暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
寺院を確認。
周囲は草原が拡がっている。
比較的自然環境の条件が良い、という事だ。
そして恐らくだが。
昔の支配者層である人間が、それを見越して、敢えて此処に寺院を造ったのだろう。あまり褒められた行為では無い。
今はそうでもないが。
昔は孤児を売り飛ばして生計を立てる寺院や。
悪逆を率先して行う聖職者が多数いたという。
深淵の者が片っ端からこの手の輩を殺して行ったのだろう。
その結果。
いつしか、本当に天罰が下るという噂が流れ。
恐怖が悪党を萎縮させた。
手をかざして寺院を見るが。
明らかに豪華すぎる造りだ。
どれくらい年月が経っているかは分からないが。
それでも、形がしっかり残っているし。
或いは錬金術師の力を借りて、建物を作り上げたのかも知れない。
周囲を確認。
人が出入りしている形跡は無い。
雑な匪賊なんかになると、食い荒らした獣を捨てていたりするのだけれども、その様子も無い。
ただ、気配はある。
早速オスカーが、植物に話を聞いてくれていた。
「ソフィー」
「どうしたの?」
「此処、結構人が来るらしいぜ」
「へえ?」
オスカーの話にモニカは眉をひそめたが。
コレはいつものことだ。
話によると、此処には数人から十人程度の人間が、かなりの頻度で出入りしていると言うのである。
それも、いずれも非常に強そうな人ばかりで。
あからさまに匪賊とは違うそうだ。
匪賊については、植物たちも良く想っていないらしい。
この辺りに住み着いていた頃は。
傍若無人の限りを尽くされて、大変だったと植物は嘆いているそうだ。
その話を聞いて、フリッツさんがレオンさんをつれて、寺院を直接見に行く。ハロルさんは少し距離を取り、双眼鏡で確認を開始。
あたしも拡張肉体を飛ばして確認するが。
飛んでいった本達が確保している視界には、誰も映らないし。
気配も感じない。
フリッツさんが手招きしてきたので。
体勢を低くしたまま移動。
フリッツさんが視線で示した先を見ると。
玄関が綺麗すぎる。
しかも、あからさまに、強力な魔術で施錠されていた。
下手に触ると危ない。
そう判断したあたしは。
一旦離れるように指示。
全員で寺院から距離を取った。
旅の錬金術師とかの偏屈者が住んでいる可能性もあるし。
そういう場合は、カチコミを掛けると色々面倒だ。
あたしも変わり者は別に嫌いじゃあないし。
周囲と違うから殺すとか、そういう頭が沸いたことを口にするつもりもない。
別にここに住みたいのならそれはそれで勝手だろう。
問題は、危険な相手かどうか、だ。
「フリッツさん、気配は感じますか?」
「いや、どうも妙でな……」
「妙、とは」
「建物は手入れされているし、魔術で丁寧に施錠までしている。 だが、気配がどうも曖昧で、少なくとも素人のものではない」
「僕も感じている。 もし戦う事になったら、面倒な事になるはずだ」
「……慎重に調べましょう」
この二人が其処まで言う程だ。
何か住んでいるとしたら、油断は出来ないという事である。
更に寺院の周囲を調べていくと。
地下への通用門を発見。
此方は開いている。
そして、生活の痕跡がある。
残っている、ではない。
現在進行形で存在している、という事である。
うめき声が奥から聞こえた。
何処かしらの街から逃れてきて、此処に逃げ込んだ人間、という可能性も捨てきれないが。
その割りには証言が気になる。
魔族以上の体格。
そしてこの通用門。
あまり大きくなくて。
魔族が使用する事を加味するとギリギリ。
更に言うと、その天井を擦った形跡がある。
「これは、何かいるな」
「証言も本当のようですね」
「ああ。 以降はハンドサインで」
空気が張り詰めた。
皆が戦闘モードに入ったのだ。
通用門は開きっぱなし。
ジュリオさんを先頭に、内部を確認しながら入る。
気配からして、ネームドやもっと強大な存在では無い、とみて良いだろう。
ならば何だこの気配は。
人間のようでいて。
そうではない。
一角。
大きな穴が開いていて、異臭がした。
恐らく便所として使っているのだろう。
勿論、其処に潜んでいる可能性もある。
拡張肉体と一緒に、魔術を展開。周囲の気配をより鋭敏に探知出来るようにして、ゆっくり進む。
寺院の地下はかなり広い。
一つの部屋で、あまりよろしくないものをみつけた。
拷問器具類だ。
異端審問用の書物もある。
モニカが、露骨に不愉快そうな顔をした。
数百年の昔。教会が生臭坊主どもに支配されていた時代があった。
その頃には色々とごたごたがあり、その辺の歴史は今も彼方此方の書籍に残されている。
孤児を売り飛ばしたりするような、金の亡者の権化のような連中がいたと思えば。
坊主でありながら権力を握ろうとする輩もいた。
そういう連中には。
信仰の力を悪用して。
自分に邪魔な存在に言いがかりを付け。
殺して行くような奴もいた。
エリーゼさんの持っていた、寺院の裏側、という本で手に入れた知識だが。
まさか異端審問用の本などが見つかるとは思わなかった。
プラフタは捨てろとハンドサインを出してきたが。
解析はしておきたい。
荷車に放り込む。
後は、戻ってからよく読めばそれで良い。
地下は腐りかけた床と。
よどんだ空気。
更にたまに見かける霊。実力は大した事は無く、此方の魔力を見てさっさと逃げてしまう。
こんな所に住んでいて、とても正気を保てるとは思えないが。それでも何かはいるのだろう。
臭いもしてきた。
さっきの、トイレとして使っているものとは違うらしい臭いだ。
程なく、位置をフリッツさんが特定。
ハンドサインを出してきた。
頷くと、皆で展開。
それほど大きな部屋では無いが。
いる。
3、2、1。
GO。
突入。
腐っている扉を、小型の爆弾で吹っ飛ばし、中に踊り込む。
部屋の中には。
いや、隅の方に。
蹲るようにして、まるで闇そのものが固まったかのような異形がいた。
なるほど、大きさは魔族以上。しかし前に見た巨人族ほどでは無い。
全身は肥大化していて。
特に左手は、体と同じくらいまで巨大化している。
これでは動くのさえ一苦労だろう。
更に、全身の肌は赤く。
周囲には、鉈のような巨大な刃物が複数浮いていた。
ジュリオさんが叫ぶ。
「ナザルス先輩!?」
「……ジュリオか」
顔を上げたその存在は。
頭に角まで生えていた。
ヒト族だと聞いていたのだが。
これは魔族でも滅多に見られないほどの見事な角だ。
いずれにしても、敵意は無い。
剣を収めるジュリオさん。
恐らくこの人が。
例の、タチが悪い外法使いの魔術師を倒した時に呪われた存在なのだろう。
フリッツさんが、レオンさんを促して、周囲の警戒に当たる。
ジュリオさんの話は前にあたしを介してしたし。
敵意は無い、と判断したのだろう。
ナザルスという人は。
巨大化しすぎた腕を地面に重そうに押しつけたまま。
情け無さそうに、牙だらけになっている口を開いた。
「近づいてはならん。 この呪いは、見ての通り人体を徹底的にむしばむ。 俺を殺せば、恐らく次の誰かに感染するだろう」
「少し失礼します」
プラフタが前に出ると、拡張肉体を飛ばし。
更に自分が宿っていた本を媒介に魔術を展開。
調査を始める。
モニカも詠唱をして、何か異常が無いか調べているようだが。
結論を出したのは、プラフタの方が早かった。
「なるほど、これは……」
「何か分かったのかい」
「根絶の力ではありません。 外法の一つではありますが、何もかも法則をねじ曲げて、力にするものです」
「摂理を壊してしまう外法という事ね」
モニカも似たような結論を出したらしい。
プラフタは更に言う。
「これは捻転の外法と言って、錬金術に対抗しようと魔術師が考え出した物の中では、最悪の一つです。 この人が懸念しているように、全ての物事をねじ曲げて、更に感染もします。 基本的に産み出した人間に。 次は殺した人間に。 タチが悪い寄生生命体のようなものです」
「何とかならないのか、プラフタ」
「……この人の進展の様子からして、外法を取り除いても長生きは出来ませんが、それでも良いのなら」
「ナザルス先輩」
ジュリオさんが声まで青ざめて言うが。
即答される。
やってくれ、と。
「俺はあの鬼畜を倒した後、自分が露骨におかしくなっていくことに気付いた。 自裁するつもりだったが、どうしても勇気が出なかった。 その内、このけったくそ悪い鉈までついてきた。 あの魔術師のいた部屋にあったものだ。 魔術師が、この鉈に、主人を守るように魔術を掛けていたのだろうな」
反吐が出そうな顔をしようとしたらしいナザルス氏だが。
魔族が怒っているようにしか見えなかった。
なるほど、分かった。
恐らくその外法使いの力のイメージに、この人はどんどん近づいているのだろう。
死してなお他者を苦しめ続けるか。
ノーライフキングといい、リッチといい。
外法使いというのは、どうしてこうも救いがたい存在なのか。
「先輩、出来るだけ早く戻ります」
「頼む。 最近は意識が飛びそうになる事も多くなっている。 人間に近い姿だった頃は、食事も必要だったし、排泄もあったが。 今は何も食べずに、そのまま体が肥大していくのを見ているばかりだ。 このままだと俺も、あの外法野郎と同じように、見境無く人を襲うようになるだろう。 それだけはいやだ。 もしもこの外法を取り除けない場合は、俺を斬ってくれ」
「……分かりました」
すぐに寺院を出る。
入り口の封印は気になるが、いずれにしても一刻を争う事態だ。
もしもあの外法が、ナザルス氏をむしばみ尽くしたら。
下手をすると、キルヘン=ベルに乱入して来かねない。
その場合、地獄絵図の始まりだ。
誰かが殺してしまえば。
その時はまた外法が移る。
それが連鎖したら。
一気に周囲は地獄になる。
全速力でキルヘン=ベルまで戻ると。あたしはアトリエに。フリッツさんは、ホルストさんへの報告を頼んだ。他の皆はその場で解散。
レオンさんが何か言いたそうにしていたが。
今はそれどころでは無い。
アトリエに入ると。
プラフタに確認する。
「それで、捻転の外法を取り去る方法は?」
「理論としては比較的簡単です。 摂理を曲げてしまっているものを、排除すればいいのです」
「なるほど。 具体的には」
プラフタによると。
魔術によって出来る限界の技の一つ。
リッチのように、魔法陣に閉じこもって、気が遠くなるような時間を掛けて詠唱を行い、自身の中にもう一つの何かを造る。
その何かには意思があり。
周囲の全てを、自分にしようとする。
問題はその何かが、自分が周囲と違う事を認識していることで。
これが非常に厄介なのだという。
何しろ、主体的な「自分」を持っていないため。
術者のイメージが、最も凶暴なイメージとして具現化するから、である。
ああなるほど。
それでナザルスさんは、あんな姿にされてしまったのか。
不幸極まりないが。
今はそれを嘆いていても仕方が無い。すぐに作業に取りかかる。
要は、その「もう一つの何か」を排除すれば良いのだ。
排除の手段は難しくない。
相手は精神生命体。
それを破壊してしまえば良いのだ。
つまり、第一段階で位置を確認。
第二段階で固定。
第三段階で破壊。
以上である。
仕組みさえ分かれば。
レシピは作れる。
魂はよく分からないけれど。
精神生命体はそれとは別。
というか。
精神生命体でも、しっかり物理攻撃が通用する。魔術が掛かった剣だったら更に良く効く。
だから究極的には、居場所を特定したら刺すだけで良い。
まず順番に、相手の位置確認をする道具から。
方法としては、相手の体の中で、もっとも変化が激しい場所を探り当てれば良い。
心臓とかに潜り込んでいる可能性もあるが。
個人的には多分無いと思っている。
というのも、そんなところに寄生したら、宿主を速攻で死なせてしまう。
脳も同じだろう。
要するに、宿主の生命をダイレクトに破壊してしまう臓器類には宿っていない、と見て良いだろう。
生命力が最も異常にあふれ出ている場所を特定するために。
生命力を探知する道具を作成していく。
気配探知の魔術の精度を数十倍増しにすれば良い。
仕組みとしてはゼッテルに魔法陣を描き。
拡張肉体と同じような仕組みで、意思を与えれば良い。
続けて固定化だが。
この位置を特定する拡張肉体と連動させて。
相手にショックを与える。
まさかダイレクトアタックを受けるとは思っていないだろう相手は。
その場で動きを止める。
後は貫けば良い。
レシピを仕上げる。
プラフタに見せるが、まだ駄目出しを受ける。
頭を掻きながら。修正。
そろそろ一発クリアを出したいが。
中々上手く行かない。
新しい道具を造ると。
ほぼ必ず駄目出しが入る。
これはそろそろ、いい加減に何とかしたい。
ともあれ、レシピは夜中の少し前には出来た。道具類もそう難しいものを使うわけでは無い。
その場ですぐに造ってしまう。
仮眠を時々入れながら。
細かい作業をする。
魔法陣を描くというのは結構大変だし。
それを何百倍にも増幅するのもまた大変だ。
最終的に出来たのは、いわゆるペンデュラムと呼ばれる道具。要するに振り子である。
糸で吊った三角錐の内部に畳んだゼッテルが入っていて。
異常な生命力がある地点を、ピンポイントで指す。対象はある程度指定可能で、小型のものだけを選択できる。
実際に使って見たが。
部屋の中でも、小さな虫などが入り込んでいる地点を、正確に指し示すことが出来た。
更に相手を拘束する魔術の実験も成功。
今回、ナザルスさんを苦しめているのは、早い話が全身を異常肥大化させる寄生生物なので。
それを殺すには、これは最適だ。
問題は、ナザルスさんは、その後長くは保たないと言うことで。
更に、人前にも姿を見せられないだろう、という事だ。
ただ、そのままだとあの人は文字通り人間では無くなる。
あの人は、人間のまま死にたいのだろう。
だから分かっている上で。
頼んできた。
もし自裁されていたら。
あの寄生生物が、どんな風に彷徨って。
誰に取り憑くかも分からない。
それを考えると、あの人の判断は正しかった、という事になる。
試験運用をして見て。
プラフタは頷く。
「これで良いでしょう」
「分かった。 じゃあ早速行こう」
「休んでからです」
「……分かった」
確かに、ナザルスさんは理性を保っているのも大変なように見えた。
戦闘になる可能性は充分すぎる程にある。
あたしは言われるまま栄養剤を飲むと。
寝台に潜り込む。
そういえば、食事も取っていなかったか。
苦笑いしながら。
あたしは早々に、眠りについていた。