暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ 作:dwwyakata@2024
基本的に錬金術の成果物は、カフェと呼ばれる店に納品する。これはおばあちゃんの時代からの決まりである。
カフェとはいうが。
実際にはそんな軽い施設では無い。
基本的にこの街の中心にあり。
社交場を兼ね。
更に流通の中心でもある。
傭兵達はここに来て情報交換をするため。
昼間はヒト族と獣人族。
夜は魔族が基本的に一人はいる。
この街の自警団は此処を中心に動いていて。指揮系統の中枢でもあるため。此処を潰されると、街が陥落する可能性がある。
要するに此処は。
政庁であり。
軍司令部でもあるのだ。
あたしの国では、街ごとに自治を任せている。だからそもそもこういった司令部そのものが無いような小さな村なども多いけれど。
此処では頭になる施設があって。
それが大事な役割を果たしている。
このため、カフェの店長であるホルスト=バスラー氏は、一見すると温和そうな老紳士だが。
実際は相当な武闘派で。
素手で大型の猛獣を殴り倒したこともあるらしい。
ヒト族の中で其処までの猛者はあまり多く無いらしいが。少なくとも、おばあちゃんが信頼していただけのことはある。
また各地を回っていたことからも目利きに優れ。
多くの情報の真偽を聞き分けることにもその能力は発揮されている。
要するに。
おばあちゃんが生きていた時代は、この街のナンバーツーだったヒトで。
今はこの街の事実上の支配者だ。
最初に此処に足を運んだのは。
街の仕組みを知って貰いたいから、である。
店長はプラフタを見ると、モニカと同じ反応をしたけれど。
丁寧に自己紹介をプラフタがすると。
剣から手を離した。
一応、自衛のためにも。
今でも剣を腰に帯びているのだ。
外は、今でも荒野が拡がっていて。
いつ匪賊が攻め入ってくるか分からない。
それはこの街でも同じ。
腕利きの自警団がいても。
ドラゴンや邪神が攻めこんでくるかも知れない。
そういうときに備えて、戦えるものは常に武器を身につけている。それが基本なのだと。ソフィーが会った事のある戦士や傭兵は、口を揃えていたし。
ホルストさんもそれに変わりは無かった。
一方で、この店は無骨なだけでは無く若干の余裕もあり。
店の奥にはピアノもある。
一度やってみてはどうかと進められたこともあるのだが。
どうにも気が向かなくて、触っていない。
ともあれ、皆が見ている中、プラフタの紹介を済ませると。
薬を納品する。
山師の薬と言えば、何処でも定番の錬金術の産物だが。
さっと目を通して、ホルストさんも驚いていた。
「これは、本当にソフィーが作ったのかい」
「ええ。 まだまだだとプラフタには駄目出しされましたけれど」
「いや、これは売り物に充分になる出来だ。 見てご覧」
何のためらいもなくホルストさんは刃物を腕に当てると、軽く引いて傷を作る。
血が流れる其処にソフィーの薬を塗り込むと。
本当に冗談かと思える速度で、傷が塞がり。血が止まっていった。
これが。
錬金術で作った薬の、本当の力か。
今までソフィーが作った薬は、どうしても薬草を使って普通に自然の回復力を促す、以上のものではなかったし。
回復魔術に比べれば、鼻で笑われるような代物でしかなかった。
だがこれは。
回復魔術と同等か。
それ以上ではあるまいか。
しかもプラフタが言う限り、これは25点である。
100点満点の薬だったら、一体どんな奇跡を起こすのか。
いずれにしても、全セットを納品してしまう。
今まであたしがカフェに顔を出したとき、まだ一人前にならないのかと、露骨な哀しみの声が聞こえることがあったが。
皆が今は。
良い方向で、此方を見てくれているようだった。
早速ホルスト氏が、まだ怪我をしている自警団の人間を呼ぶ。
毎日巡回任務をしていれば、猛獣などとの小競り合いは起きる。
相手の実力にもよるが。
どうしても怪我はする。
薬を塗り込むと、あっという間にその怪我が治癒していくのを見て。
自警団に所属している、一回り年上の男性戦士は驚いていた。
「これはびっくりだ。 昔のあの薬ほどじゃないが、奇蹟の薬だ」
「そうですね。 だが、もっと伸びるでしょう」
「楽しみだぜ」
わいわいと、喜んでいる周囲の傭兵達。
それはそうだ。
回復魔術に頼らなくても良くなったのだ。それぞれが回復手段を備えていると言うのは、大きな強みなのである。この薬は即効性で、しかも塗り薬である。携帯には便利だし、戦いには大いに役立つだろう。
そして、ソフィーは。
今までの駄賃とは違って。
充分な額の賃金を貰った。
これが仕事をする、という事なのか。
やっと実感が。
ソフィーにも芽生えた気がした。
少し良い気分だ。
街の人達に、プラフタを紹介して回る。
まずは八百屋。
オスカーには、本当はモニカの次に紹介したかったのだが。まあこればっかりはタイミングというものがある。
それにオスカーは、ソフィーとある意味同じ能力の持ち主だ。
ちょっとプラフタに話を聞いておきたい。
若々しい名物おかみであるオスカーのお母さんは、浮かぶ本プラフタをみるとぎょっとしたが。
オスカーはむしろ興味津々の様子である。
「はー、人間が本になるって、どういうことなんだ!?」
「私にも分からないのです。 何が起きてこうなったのか……」
「ねえプラフタ。 オスカーは、植物と会話が出来るらしいんだ」
「植物とですか」
本当だぜと、オスカーは自慢そうに胸を張るが。大きな腹がぶよんと揺れるだけだった。もうちょっと痩せるべきだろう。
いずれにしても、このような体格の人間がいるというだけ。
キルヘン=ベルは栄養に満ちている、という事だ。
「植物はおいらの友達だ。 八百屋にも、植物の体の一部を分けて貰って、栄養のある部分を提供して貰ってるんだぜ」
「オスカー、それ前から聞きたかったんだけれど、植物にとっては体の一部を切り取るようなものじゃないの?」
「それがな、植物にとってはあくまで種としての存続が大事らしいんだ。 栄養価のある部分を取り出して、その代わり生きるための土地を提供してくれるというなら、それは立派な共生なんだってさ」
「だって。 プラフタ、どう思う?」
少し考えていたプラフタだが。
オスカーをじっと観察した後。
面白い意見を出してくれた。
「ひょっとすると、錬金術師の素質があるかも知れませんね」
「そうなの!?」
「ものの声を聞く能力は稀少な素質なのですが、あらゆるものの声が聞こえる場合と、特定の種類のものの声が聞こえる場合があるようなのです。 ただ、正直な話をすると、これはあくまで一説なので、真相がどうかまでは私には分かりません」
「そっか。 いずれにしても、頭ごなしに否定はしないんだな。 モニカなんか中々信じてくれないんだけどな」
頭を掻くオスカー。
いつもカボチャを模した帽子を被っているくらい、植物が好きなのだ。
いずれにしても、全否定をされなかったのは、嬉しい事だったのだろう。
通りの周辺を回る。
世話になっている店は大体この辺りに集中しているので、それだけでプラフタに街はあらかた紹介できる。
まあ所詮、数百人しかいない街だ。
司令部がカフェだとすると、憩いの場は教会になるが。
どっちにしても、距離は大して離れていない。
時計屋を見る。
やる気の無い店主がいるお店なのだが。
どうやら今日も仕事をするつもりはないらしい。
閉店と看板が下がっていた。
「今日もだめか。 本当にやる気が無いんだなあ」
「そのお店は」
「知り合いのやっているお店だよ。 機械に強いヒトだから、プラフタにも紹介したかったんだけれど」
「機械、ですか」
機械。
魔術と双璧を為すこの世界の重要な技術。
噂によると、幾つかの世界から迫害された人々が逃れてきたとき。魔術を持ち込んだ人々と別系統で、持ち込まれた技術らしい。これもあくまで噂に過ぎないけれど、魔術は魔族が。機械はヒト族が。それぞれ持ち込んだとも言われている。とはいっても魔術だけでも複数系統が存在しているので、どこまでそれが事実かは分からない。
いずれにしても機械は難解だ。
主に鉄等の金属と、動力となる部分を組み合わせて作るものだけれども。
誰にでも作る事が出来る反面。
極めて高度で繊細な知識が要求されるため。
錬金術以上の稀少な技術となっている。
キルヘン=ベルのような小さな街で機械関連の技術者がいるケースは本当に希らしいと、ホルストさんに以前聞いた事があるので。
そういう意味でも、プラフタには紹介したかったのだが。
ただ、この店の状態からもすぐ分かるように。このお店の主、ハロル=ジーメンスさんは、街ではあまり評判が良くない。
先代が天才的な技術者だった事もあり。
芸のない二代目である彼は。
肩身が狭い思いをしていて。
それが原因で、店を半ば開店休業状態にしている、という話もある。
たまに見かける時も。
暗い目をしていて。
周囲に対して、あまり良い印象を持っていない様子である。
ただ、多分その辺りがソフィーと同じものを感じるのか。
口だけは利いてくれるが。
その近くには。
鍛冶屋がある。
まだ若いロジーという青年がやっているのだが。
鍛冶は「機械」と違ってかなり一般的な技術で。持っている人も珍しくない。小規模な街なら、大体技術者がいる。
金になるからである。
ロジーは素朴な青年で。
物静かで、誰にでも物腰は柔らかい。
ただ、あまり長い時間同じ所には留まらないらしく。
彼方此方の街で仕事をしながら、いずれ何処か住み着ける場所を見つけられないか、探しているそうだ。
此処で永住すれば良いのではないのかと思うのだが。
本人としては、寂しく笑うばかりだった。
色々なところを旅しているからか。
プラフタを見ても、驚くことはなく。
普通に挨拶を交わして。
そしてプラフタは、ロジーが作った装備品を見て、感心していた。
「この技術なら、大きな街でもやっていけるでしょう。 ソフィー。 今のうちにお金を貯めておきなさい。 この店で装備を作ってもらうのです」
「そう言って貰えると嬉しいな」
「正当な評価をしているだけです。 この技術なら、確かにどこでもやっていけるでしょう」
べた褒めである。
何だかこっちの方が恥ずかしくなってきた。
ともかく、一礼をすると。
一度店を出る。
後は、街外れか。
街外れに、基本的にあまり価値が無い本をたくさん集めた店がある。本と言えば貴重品なのだが。此処に集まっている本は、昔話だったり、小説だったり。基本的に娯楽品ばかりで。
錬金術の参考書のような、実用品はほとんどない。
それ故に、店がどうして経営できているのかよく分からないのだが。
恐らくは、店主本人が相応の魔術の使い手で。
時々自警団に声を掛けられるので。
実際にはその収入で食べているのかも知れない。
店に入ると。
本の山の中で。
音も立てずに本を読んでいる人影が。
まるで人形のように椅子に座って。
微動だにしなかった。
呼吸さえしていないように見える。
眼鏡を掛けている彼女は、エリーゼ=フューリー。
背はあたしより少し高くて、モニカより少し低い。髪の毛はモニカ同様伸ばしているのだが、彼方がさらさら綺麗な髪なのに対して。エリーゼさんはぼっさぼさの黒髪だ。身繕いには、ソフィー以上に興味が無いらしい。
声を掛けると、音も立てずに此方を見るエリーゼさん。
プラフタが、わずかに下がったような気がしたが。
理由はよく分からない。
「あらソフィー。 その本は?」
「プラフタです」
少し距離を取ったまま、プラフタが自己紹介する。
エリーゼさんは自己紹介をすると。じっと見つめていた。
目にも感情が一切見られないし。
余計な事もほぼ喋らない。
この人、本の虫という言葉以外の表現が見つからないほどの本好きで。山と積まれている膨大な蔵書全てを熟読しているとさえ言われている。まだ若いのに、である。
一方で、火炎系統の魔術に関しては相当な実力者で。
街に仕掛けてきた匪賊の放った炎を、一瞬で鎮火させたり。
更に火矢を放とうとした匪賊を、瞬時に松明にしたりと。
火そのものを、生き物のように操る。
何も言葉を発せず、淡々と敵と見なした相手を焼き払っていく様子から、氷の炎と呼ばれていて。
強力な敵がキルヘン=ベルに迫った場合などは。
声を掛けられて、迎撃に出る。
その関係からか。
モニカとはとても仲が良いらしく。
時々、この店で二人が顔を合わせて、一方的にモニカが喋っているのを目にする。一応会話は成立しているらしい。
エリーゼさんは目に感情がまったく見えないが。
これでもプラフタに興味津々らしい。
触ってみたいと言われたが。
プラフタが、帰りましょうと言うので。
仕方が無いので、切り上げる。
頭を下げて、店を出ると。
プラフタは、ほっとした様子だった。
「ひょっとして、炎使いは苦手?」
「そうではありません。 あの方は、本そのものに尋常では無い執着を持っているようでしたから」
「ああ、何となく分かる。 じろじろ見られると、気恥ずかしいよね」
「それどころか、あの方の魔力、相当に強いですね。 あの若さで火炎系統の魔術の凄腕というのも納得できます。 拘束されて、しまわれてしまいそうです」
ああやりかねないなとあたしは思ったが。
それについては言わない。
エリーゼさんは、そういう意味でも、街ではどちらかというと畏怖の対象だ。
それに本は重い。
あれだけの量の本を扱っているエリーゼさんは、相当な力持ちだとも聞いている。
モニカに聞いたのだが、戦闘では等身大の巨大なバトルハンマーを軽々振り回すらしく。
魔術師の懐に飛び込めば楽勝だろうとたかをくくった匪賊が。
重量武器らしい凄まじい加速力から産み出される一撃で。
一瞬にしてぺしゃんこにされる所を見たそうだ。
勿論即死である。
まあ、プラフタは知識はあっても、今は残念ながら無力な本だ。ああいうタイプのヒトは、苦手だろう。
そういえば、何らかの理由で、エリーゼさんは魔族の力を持っているとか聞く。
人間と魔族は交配できないので。
その辺りの理由は、いずれ聞いてみたいものだ。
最後に教会による。
街の中心にある教会は。
おばあちゃんがキルヘン=ベルを発展させる前からあって。
昔はかなり寂れていたらしいのだけれど。
おばあちゃんが、心のよりどころが必要だろうと考え。
更に孤児院としての機能も期待して。
お金を投資。
大きな街から、信頼出来る司祭さんを呼んで。
任せたそうだ。
実際の所、神様への信仰を疑う人間は、私だけでは無くたくさんいる。魔族の中には特に多いと聞いている。
いわゆる「深淵の者」と呼ばれる、この世界の存在そのものに疑念を持つ人々の中でも、特に高位の獣人族と魔族が多いと聞いているし。
その辺りは、仕方が無いのかも知れない。
広義で言えば。
破壊活動さえしていないものの。
あたしだって「深淵の者」に思想的には近いかも知れない。
だから、教会にはあまり足を運びたくない。
ただ、此処にいるシスターのパメラさんには、とにかく尋常では無くお世話になった。
だからプラフタは紹介しておきたいのだ。
パメラさんは、いつでも教会にいる。
何年経っても老けない。
噂によると、古老レベルの人達が若い頃からいて。
その頃からあの姿だったという。
実は魔族では無いのか、とか。
高位の魔術師で、年齢を保存しているのでは無いかとかいう噂はあるが。
いずれにしても、おっとりゆっくりしゃべる、優しい人だ。
格好としては、本来は黒い系統の服が好まれるシスターだが。
灰色の、それもドレスを着ている。
そして紫色の若干ウェーブが掛かった髪を揺らして。
ゆっくりゆっくり移動するのだが。
足音がまったくしない。
子供達には異常に好かれるヒトなのだが。
こういう理由から、大人になると苦手だと思うケースもあるそうだ。
教会の前で、丁度パメラさんが花壇に水を撒いていたので。
挨拶する。
プラフタは、ぎょっとした様子だった。
「貴方は……!?」
「あら、何処かで会ったことがあったかしら?」
ゆっくり笑みを浮かべるパメラさんだが。
プラフタは自己紹介を済ませると。
さっさとこの場を離れようと言い出す。小声で。
何だろう。
何か怖い事でもあるのだろうか。
軽く話だけすると。
言われたまま、その場を離れる。
どうしたのかと聞いてみると。
プラフタは、少し躊躇った後、言うのだった。
「ソフィー。 貴方は魔術師としての力を持つのに、気がつかないのですか?」
「どういうこと?」
「あの人、摂理から外れています。 少なくとも生きた人間ではありませんよ」
「え」
そんな馬鹿な。
いや、確かに妙な話は聞いているが。
「恐らくですが、何百年も生きている、という話を聞いたことがありませんか?」
「街の老人達が若い頃からあの姿だって話は聞いたことがあるけれど。 子供の頃から良くして貰っていたし、逆に疑問に思わなかったよ。 凄い魔術師か何かで、若さを保存しているのでは無いのかなと思ってた」
「いえ、あの人は魔術師というよりは……」
少し悩んだ後。
プラフタは、ソフィーに、落ち着くように言う。
何だ。
どうしてそんな事を言う。
「世界のルールに手を掛けた存在でしょう」
「ルールに手を掛けた存在って、それって要するに、各地で暴れている邪神と同じようなもの、ってこと?」
「ごく少数ですが、世界を良くするためにまだ尽力している神は上級下級を問わずに存在していると聞いています。 あの人が神かどうかは分かりませんが、それに関係していることは間違いなさそうです」
「何だか不愉快だなあ」
恩人を貶されている気がして。
ソフィーは思わず、苛立ちを感じたけれど。
プラフタは、それを予期していたのだろう。
だから落ち着くようにと、先に言ったというわけだ。
しばし無言で。
だが、その後は大きく深呼吸した。
いずれにしても、紹介したい人はだいたい紹介した。
自警団メンバーは、いずれ何か荒事があったときにでも、話をすれば良い。今回お薬を納品したことで、ソフィーはやっと街の人達から期待される存在に昇華することが出来たはずで。
恐らく今後は、荒事の対応にも声が掛かる。
プラフタには、色々助言が欲しい。
特に錬金術の道具を使う場合には、である。
嫌でも顔を合わせることになるのだから。
今敢えて、交代勤務で仕事をしている人達に、声を掛けて回ることも無いだろう。
アトリエに戻る。
薬は大半納品してしまったが。
それ以外にも、自分用に少し残してある。
プラフタは言う。
「まずは自衛用の道具を作っていきましょう」
「爆弾?」
「そうですね。 爆弾が手っ取り早いでしょう。 本当は拡張肉体も作っていきたい所ですが」
「拡張肉体?」
聞いた事が無い言葉だ。
プラフタは説明してくれる。
「うっすらとしか覚えていませんが、私は錬金術師だった頃、一対の空中で独立機動する腕を護身に用いていた記憶があります。 自衛のために、自動で活動する、自分の肉体の延長線上の存在は、とても有用です」
「そういうものなんだ」
「そういうものです。 どれだけ優れた戦士でも、どうしても難敵との戦闘中では注意がそれてしまうものです。 攻撃に対して自動反応してくれる装備があると、背中に目があるのと同じ状態になります」
「便利だね」
ただ、今のソフィーでは。
作るのに技量が足りなさすぎる、とも駄目出しされた。
まあこれに関してはその通り。
まずやれる所から、一歩ずつやっていくしか無い。
「有能な錬金術師は、そうやって自衛能力を持っているのが当たり前でした。 ソフィー、貴方は魔術師として高い力量を持っているのだから、それに物理防衛能力を追加すれば更に強くなるでしょう。 どのような方法を用いるかは、貴方に任せますが」
「うん。 やっぱり違うなあ」
「何がですか?」
「おばあちゃんがいなくなってから、大体全部独学と座学でやってたから、どうしても、ね。 専門家に色々教えて貰って、それで分かる事ってあるんだね。 プラフタが来てくれて、本当に良かった」
プラフタは黙る。
この不思議な本が、実はかなり気むずかしい事を、ソフィーはもう見抜いていた。
だけれども、口にはしない。
何だか、後天的な性格のように思えていたからだ。
そして後天的に几帳面な性格になるという事は。
余程の事件に直面した、と考えるべきだと思う。
この辺りは勘だけれど。
魔術の才能がある人間には。
勘は決していい加減なものではなく。
指標になる大事な啓示だ。
思えば、プラフタを手に取ったのも。
その勘がゆえかも知れない。
その後は、爆弾の作り方を教わる。
爆弾には何種類もあるらしいのだけれど。
その中でもっとも基本になるのは。
「圧力」を利用して、周囲に破壊をまき散らす事。
この圧力の発生源が問題で。
木の実などを腐らせて作るガスを蓄え。それを任意のタイミングで均衡を崩し、破裂させるタイプと。
火薬と呼ばれる強烈な発火剤を使い。
それで爆破するタイプの。
二パターンに分かれるという。
後者は分かり易い。
あたしが魔術で敵を撃破するなら、それを使うからだ。
事実、そうやって匪賊を仕留めたこともある。
ただあたしの魔術は火力が大きすぎる事もあってか。
戦闘時は、モニカが側についていて。
使うときは、声を掛け。
一斉に下がるのが通例だった。
巻き込まれたら、上級の魔族でも危ないからである。
「木の実の方に興味があるな」
「どちらにしても、先ほど見た氷室には材料がありません。 植物に詳しい人間がいましたね。 オスカーと言いましたか、あの少し体型が丸い青年」
「太ってるけど、良い人だよ」
「そうですか。 貴方は見かけで相手を貶めないのですね。 ともあれ、彼に相談して、適当な時期に良い木の実を探しにいきましょう」
「?」
何だろう。
今の言葉。
もの凄く辛そうだったが。
だが、記憶が無いプラフタには、「何となく」でしか分からない事なのだろう。
ともかく、記憶を取り戻すには、少しずつ、色々やっていかなければならない。プラフタが記憶を取り戻せば、ソフィーは錬金術師としてがんばれる。
おばあちゃんのような錬金術師になれるし。
何より、おばあちゃんのように。
この街の周囲を、緑に覆っていくことが出来る。
荒野を豊かな土地に変え。
匪賊を減らし。
人々が安全に暮らせるように出来る。
或いは、あたし以外の錬金術師を誘致できるかも知れない。
ある程度以上の人口を得て。
更に自衛用の戦士達。
それに複数の錬金術師がそろうと。
街は急激に安定する。
これは二大国、キルヘン=ベルの場合は所属しているラスティンが重要拠点と見なして、緊急事態には軍を送ってくれるからで。
そうなると、流石に匪賊程度では襲撃できなくなるし。
ドラゴンでも撃退出来る。
それこそ上位の邪神でもでてこない限りは平和になる。
上位の邪神については、各地で動向が逐一監視もされているので。
そいつらについては、心配はしなくても大丈夫だろう。
「ソフィー。 貴方は錬金術師として大成したいですか?」
「うん。 おばあちゃんみたいな錬金術師になりたい」
「……今はそれで良いでしょう。 さあ、始めますよ。 まずは理論から覚えてしまいましょう」
頷くと、ソフィーは。
座学を面白いと感じながら。
爆弾についての基礎理論について。
頼りになる師匠から。
一つずつ、教わり始めた。