転生一九三六~戦いたくない八人の若者たち~   作:紫 和春

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第130話 オペレーション

 一九三九年三月二十五日。大本営立川戦略研究所。

 宍戸は、現在まで入ってきている戦果を聞いていた。

「……簡潔にまとめますと、東部戦線は停滞気味ではあるものの、微かに前進しつつある状態。西部戦線は第一陣の上陸部隊が上陸に成功し、戦線を再構築しているという状況です」

 研究所の軍事部部長が、そのように報告する。

「西部戦線は米英に任せるとして、東部戦線のほうは問題が発生していないようで何よりです。空挺部隊による補給線の分断が功を奏したと言えますね」

「その通りだと思います。今回は空挺作戦地点まで前線が押し進んだそうですが、今後はこの作戦も通用しなくなるでしょう」

「同じ轍は踏まないって奴ですね……。ですが、必ずどこかでボロが出るはずです。そこを狙って、次の行動に移せば大丈夫でしょう」

「ですが、そうとも限りません」

 軍事部部長が宍戸の主張をぶった切る。

「すでに少々問題が発生している内容です。まぁ、前線での砲弾やら銃弾といった火力の投射量がかなり多いのですよ。それにより弾薬が不足がちでして。戦えば戦うほど、戦うのが困難になっているのです」

「それは戦闘をしていれば当然だと思うのですが……。弾薬の補給はシベリア鉄道で行っていないのですか?」

「宍戸所長には説明していませんでしたが、輸送と一言で言いましても、様々な要因が絡まってくるのですよ。運行状況を一つ見ても、天候不良で減速運転、荷物の積み替えに手間取る、機関車の整備不良……。挙句の果てには、運転士が定刻通りに走ろうとしないこともあります。念のため、前線への補給の期日には余裕を持たせていますが、それでも期日通りに届かないことなんて間々あることなんですよ」

「そんなことが……」

 この一九三六世界に慣れたつもりの宍戸であっても、現代日本社会における時間厳守の感覚は抜けきってはいなかったようだ。

「それじゃあ、ソ連かロシアにある弾薬を融通してもらうのは……?」

「はっきり簡潔に申せば、不可能です」

「ですよね……」

 肩を落とす宍戸。

 現代のように規格が統一しているわけでもない。そもそも設計思想から材質から何もかも異なっているため、無理に使おうとすれば想定外の損害が発生する可能性がある。無茶はできないだろう。

「しかし、こうなると八方塞がりですね……。シベリア鉄道が使えないとなると、他の手段は……」

「それなら手段はありますよ」

 そう言いながら所長室に入ってきたのは、軍事部技術課の課長である。課長と役職はついているが、ここに所属している職員は彼一人である。

「まさにこれから情報が発表されるのですが、陸軍が持っている九八式輸送機と、海軍が新しく制式採用した新型機の九九式陸攻を、百機単位で用意するとの情報があるんですよ」

「そうなんですか?」

「はい。先ほど陸軍省と海軍省に確認を取ったので間違いありません」

「……まさか、大本営がやろうとしてる事って……」

「大規模な空輸作戦です」

 それを聞いた宍戸は、ポカンと口が開いてしまった。気を取り戻し、課長に話を聞く。

「しかし、そんなことが可能なんですか? 今簡単に考えつくだけで、途中の飛行場の借用の問題や、百機もの航空機の同時運用の可否とかあると思うんですが……」

「確かにその通りでしょう。まず飛行場の借用は、日ソ中立条約を理由に対独戦争に使用することが可能です。そして航空機の同時運用ですが、これは米軍が使用している輸送オペレーションと、実際にそれを経験している軍人を呼ぶことで、問題は解決します。航空機による物資輸送が成功すれば、戦線はさらに前進することでしょう」

「それでも、うまく運用出来るんでしょうか……?」

「大丈夫です。うまくいきますよ。なにより、これは米内総理直々に動いていることですから」

「米内総理が?」

 宍戸は少し驚く。宍戸の印象では、米内総理は保守的な動きをする人間だと思っていた。今回の輸送オペレーションも、この世界の常識では考えにくいことであるから、反対するのだろうと考えていたのである。

 しかし、その常識を打ちこわしに来ているというのは、一種の成長でもあるのだろう。

「総理から提案しているのであるなら……、今の日本なら大丈夫でしょう。これまでの積み重ねと経験があれば、きっと任務を遂行してくれるはずです」

 宍戸は希望を感じる。これまでの鬱蒼とした暗い未来ではなく、明るい希望が照らす未来が見えたのだ。

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