暗黒錬金術師伝説6 暗黒!ソフィーのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、蠢く法則

キルヘン=ベルに戻って数日後。

 

新しい錬金術の装備品について模索していると。再びアトリエを訪れる者がいた。また面倒な事態かと腰を上げるが。

 

予想とは少し違う方向で面倒な事が起きていた。

 

少なくとも荒事ではないので。

 

呼ばれるままに、ハロルさんの所に行くが。

 

いない。

 

そうなると、話の内容的にロジーさんの店か。

 

ロジーさんの店に行くと。

 

早速二人を見つけることができた。

 

「こんな常識外の銃を作って、扱えるとは思えない」

 

「それでもいいから作って欲しい」

 

「俺は実用品を作るのが仕事だ。 趣味の品に掛ける時間はない」

 

「これは実用品だ」

 

完全に平行線である。

 

ちなみにあたしを呼びに来たのは、自警団の一人。

 

この間まで東の街で働いていたティアナという子だ。

 

ちんまいので心配していたら、案の定十代前半。

 

剣の腕は天才的という事だが、流石に体が出来ていないので、まだ前線には出せないとモニカに聞いている。

 

何でもこうやって彼方此方の自警団で仕事をしながら、腕を磨いているらしい。

 

家庭のことは話そうとしない。

 

一度ノリで飛び出してきたとおどけて話していたそうだが。

 

とてもそれが本当だとは思えないと、モニカはぼやいていた。

 

なおティアナは、用事が済んだら剣の修行をしたいと、すぐに消えた。

 

というか、面倒事に巻き込まれたくなかったのだろう。

 

静かで、だが激しいやりとりをしている二人に。

 

あたしは咳払いする。

 

「どうしたんですか」

 

「ソフィー、聞いてくれ。 ハロルさんが、とても扱えそうも無い銃を作れと俺に強要するんだ」

 

「扱えると言っているだろう!」

 

基本的にダウナー系のハロルさんが、珍しく声を荒げている。

 

そういえばハロルさんの逆鱗ポイントは、自分に才覚が無い事、だった。

 

この人、自分に対して怒るのだ。

 

だから珍しい。

 

この人が、他人に。

 

しかも、実力を認めている相手に声を荒げるというのは。

 

どれと、設計図を見せてもらう。

 

それは、この間邪神戦でハロルさんが持ち出していたものよりも、更に大きな銃だった。前の奴は、確か自警団の備品だったのだが。

 

今回のはそれよりも長大で、口径も大きい。

 

何だこれ。

 

ドラゴンでも狩るのか。

 

これにプラティーン弾丸を詰め込めば。確かにドラゴンにも通じそうではあるが。しかし一発しか当てられないだろう。

 

狙撃でここぞのタイミングで、蜂の一刺し。

 

それ以外では使えそうにない。

 

更に、あたしの作った拡大レンズの仕組みを使ったのか。

 

スコープまでついている。

 

なるほど、超長距離からの確殺射撃。

 

ただ、それでも。

 

邪神やドラゴン相手には、確殺が行けるかは分からないだろう。

 

ロジーさんは、基本的に現実的な武器を作る。

 

オスカーのスコップにしても、殺傷力を最重要視しているし。

 

モニカの使う剣にしてもそう。

 

この人の作るものは。

 

皆実用品なのだ。

 

だからこそに、色々な意味で「確殺」「浪漫的」なこの銃は、あまり考えが合わないのだろう。

 

「そもそも、前の戦いでも、自警団の備品の長身銃でどうにかなったと聞いている。 貴方の腕ならば、それで良いのでは無いのか」

 

「今後更に敵が強くなるのが確実だから、より強力な武器を求めているんだ。 ただでさえ俺は前線で武力を振るえるほど体が強くない。 それならば、武器を強くする以外にないだろう」

 

「武器を強くするにしても、これは極端すぎる!」

 

「ならばどうすればいい!」

 

温厚なロジーさんもヒートアップしてくる。

 

普段優しい人ほど怒ると怖いと言うのは定説だが。

 

この人に関しても、例外では無いらしい。

 

オスカーもそうだが。

 

温厚な男性はため込む傾向が強く。

 

一度ブチ切れると、しばらく収まらない。

 

まあしばらく見ているかと思ったが。

 

やがて騒ぎを聞きつけたか。

 

レオンさんが来た。

 

なんでレオンさんが来たのだろうと思ったが。

 

彼女は、二人の間に入ると、迷惑だと言った。

 

「ちょっと二人とも声がヒートアップしすぎよ。 こっちの方まで喧嘩が聞こえてきているの。 お客さんが帰っちゃったじゃないの」

 

「それは、すまん」

 

「……悪かった」

 

二人はそっぽを向く。ハロルさんは、店を出て行った。

 

嘆息すると。

 

レオンさんは、もの凄い銃の設計図を見て、もう一度嘆息した。

 

顔に暗い影が宿るのを、あたしは確かに見た。

 

そういえばこの人。

 

故郷のことを殆ど話さない。

 

バランスの取れた優れた戦士で、キルヘン=ベルにも貢献してくれている。過去をあれこれ探るのも非礼だろう。そう思って黙っていたのだが。

 

この様子だと、珍しく割って入ったのにも理由があるのか。

 

「ちょっと設計を見せてくれる?」

 

「ああ、構わないが。 本職の俺が無理だと言っているのに口を挟むのか?」

 

「私も本職よ。 ただしデザインだけれどね」

 

「……」

 

むっと口をつぐむロジーさん。

 

ああなるほど。

 

事情は何となく分かった。

 

だが口は挟まない。

 

いずれにしても、あたしは今回の喧嘩の解決に関与していないどころか。喧嘩を引き起こす原因まで作った。

 

この後、何か手伝えることがあるなら手伝うが。

 

それ以外では、口を挟まない方が良いだろう。

 

「デザインとしては美しいけれど、確かに実用面では問題があるわね」

 

「デザインとして美しいか。 俺も金持ちに頼まれて、使いものにならない武器を散々作ってきたからな。 正直置物に資源を無駄使いするのは感心できない」

 

「私もよ」

 

「気があうじゃないか」

 

ロジーさんが苦笑いする。

 

ただ、とレオンさんが付け加えた。

 

「あくまでそれは我々の技術での話よ」

 

「!」

 

「ソフィーちゃん。 これを性能を落とさずに、小型化して現実的に使えるように、出来ないかしら?」

 

 

 

まあ今回の件は、喧嘩の発生にあたしが関わっている。

 

いきなり話を振られたが。

 

まあ仕方が無い。

 

少し考えて見るとしよう。

 

まず銃の設計図を見るが。確かにコレは持ち運びも難しい。

 

対邪神戦で使った長身銃は、多分人間が扱える限界のサイズだ。重さ云々ではなく、これ以上のサイズだと取り回しが出来ないのである。

 

それこそ星を救う英雄やら、そも戦うためだけに産み出された戦士やらだったら使えるかも知れないが。

 

普通の人間であるハロルさんには無理だ。

 

ただし、あたしが全部やるのも問題だろう。

 

ハロルさんは職人だ。

 

あたしとしては、ハロルさんに手助け出来る道具を供与すると言う所で話を落ち着かせたい。

 

それにハロルさんにしても、である。

 

せっかく立ち直ろうとしている所で。

 

いきなり躓く事になっているのだ。

 

それも何とかしてあげたい。

 

実のところ、ハロルさんの時計屋が開店休業状態である事に関しては、ホルストさんも心を痛めていて。あたしも何度か相談はされた。

 

ただでさえレアな機械技術者を腐らせておくのはもったいないし。

 

比べる対象が別次元なだけで。

 

実際ハロルさんの技術が劣っている訳でも無い。

 

事実、ハロルさんはコルちゃんの持ち込んだ機械が、オルゴールである事を即時に特定したし。

 

歯車さえあればすぐに直しても見せた。

 

本当ならば、出来る人なのだ。

 

それが出来ないと思い込まされたのは、相手が悪すぎたから。

 

ならばどうすればいい。

 

しばし考え込んだ後。

 

あたしはハロルさんの店に出向く。

 

ハロルさんはふさぎ込んでいた。

 

「ソフィーか」

 

「どうしたんですか、らしくない。 今までは現実的な銃を持ち込んでいたじゃないですか」

 

「……邪神との戦いで痛感した。 あいつにあの程度のダメージしか与えられないようなら、今後街に襲い来る奴と戦う時に役に立てない」

 

「そういうことですか」

 

なるほど。

 

ひょっとしてハロルさん。

 

あたしが一段落したら、街を一度離れようと思っている事に、気付いているのだろうか。

 

勿論旅人の道しるべは持っていく。

 

数日に一度は、様子を見に戻るし。

 

何よりも、キルヘン=ベルからの急報も、すぐに届くようにする。

 

ただ、それでもだ。

 

ドラゴンや邪神が突如出現した場合。

 

即応体制を取れなければ、キルヘン=ベルは壊滅する。

 

今もあたしは色々な装備を開発して、自警団のために戦力強化をしているのだけれども。

 

それでも、まだドラゴンを追い返せるほどの決定的なものではない。

 

更に言うと、ジュリオさんやフリッツさんはいつまでもこの街にはいない。

 

ジュリオさんも一段落したら国に帰らなければならないし。

 

フリッツさんにも家庭がある。

 

傭兵と言う事は。

 

仕事が一段落したら、戻ると言うことだ。

 

勿論キルヘン=ベルに定住してくれれば言う事は無いのだけれども。

 

話によると、今奥さんがアダレットの首都にいるらしく。

 

娘さんは各地を傭兵として回っているそうで。

 

いずれある程度のまとまった財産を手に入れたら。

 

アダレットで人形劇をしながら、余生を送りたいと言う話をしていた。

 

傭兵はどのみち血塗られた仕事だ。

 

それならば、最後くらい。

 

家族とゆっくり過ごさせてあげたい。

 

コルちゃんにしても、家族捜しというやりたいことがあるわけで。多分コルネリア商会拡大の目処がついたら、この街を離れるだろう。

 

レオンさんは正直どうなるか分からないが。

 

ロジーさんも、昔から放浪癖があるらしく。

 

いつまで此処にいるか分からない。

 

更に問題はオスカーで。

 

世界中の植物と友達になりたい等と言っていたし。

 

いずれ街を出るつもりの可能性は高い。

 

そうなってくると、街の確実な戦力としてカウントできる人間は、モニカを第一とすると、テスさんやエリーゼさん、それにハロルさんくらいになってくる。おばあちゃんと旅した戦士であるハイベルクさんもヴァルガードさんも年齢が年齢だ。

 

テスさんはCQCの達人だが、相手が邪神やドラゴンでは厳しいだろうし。

 

エリーゼさんはあくまで魔術師。

 

錬金術の武装で地力を上げたとしても。

 

限界はある。

 

頭を掻くと。

 

あたしは、銃の設計図を見せてもらった。

 

ドラゴンや邪神が相手でも。

 

致命打を与えられる狙撃銃。

 

飛んでくるところを狙うか。隙さえ作れば。

 

それこそ一撃必殺の火力が期待出来る。

 

だがそれは本当に浪漫砲というべきものであって。

 

持ち運ぶものではない。

 

持ち運ぶ、か。

 

しばし考え込んだ後。

 

あたしは提案する。

 

「これ、威力だけそのままに、小型化できませんか?」

 

「小型化?」

 

「そうです」

 

「これでも相当に反動を殺すために小型化しているんだ。 これ以上小型化すると肩が抜ける」

 

即答されるが。

 

それくらいはリスクにならない。

 

「反動くらいあたしがどうにかしますよ」

 

「錬金術か」

 

「そうです。 設計はお任せします。 反動が現実的では無いのなら、此方でどうにかする工夫はしますし、それに……」

 

「他の奴にも使える現実的な武器にも応用できる、か」

 

頷く。

 

今の時代、色々な武器が前線に投入される。

 

魔術が当たり前のように使われる現在は、銃火器は絶対の存在ではないし。

 

弓矢もそらされる事が多い。

 

相手が人間でさえそうだ。

 

相手がネームドやドラゴン以上の相手になると、どうしても機械では分が悪い。

 

一度アトリエに戻る。

 

強力な射出に対して、反動を殺すにはどうしたら良いか。

 

グラビ石は。

 

一瞬考えたが。

 

多分駄目だろう。あれはあくまで、重力を殺すものであって。反動を殺すものではないのだ。

 

プラフタが茶を出してくれた。

 

「詰まっていますか?」

 

「あたしもこの街にずっといるつもりはないからね。 ハロルさんみたいに、この街でずっとやっていくつもりの人のための装備を少し考えておかないと」

 

「確かに、今は個の武勇がものをいう時代です。 錬金術と言う強力すぎる技術が、他をあまりにも圧倒しているが故に起きているともいえますが」

 

「そもそも、火力が足りないんだよ」

 

剣だってそう。

 

槍だって、他の武器だって。

 

魔術にしてもそうだ。

 

いずれもが、人間に敵対的な化け物達に対抗できるほどの戦闘力を発揮できない。ならば、せめて命中すれば一撃必殺となるものを作る事が出来れば。

 

少し腕組みして考える。

 

恐らくハロルさんは、持ち運べるレベルまで小型化はさせるが。

 

反動はとんでもないものを持ち込んでくる筈。

 

その反動を消すには、幾つか方法があるが。

 

まあ逆側に同じ射出をするのが現実的か。

 

しかしその場合。

 

逆側に強烈な衝撃が生じる事になる。

 

弾丸の数倍の重さの何かを同時に発射するという手もある。ただこの場合は、ただでさえ巨大な弾丸を射出するのに、それと同じものを詰め込むことになり。武装の重量がただごとではなくなる。

 

それならば。

 

ああ、そうか。

 

いい手があるじゃ無いか。

 

あたしは早速、グラビ石を取り出す。

 

重力を殺す事が出来るのなら。

 

コレを使って、面白い使い方ができる筈だ。

 

レシピを書く。

 

しばし集中してレシピを書いていたが。

 

やがてプラフタに見せると。

 

驚かれた。

 

「これは。 独創的な発想をしますね」

 

「どう? これ、ちょっと面白いと思うのだけれど」

 

「面白いですよ。 なるほど、この手がありましたか。 少し改良してみましょう」

 

「ん」

 

やっぱり手が入るか。

 

だがプラフタによるアドバイスとレシピの手直しは、本当に優れた改良につながる。あたしも文句をいうつもりはない。

 

プラフタの言う通り修正箇所を直して。

 

今回は修正一回で許可が出た。

 

後は、形状だが。

 

ハロルさんが、実物をあげてくるまで待つしかない。

 

その間は、別の作業をする。

 

せっかく入手したドンケルハイトや竜の素材。

 

これらを利用すれば。

 

賢者の石が作れるかも知れない、とプラフタは言っていた。

 

それならば。その準備をしておくべきだ。

 

賢者の石を作るには。

 

その前段階になる幾つかの中間生成物が必要になるらしいのだが。

 

それらでさえ、生半可な実力では手出しさえ出来ない代物であるらしい。

 

理論を習う。

 

簡単に言うと、世界に存在する要素。

 

つまり神の力を融合させることにより。

 

それら全ての力を引き出しつつ。

 

無の存在を作る。

 

それが賢者の石であると言う。

 

無であるが故に実体はなく。

 

それであるが故に何にでも化ける。

 

剣にも爆弾にも、装備品にもなる。

 

恐らくだが、上位次元への干渉も出来るとプラフタは言う。という事は、あの邪神どもの攻撃に対しても、対策できるかも知れない。

 

レシピを見るが。

 

これは難解だ。

 

生半可な調合で作れる代物では無い。

 

もしもコレを作ろうというのであれば。

 

一月くらいは、アトリエに引きこもる覚悟が必要になるだろう。

 

勿論モニカをはじめとして、周囲の人々にも協力を仰がなければならないし。

 

もしも街の周囲に邪魔が現れるようであれば。

 

先に排除しておかなければならない。

 

更に言うと。

 

まだあたしの腕では、たりないか。

 

調合の補助のために。

 

前にハロルさんに渡した、細かい作業を更に緻密にするための改造マイスターミトンや。更につい最近完成したばかりの拡大鏡。

 

これらも総動員したとしても。

 

まだ少し足りない気がする。

 

いずれにしても、レシピについては分かった。

 

それならば、中間生成物だけでも、こつこつと作っていかなければならない。

 

幸い素材は揃っている。

 

後は、行けるようになった場所を漁ってみて。

 

良さそうな素材類を更に吟味し。

 

人跡未踏だった場所にも足を運び。

 

ネームドを倒して、より品質が良い毛皮や深核を入手すれば。

 

数日、ばたばたしているうちに。

 

ハロルさんが来る。

 

設計図を見ると、持ち運びがかろうじて出来る銃になっていた。

 

ただし、非常に寸胴で。

 

口径が凄まじい。

 

なるほど、これは確かに、反動を完全に無視したものだ。更に口径が巨大な割りに銃身が短いので。

 

狙いを付けるのにも苦労するだろう。

 

「出来るか?」

 

「寸法、写させて貰いますね」

 

八つめの拡張肉体が、ついこの間書き上がったばかり。

 

此奴も利用して。

 

図面を一気に複写する。

 

その後、「反動はあたしがどうにかする」という条件で、これをロジーさんの所に持ち込んで欲しいと頼み。

 

あたしは早速。

 

調合を始めた。

 

簡単に説明すると、何も発射するときに、自分で反動を引き受ける必要はないのである。

 

用意するのはカバー状に銃身を覆う筒。

 

伸縮性の高い樹液を利用して。

 

これを変質させて、何度伸ばしても伸びきってしまわないようにする。

 

そしてここからが肝心だが。

 

この樹液で銃身を固定しつつ。

 

銃身そのものに取り付けるアタッチメントとして、グラビ石を練り込んだインゴットを変質させる。

 

このアタッチメントをレールとして使用し。

 

発射後、銃身が衝撃でスライドし、バックするようにする。

 

当然カバーからすっぽ抜けて後ろに銃身は飛び出すのだが。

 

樹液ですっ飛んでいくのを押さえ込まれ。

 

更にグラビ石で地面に叩き付けられるのを防ぐ。

 

加えて。

 

魔術で、空気のクッションを造る事により。

 

この衝撃による勢いを殺せる。

 

これだけではない。

 

銃を覆うカバーの方に、拡大鏡をつける事により。

 

より相手を正確に狙撃することが可能だ。

 

ただし、弾丸が飛んでいく方向などをサポートする必要があること。

 

発射時の音が凄まじい事になるのが目に見えているので。

 

それも緩和しなければならない。

 

この辺りは、筒の部分のインゴットを変質させ。

 

魔術で音を遮断すれば良い。

 

幾つかの複雑な処置をしている内に。

 

ハロルさんが戻ってきた。

 

そして、あたしが作り始めたものをみて、ぎょっとしていた。

 

「また随分とけったいなものを作っているな」

 

「これが完成すれば、手持ちで運べる大型銃が実用化出来ますよ」

 

「ハンドキャノンとでも言うべきものか。 昔は、固定式の大型砲が流行った事があったらしいが、ドラゴンにも邪神にも効果が薄く、反撃を受けるとひとたまりも無いため、廃れていったと聞いている。 これは手持ちで運べる大砲という事で、その欠点をカバーできる」

 

「しかも反動による使用者へのダメージもありません」

 

頷くハロルさん。

 

銃そのものが出来てくるのには、一週間ほどかかるだろう。

 

後は、出来てきた後。

 

このアタッチメントを組み合わせるだけだ。

 

 

 

銃を使う戦士は、今の時代あまり多く無い。

 

火力が小さいことが最大の原因で。

 

魔術を使うものが多い現状。

 

銃弾を至近で発射しても、致命傷にならないことが多い。

 

刃物に魔術を掛けると、威力はかなり大きくなるため。

 

それだったら、刃物を使う方が良い。

 

そう考える戦士が多いのだ。

 

ましてや銃は、火薬なども必要になってくるし、使うのに熟練が必要になってくる。勿論剣や槍も訓練が必要だが。

 

それならば、銃をわざわざ使うくらいなら、剣を使う。

 

そう考える戦士が増えるのも無理は無い事なのだ。

 

だから、お披露目会をする。

 

場所は、いつもお披露目会をする森の奥の空き地。

 

防護壁の内側に残っている、今も珍しい荒野である。

 

わざと荒野を残しているのは。

 

錬金術の道具をお披露目するための実験場として、である。

 

顔役はだいたい全員が来ている。

 

そしてハロルさんが顔を見せると。驚きの声が上がった。

 

何だアレは。

 

露骨にその声が聞こえてくる。

 

確かにハロルさんが手にしている武器は、あまりにも異様だ。巨大すぎるその銃身は、筒状のインゴットに覆われている。

 

あたしがまずハロルさんから受け取って。

 

説明をしてみせる。

 

「これは今まで実用的では無かった銃を実用的にするためのアタッチメントです。 それそのものがグラビ石を混ぜ込んだインゴットとなっており……」

 

軽く振り回せる。

 

まずあたしが振り回して見せ。

 

その軽快さをアピール。

 

ただし、あたしがそれをやって見せてもあまり意味がないかも知れない。

 

何しろあたしの今の腕力は、相当に高くなっているからだ。

 

其処で、何人か。あまり腕力が強くない人に出てきて貰う。

 

まだ銃身に弾丸と火薬は詰めていない。

 

暴発の危険は無い。

 

非常に寸胴のそれを、鈍器か何かと勘違いする者も出るかも知れない。大いに結構。武器の性質を勘違いしてくれれば、戦いもやりやすくなる。

 

何人かの力が弱い自警団員や、引退寸前の老自警団員などにも持って貰い。

 

軽いと、満足げな評判を貰う。

 

問題は此処からだ。

 

「武器そのものが軽くなるのは良いことですが、問題はこの口径の銃を撃った場合の反動です。 膨大な火薬が銃身の中で炸裂し、巨大な弾丸が撃ち出される以上、普通肩が抜けます。 其処でこのギミックを搭載しました」

 

ハロルさんは黙々と準備して。

 

構える。

 

目標は、壁際にある大きな石材。

 

ひびが入ってしまっていて、使い物にならなくなっているものだ。

 

実戦にこの巨大銃を用いる場合は、プラティーン製の弾丸を使うが。

 

実は、今プラフタにレシピを教えて貰った更に強力な金属、ハルモニウムを弾の芯に用いようと思っている。

 

このハルモニウム、ドラゴンの鱗から抽出したプラティーンの中に更に少量だけ含まれている超金属で。本当にわずかしか取れないが、此奴であれば或いは、邪神にもっと大きなダメージを与えられるかも知れない。

 

その代わりもの凄く高価になる。

 

皆の武器も近いうちにこのハルモニウムでコーティングする事を考えているのだが。

 

弾丸に使う場合は。

 

本当に限られた数しか使えないだろう。

 

いずれにしても、今は鉛玉を用いる。

 

ハロルさんは構える。

 

実は、此処で何度か試射をして。

 

拡大鏡の調整を済ませた後である。

 

故に、ハロルさんの構えに迷いは無かった。

 

発射。

 

音は想像以上に小さい。

 

そして、吹っ飛ぶ石材。

 

小さな家ほどもあるこんもりとした石材だったのだが。

 

木っ端みじんである。

 

おおと、声が上がる。

 

ホルストさんが、最初に拍手した。

 

「素晴らしい。 射程距離は」

 

「ドラゴンを視認した瞬間に直撃させられます」

 

「なるほど。 ただ量産は出来そうに無いな」

 

「いえ、少数だけ決戦兵器として作っておけば、ドラゴン戦での切り札になるでしょう」

 

ハロルさんが、反動で飛び出した銃身を再セット。

 

弾丸を装填するが。

 

時間は掛かる。

 

ただし、時間は掛かるが出来る。

 

つまり、五セットほどこの銃を用意しておいて。

 

事前に訓練をしておけば。

 

下級のドラゴンくらいだったら、街に近づく前に叩き落とすことが出来る。

 

殺す事は厳しいだろうが、弱ったところを接近して袋だたきにすれば、殺す事も可能なはずだ。

 

束ねた爆弾を、ロープを着けて投げつけるよりも。

 

これの方が武器として現実的だろう。

 

ただし人間に使うにはオーバーキル過ぎるし。

 

何よりも、一発使ったら完全に無防備になる。

 

要するに、大物食い専門の武器となるのだ。

 

「分かりました、採用しましょう。 自警団用に、五セットだけ作ってください」

 

ホルストさんも、石材が木っ端みじんになる威力は見たのだ。

 

これを、プラティーン製の弾丸にすれば。

 

その破壊力は想像を絶する。

 

前に、対邪神戦で、プラティーン弾丸は有効打を与える事が出来た。だが、それは最下位の、不完全状態の邪神だった。

 

これならば。

 

ハロルさんは満足げだ。

 

やっと今、この人は。

 

最悪の過去と、決別することが出来たのかも知れない。




過去との決別。

これが実際にやってみるととても難しい。

ただ、ハロルさんは乗り切れた。

そういうことなのです。
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