転生一九三六~戦いたくない八人の若者たち~   作:紫 和春

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第52話 攪乱

 一九三七年一月九日。

 宍戸の元に、外務省ソ連対策室の三浦が訪ねてきた。

「ソ連が内戦状態に陥りました」

「内戦……?」

 三浦から報告を聞いた宍戸は、思わず固まってしまう。

 そして宍戸は、額に手をやり天を仰ぐ。

「……このままでは、ソ連分断ですね」

「その通りだと思います」

「どうするんです? これ。もう手のつけようがないですよ」

「えぇ。取れる選択肢は二つです。静観か、介入か、です」

「見守れるものならそうしたいが、このご時世で静観は無理なんだろうなぁ……」

「ですので、必然的に介入するしか道は残されてません」

「あーもうめちゃくちゃだよ」

 宍戸は頭をかきむしる。

「ちなみに、現地にいる協力者の情報によれば、白ロシア方面では大規模な戦闘が発生しているとのことです」

 その報告を受けて、宍戸は動きを止める。

「あれ、これってドイツにとってはチャンスなんじゃ……?」

「と、いいますと?」

「ソ連が動かない、いや動けない今、ドイツはソ連に集中する必要がない。そうすれば、背後のソ連軍がいなくなるから、ポーランド侵略が容易になる。ソ連を気にしないということは、両国がぶつかることはないので、ドイツは戦力を再配置でき、フランスやイギリスとも戦争を起こしやすくなる。ドイツにとっては好都合でしかないですよ」

「確かにそうですね」

「そうなると……、イギリス、フランスあたりが面倒なことになるな。とりあえずチャットだけ飛ばしておこう」

 そういって宍戸はスマホを取り出して、イギリスのロバート・コーデンとフランスのジル・ロンダにメッセージを送る。

『ドイツの猛攻が迫るかもしれないから気を付けて』

「よし、こんなものだろう」

 近所の子供に対して言うセリフのような警告文である。

「しかし、宍戸所長。この時期にナチス・ドイツは動くんでしょうか?」

「逆に今動かないなら、いつ動くんですってくらいですよ?」

「ですが、今の欧州の環境ですと、雪にまみれてまともに動けるような状態じゃありませんよ」

「……あー」

 宍戸は状況を理解する。

 ナポレオンの時代でも、ロシアにいた冬将軍には敵わなかった。それと同じ状況が、今のヨーロッパにあるのだ。

「それは考えてなかったですね……。軍事とは難しいものだ……」

「そして、それを踏まえてヒトラーが決断するかどうかも定かではありませんし」

「本人に直接聞ければいいんだけどなぁ」

「さすがに無理じゃないですか?」

「そう思われるかもしれませんが、それを可能にできるのが転生者のいいところなんですねぇ」

 そういって再びスマホを取り出す。

「今から連絡して出るかどうか……」

 今は日本時間で十五時。ドイツとの時差は八時間なので、向こうは朝の七時だ。タイミングがよければ、ローザ・ケプファーは起きているだろう。

『シシドだ。起きてるか?』

 宍戸からメッセージを送る。

 数分もしない内に通知が入った。

『起きてるわ。何かあったの?』

『さっきソ連が内戦状態に入ったって聞いてな。ドイツの動向を確認しておきたいんだ』

『そう。でも、私の所にはほとんど情報は入ってこないの。力になれそうにないわ』

『本当に情報が入ってこないのか。とにかく、どんな些細なことでも分からないか?』

『そういえば、この間ヒトラーが面会しに来た時、フランスの侵略を計画しているって自慢げに言われたわ』

『本当か? ありがたい情報だ。他には?』

『確か、ベネルクスのほうから侵攻するとか言ってたわね』

『時期については話してなかったか?』

『早くても十月ごろだったような……』

『了解。それだけ分かれば十分だ。他の皆にも共有しておく』

 そういってチャットは途切れた。

「重要な情報が手に入りました。ヒトラーは、十月ごろにベネルクスを経由してフランスに侵略する計画を立てているそうです。すぐにフランスの転生者に伝えます」

「本当に分かったんですか?」

「当然ですよ。これの使い方は、今のところ転生者にしか分からないですから」

 そういって宍戸はスマホをしまった。

 

━━

 

「……指示通りにしたわ」

「ご苦労だった、ケプファー君」

 ところ変わってドイツのベルリン。ローズ・ケプファーは後頭部に銃口を突きつけられながら、ヒトラーの指示通りに宍戸へメッセージを送信していた。

 そう、スマホはこの時代の人間には使いこなすことはできないだろう。しかし、スマホが使える人間を代理にすれば、簡単に転生者とも連絡を取り合える。

 ヒトラーはそれを完璧に見抜いていた。

「これでフランスはベネルクスに戦力を割くだろう。そして時間的猶予もできたことで、フランス軍に隙ができる。我々はそこを叩けばいい」

 ヒトラーは、ケプファーに銃を突きつけていた兵士の肩を叩き、役目を終えたことを暗に伝える。

「未来の技術は素晴らしいな。世界中どこにいても、友人たちと連絡を取り合えるのだから。まるで夢のようだ」

「こんなことをして、タダで済むと思っているの?」

「すでに多数の犠牲を払っている。ここで止まれと言うほうがおかしいと思わんかね?」

 そういってヒトラーは、兵士に目配せをする。すると兵士は、ケプファーからスマホを取り上げた。

「本当に人の心がないのね」

「それでも人々は私を求めているのだ。そこに心など必要ない」

 ヒトラーはそのまま出口へ進む。

 その直前でヒトラーは立ち止まる。

「そうだ。一ついいことを教えてやろう。我々は夏の始めにマジノ線を攻略する。もしこの道具を使って誰かに伝えてみろ。その時は君の頭に鉛玉が直撃するだろう」

 そういってヒトラーは去っていった。

「……どうしよう」

 ケプファーは悩むものの、今の自分には何もできないことを嘆いた。

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