を賭けてまで、未来を奪うことが如何に非道かを示した。
何しろ竹馬の友だった存在だ。
プラフタはルアードについて話している時、ずっと悲しそうな目をしていた。本当に世界で唯一の理解者だったのだろう。
ルアードも恐らく同じように思っていたのだろう事は想像に難くない。
ならば、プラフタが目覚めてから。
もう一度互いの考えに決着を付け。
そして、改めてどうするか決めよう、と考えたのではあるまいか。
だとすると気が長い話だ。
500年掛けて、自説を証明するために。
世界を改革していったのだから。
それでも未来がないと結論しているのだろう。
故に、深淵の者は、二大国の首脳部を操作する事はあっても。表から接触する事は無い。
或いは、人間を根本的に信用していないのかも知れない。
いずれにしても、もう少し話してみないと駄目だろう。
「いずれにしても、はっきりしたことがあるよプラフタ」
「何……ですか」
「ルアードといったっけ。 その人、多分すぐに何かをするつもりはないと思う。 むしろ狙いはあたしなんじゃないのかな」
「どういうことです」
少しむくれた様子のプラフタだが。
あたしにしてみれば。
どうしてプラフタが此処にいるかが、不自然でならないのだ。
「プラフタが未来を示したいなら、それを待っている。 そういう事じゃないの?」
「!」
面倒な事だと、フリッツさんは顔に書いた。
ジュリオさんは口をつぐんだ後、やれやれと頭を振る。
二人には、他言無用と告げた。
というのも、恐らくは深淵の者所属者がキルヘン=ベルにも複数いるからで。今事を荒立てるのは得策では無いからだ。
いずれにしても、少しばかり気合いを入れなければならないか。
プラフタの記憶が戻った以上。
出来る事は増えている。
ならば、あたしも。
此処からは、更に様々な事に手を伸ばせる。
そういう事なのだから。
(続)
ソフィーの視点は既に相当に広い範囲まで伸びています。
先に先に。
深淵の者だけが敵ではありません。
この世界のあり方を作った奴にも、一度問いたださないと彼女は気が済まないくらい腹を立てています。
そしてそれが出来る所まで、あと少しまで来ているのです。