一九三九年三月二日。
連合国側は、対独戦争を本格始動させようとしていた。現在は連合国共同での宣戦布告声明を出そうとしている。
ドイツ領ポーランドの目の前にいる帝国陸軍第一〇〇一から一〇一一師団も、欧州派遣軍として編成され、進軍の時を待っていた。
「いい天気だな」
派遣軍の指揮官である篠田中将は、空を見上げて言う。
「ここが敵地の目の前だということを忘れてしまいそうだ」
「確かに、そんな感じがしますね」
部下の一人が、篠田中将に返事する。
そんなとき、篠田中将が何かを見つける。
「あの光る物体はなんだ?」
「何か見えますか?」
「あぁ。あれは……」
篠田中将の指摘は間違っていなかった。
複数の機体。機体の胴体にはバルケンクロイツが描かれていた。
「ドイツ軍だ!」
Bf109で構成された戦闘機群は、ちょうど哨戒に当たっていたロシア軍の戦闘機に向かっていく。
そしてドイツ軍機は、あっという間にロシア軍機の後ろを取って機銃を放つ。ロシア軍機は主翼が折れて空中分解を起こした。
「あぁっ」
ほんの十数秒の出来事であった。
呆気にとられてた篠田中将だが、何かに気づいて参謀のほうを向く。
「ドイツからロシア帝国に宣戦布告はあったか!?」
「そ、そのような情報は……まだ入ってきていません」
それを聞いた篠田中将は、顎に手をやる。
「これは……明確なハーグ陸戦条約違反だ。いわゆる卑劣で悪質な奇襲攻撃と言える」
「それが何か……?」
篠田中将は、腰に帯びていた軍刀に手をかける。
「つまり、我々はドイツを攻撃する明瞭な理由を手に入れたわけだ。正当防衛が適用される場面だろう?」
「確かにそうでありますが、まだ共同声明が発表されていません。今行動するのは下策かと……」
「そんなことを言っている場合ではない! ドイツの侵略を許せば、罪なき市民が逃げ惑うだろう。それにドイツは、ユダヤ人を虐殺している。もしユダヤ人の疑いをかけられれば、すぐに強制収容所行きだ。そんなことはさせない!」
そう言って軍刀を抜き、それを掲げる。
「我々は、我々の正義のために戦う! それを達成するため、今すぐに出撃する!」
そして軍刀をポーランド方面に向ける。
「全軍、進めぇ!」
「む、無茶ですよぉ!」
参謀は困惑する。このままでは、篠田中将一人でも自動車、いや馬に乗ってでも越境するだろう。
「分かりましたよ……。全軍に進軍するように通達します……」
こうして参謀は各師団に連絡。派遣軍を前進させるように指示を出す。
「とりあえず、今はゆっくり進んでくれ」
そのように付け加える参謀であった。
その数時間後。連合国による対独共同宣戦布告が行われた。
これを聞いたロシア軍は、後ろで控えさせていた軽爆撃機のIl-2を出撃させる。
一時間もすれば、ドイツ領ポーランドの上空へと到着するだろう。
『地上を索敵せよ。敵の戦車や野砲を発見次第、すぐに爆撃に入る』
Il-2の搭乗員は、目を皿のようにして地上を見る。
そんな時、機体の近くで風切り音が響く。そこそこ大きい砲弾が通過したときの音だ。
『敵対空砲からの攻撃だ! どこから撃ってきた!?』
『前方やや左方向だ!』
そこには、特急で構築された対空陣地があった。陣地には
『攻撃目標を設定、敵対空砲。各機、攻撃始め』
対空砲を破壊するため、Il-2は緩降下で爆撃を行う。それを阻止しようと、対空砲から火が噴く。
対空砲の攻撃によって、いくつかの機体が爆散し、散っていくだろう。それでも、対空砲を攻撃しなければ、その後に続く味方が攻撃に曝される。それだけは何としてでも止めなければならない。
対空砲に接近する。それだけで撃墜されるリスクは高まる。だがそれ以上に、敵を倒すという気迫が優っていた。
『爆弾投下!』
機体下部から爆弾が切り離され、重力に従って落下する。
爆弾が地面に吸い込まれ、着弾した瞬間に爆発した。その衝撃と破片によって、近くにあった対空砲は破壊されるだろう。
『対空砲はまだいるぞ! 場所を記録しておけ! 第二波以降の攻撃で必要になる』
すると、別の機体の搭乗員から情報がもたらされる。
『数キロ先に戦車隊がいるそうです! 他に野砲もいます!』
『よーし、そいつら全部メモっておけ! ここで一網打尽にするぞ!』
こうして情報を持ち帰り、第二波攻撃の目標とする。
『戦車を中心に破壊する。対空砲に注意して爆撃せよ』
日が暮れる前に機甲師団のいる場所まで飛び、爆撃を敢行する。雑なカモフラージュをしていたのがアダとなり、機甲師団の戦車は恰好の的となった。
『爆弾の散布界を広くする。なるべく損害を大きくさせるんだ』
集中的に狙うのではなく、広く爆撃する。その効果によって、より多くの戦車を破壊することに成功した。
『明日から忙しくなるぞ。今日はたっぷり寝るんだぞ』
そういってロシア軍の爆撃隊は引き上げていく。
かくして、ここに連合国によるドイツ集中攻撃が始まるのだった。