転生一九三六~戦いたくない八人の若者たち~   作:紫 和春

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第108話 Qシップ

 商船のマストに、ユニオンジャックが翻る。

 今回のQシップは、五インチ砲を船首側に一門、簡易型魚雷発射管を船尾側に一基装備している。さらにこの魚雷発射管は、偽装と防御面の関係から一本のみを装備しているという、非常に稀な装備品だ。

「潜水艦でもないのに、Qシップが出てくるとはな。我々に勝てるとでも思っているのか?」

 ヴェルマー少将が、双眼鏡を覗きながら言う。

「我々も舐められたものだな。ざっと見十数隻程度しかいないQシップに、手こずるはずもないだろう。敵は駆逐艦クラスの砲を一門しか持っていないはず。たかが一門の砲で何が出来ようか」

 ヴェルマー少将は、士官に指示を出す。

「全艦、砲撃用意。駆逐艦も容赦しなくていい。敵は非装甲だからな」

 距離は十キロメートルもない。駆逐艦の主砲でも当たる距離だ。プリンツ・オイゲンの高角砲も照準を定める。

「射撃開始!」

 バイルシュタイン艦隊の全力射撃が始まった。砲弾は水平よりやや上向きに発射され、Qシップ目掛けて飛んでいく。

 初弾でティルピッツの砲弾が、Qシップに直撃する。非装甲であるため、砲弾が船体内部で爆発せずにそのままぶち抜いていく過貫通が発生した。こうなると徹甲弾を使用する意味はなくなるが、船体に開いた穴から大量の海水が流入するだろう。こうしてあっという間に、一隻のQシップが海の底に沈んでいく。

「初弾でやられたか……。ユニオンジャックは掲げたか?」

「全艦問題なく」

「では反撃に移ろう。我々には勝利しか許されないのだ」

 攻撃命令が下ったことで、Qシップ船団は主砲をバイルシュタイン艦隊に向ける。

 そして射撃を開始した。だが、いくら簡易版の測距儀と射撃指揮装置を使用していても、砲弾が命中しなければ意味がない。本物の商船を改造している船もあり、精度が低い砲撃になってしまう。散布界の大きい砲撃となり、かなりの着弾のバラツキが見られるだろう。

「ふん。あんな砲撃でこちらに命中すると思っているのが癪に障る。次弾装填次第順次発射せよ」

 ビスマルク級戦艦の主砲は装填に時間がかかるが、Z5型駆逐艦の主砲なら一分間に最大で十八発発射できる。その物量によって、Qシップは次々と砲弾を食らっていく。

「これ以上まともにやり合うのは無理だ。全艦取り舵一杯! 艦尾の魚雷発射準備!」

 ここに来て、魚雷の出番がやってきた。今残っているQシップは六隻。おおよそ駆逐艦の一斉射分か。

 排水量が少ないため、Qシップの回頭は素早い。ものの数分で回頭完了した。

 Qシップ全艦がバイルシュタイン艦隊に対して後ろを見せる。バイルシュタイン艦隊は、この機を逃さない。

「今だ! 背を向けている間がチャンスだぞ!」

 バイルシュタイン艦隊からの攻撃が激しくなる。

 それでもQシップ船団は冷静であった。

「各個照準。魚雷発射」

 こうして六本の魚雷がそれぞれ航跡を描いて、バイルシュタイン艦隊へと進んでいく。

「敵からの魚雷が接近中です」

「被弾しそうか?」

「いえ、少し舵を切るだけで回避できます」

「それなら回避だ。無駄な被弾は避けるべきだからな」

 そういってバイルシュタイン艦隊は易々と魚雷を回避する。そしてQシップ船団に攻撃を続ける。

 戦闘開始から二時間弱。Qシップ船団は残り二隻になっていた。その他のQシップは全て沈められたのである。

「もはやここまでか……」

「司令官……」

 回避行動を取るものの、駆逐艦空の攻撃が激しい。至近弾でも、商船にとっては致命的だ。

 その時、司令官が座乗している艦に砲弾が命中する。艦自体が大きく揺れ、司令官は体を壁に強く打ち付けられた。

「司令官、大丈夫ですか!?」

「私のことはいい! 我々の任務は、敵を引き付けることにある!」

 司令官はある通信を待っていた。味方からの通信を。

「司令官! 電文入りました! 『我らスカパ・フローの亡霊なり』!」

「ついに来たか……!」

 北の空から、点々とした物体が接近しつつある。

 ソードフィッシュだ。

「敵艦隊を発見! これより雷撃を敢行する!」

 護衛空母の搭載機だ。機体の下には魚雷を装備している。

 さらに報せが入る。

「ウォースパイトからも電文です! 戦艦三隻が戦線に合流するようです!」

 昨日戦闘を行ったイギリス哨戒艦隊、戦艦打撃群が登場である。

「先ほどは遅れを取ったが、今が挽回の時だ。大英帝国海軍の実力というものを見せてやろう」

 ヘミルガン中将が意気込みのように語る。

 北と南から挟み撃ちにされたバイルシュタイン艦隊。この状況を切り抜けられるのか。

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