転生一九三六~戦いたくない八人の若者たち~   作:紫 和春

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第121話 肩書

 一九三九年三月八日。大本営立川戦略研究所。

「……以上が、二日前の情報になります」

 宍戸は、軍事部部長からドイツ領ポーランドにて、帝国陸軍の欧州派遣軍を含めた連合国軍がドイツ軍との戦闘に入った旨と、大まかな戦況を聞いていた。

「ドイツの機甲師団は厄介とは思いますが、それに対応しているのがかつての仮想敵国だったソ連軍なのが救いですね」

「はい。現在は戦線が膠着状態に陥っていると見られます。今回衝突した地域は、なだらかな土地であり、攻撃を遮るものがないですからね」

「あー、なるほどねぇ……」

 この時宍戸は、あることを思い出していた。それは、日本人がヨーロッパが舞台の広大な土地を描写するとき、遠方に山を描きがちであるというものである。実際のヨーロッパは平原が多く、山と言うよりほとんど丘にしか見えない場所もあるのだ。対して日本は国土の七割以上が山で出来ている。つまり、風景のどこかには山が存在しているという潜在的認知が働くのだ。

 閑話休題。

 宍戸は少し難しい顔をする。

「今回は双方の遭遇戦のようにも見えますし、ドイツの防御戦とも見えます。もしドイツの防御戦なら、攻撃三倍の法則により連合国軍が劣勢になるでしょう。まぁ、自分のいた時代では攻撃三倍の法則はほとんど否定されていますが」

「今回は場所も悪いですからね。膠着状態は長く続くでしょう」

「ですが、近く米軍がフランス領土に陸軍と海兵隊を送り込むとのことなので、ドイツにしてみれば東西から挟まれるような形になります。これで戦力が分断され、混乱が生じればこちらに分があります」

「それならそれでありがたいんですが、結局は目の前にいる敵を倒す必要があるんですよね。そういう意味では、現在の状況はあまり良くないかもしれないなぁ……」

 そういって宍戸は、欧州派遣軍と残っている帝国陸軍の師団数を確認する。

「まだ戦力は残っているので、第二次派遣も可能でしょうけど……。現実的ではないような感じですね……」

「確かに現実的ではないですな」

 軍事部部長は断言する。

「もう一度シベリア鉄道を使って派兵するにしても、合計二十個師団もの歩兵をまかなうだけの食料、弾薬、物資……。他国から融通してもらうのもほぼ不可能。言うまでもなく無茶な状況と言えますね」

「うーん。何か良い策はないものか……」

 悩む宍戸に、林はアドバイスをする。

「宍戸所長。前線にいて、まだ戦闘を行っていない戦力はありますよ」

「そんな都合のいい部隊がいるんですか……」

 その時、宍戸に電流走る。

「あっ……、スサノオ連隊……!」

 空挺団のスサノオ連隊がいることをすっかり忘れていた。

「今はヴィリニュス空港に駐留しています。今は戦時ですので、陸軍大臣に相当する役職からの命令があれば、すぐにでも動かすことが可能です」

「確か陸軍大臣に相当する役職と言えば……」

「陸海軍統合戦略政務官、大本営幕僚長相当職である宍戸所長の出番です」

「そんなこともやり取りしてたなぁ……」

 宍戸の額には、少ないものの冷や汗が流れる。これから相当な覚悟と責任を背負って、命令を下さないといけないからだ。

「部長。部長から見て、スサノオ連隊はどこに降りるべきだと判断しますか?」

「そうですね……。前線となっている場所からドイツ国内方面に十キロメートルの場所に降下すれば、ドイツ軍の退路や補給路を断つことが出来る可能性があります。ですが、スサノオ連隊の戦力と、ドイツ軍後方にいる部隊の推定戦力には大きな差があります。出来ることなら、スサノオ連隊があと二個ほしいところです」

「ですが、不可能ではないんですよね?」

 宍戸からの言葉に、軍事部部長は一瞬黙る。

「……えぇ、スサノオ連隊の練度であれば可能かと」

 部長はそのように答える。

「では、自分はソ連に連絡を取ります。確か外務省にソ連対策室の三浦さんがいます。彼を仲介人として、ソ連軍を前進させるようにしましょう。そうすれば、いくらか戦況は良くなるはずです。どこまでうまく行くか分かりませんが」

 そういって宍戸は、少し肩をすぼめる。

「それでは宍戸所長。参謀本部にスサノオ連隊の攻撃命令を、外務省にソ連政府と接触する命令を下してください」

「分かりました」

 こうして、戦火は複雑に燃え上がる。

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