暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
そのジュリオの因縁の相手が姿を見せます。
決して恨み合う関係ではありません。
ただ、運命が上手く噛み合わなかっただけなのです。
序、水源
許可が出たので、水源に出向く。
ノーライフキングがいた山は、湖に変わってしまったけれど。現時点では、少しずつ魚が流入し、落ち着き始めている様子だ。根絶の力による悪影響は、文字通り山ごと消し飛んでしまった。
それでも、未知の地域の探索である。
大まかな地図はあるのだけれど。
ノーライフキングが現れてから、この辺りの調査はされていない。
地形がどう変わっていてもおかしくないのだ。
故に、まずは地図を確認しつつ。
場合によっては橋などを架けることを考えなければならない。
この辺りの川は、まだ其処まで流れが激しくは無いが。
それでも、荷車を押して渡るには少しばかり深すぎるのだ。
何より、川の中には、猛獣も多い。
何も考えずに足を踏み入れれば。
それは死につながる。
現時点では、調査を行い。
橋を架ける必要がある場所には橋を架ける。
そう判断するための行動である。
要するに威力偵察が近い。
川を避けながら北上。
やがて見えてきたのは。
川が複雑に入り組んでいる場所だった。
しかも川の周囲の土手が低い。
この辺りは、色々とまずいなと、あたしは判断した。
手をかざして様子を見るが。
やはり予想通りだ。
沼沢地帯と言う奴である。
要するに川の流れが安定しておらず。
ちょっとした大雨で川の流れが変わってしまう。
当然洪水の原因にもなる。
地図を見ると、立ち入り禁止の×が付けられているが、まあそれも当然だろう。しかも最悪な事に。
今少し雨が降り始めている。
「退避した方が良いな」
「そうしましょう」
フリッツさんが指示を出して、あたしも素直に従う。
空の様子を見る限り、かなり雲が分厚い。このまま行くと、更に雨は激しくなっていくだろう。
少し川から距離を取り、丘に上がって様子を見る。
川の方から、猛獣が。
かなり大型のキメラビーストがのしのしと歩いているのが見えた。
此方には興味が無いらしい。
そのまま、下流の方に消えていく。
凄い鳴き声がすると思ったら、大型のアードラだ。
旋回しながら、仲間に危険を伝えているのだろう。
やがて、水はけが悪い土地に、どっと水が流れ込み。
泥水が渦を巻きながら、その場を蹂躙し始めた。
この様子だと、また川の流れが変わるだろう。
しばらく様子を見ていたが、流石にかなり距離を取ったこともある。此処まで水は来ない。
川から見て、かなり高い位置にあることも幸いしているが。
いずれにしても、此処は通れないと判断して良さそうだ。
ともかく、である。
この辺りは地図がかなり古い。
確認しながら修正をしていく。
今の時点ではネームドには遭遇していないが。
それでも、いてもおかしくないだろう。
かなり大きめの陸魚が、川から出て、丸まっているのが見えた。
荒れ狂う川には。
あのような大きな生物でも、逆らえない。
下流に行くと、岸壁がしっかりしているので、氾濫は冗談のように収まるのだけれども。
この辺りは一度、何かしら手を入れないといけないかもしれない。
雨が止んできた。
しばらく様子を見てから、また移動を開始。
地図を見ながら場所を確認し。
方角をチェックして、周囲を確認する。
荒野だらけだが。
それでも時々ランドマークはある。
今見上げているのは、石塔だ。
昔この辺りにあった街の残骸である。何に潰されたのか分からないが、少なくとも数百人が住んでいて、相応に繁栄していた様子だ。
今は石塔だけが残っていて。
後は瓦礫だらけだ。
街があった、という事は。
昔は相応に水などの条件が良かったのかも知れない。
しかしながら、この街の防衛能力を上回る何かに襲われ、滅びたという事だ。
ドラゴンか邪神かネームドか。
いや、これだけ古いと、かなり大きな匪賊の集団かも知れない。
いずれにしても、調べて見ても、生きている人間は見当たらない。
骨さえない。
スカベンジャーにとっては、骨もごちそうだ。
全て食べてしまったのだろう。
此処から北上すると、山にぶつかる。其処から東に行くと水源だが。少し大きめの川があるので、迂回する必要がある。
山もはげ山だが、茶色いそれらに混じって、露骨に緑の山がある。
あれが水源である。
かなり遠くから目立っている程で。
周囲の茶色い地面とは、とにかく極端にかけ離れているため、異様さが際立っていた。
勿論緑は目にも優しいし。
緑化は世界の悲願でもあるのだが。
彼処だけ森になっているのを見ると、少し異常さが際立ってしまう。
本当に、貴重な素材があっても不思議では無い。
ともあれ、食糧は充分にあるし、何なら旅人の道しるべを使って補給しても良い。
兎に角北上して、一旦山に。其処から見下ろして、地図を確認した。
「川を迂回できそうな箇所が限られますね」
「街の側の川のように、橋が架かっている場所を通ってから、ぐっと迂回する方法も試してみてはどうかな」
「いや、川の支流が複雑で、やはり浅瀬を通った方が良いかと想います」
「ふむ、そうか」
フリッツさんは基本的に、自分の意見を無理強いすることは無い。
恐らくだが。
それが士気を著しく削ぐことを経験的に知っているのだろう。
山を幾つか迂回しながら、慎重に進む。
岩が増えてきた。
この辺りは、どうやら滅ぼされてしまった街も、開発に手を着けていなかったらしい。或いは、何か他に理由があるのかも知れない。
川に突き当たる。
それほど大きな川では無いけれど。
ただ流れは速く、かなり深い。
荷車を向こう側に運ぶのは厳しい。
あたしとプラフタで空輸する手もあるけれど、その場合強敵に追撃を受けたときが悲惨だ。荷物を全部放棄することを視野に入れないとならなくなる。
さてどうしたものか。
「もう少し上流に行ってみるか」
「……そうですね」
何しろ水源である。
どちらにしても、川の源流なのだから。
上手く行けば川を渡らずに行けるかも知れない。
だが、その予想は外れた。
二股に分かれた地点に出たのだ。
しかも水源から、かなりの数の川が流れ出ている事が確認できる。
これはどちらにしても。
橋を架けなければどうにもならないだろう。
一旦少し戻る。
川を確認していくが。
どうにも渡れそうな場所は無い。
水源から、不自然なくらい激しく水が流れ出ている、という事だ。こんな乾いた場所で。どうして。
雨はかなり降る地方ではあるけれど。
これはちょっと度を超している。
プラフタが手をかざして見ていたが。
地図に、幾つか支流を継ぎ足していた。
「この様子では、本当に彼処は人跡未踏の地と見た方が良さそうです。 下手をすると、知られていない邪神がいるかも知れません」
「偵察に行ってみる?」
「邪神の戦闘力は、エレメンタルと呼ばれる下位のものでも文字通り絶大です。 最低でも中級以上のドラゴンを凌ぐ実力があります」
「洒落にならないな」
オスカーがぼやく。
以前北の谷で倒したドラゴネアは最下位のドラゴンだと聞く。
それが最低でも中級のドラゴンとなると。
戦闘力については、正直考えたくない。
いずれにしても、下準備無しに戦って良い相手では無い。
無駄に死人を出す事は褒められた行為ではない。
ただでさえ人間の絶対数が足りなさすぎるのだ。
ましてや、此処には古代の錬金術師プラフタや。
歴戦の傭兵であるフリッツさん、未来有望な騎士であるジュリオさんと言った、得がたい人材もいる。
それらを無駄にすることは許されない。
そうなると、仕方が無い。
プラフタとあたしで手分けして、まずは上空に上がり、川の流れを確認する。そして、地図をチェックし、書き加える。
水源には近づかない。
もしもプラフタが言うように邪神がいるのなら。
遠距離砲撃を仕掛けてくる可能性がある。
猛獣であれば森を傷つけるようなことは避ける。
ネームドでも同じだ。
だが邪神となると。
そういったルールを守るかどうか、正直分からない。
交戦経験があるプラフタも、邪神についてはよく分からない事が多いと言っていたし。
そういう相手との突発的な交戦は、可能な限り避けるべきだ。
どうしても戦う事になった場合は、相手を事前に確認し、調査をした上で、あらゆる下準備をしなければならない。そうしなければ死者を容易に出すだろう。
しばし周囲を確認し。
戻ってきて、地図をすりあわせる。
水源からは最低でも四つの川が流れ出ている。
北側に向かっている川は湖に通じているし。
東側に向かっている川は、ラスティンの幾つかの大河と合流しているようだ。
西に向かっている川は。やがて北西方向へと転じていて。
問題は南側。
非常に複雑に分岐している。
これが問題になっている川である。
厄介な事に、それぞれの川が下流に行くに従って水量も増えているし。
何よりも問題なのは。
どの川も基本的に、真面目に橋を架けることを考えないと。水源に抜ける事は出来ない、という事だ。
ちなみに上空を調べているときに。
何かしらの攻撃を受けることはなかった。
邪神がいるかどうかは分からない。
ただ、目についたからと言って、いきなり仕掛けてくる訳では無さそうだ。
雨がまた降り出す。
一旦下流へ退避。少し小高い陸に上がって。やり過ごす。
キャンプを張って、川の流れが激しくなる様子を見つめながら、会議をする。
「一度戻るべきだね」
ジュリオさんの意見は至極全うである。
モニカもそれに賛成した。
オスカーに聞いてみたが。
川の周囲にどんな植物がどれくらい生えているかくらいしか興味が無いようで。
あまり参考になる話は聞けなかった。
コルちゃんは物資がどれだけ残っているかと、滞在がどれくらい可能かくらいしか話してくれない。
戦略は自分の担当では無いと思っているのだろう。
レオンさんは、この間から竜の鱗を使った防具を作る事ばかり考えているらしく。
戦闘時はきっちり働いてくれるものも。
それ以外の時は、ぼんやりしていることが多かった。
ハロルさんは、双眼鏡を持ってきて森を覗いていたらしいが。
案の定。
よく分からない動物が、山ほどいるという話で。
いずれにしても、無理矢理乗り込むのは無謀。
文字通りの自殺行為だと釘を刺されてしまった。
だが、これはハロルさんの言うとおりである。
ふむと、あたしは唸る。
さてどうしたものか。
「一度この辺りに旅人の道しるべを設置して、キャンプを維持。 石材を運び込み、更に全自動荷物積み降ろし装置も運び込んで、架橋するのはどうだろう」
「あまり賛成できないわ」
モニカが言うと。
プラフタもそれに同意した。
プラフタが言うには、邪神も獣と同じように縄張り意識を持っていることが多く。
縄張り内に長時間留まられると、苛立って仕掛けてくるケースがあるという。
真面目な神になると、単純に接触してきて、理性的に話が出来る場合もあるらしいのだけれども。
それはどちらかというと例外的なケースで。
基本的に神々は。
人間に対立する立場を取っているのが普通のようだ。
邪神というのもあながち蔑称ではなく。
基本的に人間に敵対するのが。
この世界の神々の基本。
理由はよく分かっていない。
会話が成立した神と話してみたことがあるらしいが。
それでもあまり詳しいことは聞き出せなかったそうだ。
「確かにもしも水源に邪神がいた場合、時間が掛かる架橋工事をしていたら、仕掛けてくる可能性も高いな。 だが、邪神がいると決まったわけでもない。 一度距離を取ってキャンプを造り、もう少し周辺の地図を確認してから架橋する位置を絞った方が良いのではないのかな」
「錬金術でぱぱっと架橋できないの?」
「無茶言わないでください」
さらっと言うレオンさんだが。
今のあたしでは無理だ。
そもそも、本などを読んで調べて見たが、架橋というのはかなり難しい技術で。丸太か何かを並べて無理矢理橋にするなら兎も角。
長期間使えるようにする橋を造るとなると。
それは一大工事になるという。
街の側などには、幾つか橋があるが。
そのいずれもが、様々な苦労話と切っても切り離せず。
作る度に死者が出る事も多い。
勿論これらのインフラ整備には錬金術師が絡む場合も多いのだけれども。それでも死者が出るような工事になることが多いのだ。
それも、資源が側にあり。
安全が確保されている状況で架橋しても、である。
こんな所でまともに橋なんて架けていたら。
どれだけの犠牲が出ても不思議では無い。
しかも犠牲を出したところで。
それによる見返りがあるか分からない。
更にもう一つ問題がある。
水源に入った後。
川がどうなっているか分からないのだ。
何しろ、上空から水源を確認したが、鬱蒼と茂っていて、空という空を木の葉が独占してしまっている。
いわゆる樹冠という奴で。
水源の中がどうなっているかはまったく分からない。
それなりの広さがある水源だが。
厄介な事に、入り口付近は霧がずっと掛かっているし。
奥の方はそれこそ訳が分からない背丈の木が伸びていて。
何が住んでいるか知れたものではない。
嘆息。
しばらく考えた後。
結論する。
「橋を造るべき川の長さを計測しておいて、事前に橋を造るしかないかな」
「それで此処に持ち込むのですね」
「うん」
プラフタも同じ結論らしい。
とはいっても、旅人の道しるべを通せるパーツとなると、大きさに限界がある。
現在異世界アトリエは石材をせっせと運び込んで絶賛拡大中だが(自警団が使う扉も設置しているので、現在三つの扉があり、相応の広さが必要なため)、それでも全然足りない。
橋の基礎材となってくると。
家そのものくらいの大きさになる事もあるのだ。
それも頑強さを重視するとなると。
細かく分解するわけにもいかないのである。
いずれにしても、今回は架橋と調査は諦め。
その下準備でおしまいだ。
手分けして、徹底的に調査をする。
測量も実施。
四日ほど掛けて、周辺の地図をある程度埋めておく。その過程で錬金術の素材も集めるが。
鉱物にしても植物にしても。
珍しいものは相応に多かったが。
此処までわざわざ足を運ぶほどのものでもなく。
思わず溜息が零れてしまった。
それに、測量はしたが。
来る途中までの事を考えると、それも何処まであてになるか。
一応地盤がしっかりしている地点を厳選して、橋のサイズについては考えたが。
それも一工夫が必要になるだろう。
作業が終わった後。
一旦撤収。
幸いにもと言うべきか。
水源から何かが仕掛けてくる事は、最後まで無かった。