暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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この世界を過酷にしている存在。

狂った摂理の権化。邪神。

ドラゴンをも退けたソフィーの前に、その驚異的な存在が、立ちはだかろうとしていました。


その緑は闇の底
序、激突


水源に向かう準備が整った。人員のコンディションと物資、護衛するべき橋を造る職人。いずれも万全である。

 

しかし、最悪のタイミングで情報が入る。

 

東の街からの急報である。

 

得体が知れない「何か人のようなもの」が出現。

 

周囲に轟風を吹き荒れさせ。

 

ゆっくりと西に向かっているというのだ。

 

出現地点は東の街の北。

 

決して遠くもない地点である。

 

魔族やヒト族の魔術師とも思えない。あのような奇怪な存在は見たことも無いと、複数の斥候から報告が上がっているという。姿を詳細に描いた絵も廻って来ているが、確かに人間のどの種族とも様々な点が違う。強いて言うならばヒト族が似ているが、それにしては放っている魔力が強烈すぎる上、肌の色髪の色などがおかしく、既存のものとしてはあり得ない配色だそうである。更に体が透けているのだとか。

 

つまり、それは。

 

邪神の可能性が高い。

 

あたしは連絡を受けると、ホルストさんにすぐに呼ばれた。

 

プラフタも一緒に、である。

 

プラフタは、話を聞き。情報を聞き終えると、頷いた。

 

「間違いなく邪神です」

 

「ついに来たか……」

 

ヴァルガードさんがぼやく。

 

誰もが知っている。

 

二大国でさえ手に負えない存在。

 

それが邪神だ。

 

今までにかなりの数が討伐されているが、その度に甚大な被害を出している。一部の邪神に至っては、「今は集落を襲わない」という理由で放置されている始末だ。つまり軍を向けてもかなわない、という事である。

 

手練れの錬金術師が束になって、やっと倒せるかどうかと言う存在。

 

それが邪神である。

 

プラフタは特徴を聞くと、それはエレメンタルだろうと言う。

 

魔術用語にも出てくる自然界の力の象徴だが。

 

実際には最下位の邪神としても知られている。

 

プラフタに話は聞いているが。

 

最下位の者でも中級のドラゴン並みの実力を持ち。

 

多くは問答無用で人間を襲う。

 

そして西に向かっているという事は。

 

何かしらの目的で移動している、という事である。

 

「この街とは進路がずれているが……」

 

「いや、進路を解析すると、恐らくアダレットの都市を直撃する。 それも人口一万三千の大型都市だ」

 

流石にアダレットの首都ともなると、最下級の邪神くらいなら撃退出来る軍備があるとは思うが。

 

その都市の一つとなると。

 

どうなるか分からない。

 

この世界では、人口万を超える都市はそう多くない。

 

もしも潰された場合。

 

人類が受ける打撃は計り知れないものとなる。

 

ホルストさんが立ち上がった。

 

「ソフィー」

 

「はい」

 

「申し訳ないのですが、水源は後回しです。 すぐに威力偵察を行って欲しいのですが、大丈夫ですか」

 

「分かりました。 やってみましょう」

 

最盛期には届かないにしても。

 

此方には、邪神との交戦経験があるプラフタがいる。

 

無策で戦うよりは遙かに良い。

 

それに、いずれにしても邪神とはいずれやり合わなければならなかったのだ。今回は良い機会である。

 

勝てないにしても、情報を得て。

 

そしてアダレットに連絡を入れる必要がある。

 

今回は、街を守る最低限の人数だけを残しての総力戦だ。

 

自警団も、一線級の人間は殆どが出る。

 

ホルストさんは万が一に備えて残るが。

 

ヴァルガードさんとハイベルクさんも出る事になった。

 

更に、倉庫に蓄えた爆弾類も全て持ち出す。

 

キルヘン=ベルはここしばらく多くの商人が訪れていたが、それはすぐに使者を出して停止させる。

 

更に、アダレット側にも緊急警報を飛ばす。

 

まだ遠い内に情報を得ておけば。

 

騎士団の最精鋭が出る準備を整えられるかも知れない。

 

親書はジュリオさんが書き。

 

アダレット側の都市へは、テスさんが護衛と一緒に出向く。

 

街に残る自警団員は十名ほど。

 

最悪の事態が起きた場合。

 

避難をするための誘導人員だ。

 

もしも相手の戦力が想定以上だった場合や。

 

ネームドが同時に仕掛けて来た場合に備え。

 

戦力はある程度残らなければならない。

 

ホルストさんも未だに一線級で戦える実力を有しているので。生半可な相手には遅れを取らないはずだ。

 

また、東の街にも厳戒態勢を取って貰う。

 

幸い相手の動きは鈍いという事だが。

 

それもいつ急変するか知れたものではない。

 

この世界において、邪神という存在は。

 

文字通り、理不尽が形になったもの。

 

歴戦の英雄や魔王と呼ばれる実力者が束になって掛かっても。

 

倒せないどころか。

 

下手をすると、瞬く間に蹂躙されてしまう。

 

そういう化け物の中の化け物なのだ。

 

「前線の指揮はフリッツ、任せますよ」

 

「ヤー。 キルヘン=ベルでは、避難の準備と、敗残兵の救護準備を整えておいて欲しい」

 

「了解しました。 此方も素人ばかりではありません。 どうにかしますよ」

 

「それと、街の住民が混乱しないようにしておいてくれ。 何、ソフィーと邪神を撃破したいにしえの錬金術師が揃っている。 簡単に負けはしないさ」

 

不敵に言うフリッツさんだが。

 

それは当然、いわゆるリップサービス。この人でさえ、無策で邪神で戦う事は自殺と同じなのだから。

 

すぐに出る。

 

フリッツさんはこの間の件をアダレットに報告して戻ってきたジュリオさんと先に出る。その後あたしは、荷車と戦闘の中核になるいつもの面子。ヴァルガードさんとハイベルクさんが率いる自警団と一緒に、街を出て北上。

 

ある程度の地点まで来たら、東に向かう。

 

地図上で、敵の移動進路を塞ぐように進むのだ。

 

こうなれば、もしも先に威力偵察に出た二人に何かあった場合でも、敵に遭遇できる可能性が高くなる。

 

キルヘン=ベルの自警団員は合計して現時点で四十三人。

 

その内三十人が此処に来ているが(残りはキルヘン=ベルの防衛およびテスさんと護衛)。

 

流石に今の時代。

 

荒事の経験無し。

 

街が焼け出された経験無し。

 

匪賊や猛獣を見た事さえ無い、などという平穏な生活をしてきた者はいない。

 

そういうわけで。

 

匪賊や猛獣どころか、ネームドが束になって襲って来るも同然の脅威である邪神と戦うと聞いて、すくみ上がってしまっている者もいた。

 

逆に、恐怖というものを知っているからだ。

 

これが全くのド素人であったら。

 

訓練通りにやったらどうにかなるとか。

 

自分は天才だから努力しなくてもどうにかなるとか。

 

そんな馬鹿な事を考えて。

 

意外に相手に痛打を与えられるかも知れない。

 

だが、本当の恐怖を知っている奴は違う。

 

人間が如何に脆弱かをそういう奴は知っている。

 

どんな天才だろうと、猛獣の一撃を食らえば頭が吹き飛ばされるし。

 

そうしたら死ぬ。

 

魔王と呼ばれるレベルの魔族や魔術師でも。

 

邪神が相手だと、手もなく捻られてしまう。

 

それが現実だと知っていれば。

 

とてもではないが、これからの戦いで、死者を出さずに済むとは思えないのだろう。

 

分かっている。

 

あたしも、死ぬかも知れない。

 

だが、それはそれで別に構わない。

 

この世界からおさらばできるなら。

 

それも別にいい。

 

だが、その前に。

 

この世界の創造神をぶちのめしたい。

 

悪霊になろうが関係無い。

 

この世界のルールを作った創造神を地獄に一緒に引きずり落としてやる。

 

例え死ぬとしてもだ。

 

一旦停止。

 

予定地点に到着したので、北上を止めるのだ。

 

点呼を取って、それから東に移動開始する。

 

少し行くと、南に以前激しい追撃戦を受けた谷が見える。あの時は大雨が降って大変だった。

 

少しだけ緑もあるが。

 

あの辺りは、まだキメラビーストが少数いて。

 

商人が通るときには、護衛が必須になる。

 

街を拡げる過程で、追い払ってしまわなければならないだろう。流石にある程度大人しくなると言っても。防護壁の内側にキメラビーストがいる事態はぞっとしないからである。

 

オスカーが手をかざす。

 

そして、目を細めていた。

 

あたしも雑音は聞こえるが。

 

オスカーはクリアに植物の声が聞こえているという話だから。何か有益な情報が得られるのかも知れない。

 

正直今回は。

 

周囲の被害を気にする余裕が無い。

 

出来れば荒野に生えている貴重な植物を傷つけたくは無いが。

 

はっきりいって、それどころでは無くなるかも知れない。

 

プラフタに聞いたのだが。

 

いにしえにいた、大邪神と呼ばれるような連中は。万の人間が住む都市を数刻で滅ぼし、国を幾つも焼け野原に変えていったという。

 

あたしもファルギオルという奴なら知っている。

 

雷神と呼ばれる高位の邪神で。

 

しかも人間を無意味に憎んで。

 

殺戮の限りを尽くしたという。

 

数百年前に何処かの錬金術師に封印されたという話だったが。

 

あれは誰だったか。

 

いずれにしても、「何処かの錬金術師」としか情報は知られていない時点で、正直薄ら暗い事情が分かってしまうが。

 

それは良い。

 

今は、いきなりの奇襲に警戒しながら、移動を続けるだけだ。

 

程なくして、狼煙が上がる。

 

どうやら、フリッツさんは、目的の相手を見つけた様子だ。

 

「警戒せよ!」

 

「ヤー!」

 

ヴァルガードさんが促し。

 

モニカが念のためと、魔術で壁を形成する。勿論気休めにもならないが、張っておいた方がマシだ。

 

狼煙の内容が、止まれ、だったので。

 

一旦足を止めて待つ。

 

しばしして、フリッツさんとジュリオさんが姿を見せる。

 

幸いにも、二人とも無事だ。

 

プラフタとあたしが呼ばれる。

 

そして、フリッツさんは。

 

恐ろしいほど上手に絵を描き始めた。その絵は、東の街から廻って来たものとそっくりだった。

 

「相手には明確に知性があるな。 このような羽衣のような服を着ていた。 肌は蒼黒く、髪の毛は黄土色。 いずれもあり得ない配色だ。 周囲には恐らく、無意識で詠唱さえせず使っているだろう魔術の風が渦巻いていた。 あれを攻防ともに活用してくると見て良さそうだ」

 

「風のエレメンタルですね」

 

「特定か」

 

「邪神の中でも、エレメンタルは同一種類が複数存在しています。 邪神の中では尖兵と言って良い存在なのでしょう」

 

他にも水を司る氷のエレメンタル、炎を司る火のエレメンタル、土を司る樹のエレメンタルなどがいるらしいが。

 

ただエレメンタルと言っても、光と闇のは完全に別格で。

 

此奴らに関しては、下級の邪神とはとても言えない高い実力を持っているそうだ。

 

プラフタが過去単独で倒したのは、下級の邪神だけで。

 

流石にそれ以上になってくると、単独で倒すのは厳しかったらしい。

 

他にも。

 

プラフタは面白い事をいう。

 

「この様子だと、目覚めて間が無いのだと思います」

 

「ふむ、聞かせてくれ」

 

「まずエレメンタルは、基本的に人間が近づくと攻撃してきますが、一箇所に定住することが多いです。 この個体は、近場にあるもっとも大きな街に向かっていると判断して良さそうです」

 

「なるほど。 それでアダレットの大都市に」

 

プラフタは頷く。

 

また、プラフタによると、敵の姿が薄く透けて見えるのもその証左だという。

 

エレメンタルは知能が一応あるらしいのだが。

 

己の姿を飾り立てる事が多いそうだ。

 

そういえば、この不思議な姿。

 

近隣では見かけない衣服だ。

 

何かしら、独特の美意識があるとみて良いだろう。

 

しかしながら、それでいながら体が透けていたり。

 

本能に引き寄せられている、というのも妙な話である。

 

「つまり、今が攻撃の好機とみるべきだと」

 

「そういう事です。 ただし、最低でもドラゴネア以上の実力はあるでしょう」

 

「弱っていてもドラゴン以上か」

 

「注意すべきは上位次元からの攻撃です。 基本的に魔術で防御できるものではないと考えてください」

 

それは、流石に厄介だ。

 

あたしも上位次元の概念はプラフタから聞いたが。

 

ドラゴンと邪神の実力に決定的な差を付けるのが、この上位次元への干渉能力、なのだという。

 

勿論力押しでそれを蹂躙する高位のドラゴンも存在するが。

 

それはあくまで例外。

 

もっとも、邪神も例外的に少ないので、ある意味バランスは取れているのか。

 

ともかく、戦うのは今だ。

 

今ならば、ひょっとすれば。

 

死者を出さずに葬る事が出来るかも知れない。

 

判断したら、後は早かった。

 

フリッツさんがハイベルクさんとヴァルガードさんに作戦を伝える。

 

その間に、プラフタとあたしで準備をする。

 

相手は上位次元に干渉できるとは言え、まだ力がろくに目覚めていない状態。勿論通常攻撃もきちんと効く。

 

準備をしながら、プラフタは言う。

 

「ファルギオルが倒されていたと書物で読んで驚きましたが、奴に代表される最高位邪神になると、上位次元からの攻撃を自由自在にします。 そうなってくると、もはやどれだけ背伸びしても人間ではかないません。 錬金術の装備で極限まで力を引き出すか、或いは世界を塗り替えるしか手がなくなります」

 

「世界を塗り替える?」

 

「此方も上位次元に干渉して、相手にとって不利な世界に切り替えるのです」

 

「ああ、なるほど」

 

例えば火が得意な奴なら、凍り付くような世界。

 

雷が得意な奴なら、雷が拡散してしまうような世界。

 

世界を塗り替える力に関しては、不思議な絵画と呼ばれるものがあるらしく。その技術も、既に完成しているらしいが。

 

ただ、これは非常に難しい錬金術のようで。

 

プラフタが調べた限り、ここ数百年で数人しか再現に成功していないそうだ。

 

あたしも出来るのかと聞いてはみたが。

 

この不思議な絵画。

 

錬金術師の才能とは別の才能が必要らしく。

 

出来るとは限らないと言われてしまった。

 

要するに、錬金術師の才能と。

 

不思議な絵画を作り出す才能が。

 

両方必要になるのだとか。

 

それはまた面倒な話だ。

 

例えば、格闘戦と料理は必要とされる才能が近しいと聞いた事があるが。

 

この件に関しては、かなり要求される才能が異なるらしく。

 

別に凄い錬金術師が不思議な絵画を描けるわけでもないし。

 

不思議な絵画が、芸術として優れている訳でも無いそうだ。

 

面倒で。

 

なおかつややこしい話だ。

 

「なら、あたしは力を単純に強くして殴り倒したいかな」

 

「ソフィーにはそれがあっているでしょう」

 

「だよねえ」

 

準備完了。

 

まもなく、敵の姿が見えるはずだ。

 

そして、予想通り。

 

敵は姿を見せた。

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