暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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その人は。

呪われていたとしても。

運命が噛み合わなかったとしても。

最後まで、立派な騎士でした。


3、終わりの選択

寺院に行く最中。

 

ナザルスさんの話を聞く。

 

皆、それについては、異論を口にしなかった。勿論周囲は警戒しながら、だが。今でも少なくなったとはいえ、この辺りにも猛獣は出るのだから。

 

「ナザルス先輩は、非常に真面目な騎士で、後輩達からは兎に角怖がられていたのだけれども。 しかしながら自分に誰よりも厳しく、どんなミスをした場合も必ず自己申告するような人だったよ」

 

「組織の中では生きづらかっただろうな」

 

「奥さんともあまり折り合いは良くなかったそうです。 ただ、誰よりも厳格に法を守るから、悪党からは本当に怖れられていました。 剣の腕も確かで、匪賊の集団を一人で全滅させたこともありました」

 

フリッツさんには、ジュリオさんも対応がとても丁寧になる。皆に話すときも比較的優しいしゃべり方をするが、流石に格上の経歴を持つ相手だと認めているからだろう。

 

そして今。何故こんな話をするのか。

 

決まっている。

 

ジュリオさんも分かっているのだろう。

 

これから、その人の願いを聞き。

 

全てを断つためだ。

 

だから今。

 

こうして話をしっかり聞いておく事で。

 

この場にいる人間全員に、ナザルスという人の事を、覚えて貰う。そういう意図があってのことである。

 

あたしにだってこれくらいの気配りは出来る。

 

ジュリオさんも、あの肥大化した異形を見た瞬間、分かったはずだ。

 

助からないと。

 

錬金術を使えば、或いはという希望もあったかも知れないが。

 

プラフタからして無理と即答するレベルである。

 

死者を蘇生させることには、膨大な労力が必要だし。

 

何よりも。

 

プラフタのような、極端な例外でないと無理。

 

壊れてしまったものは直せるかも知れない。

 

しかし変わってしまったものを。

 

最初の状態に直すのは、流石に難しい。

 

時間を巻き戻す事が出来ても。

 

恐らくは、あの異形を無理矢理元に戻したフィードバックで。ナザルスという人は結局死ぬだろう。

 

「ナザルス先輩は騎士団長からも一目置かれていて、僕に早くから目を掛けてくれていた人だ。 僕にあらゆる騎士団に伝わる技を教えてくれた。 僕が始めてネームドの討伐戦に参加したとき、ネームドの攻撃から僕を庇って大きな傷を受けても、何も恨み事は言わなかった。 お前の方が将来有望なんだから、気にする事は無いって、むしろ不器用に笑ってさえいたよ」

 

そうか。

 

本当に真面目で。

 

得がたい人材だったのだろう。

 

とにかく厳しい接し方をされたと、ジュリオさんは苦笑いするが。

 

それでも、やはり慕っていたのだろう。

 

時々無言になる。

 

それはそうだ。

 

恩人のあんな姿を見て。

 

心が動かないのなら、そいつは恐らく人間では無いだろう。

 

寺院が見えてきた。

 

フリッツさんが、少し待とうかと言うが。

 

ジュリオさんは首を横に振った。

 

そればかりか、あたしがペンデュラムの説明をすると言う。

 

「最後は僕がやる。 手は出さないで欲しい」

 

「分かっています」

 

「……すまない」

 

勿論、寄生体を殺した後、即死するわけでは無いだろう。

 

数年は生きられるかも知れない。

 

だが、人の世界に戻ることは不可能だ。

 

自裁さえ出来ない状態になった人を。

 

心の整理を付けて。

 

余生を送る条件を整える。

 

今できるのは。

 

それだけだ。

 

今回はコルちゃんも来ている。

 

ここのところ、無理矢理に錬金術を使っていた結果、「鍛えられた」らしく。昨日複製を頼んでいた分の仕事は終わり、比較的体力にも余裕があるという。次の遠征までには、体調も整えられそうだという事である。

 

頼もしい。

 

寺院の裏口に回る。

 

血だらけだ。

 

見ると、グスタフと呼ばれる大型のアードラの亜種が。

 

食い荒らされていた。

 

文字通り捕獲され。

 

その場で生きたまま喰われたのだろう。

 

なるほど、これは本人があんな懇願をするわけだ。

 

もう理性を保てなくなってきている、という事である。文字通りの怪物になる前に、自殺だけでも出来る状態になりたい。

 

それがあの人の救いか。

 

モニカが不意にジュリオさんに話しかける。

 

「あの人に信仰か何かはありますか」

 

「信仰? ……そうだね、アダレット騎士団は、全員主神教の信者だよ。 信仰は真面目にやっている人とそうで無い人がいたけれど、あの人は多分騎士団一真面目だったんじゃないのかな」

 

おかしな話だが。

 

騎士団長が一番不真面目らしく。

 

それについては、ジュリオさんも苦笑いしていた。

 

騎士団で、主神教を信仰するのは自由。

 

そう決めたのは、今の騎士団長らしい。

 

それも騎士団長は歴戦の巨人族らしく。

 

歴戦にもかかわらずかなり自由な思考をすると言うことで、歴代騎士団長の中でも特に変わり者として知られているそうだ。

 

実力主義者でもあり。

 

自分を凌ぐ剣術の使い手が現れたら、すぐにでも騎士団長を譲るとも公言しているそうで。

 

ただこれには、巨人族とはいえ相当な高齢なため。

 

早く後を継いでくれる人材に出てきて欲しいという願いもあるらしい。

 

話を聞き終える頃には。

 

あたし達で、グスタフの死骸を片付け終えていた。

 

「聖歌を歌います」

 

「頼む」

 

それだけで、会話は通じたし。

 

終わった。

 

フリッツさんが頷くと、古びた寺院の中に入り込む。

 

血の臭いが凄まじい。

 

前に来たときとはまるで別だ。前は食事も必要ないと言っていたのに。

 

これは恐らくだけれども、相当に精神的な状態に限界が来ているのは間違いないだろう。

 

また死骸だ。

 

それも大型の牛である。

 

このサイズのものになると、歴戦の戦士でも油断すると一撃で角に貫かれたりするのだけれども。

 

それを苦も無く捻り殺して、生きたまま食い散らかしている。

 

死骸をどけると、奥に。

 

昨日と同じ場所。

 

昨日以上に真っ赤に染まったその人は。

 

いた。

 

何となく、こうなった理由は分かった。

 

寄生体が、命の危険を感じたのだ。

 

だから少しでも力を上げようと、理性を暴走させ。近くにいる猛獣をナザルス氏に襲わせたのだろう。

 

騎士ナザルスだったものは。

 

昨日以上に体がふくれあがり。

 

そして、その目は赤く光っていた。

 

「ジュリオ……カ……」

 

「先輩。 今、その邪悪の権化を取り除きます」

 

「頼む……モウ……抑え……キ……れない」

 

頷かれた。

 

あたしは前に出ると、ペンデュラムを取り出す。

 

それはまっすぐに。

 

ナザルス氏の右腕を指し。

 

雷撃を発射。

 

貫通した。

 

悲鳴を上げるナザルス氏だが。

 

彼が動く前に、ジュリオさんが動く。

 

事前に告げてある。

 

精神生命体といえど、実際には霊と同じように物理攻撃が通用する。ましてや今ジュリオさんが使っているのは、強力な魔術が掛かった特別製の剣。アダレット騎士団でも上位の者に渡される業物の中の業物。

 

それならば、斬れる。

 

空中に浮かんでいた鉈が、一斉に襲いかかってくるが。

 

フリッツさんとレオンさんが前に出て、ジュリオさんに襲いかかった二本を瞬時に叩き落とし。

 

あたしとプラフタがもう二つを魔術で撃墜。

 

更にオスカーとコルちゃんが、床に突き刺さった鉈を押さえ込み。

 

それでもまだ動こうとした一本を。

 

ハロルさんが撃墜した。

 

モニカはもう詠唱を開始している。

 

ジュリオさんの剣が。

 

指定した箇所に潜り込む。

 

凄まじい絶叫を上げ。

 

ナザルス氏が、暴れ狂ったが。

 

しかしながら、それは恐らく、ナザルス氏では無く。のろわしい精神生命体が荒れ狂ったのだろう。

 

まもなく、その雄叫びは止み。

 

振り回されていたジュリオさんが壁に叩き付けられた時には。

 

ナザルス氏は、自らも壁に背中からぶつかっていた。

 

モニカが聖歌を始める。

 

あたしは創造神なんか大嫌いだし。

 

主神教なんか近づきたくもないが。

 

だが、ナザルス氏はあたしと違ってそれを信仰していた。

 

今はそれが大事なのだ。

 

誰よりも篤く主神を信じていたナザルス氏。

 

主神、というか創造神は、そんなナザルス氏に、何一つ報いなかった。

 

家庭はナザルス氏の厳しい性格もあって冷え切っていただろうし。

 

部下達だって怖れる事はあっても慕うことは希だっただろう。

 

ジュリオさんのような例外はいたが。

 

或いはそれも見越して、騎士団長はジュリオさんに、ナザルス氏の捜索を命じたのかも知れない。

 

意外と粋な人物だ。

 

同僚にも上司にも家族にも好かれなかったかも知れないが。

 

有能な騎士で。

 

自分が犠牲になる事を厭わず。

 

不器用ではあっても、弱者を守るために命を掛ける事が出来。

 

その結果、呪いを身に引き受けることになった人だ。

 

騎士団長は、忸怩たる思いもあったのだろう。

 

ジュリオさんのような、最精鋭を派遣して、その行く末を見届けるべきだと判断したのも、其処からかも知れない。

 

聖歌が響き渡る。

 

あたしにとっては不愉快な代物だが。

 

ナザルス氏の動きが止まる。

 

勿論体が治ったりはしない。肥大化した異形のままだ。

 

だが、赤く濁った目からは。

 

涙が流れ始めていた。

 

「美しい……光が満ちている……」

 

「ナザルス先輩……」

 

ジュリオさんが立ち上がる。

 

だが、ナザルス氏は、ようやく自分のものにした理性を噛みしめるように、一言ずつ丁寧に言い聞かせた。

 

「これで、ようやく覚悟を決めることが出来そうだ。 ありがとう。 厳しすぎる接し方をして、すまなかったな。 だが俺は不器用でな。 他にやり方を知らなかった」

 

「知っています。 他の同僚達に見る目が無かっただけだと言うことも」

 

「そうか。 家族にもすまなかったと告げておいてくれるか」

 

「……分かりました」

 

剣を引き抜くジュリオさん。

 

異様に赤黒い血が噴き出して、床に溜まっていった。

 

アダレット式の最敬礼をするジュリオさん。

 

ナザルス氏は、頷くと。

 

後は少しだけ、時間が欲しいと言った。

 

「寺院を出よう。 何かあった場合は、僕が責任を取る」

 

「分かりました」

 

後何年かは生きられる筈だが。

 

しかし、寄生生物が入った事によるダメージは大きい。精神が常に平常を保てるわけではないだろう。

 

寺院を出る。

 

それから少しして。

 

内部で、何かをねじ切るような音がした。

 

 

 

ナザルス氏の遺体を運び出す。

 

本人はとても安らかな顔をしていた。

 

このまま生き続けるのは恥辱だと分かりきっていたのだろう。

 

だけれども、精神寄生体のせいで、自裁する事も出来なくなってしまっていた。

 

勿論、この後生き延びて。

 

化け物として、残りの余生を過ごすという手もあったかも知れない。

 

ジュリオさんには迷惑を掛けるが。

 

ナザルス氏の人生はあまりにも報われないものだった。

 

それくらいは、する権利があっただろう。

 

だが真面目なナザルス氏は、そうはしなかった。

 

そしてその真面目さは。

 

周囲の殆ど誰も理解せず。

 

ただ自分達にとって不愉快だからと言う理由で、遠ざけるに至っていた。

 

ナザルス氏の遺体はそのままキルヘン=ベルまで運ぶ。

 

これは何だと、流石にどよめきの声が上がったので。

 

ホルストさんに、あたしから経緯を説明する。

 

魔術の外法には、とんでも無い代物があるという事は知っていたのだろう。

 

ホルストさんから、顔役達に声を掛け。

 

あたしから改めて経緯を説明し直し。

 

そして、街で葬儀を行うことにした。

 

遺品は何も残っていなかった。

 

この巨体である。

 

膨れあがる過程で、何もかもが剥がれ落ちてしまったのだろう。

 

なお、生物として異常な状態になってしまったからか。

 

性別を理解出来るようなものさえなくなっていた。

 

葬儀はアダレット式で行うかと聞かれて、ジュリオさんは静かに頷く。

 

ホルストさんが音頭を取って。

 

葬儀が行われた。

 

あたしは静かにそれを見る。

 

あまり口にしても仕方が無いが。

 

これには政治的な意味もある。

 

アダレットから来て、異国で倒れた男。

 

その男は、自分の中に住み着いてしまった呪いを拡散させないために、一人で立てこもる事を選び。

 

精神がおかしくなるのにも必死に耐え。

 

そして最後は、人として死んで行った。

 

そんな立派な戦士を弔った。

 

アダレットに対しても、それで大きな恩義を売る事が出来る。

 

死体を保存して故国に返しても、意味がないだろう。途中で酷く痛んでしまう。

 

何よりも、既に今の状態で。

 

痛み始めていた。

 

無茶苦茶に体が壊された結果なのだろう。

 

アダレットでは火葬を採用している。

 

色々な理由から、死体は土葬する事が多いのだが。

 

少なくとも騎士に対しては、火葬することがメジャーなようだ。

 

あたしも教会は嫌だが。

 

参列する。

 

此処でジュリオさんとのコネをしっかり確保しておくことには、重要な意味があるからである。

 

プラフタは普通に目を拭っていたが。

 

そういう所が、タチの悪い集団につけ込まれた原因だったのだろうと、あたしは自分でも嫌になるくらい冷徹に状況を分析していた。

 

教会の側にある墓地に灰の大半を埋める。

 

ジュリオさんは、一度アダレットに戻り、経緯を報告した後、此方に戻ってくるらしい。旅人の靴を用いても二週間ほど掛かるそうだが。

 

どうせ此方も。

 

その間に、橋の材料を造らなければならない。

 

葬儀の喪主はジュリオさんにやってもらうが。

 

儀式的なことは、パメラさんが取り仕切った。

 

それにしても、パメラさん。

 

あからさまな人外である事は分かっていたが。

 

今になって思うと、聖歌を聞いてまったく平気な顔をしているし(プラフタもダメージを受けるので、指向性を持つモニカの聖歌の範囲からは逃れるし、教会で聞こえてくる聖歌からは身を守るための魔術障壁を張っている)、各地に対する知識も深い。

 

深淵の者の指導者が接触してきた今。

 

この人としっかり話をして。

 

調整をする必要があるだろう。

 

深淵の者と戦うつもりはないし。

 

今の時点では、そもそも理由がない。

 

かといって、相手の組織の全貌が見えない以上。

 

いきなり敵組織の跳ねっ返りに奇襲される可能性もある。

 

それらを避けるために。

 

橋渡しとしての調整役が必要だ。

 

そんな事を考えながら葬儀に参列し。

 

全て終わった後、埋葬まで見届ける。

 

墓石はそのまま立てるが。

 

その下には灰しか埋まっていない。

 

墓碑には、偉大だが不器用な騎士ナザルス、多くの民を呪いから守り、孤独の中で誇りを貫いた。誰もに愛された人では無かったが、その誇りと真面目な心は我々が知っている、と刻まれた。

 

ナザルス氏が見たら、少なくとも怒ることはないだろう。

 

安らかに眠ってくれることを祈るばかりだ。

 

一通り葬儀が終わり。

 

ジュリオさんが、アトリエに来る。

 

敬礼をされたので、少し驚いた。

 

「これで目的の一つは達成出来た。 ナザルス先輩の家族はきっと灰を喜ばないだろうが、それでも真実を伝えなければならない」

 

「もしも受け取りを拒否されたらどうするんですか?」

 

「その場合は、騎士団で引き取るよ。 少なくとも僕と騎士団長は、あの人がどれだけ偉大な騎士だったか、知っているからね」

 

あたしの冷酷な言葉にも。

 

ジュリオさんは怒る様子も無く。

 

静かに返した。

 

というよりもジュリオさんも。

 

あたしがこういう奴で。

 

しかし義理は通すし。

 

ナザルス氏を救ったのも、錬金術の力だと言う事を理解しているから。

 

感謝もしてくれているのだろう。

 

あたしとしては、それで構わない。

 

何でもかんでもベタベタするのが正解ではあるまい。

 

「深淵の者についても、この街で接触できるのはほぼ確定になった。 それも含めて、騎士団に報告してくる。 多分増援が回ってくることは無いと思うから、しばらくは僕一人で任務に当たる事になると思う」

 

「頼りにしています」

 

「ありがとう。 騎士として君の盾になることを誓うよ」

 

敬礼をかわす。

 

そして、ジュリオさんは、一度アダレットに戻った。

 

ふうとため息をつく。

 

教会で散々聖歌だの有り難い言葉だのを聞かされて。忍耐にも限界が近づいていた。顔には出さなかったが。

 

プラフタは眉をひそめる。

 

「ソフィー。 貴方はずっと不快感を押し殺していたのですね」

 

「分かっているんなら、わざわざ口に出さなくても良いんじゃない?」

 

「それはそうですが。 しかし、本当に貴方という人は」

 

「これくらい狂っていないと、錬金術の深奥には近づけないんじゃないのかな」

 

プラフタは絶句する。

 

あたしは狂っている。

 

そんな事はあたしが一番よく分かっている。

 

そしてまだあたしは未熟だ。

 

だから更に力を付けなければならない。

 

拡張肉体を更に増やす事にする。

 

大量のゼッテルと装丁のための表紙を用意し。

 

他の拡張肉体と同じ本をちまちまと作っていく。

 

内容は同時並行で同じになるように常にバージョンアップしているので。

 

新しく造るのは相応に大変だ。

 

本を一冊作るのと同じなのだから、当然とも言えるが。

 

同時並行で。

 

インゴットを加工する。

 

架橋のためである。

 

糸の作成は、街の方に丸投げ。

 

糸が仕上がったら、それを錬金術で変質させて、橋の素材にするのはあたしがやる。

 

いずれ橋が出来上がるときに。

 

あたしは素材だけを渡して。

 

加工そのものは街の人達がやる仕組みを作ってしまいたいが。

 

それもまだ先の話。

 

ノウハウが完璧に仕上がってからでも遅くは無い。

 

淡々と作業を進めながら。

 

プラフタに言う。

 

「ちなみに、今までに歴史上最高の錬金術師って、誰なんだろう」

 

「分かりません。 何しろ混乱が続いていましたから。 ラスティンとアダレットの保管している書物に全て目を通せば分かるのかも知れませんが」

 

「いやね、そんな錬金術師がいたのなら、その人の書架を漁れば、有益なレシピが見つかるかも知れないと思ってね」

 

「……」

 

それでも、本で読むよりも、プラフタに解説された方がまだ飲み込みが早い点は変わっていない。

 

あたしは本と相性が良くないので。

 

こればかりはどうしようもない。

 

「あくまで噂ですが、私の時代から700年ほど前に。 空を飛ぶ要塞や、邪神を苦も無く倒せるほどの道具を使っていた錬金術師がいたという話です。 空を飛ぶ巨大建造物の技術については、今も秘匿されていてもおかしくありません」

 

「そんなもの、真っ先にドラゴンに撃墜されるんじゃないの」

 

「だから秘匿しているのです」

 

ああ、なるほど。

 

というか、もしもその残骸が見つかったのなら。

 

ドラゴンが潜んでいてもおかしくないか。

 

あと一つ気になる事がある。

 

あの寺院。

 

入り口がおかしな封鎖のされ方をしていた。

 

使っているのは、明らかにナザルス氏では無かっただろう。

 

あの人は通用口から地下に入り。

 

其処でじっとする事で、被害を抑えることに必死になっていたのだから。

 

だとすれば。

 

一体だれが。

 

ナザルス氏がいる事が分かっている状態で。

 

それでもなお平然と、あの寺院を使っていた。

 

腑に落ちない点は幾つかあるが。

 

兎に角、この時点で出来る事は全てやった。

 

後は、架橋を済ませて。

 

水源への探索を行う。

 

そのための準備を、今は黙々と進めるだけだ。

 

それからは会話も減る。

 

プラフタは先に休むと言って、眠った。

 

恐らく聖歌を防ぐための魔術も負担が大きかっただろうし。

 

精神的にも結構きつかったのだろう。

 

ナザルス氏か。

 

真面目な故に。

 

誰にも理解されなかった人。

 

家族でさえ、冷酷な相手だと勘違いし。

 

部下達からも、「コミュニケーション能力」だとかが理由で敬遠されていたのだろう。

 

だが、ジュリオさんと騎士団長という理解者はいた。

 

そして精神力だけで。

 

多くを不幸にしただろう恐怖の呪いを押さえ込み、被害を出させなかった。

 

確かに凄い人だったのだな。

 

そうあたしは、素直に認めることが出来ていた。

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