暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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身内の苦悩。

高高度テクノロジーの再現。

錬金術を用いて、ソフィーはそれに挑みます。


時を刻め
序、精密なる歯車


父親は天才だった。

 

ハロルさんは、今までに何度かそうぼやいた。あたしの逆鱗に触れる話なのに。

 

あたしとは真逆の環境にいたこの人は。

 

だからこそか。

 

あたしとオスカーとモニカの三人組の兄貴分であり。

 

色々あって腐ってしまっている今でも。

 

結局、数少ない機械技術の職人として、頑張ってくれている。

 

そもそも小さな街で機械技術職人がいることそのものが稀少なのだ。だから如何にハロルさんが怠け者でも。

 

迫害はされないのが現状だ。

 

向かいにあるロジーさんのお店、つまり鍛冶屋は繁盛しているが。

 

同じ金属を扱う店でも、二人の得意分野は違う。

 

本当だったら、二人とも今なら繁盛できる筈なのだが。

 

それも上手く行っているとは思えなかった。

 

今日はコルちゃんに頼まれて、ハロルさんのお店を訪ねていた。

 

前にあたしが渡した、手先が器用になるマイスターミトンと。

 

高倍率のレンズを使って。

 

ようやく「インチキをして」父親に並んだと自虐的にぼやいていたハロルさんだけれども。

 

今日も険しい顔をして。

 

何か機械を弄っていた。

 

どうやら時計らしいが。

 

かなり高度なものらしい。

 

「ソフィーか。 どうした」

 

「難しい仕事ですか?」

 

「ああ」

 

村の顔役の老夫婦。キルヘン=ベル設立の頃からいる二人で。当時は商売を取り仕切っていた人達。

 

その奥さんの方が。持ち込んできた時計なのだ。

 

ハロルさんの父親が造ったらしい。

 

今、修理を頼まれているらしいのだが。

 

あまりにも難しくて、絶望しているという。

 

「どうやら技術がやっと並んだと思ったのは、錯覚だったらしい」

 

「そんなに凄いの?」

 

「桁外れだ。 やっかみも俺は持っていたが、本当に親父が天才だったとこれを見て思い知らされた」

 

口惜しそうな声は震えている。

 

そして、コルちゃんの方を見て。

 

ハロルさんは、あまり嬉しく無さそうに言った。

 

「支店に入らないかって話だよな」

 

「そうなのです。 もう、話は聞いているかと思うのです」

 

「より儲かる、か」

 

「それは保証するのです。 私はお金を廻す事には興味があるのですけれど、お金を蓄えることにはあまり興味が無いのです。 稼いだお金は使ってこそ意味があるし、お金が回ればみんな幸せになれるのです」

 

この辺り。

 

人間の商人とは考えが違うな、とあたしは思う。

 

経済を動かす事に意味を見いだすことは。

 

金を独占して。

 

自分で好き勝手をすることとは違う。

 

コルちゃんは大きな取引の度に口を押さえて喜んでいたが。

 

アレは恐らく、お金がたくさん手に入って嬉しい、というのではなくて。

 

お金を動かす事が出来る。

 

つまり、自分の存在を確認できる、という事が嬉しかったのだろう。

 

金を蓄えるためだけに商売をしたり。

 

弱者から搾り取るのは本末転倒だ。

 

そういう事をしていた商人も昔は多かったらしいが。

 

今ではすっかり姿を消したと聞いている。

 

深淵の者が消してしまったのだろう。

 

国家でさえ裏で操作している者達だ。

 

用心棒を雇おうが、悪徳商人程度ではとても太刀打ちできないだろう。

 

「とりあえず、今の俺には金よりもこの時計をどうにかするかが重要だ」

 

「……分かりました。 ソフィーさん、あの、お願い出来ないでしょうか」

 

「へえ?」

 

「ほう?」

 

あたしとハロルさんが、トーンとの違う返事をする。

 

あたしは面白がっているが。ハロルさんは露骨に不機嫌そうだ。

 

コルちゃんはあたしにはびびりつつも。

 

ハロルさんには冷静に応じる。

 

まあこの辺り、あたしが本当にヤバイ奴だと言う事を認識しているから、の違いなのだろう。

 

ハロルさんはなんだかんだで良い人だし。

 

「その時計を直せる手伝い、何とかならないですか、ソフィーさん。 もしも上手く行ったら、色々と値引きするのです」

 

「ふうん。 将来を見越しての先行投資?」

 

「そういう事なのです。 手元には必要なお金だけあればいい。 商会を大きくし、お金を回してみんなが生活できるようにするためには、それが大事なのです」

 

「ホムは何というか超俗的だな。 それでいながら商人の適正が一番高いってんだから俺にはよく分からん」

 

ハロルさんが頭を掻くと。

 

嘆息して、あたしを見た。

 

「技術だけならどうにかなるんだがな。 どうも故障箇所が特定出来ん」

 

「ハロルさんにもですか!?」

 

「時計ってのは、本当に難しい技術の結晶体なんだよ。 特にこういう時計はな、半分ロストテクノロジー化していやがる」

 

どんと、分厚い本を出してくるハロルさん。

 

時計の技術書だそうだ。

 

非常に複雑な数式が時計の構築には必要で。

 

それの理解と、職人芸が必須だという。

 

この職人芸が厄介で。

 

技術書を見ても、どうしても技が必要になってくる箇所があるそうだ。

 

「見てみろ」

 

促されて、時計の中を見る。

 

歯車が小さすぎて、認識出来ない。

 

魔術で少し空気を弄ってみるが。

 

空気の流れでも、違いがよく分からなかった。

 

「此処まで小さいと、レンズでどれだけ倍率を上げても駄目だ。 多分勘みたいなものが必要になる。 親父はそれを持っていた。 俺には無い。 ソフィー、勘を伸ばせる道具みたいなもの、作れないか」

 

「流石にそれは難しいですね」

 

「そうだよな。 だが、何かしらの方法で、兎に角異常を特定したい。 出来ない、だろうか」

 

「……やってみます」

 

この人は。

 

あたしとは少し違うが。

 

それでも家族によって苦しめられた。

 

あたしの場合は明確で身勝手な悪意によるものだったけれど。

 

この人の場合はその逆だ。

 

そして、この人の親は。

 

技術を伝えようとはしたらしい。

 

だがハロルさんは、受け継ぐことが出来なかった。

 

ハロルさん言う所の、「勘」が足りなかったのだろう。才覚とでも言うべきなのだろうか。

 

いずれにしても、劣等感に苦しめられ続けたハロルさんは。

 

ようやく今、それと立ち向かおうとしている。

 

あたしが造った道具類で、強引に才能が足りない部分を補完し。

 

何とか成功体験を積み重ね。

 

それで必死にここまで来た。

 

しかし、やはり才能の差によって。

 

門前払いされてしまう。

 

口惜しい事だろう。

 

才能の差か。

 

どうしてそんなものは生じてくるのか。

 

あたしにしても、他の人にしても。

 

そんなものがあれば、不幸が生じるのは当たり前だ。

 

創造神の胸ぐらを掴んで問いただすのは後だ。

 

とにかく、今は仕事に集中する。

 

時計の技術書を借りたので持ち帰ったが。

 

アトリエに戻り、開いて見ると。

 

思わず絶句する代物だった。

 

理論が凄まじいまでに難解なのだ。

 

高度な数学だけでは無い。

 

非常に緻密な計算が、あらゆる場面で必要とされてくる。

 

これを理解した上で、職人芸までもが必要とされてくるのだとすれば。確かに半分ロストテクノロジーになるのも頷ける。

 

機械技術者は大きな街にしかいない。

 

ハロルさん親子は例外で。

 

その理由も、何だか分かった気がした。

 

咳払いすると。

 

順番に作業を進めていく。

 

まずはざっと目を通して。

 

役に立ちそうな記述がないか調べる。

 

本職でさえ頭を抱えている案件だ。

 

簡単にいくはずがないのは承知の上。

 

プラフタにも意見を求める。

 

彼女はさっと本を見るが。

 

どうやら、斜め読みしながらも、しっかり頭に内容を叩き込んでいるらしい。

 

この辺り、才能云々よりも、頭の出来が違うのだろう。

 

とはいっても、プラフタは人間のどす黒い悪意にはあまりにも無防備だったという事実もある。

 

そういった才能の偏りは。

 

やはり今、高度な技術を用いている場に来ている状態では。

 

どうしても目についてしまう。

 

「昔から機械技術は非常に複雑ですが、これはまたとびきりですね」

 

「内容の理解は出来る?」

 

「出来ますが、この時計の修理には役立たないでしょう」

 

「どういうこと?」

 

プラフタが言うには。

 

トラブルシューティングの項目を見つけたらしいのだが。

 

基本的に時計が動かなくなる理由は幾つかあり。

 

動力が駄目になるか。

 

歯車が駄目になるか。

 

最初から計算が間違っているか。

 

このいずれかだという。

 

このうち、最初から計算が間違っている、は排除できる。

 

何しろこの時計、神聖魔術で管理されている教会の時計以上の精度で動いていたらしいから、である。

 

動力に関しても問題ないだろう。

 

これらの時計に使われている動力は、魔力の結晶体だが。

 

あたしが見たところ、魔力はまったく衰えていない。

 

しかもこれらの結晶体は、基本的に無尽蔵のマナを吸収して、半永久的に動く。出力が足りないのが問題だが。しかしながら時計程度を動かすには。しかもこんな掌に収まる程度の小さな時計の動力になるには。充分すぎる程のパワーを発揮する事が可能だ。

 

そうなってくると歯車だが。

 

此処のトラブルシューティングが問題だ。

 

まずは目視で歯車を確認し。

 

ずれたり、欠けたりしていないかを調べる。

 

それについてはよく分かったが。

 

問題はその確認方法が無いこと。

 

以前直したオルゴールとは歯車のサイズが違う。しかも、左右非対称だ。動力と噛んでいるらしく。

 

その複雑な構造は厄介極まりない。

 

歯車が欠けているかどうかさえ。

 

レンズで拡大しても分からない有様。

 

更に言うと、この複雑な構造。

 

ちょっとでも分解したら。

 

直せる自信が無い。

 

設計図も貰ってきているが。

 

このサイズの歯車を多数使うとなると。

 

一つでも無くしたら大惨事だ。

 

この時計、多分だが。

 

家一つ分くらいの価値があるだろう。

 

顔役の大事な私物とは言え。

 

ちょっと贅沢すぎる。

 

プラフタはなおもいう。

 

「実は時計は、機械技術者にとって「トラップ」と言われています」

 

「どうして?」

 

「他にも幾つか似たようなものはあるのですが、要するに実利がないのに奥が深すぎるため、はまってしまうと抜けられなくなるのです。 こういう半ロストテクノロジー化している時計などは特に顕著で、他の技術を無視して時計に一生を捧げてしまう技術者も珍しくないのだとか」

 

「それはそれで不毛だね」

 

他にも、「永久機関」と呼ばれる、本来ではあり得ない、永久に動力を産み出す仕組みや。

 

埋蔵金と呼ばれる、誰かしらが隠した宝の伝説など。

 

人生を狂わせる「トラップ」は多数あるという。

 

それらは「夢」という言葉によって甘くコーティングされ。

 

人生を台無しにし。

 

そして気がついたときには手遅れになっている。

 

勿論夢を持つことは大事だし、掴む事によって新しい世界が開ける場合があるのも事実だろう。

 

だが、一部の「トラップ」は、あまりにも先鋭化しすぎたリスクが、多くの屍を築いてしまう。

 

人間の数が足りているのなら良いのだろう。

 

だがこの世界では、人間の数が決定的に足りていない。

 

人材がありとあらゆる分野で足りないのだ。

 

その状況で、技術者に、トラップにはまられてしまうと。

 

それは大きな損失になってしまう。

 

この時計は壊してしまうべきでは無いのか。

 

一瞬そう思ったが。

 

それは駄目だ。

 

ロストテクノロジーなのは、あくまで勘と職人芸に頼る部分が大きすぎるから。

 

技術が進歩すれば。

 

その問題も解決できる可能性が決して低くは無い。

 

それならば、解析するしかないか。

 

プラフタと話しながら、内容を確認。

 

時計が動かないのは事実だ。

 

これだけ精密な機器だと、振ったり叩いたりするのは最悪の対応手段だろう。

 

それならば、どうするか。

 

分解するのは少しばかりリスクが高い。

 

歯車を、以前のように型どりするにしても、何処が悪いのかを調べないと、そもそも修理が出来ない。

 

困り果てたあたしに。

 

プラフタは、二つの解決策を提案してきた。

 

「一つは、今までとは比べものにならない精度のレンズを造る事です」

 

「ふむ、なるほど」

 

「恐らく職人の勘で、視覚以外の情報も無意識的に取り込んで、修理や作成をしていた部分があるのでしょう。 それらを、技術的な部分で埋め合わせします」

 

「更に精度の高いレンズか……」

 

やり方は幾つか思いつく。

 

そして、あたしは思うのだ。

 

誰でも出来て。

 

誰でも作れる。

 

それこそが、本当の技術ではないのかと。

 

本来、機械は誰でも使えるものであって。

 

それは、作る段階においても。

 

同じであるべきなのではないのか。

 

機械は誰にでも使えるが。

 

作るのは一部の天才だけにしか出来ない。

 

それはまた、技術としていびつすぎる。

 

あたしが錬金術に前々から感じていた不満と同じだ。ハロルさんがあたし達悪ガキ三人組によくしてくれたのも。

 

同じ空気を何かしら感じ取っていたから、かも知れない。

 

「もう一つの解決策は」

 

「声を聞く事です」

 

「!」

 

確かにそれもそうか。

 

最近は、今までとは聞こえる声の精度がまるで違ってきている。

 

確かに更に技術を伸ばせば。

 

錬金術の才覚を開花させれば。

 

何処が悪いのだと、時計が教えてくれるかも知れない。

 

だがそれは。

 

今回の解決策からは外したい。

 

あたしが首を横に振ると。プラフタは、ならば最初の方法しか無いな、と現実的に言い。あたしもそれを認めた。

 

いずれにしてもだ。

 

一部の超人にしか出来ない技術によって支えられるというのは、非常にいびつだ。錬金術にしても機械にしても、である。

 

そういった超人は確かに得がたい。

 

だが、それでは駄目なのだ。

 

超人に頼り切りになっていた技術は。

 

超人がいなくなれば終わってしまう。

 

あたしだって、今の錬金術には文句を百も千も言いたい立場だ。同じ苦悩を、機械技術者に抱えさせる訳にはいかない。

 

ならば、レンズを一として。

 

誰でも、超人と同じ技術を発揮できるシステムを構築するしかないだろう。

 

まずはレンズからだ。

 

あたしは、順番に。

 

材料と。

 

レシピを構築し始めた。

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