暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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1、森への路

まず最初に行ったのは、旅人の道しるべを作る事、である。同時に、異世界アトリエへの入り口用に、大きな搬入用のものも作った。

 

街の中に倉庫用の小屋があるのだけれど。

 

その小屋の壁面を丸ごと独占するほどのサイズである。

 

此処はホルストさんが管理していて、現時点では使っていないので、使わせて貰う事にした。

 

なお、コルちゃんの負担を考えて。

 

コアになる貴重な素材類の複製については、充分な時間をおく。

 

その間に此方としても、やっておくことが幾つかある。

 

爆弾や薬の開発、納品。

 

それに、最も重要なのは。

 

対ドラゴンの戦術確認である。

 

ドラゴンと戦闘した時の経験からして、最下位のドラゴンが相手でも、キルヘン=ベル程度の街だと、総力戦になる。

 

というか、専用の装備と準備をしていないと、冗談抜きに街を焼き払われてしまうことだろう。

 

前は此方が準備をしっかりして。

 

しかもドラゴンとの交戦経験があるプラフタがいた上。

 

先制攻撃でアドバンテージを常に確保できたから勝てたのであって。

 

あれと同じ展開に毎回なると思うほど、あたしは頭の出来がおめでたくはない。

 

まずは、爆弾の火力を上げる。

 

上空から奇襲を仕掛けて来た場合、撃墜する必要があるからだ。

 

それには氷系の爆弾が一番良いだろう。

 

というわけで、シュタルレヘルンを研究。

 

元々レヘルンを大型化し強力にしたこの爆弾は。

 

炸裂させると、小さな湖くらいは凍り付いてしまう。

 

当然ドラゴンも、直撃を喰らえば無事には済まないはず。

 

ただし悪用されると尋常では無い被害を確実に出す事になるので。

 

管理には最大の注意を払わないといけない。

 

街の周囲には見張り櫓を配備。

 

ハロルさんと相談して。

 

周囲を確認できるように、双眼鏡と、望遠鏡を配置する。

 

レンズはあたしで準備できるので。

 

後はハロルさんがどうにかしてくれる。

 

ハロルさんはたくさん双眼鏡と望遠鏡がいると聞くと、もの凄く面倒くさそうな顔をしたけれど。

 

結局は生活のためかとぼやいて。

 

作業に従事してくれた。

 

その間、並行して。

 

あたしは橋について考える。

 

エリーゼさんの所に行くと、橋の資料を集める。

 

これについては、幾つかの技術書があったし。

 

何よりも、インフラ整備において架橋は必須の技術だ。

 

今回作る橋に関しては。

 

基本的に植物性の材料は使わない。

 

保ちを良くするためである。

 

そうなってくると石材を使うしかないのだが。

 

石材を使った橋を幾つか見たが。

 

工法がいずれも難しい。

 

少なくとも、素人がポンポンと作れる代物じゃない。

 

レオンさんに言われた事を思い出して、頭を抱えてしまう。

 

何でも錬金術でポンポンとはいかない。

 

まあ、当たり前と言えば当たり前だ。

 

プラフタに相談もしてみるが。

 

彼女も極まっとうな架橋技術しか知らなかったし。

 

頼りすぎるのも問題だ。

 

幾つか、思いついた事があるので、試してみる。

 

まず基礎部分については、ごく普通に石材を使って作る。これについてはノウハウがあるし。

 

街の男衆にも、作り方を知っている者がいたので、手伝って貰う。

 

此処には錬金術は使わない。

 

問題は橋そのものだ。

 

まずインゴットを変質させ、薄く引き延ばす。

 

その後、インゴットが錆びないように、さび止めの薬を丁寧に塗り込む。

 

このインゴットを引き延ばした薄い鉄板。

 

本来なら幾ら凄まじい強度を持つようにしたところで、大きな荷車を乗せて運べるような代物ではない。

 

しかし、工夫は此処からだ。

 

グラビ石を潰して変質させ。

 

伸ばしてインゴットの裏面に塗り。

 

性質を変質させ。

 

重量を支えられるようにする。

 

正確に言うと、橋が常時下からの力を受けている状況にするのだ。

 

小さめの模型を作って見て。

 

これが案外有用である事は分かっているが。

 

問題は、橋のための伸ばしたインゴットがかなり大きくなること。

 

そこで、インゴットは分割し。

 

それらを、これまたグラビ石を組み込み、更に変質させて強度を極限まで強化した糸を使ってつなぎ合わせる。

 

この糸は、蜘蛛の糸を利用したもので。

 

元々頑強な蜘蛛の糸を束ねることにより。

 

相当な強度を持っている。

 

更にそれを錬金術で変質させることによって。

 

圧倒的な強度を実現した。

 

ただし、これらの試行錯誤の段階で、一月掛かった。

 

幾つかの作業を並行で進めながら。

 

どんどん時間が過ぎているのが分かる。

 

そうこうするうちに、ホルストさんが言っていたように。キルヘン=ベルの人口は、緩やかに。だが確実に増えていった。

 

 

 

街の防護壁が一度解体され。

 

街の東側。橋を渡った向こう側を囲うようにして防護壁を作りつつ。

 

オスカーが指揮を執って緑化作業を実施していく。

 

アトリエから手をかざして見ているが。

 

川を渡って街道の北部は緑化し。

 

更に南側の少し離れた地点も緑化。

 

その間に住宅街と、畑を作る。

 

石材は幾らでも取ってこられるし。

 

全自動荷車と全自動荷物積み降ろし装置が活躍して、労働そのものの負担も著しく減っている。

 

問題は猛獣からの防護。

 

更に新しい住民の待遇だ。

 

人間が増えると、やはりもめ事も増える。

 

自警団は既に三十人を超える規模になっているが。

 

これを四十人に近々増員することを決めている。

 

魔族も何名か増えているので、彼らには優先的に自警団に入って貰う予定である。だが、その中の一人。

 

一番若い魔族のハルファスさんは、魔術を生かして街に貢献したいと言っているらしくて。

 

調整が難航しているようだ。

 

また、傭兵を雇うことも考えている様子だが。

 

それについても、フリッツさんが彼方此方に声を掛けて回っていても、都合がつく良い傭兵団が見つからないらしい。

 

この仕事は基本的に水物で。

 

場合によっては匪賊になるような連中が、荒くれとして傭兵をしているケースも珍しくない。

 

東の街では運良く質の良い傭兵が見つかったようだが。

 

此方ではそうもいかないのだ。

 

街が大きくなると言うのは。

 

問題も抱えることだ。

 

自警団では、対ドラゴンの対策として、あたしが作ったシュタルレヘルンを投擲する訓練をしている。

 

基本的に縄をつけ、回転したり振り回したりして投げつけて起爆するのだけれども。

 

同じくらいの大きさの球体を見繕って、練習につきあって此方に飛んでくるあたしやプラフタに命中させる、という訓練になる。

 

練習につきあうのも立派なお仕事。

 

更にあたし達は魔術で防壁も展開できるので、直撃しても「普通の球体」なら別に何でも無い。

 

そうやって実際に見てみると。

 

古参の自警団員はポンポン当ててくる。

 

これは空を飛ぶネームドや猛獣との交戦経験があるからだろう。

 

しかしながら、最近加わった自警団員は、十回に一度当たるかどうか。

 

一人弓が得意な子がいたが。

 

普通の弓矢なんて、それこそネームド以上の相手には、効くわけもない。矢に爆弾をくくりつけて飛ばすことも考えたが。

 

それをやって貰うと、まったく当たらなくなった。

 

悲しそうにしているその若い子に。

 

弓矢が得意なら、それを生かすように、モニカが諭していた。

 

時間が過ぎるのが早い。

 

アトリエに戻ると、栄養剤を飲み下して。

 

多少気力を回復する。

 

そして、ようやく準備が整った橋の素を、元々橋を造ろうと考えていたらしい、街の東側の一角に運ぶ。

 

あたしが拡張肉体六つと一緒に石材を持ち上げて、橋の向こう側に輸送。

 

かなり重いが。

 

拡張肉体六つならば、どうにかやれる。

 

これは近いうちに、拡張肉体をあと一つ二つ、増やした方が良いかも知れない。

 

続けて、例のインゴット板を組み立てる。

 

それぞれ四隅に穴が開けられていて。

 

硬質化させた糸で、しっかり結びつけた後。

 

錬金術で作った接着剤で、結び目ごと固定する。

 

この接着剤、名前は接着剤だが。

 

実際には柔らかく変質させた金属で。

 

糸の上から塗った後。

 

その場で変質させて、硬質化させる。

 

こうすることによって、結び目は文字通り鉄壁になる。

 

この板を二連につなげたものを、複数個並べることで、橋にする。

 

こんな薄いので大丈夫だろうかと、不安そうに技術者達は見ていたが。

 

板がもの凄く軽く、信じられないくらい扱いやすいのを見て。

 

俄然やる気が出たらしい。

 

まず橋を両側に渡し。

 

橋桁にそれぞれくさびを打ち込んで固定した後。さっきの金属接着剤で更に頑強に固める。

 

最初に石材を固定した後は。

 

橋そのものを結構手間暇掛けて作らなければならないが。

 

作ってしまえば、魔術で飛べる人間が運ぶだけ。

 

そして両端でくさびを打ち込んで固定すればできあがり。

 

普通橋の施工には何週間と掛かるのだけれども。

 

これならば、あたしが事前に作ってしまえば、施工そのものは三刻程度で出来てしまう。

 

後は強度だ。

 

まず、あたしが渡って見せる。

 

問題ない。

 

さび止めをした金属板を連ねたという、本来では考えられない代物にもかかわらず。

 

完璧と言って良いほどの安定感で。本当に糸で止めた金属板を連ねた構造なのか、自分でも疑いたくなってきた。

 

橋の真ん中で飛び跳ねてみせるが。

 

全然平気。

 

石材を基礎でしっかり固定しているので。

 

それさえひっくり返らなければまったく問題ない。

 

更に、少しずつ重いものを運んでみる。

 

まずは荷車。

 

大丈夫。まったく問題ない。

 

次に石材を乗せた荷車。

 

これも平気だ。

 

興味を持ったらしい魔族達にも渡って貰う。魔族はヒト族の倍の背丈を持ち、体重は八倍前後。

 

しかも彼らは空を飛べる。

 

少し橋を見て不安そうにしていた彼らも。

 

渡る内に、これは面白いと呟いて。

 

何度も行き来して、楽しそうにしていた。

 

最後だ。

 

ヴァルガードさんとシェムハザさんに立ち会って貰って、馬車を通す。

 

これが通れないようならば、橋としてはあまり意味がない。

 

緊張の一瞬だが。

 

まったく問題なく、馬車はすんなり通る事が出来た。

 

呼吸を整える。

 

さて、後は細かい所をチェック。

 

接着剤関連はまったく問題ない。

 

錆びないようにもしてあるし、ここまでガチガチの強度を持っているのだから、平気だろう。

 

グラビ石が剥がれる可能性についてもチェック。

 

此方も問題は無さそうだ。

 

橋の基礎。

 

これは本職がやっているから大丈夫。

 

がっちり固まっている。

 

それこそドラゴンが体当たりでもしたり、ブレスを浴びせたり、後は洪水が直撃でもしない限りは平気である。

 

とりあえずは一安心か。

 

その後は、お披露目会をする。

 

ホルストさんは話を聞いていたらしく、この「架橋セット」を見て、喜んでくれたが。

 

ヴァルガードさんには突っ込まれた。

 

「橋は問題ないが、橋の左右に手すりなり、落ちるのを防ぐ工夫がいるな。 それも足してくれないか」

 

「分かりました。 戦地での運用を考えていたので、其処までは頭が回りませんでした」

 

「いや、それも仕方が無いですよ、ソフィー。 街中に作る橋には、付属パーツが必要という風に考えましょう」

 

「すぐに着手します」

 

後は性能試験をしてみせる。

 

いずれも好評で。

 

魔族数人が乗って飛び跳ねても。

 

馬車を二台同時に通しても。

 

橋はびくともしなかった。

 

その後は、提案を幾つか受けて、その通りに対処して完了。

 

橋の上に砂利を撒いて、更にその上から薄く接着用金属で固める。これで、隙間も埋まる。手指を挟むような事故もなくなるだろう。

 

更に橋の左右に少し高めの手すりをつける。

 

この手すりもインゴットを加工したもので、ちょっとぶつけたくらいでは凹むこともない。

 

更にグラビ石も入れているので、重さも考えなくて良い。

 

完成した橋は。

 

錬金橋と名付けられて。

 

キルヘン=ベルの新しい名物となった。

 

此方としては有り難い限り。

 

というのも、性能実験が勝手に出来るからである。

 

街に新しく来た子供達が面白がって橋を渡ってくれている。しばらくの間、モニカが意図的に新米の自警団員をその近くで訓練していたが、事故に備えての事だろう。

 

また、あたしも連日夕方以降に自分でチェック。

 

橋の下側にも回って。

 

何か問題が起きていないか、徹底的に調べ上げた。

 

結論としては、問題は起きない。

 

プラフタにもチェックして貰ったが。

 

耐用年数は200年と、太鼓判を押して貰った。

 

200年保つ橋なら充分だろう。

 

それもノーメンテの場合であって。

 

この橋は作り方が確立しているので。壊れたとしても、すぐに再建が可能。素材に関しても、再利用は難しくない。

 

更にメンテをしっかりやっていけば。

 

1000年でも保たせられるだろう。

 

問題は、素材類が非常に手間が掛かること。

 

錬金術師がいないと施工が出来ない事、だ。

 

この二つを考慮すると、錬金術師がもっと世界に増えないといけないだろうという結論がすぐに出てくる。

 

いずれにしても。

 

この橋は有用だ。

 

 

 

早速準備を始める。

 

この間の地図を確認する限り、三つ分の素材を準備する必要があり。

 

更に、橋を造る時に、職人に地盤を確認して貰う必要がある。

 

現地に行って、本職に此処では作れないと言われてしまったら、話にならないからである。

 

錬金術が街にとってどれだけ有益かは、本職の人達にも分かって貰えている筈なので。

 

これに関しては、理解を得る事が出来るだろう。

 

問題はその後だ。

 

現地まで行って、旅人の道しるべを設置。

 

彼らを呼んで、現地見聞して貰う。

 

その間の護衛。

 

更に、橋を設置する場合の、素材の輸送である。

 

流石に全自動荷車では無理なので、異世界アトリエ経由で直接現地に運ぶことになるのだけれども。

 

この時、橋を予定地点に作れないとなると。

 

素材を多めに準備する必要がある。

 

幸い、橋についてあたしが研究している間に、コルちゃんが素材の複製を完了させてくれたので。

 

もう二つ、旅人の道しるべを作る。

 

一つはホルストさんが管理している倉庫の中に常時置き。異世界アトリエに大荷物を搬入するときに使う。

 

もう一つは大規模な荷物を輸送する必要がある場合に、街の外で使用する。

 

なお、今まで緊急時の帰還用に使っていたものは、自警団に譲渡した。いずれ東の街と安全圏がつながったときにでも、其処に設置するかも知れない。

 

コルちゃんは干物になりかけていたが。

 

流石に時間を掛けて作ったので。

 

致命傷にはならなかったのは幸いだ。

 

準備を全て完了するまで二週間。

 

そして、ホルストさんに許可を得て。

 

現地に出る。

 

旅人の靴があるから、現地まで到着するのに、それほど時間は掛からない。

 

それは幸いなのだけれども。

 

問題は、現地に到着した時点で。

 

また川の流れが微妙に変わっていた、という事だ。

 

厄介すぎる。

 

本職達を呼ぶ。

 

早速現地を見てもらうが。

 

彼らの全員が断言した。

 

「此処に橋を造るのは無理だ」

 

「やはりそうなりますか」

 

「ああ。 地盤が緩すぎる。 橋を造る事自体は簡単だが、すぐに流されちまうぞ」

 

「……そうですね。 護衛しますので、周囲の確認をお願いします」

 

この辺りは猛獣も結構出る。

 

特に川の近くは、陸魚が高確率で出現するので、油断すると一瞬で川の中に引きずり込まれる。

 

そして、そうなったら。

 

まず助かる事は無い。

 

如何に手練れでも、川の近くで油断すれば死ぬ。

 

それが、この世界だ。

 

念入りに警戒をしながら、川の上流から下流に至るまで、念入りに見て回る。

 

一箇所、本職達が興味を示した場所があった。

 

あたし達がキャンプを張った丘だ。

 

其処から森の側まで行く。

 

小高く盛り上がっている其処は。

 

草原になっていた。

 

ただし、距離は直線距離で百歩はあると見て良いだろう。

 

「やるとしたら、此処から彼処まで、だな」

 

「正気ですか!?」

 

「あんたならどうにかなるんじゃないのか? あの金属の橋だって、とても本来は支えられる長さじゃあないんだぞ」

 

「……」

 

一度皆の所に戻る。

 

これはホルストさんに許可を貰わないといけないだろう。

 

ただし、もしもこの橋が完成したら。

 

文字通り未踏の地である水源に。

 

荷車を運び込む事が出来る。

 

それによって、内部にいる可能性がある強大なネームドや、それ以上の存在に対しても、対抗できる可能性が上がるし。

 

何よりも、これだけ長大な距離の橋を作る事が出来れば。

 

今まで寸断されていたインフラを回復させられる。

 

実際問題、山間部の街などでは。

 

吊り橋などを使って、非常に不安定なインフラを維持しているケースが多いのだ。

 

勿論そんな場所は、ネームドなどに襲われたらひとたまりも無い。

 

そういった場所の理不尽な生活を。

 

少しでも改善出来る実績が作れる。

 

また、橋は悪用しようがない。

 

戦略物資として。

 

キルヘン=ベルから輸出したら、相応の富の流入を約束してくれるはずだ。

 

いずれにしても、この距離の橋を造るとなると、とてもではないが物資が足りない。すぐにとんぼ返りする。旅人の靴がある事が、こういうときは有り難い。貴重な時間を無駄にしなくても良くなるからだ。

 

顔役を集めての会議が行われる。

 

ホルストさんは、二つ返事で許可をくれる、と言う訳にはいかなかった。

 

「本職が警告をしているという事は、それに沿った方が良いでしょう。 ソフィー、何とかなりますか?」

 

「何とかして見せます」

 

「……プラフタ。 ソフィーの支援をお願いします。 これは是非とも事業として成功させたい」

 

「分かりました。 どうにかしましょう」

 

ヴァルガードさんが挙手。

 

そして、心苦しい様子で言われた。

 

「実は、それと並行でやって欲しい事がある」

 

「並行で、ですか」

 

「ああ。 実は南にある廃寺院で、妙な人影を見たと言う報告が来ていてな。 自警団の複数が目撃している。 いずれもが、魔族以上の体格を持つ巨大な人影だったと証言している」

 

魔族以上の体格。

 

巨人族だろうか。

 

見た事があるが、確かに凄まじい巨体だ。

 

間近で見れば、その圧迫感も凄まじいだろう。

 

しかし、魔族以上というのが気になる。

 

何とも中途半端な証言に思えるからだ。

 

人間はいずれも、似たような姿形をしている。

 

流石に獣人族の頂点に立つケンタウルス族は異形だが、魔族でさえ頭一つ、腕二つ、足二つというのがスタンダードだ。

 

ケンタウルス族は本当に巨人族と同じかそれ以上のレア種族だという話だし。

 

高い戦闘力とそれ以上に誇り高い性格から言っても、匪賊などになる事は無く。二大国で重宝されると聞いている。

 

ともあれ、人間の形で。

 

魔族以上巨人以下の体格で。

 

しかも変な人影。

 

少しばかり嫌な予感がする。

 

「いずれにしても、橋の資材の準備などで時間が掛かります。 その間に調査をすることにします」

 

「お願いしますよ、ソフィー」

 

「分かりました」

 

今回、コルちゃんには軽めの素材の複製を、余裕のある期間で頼む。

 

本人はかなり疲れが溜まっているようだが、こればかりは仕方が無い。或いは休養期間に当てて貰うのも良いだろう。

 

他のメンバーは皆来て貰う。

 

嫌な予感というのも。

 

邪神が現れるかも知れない、という話もあるし。

 

プラフタに聞いたところ、人型の邪神もいる、と言うことだからである。

 

それに、その割りには、目撃者が生きて帰ることがで来たことも気になる。

 

一体何だろう。

 

実のところ、南にある廃寺院には、悪い噂が幾つもある。

 

昔は匪賊が巣くっていたのだが、いつの間にか全滅していたこともあり。

 

偵察以外の仕事で、近づこうとする者は無い。

 

恐怖が実態以上に相手を大きく見せる事はあるが。

 

それは考えにくい。

 

偵察に出てそれを目撃した人間の一人は、この街でもベテランの戦士である。自警団でもいわゆる中堅で。モニカに次期団長を取られはしたものの、その気になれば何処の街でも食べていける実力の持ち主だ。

 

である以上、疑うのは楽観に近い思考の放棄だろう。

 

会議が終わった後、皆を集める。

 

道具類は、この間の探索で使っていないのが残っているので、問題は無い。

 

後は寺院だが。

 

街からそう遠くない。

 

これは解体してしまうのも手かも知れない。

 

そもそもどうして街からそう遠くない所に廃寺院があるのか、よく分かっていないのである。

 

内部調査も必要だろう。

 

何より、深淵の者が接触してきて、それっきりというのも気になるのだ。

 

何か。

 

とても嫌なことが起きている気がしてならない。

 

準備が整い次第、コルちゃんを残して出立する。

 

いずれにしても、ネームドが目撃されていないとは言え。

 

放置は出来ない案件だった。




※邪神について

本作に登場する邪神についてです。

これは文字通りの意味で、本当に普通に神様です。自然の力を基本的に代表しており、高等なものは意思を持っています。

これはドラゴンよりも厄介で。たまに匪賊を玩具代わりに使ったり、人間に対する憎悪を燃やして殺戮しまくるようなのもいます。

深淵の者が危険な邪神はかなり片付けましたが、それでも相当数が残っています。この時点では。

また錬金術師と錬金術装備で身を固めた手練れなら倒せる可能性があるのはドラゴンと同じですが、戦闘力は更に上です。幸い、倒してもどこかに湧くような事はありませんが、時間を掛ければその内復活します。

これら邪神の正体は、その内本作シリーズ内で分かります。
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