転生一九三六~戦いたくない八人の若者たち~   作:紫 和春

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第102話 次は

 一九三九年一月四日。

 年が明け、のんびりと新年を迎えようとした宍戸であるが、そういうわけにもいかない。

 新年恒例の華族会合に出席し、大本営の発表に合わせて打ち合わせをし、さらにこれから先の戦略を考えるために米内総理に呼び出されていた。

 これらが停戦条約締結からずっと行われているのだから、忙しいにもほどがある。

 そんなことで、この日になってようやく日本とアメリカが停戦したという大本営発表が行われた。

 その結果、日本の世論は大まかに見て二つに割れた。片方は「何故米国との戦争を終わらせたのか」という、アメリカを完膚なきまでに叩きのめす継戦派。もう片方は「米国との戦争は避けるべきだったから良し」という穏健派。

 新聞各社は過激な記事を求めて、継戦派の意見ばかりを取り入れた社説を載せた紙面を出す。中には街頭調査として、街ゆく人の八割は継戦派であるといった嘘の調査結果まで掲載する新聞もあった。

 そんなわけで、「国民感情は戦争を続けろ」という意見形成が成され、婦人会を中心にどの町もヒートアップしていた。

 しかし宍戸は、そんな意見を完全に無視して、停戦条約に基づく仕事を着々とこなしていた。とはいっても、彼にできる仕事はたかが知れているが。

 とにかく宍戸は、第8艦隊の返還やアメリカ兵捕虜の復員に関して、陸軍省と海軍省の意見を交えた大本営発表原稿の草案を考えたりしていた。

 また、フィリピンの独立を早めるための会議を設定したり、英仏蘭の植民地の解放に関する調整といった、外務省の案件の書類にまで目を通し、ハンコを押していた。

「ふー、少し暇になったかな?」

 夜も更け、電球の明かりの元で、宍戸は伸びをしていた。

「お疲れ様です、宍戸所長」

 そこに林がやってくる。

「追加の書類です。今週中には目を通しておいてください」

「分かりました。それで、アメリカとの和平は結べそうですか?」

「えぇ、遅くても五月までにはなんとか」

「それは良かった。そうすれば、後はドイツですね」

 そういって宍戸は、世界地図に目をやる。

「ドイツ国内では、すでにユダヤ人の大量虐殺が本格化していると聞きます」

「それは既定路線です。時間の問題だったでしょう」

「……ドイツを敵に回すんですね?」

「はい。米内総理にはもう伝えてあります」

「しかし、我が国とドイツとでは、あまりにも距離が離れすぎています。どうするおつもりですか?」

「そうですね……。まずは不意打ちでも起こしますか」

「不意打ち……?」

「自分のいた世界で、ドイツがやっていたことを体験してもらうだけです」

 宍戸は、少し不気味に笑った。

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