暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、和解

オスカーを連れて、水源に出向く。

 

橋は不動の存在としてその場にあり、安心させてくれた。ただ、猛獣たちが物珍しそうに橋の上を行き来していて。

 

あたしたちの姿が見えると、最初は威嚇したが。

 

やがて勝ち目が無さそうだと判断して、逃げ去っていった。

 

別に戦っても良かったのだが。

 

肉が手に入るし。

 

だが、逃げてしまったものまで、追跡して殺す気は無い。

 

皆険しい顔をしているのは。

 

この間のサンポソウの件があること。

 

あれ以来、オスカーの調子が良くないことが原因だ。

 

触ると三歩歩く間に死ぬ。

 

そんな桁外れの毒草がある森である。

 

どんな危険があるか、知れたものではないのだから。

 

森に入ると。

 

やはり濃厚な緑の臭いがする。

 

頬を叩くオスカー。

 

やはり慎重にならざるを得ないのだろう。耳を澄ませて、周囲の声を良く聞いている。

 

ひょっとするとだが。

 

オスカーも、いつも友好的な植物の声ばかり聞いていたわけでは無いのかも知れない。

 

この間は、たまには人間を騙そうとする奴もいると言っていたが。

 

荒野での、人間と植物の関係は、必ずしも蜜月では無い。

 

例えばキルヘン=ベル近辺ならば、人間が世話することで発展した森があるから、植物が友好的になるのも分かる。

 

だが荒野や、こういう場所では、そうも行かないだろう。

 

実際には、人間に対する悪意の声や。

 

或いは敵意。

 

それらから、皆を遠ざけつつ。

 

有益な声だけを教えてくれていたのではあるまいか。

 

「ソフィー。 こっちだ」

 

迷わずオスカーが歩き出す。

 

フリッツさんが、少し心配そうに此方を見たが。

 

頷いたので。

 

ならば大丈夫だろうと、追い始めた。

 

程なく、サンポソウの所に到着。

 

オスカーはかがむと。

 

じっくり話を始める。

 

かなり長い時間が掛かったが。

 

あたしは辛抱強く待つ。周囲に対しての警戒も怠らない。七つの拡張肉体を飛ばして、常時全方位を警戒。

 

他の皆も、それぞれ違う方向を見て。

 

危険な獣がいる場合は、威嚇射撃などをして追い払った。

 

ほどなく、である。

 

オスカーが、腰を上げた。

 

「分かったぞ」

 

「どういうこと?」

 

「この奥には、入っちゃいけないんだそうだ。 俺たちの中の誰か一人でも死なせれば、全員は死なせずに済むだろうと思ったらしい」

 

「そうか」

 

フリッツさんがぼやく。

 

ドライな考え方だが。

 

そういうものなのだろう。

 

別にあたしは不快だとは思わない。

 

オスカーも、それで納得しているようなのだし、それで構わないのだろう。

 

更に話を軽くする。

 

オスカーによると、サンポソウの話では、この奥には二つのものがあるという。

 

一つは神秘の薬草。

 

薬草の王と呼ばれているらしい。

 

ドンケルハイトだなと、あたしは判断したが。ちょっとばかり早計かも知れない。まあ実際にものを見ないと確認は出来ないか。

 

もう一つは、超危険な猛毒の霧。

 

凶悪な植物がいて。

 

あらゆる獣を襲い。

 

養分にしているという。

 

森の厄介もので。

 

周囲の植物まで枯らしては自分だけで栄養を独占し。自然の摂理にまで反しているという。

 

なるほど、それは要するに。

 

ネームドと同じだ。

 

植物版のネームド。それも、毒に特化した、と言う訳だろう。

 

あたしは頷くと、全員に少しずつ、造ってきた生命の蜜を配る。とはいっても、液体ではない。しみこませた布だ。これを口に含んで、呼吸をできるだけする前にけりを付ける、という事である。

 

当然一瞬での勝負になる。

 

まだ予備はあるが。

 

それは、ネームドを殺した後。毒にやられた者が出た場合に使用する。

 

何、コルちゃんが黄金樹の葉は増やせる。

 

造ってきた分を使い切ってしまっても問題は無い。

 

それどころか、性能実験さえ出来る。

 

あたしは説明をして。

 

全員がそれに納得。

 

同時に、オスカーが指し示した。奥にある禍々しい巨木へと向かった。

 

戦いは一瞬だ。

 

巨木は、危険を感じたのだろう。

 

周囲に紫色の、一目で猛毒有害だと分かる霧をばらまきはじめる。

 

空気遮断の魔術を使うには、木が大きすぎる。時間を掛ければ出来るが、その時間がない。

 

全員突貫。

 

あたしの薬の効能を信じてくれているという事だ。

 

あたしは砲撃の準備に入る。

 

あの木だけを吹き飛ばすよう火力は抑えなければならないが、それでも火力収束は徹底的に行い、根からして木をこの世から消し去る。

 

ジュリオさんとフリッツさんが切り始めるが。

 

木の幹から、濃縮された凄まじい毒素が噴き出す。

 

モニカとレオンさんも一撃を浴びせ。

 

木が傾く。

 

オスカーが、非常に心苦しそうに、スコップで木の傷口に一撃をぶち込み。

 

ハロルさんが狙撃。

 

凄まじい悲鳴と。

 

毒々しい葉が舞う。

 

植物の幹に無数の目が出来る。

 

目の周囲に魔法陣が出現。

 

とっさにモニカが詠唱開始。壁を造って、襲いかかってきた無数の光弾を防ぎきる。まずいな。

 

あたしは呟くと。

 

プラフタと一緒に砲撃。

 

その場に、光の柱が立ち上った。

 

 

 

森から出る。

 

青ざめているモニカを背負って、オスカーが無言のまま最後に出てきた。

 

分かっていた。

 

あの壁を造る詠唱をした事で。モニカは毒を他の面子より吸い込んでしまった。

 

すぐにあたしが、残っていた生命の蜜を。

 

それも原液を口に注ぐ。

 

幸い、真っ青になっていたが、それを飲む事くらいはモニカにも出来た。オスカーもその次に毒を浴びていたので、余っていたあたしの分の布を渡して口に含むように言う。

 

少し躊躇した後。

 

オスカーは布を口に含んだ。

 

それにしても、だ。

 

凄い効能である。

 

神々の薬と言うだけはある。

 

周囲の空気どころか、鎧や肌に付着した毒まで浄化されているのが目に見えて分かる。これは、もっと強力な毒。例えば触れただけで普通は死ぬような毒に対する切り札にもなり得る。

 

モニカも、間もなく意識がしっかりしてきた。

 

「オスカー、ありがとう」

 

「いいや、おいらも悪かった。 本当だったら、もっと早く話すべきだった」

 

オスカーは、皆が聞いている所で、咳払いしてから説明を始めた。

 

そもそも、植物はみんなが人間に友好的な訳ではない。

 

声が聞こえるオスカーには態度が比較的柔らかくなるが、それでもやはり悪意を向けてくる場合はある。

 

その悪意は稚拙なものなので、見分けやすいが。

 

今回は非常に巧妙だったので、引っ掛かるところだった。

 

「おいらが世界中の植物と友達になりたいのは、そんな悪意があることを知っているからなんだよ。 今回も、少し自信を無くしていたけれど、人間と違って植物は良くも悪くも意思が単純だから。 だからきっと何とかなると信じるよ」

 

「僕にはよく分からないが、夢を諦めないというのは良いことだ」

 

ジュリオさんが真っ先にフォローした。

 

この人、今までオスカーの植物関連には殆ど無言を貫いていたので。

 

それに関しては少し驚いた。

 

認めたのだろう。

 

有益なのだと。

 

さて、ならば。

 

最後にもう一つ、やっておきたい。

 

森の厄介ものは死んだ。

 

奥に入った後、魔術で残った毒霧をゆっくりと丁寧に時間を掛けて詠唱した空気遮断の魔術で操作して、一箇所にまとめる。さっきとは違い、今度は時間がある上、放出源がないので可能だ。

 

その間に穴を掘り。そこに毒霧を埋めてしまう。

 

後は時間が浄化してくれるだろう。

 

サンポソウは教えてくれた。

 

奥にあるという神秘の薬草の場所を。

 

まだモニカは少し体調が悪そうだったが、オスカーが肩を貸すかと言うと、流石に首を横に振る。

 

「そういうの、却って失礼よ。 本当に苦しいときは自分から言うから」

 

「そっか、すまない」

 

「オスカー、貴方が嘘をついていないことと、何かを隠している事は分かっていたのだけれど、ようやく話してくれたわね。 それだけで、怪我をした甲斐はあったというものだわ」

 

「……」

 

水源の深奥。

 

水源のすぐ側。

 

わずかに光が差し込むその場所に。

 

神秘的なまでの赤い花が、数輪咲いていた。

 

分かる。

 

これこそが、ドンケルハイトだ。

 

プラフタが側で確認。

 

レンズで状態を見る。

 

「これは、素晴らしい品質ですね。 ドンケルハイトは一流の錬金術師でも滅多に取り扱えない品です。 この場所については、公表しない方が良いでしょう」

 

「ああ、それなら心配ないぜ。 サンポソウ達が、普段は森全体で魔術を展開して、此処にはたどり着けないようにしているらしいんだ。 あの厄介者を退治してくれたから、俺たちだけ特別だってよ」

 

「そう。 ならば貰うね」

 

痛まないように、貴重な花を、オスカーの指導を受けながら数株だけ貰う。

 

額の汗を拭った。

 

色々と冷や冷やさせられたが、水源にまで来た価値はあったと見て良い。

 

後は。

 

キルヘン=ベルでの変事に対応出来る戦力の整備と。

 

深淵の者達としっかり話を付けて。

 

この世界に対してどう向き合っていくかを。

 

そろそろ本気で考えなければならない。

 

貴重な素材が揃ってきている。

 

もっとあたしが腕を上げれば。

 

その時には。

 

伝説の存在。

 

賢者の石に、或いは手が届くかも知れなかった。

 

 

 

(続)




ついに邪神を仕留めたソフィー。

ただしそれは邪神としては下も下、はっきりいって雑魚です。

雑魚ですらこれほどに強いのだと、ソフィーは思い知らされるのでした。
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