転生一九三六~戦いたくない八人の若者たち~   作:紫 和春

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第66話 電撃戦

 一九三七年六月二八日、ルクセンブルク付近。

 ここを前線とするべくドイツ陸軍の軍団が集結しつつあった。

 先日完成したばかりの機甲師団十個。野戦砲師団十個。自動車化歩兵師団十五個。補給などの後方支援をする部隊が五個師団。計四十個師団という大規模な軍団が前線を形勢しつつあった。

 さらに、空軍から爆撃機三千五百機ほどが参戦する。

 ヒトラーはこの軍団を第一(アイン)軍団と呼称した。

 そして、このアイン軍団を指揮するのが、ゲーデ陸軍大将である。

 ゲーデ大将は、大型トラックの荷台に作られた簡易指揮所で、各師団の現在の状況を聞いていた。

「……以上が各師団の配置です。あとは空軍の爆撃機が所定の空域に到着するだけです」

「……足りんな」

「はっ……?」

「機甲師団も、歩兵師団も、野戦砲師団も、全てが足りてない。アイン軍団と同じだけの軍団を、あと三つ用意するべきだ」

「しかし……、徴兵しても、武器がなければ何も出来ません。そしてその徴兵もなかなか数が揃わず……」

「別に苦言を呈しているわけではない。欲しいものを欲しいだけ用意できるのなら、我々のような人間は要らなくなる。足りない状態で、いかに戦果を上げるのかが我々の仕事だ」

 そういってゲーデ大将は、机に広げられた地図を指で叩く。

「我々がここに来る前に、一度攻撃をしたそうじゃないか。その時にも戦車がいたのだろう? なぜ突破できていない?」

「それは、フランス軍にも戦車がいたようで……。その猛攻に阻まれたと聞いています」

「戦車に戦車をぶつけるのは当然の話ではないか。それでおめおめと撤退するとは、ドイツ軍人の風上にも置けないな」

 ゲーデ大将は懐から懐中時計を取り出し、時計の針を見る。

「そろそろ時間だ。全軍、進軍せよ」

 現地時間午前四時ごろ。太陽が顔を出し、朝日を照らし出す時間だ。

 その朝日に照らされて、ドイツ陸軍の機甲師団が前進を開始した。Ⅰ号戦車、Ⅱ号戦車、改良型Ⅱ号戦車が進む。

 彼らが進む先には、フランス軍の防衛線が存在する。しかしドイツ軍は、そんなものなど最初からなかったと言わんばかりに進む。

 やがてフランス軍の戦車部隊とぶつかるだろう。その時、少し後ろを進む師団長が爆撃隊に連絡を入れる。

「爆撃ポイント、HVV-141。至急送れ」

 十数分もしないうちに、上空からレシプロ機特有のエンジン音が聞こえてくるだろう。やってきたのはスツーカだ。ジェリコのラッパと呼ばれるサイレンを鳴らし、フランス戦車に襲い掛かる。

 スツーカの急降下爆撃によって、フランス戦車は甚大な被害を被る。そこにドイツ戦車が襲い掛かることで、フランス軍の戦線は崩壊していくだろう。

 改良型Ⅱ号戦車は、砲身を短砲身アハトアハトに換装、攻撃力強化を図った車輛である。強力な破壊力を持つアハトアハトを装備していることで、フランス戦車はまるでバターのように装甲を抜かれるだろう。

 こうして機甲師団が突破した前線の穴を、その後ろからやってくる自動車化歩兵が補強する。歩兵が周辺を制圧することで、機甲師団は周辺を気にすることなく前進できる。

 これがドイツの戦術、電撃戦だ。

 しかし、フランス陸軍も負けているだけでは収まらない。負けじと反撃の野戦砲を向けるだろう。しかしそれも、ドイツ戦車から偵察されている。すぐに後方にいる砲兵に連絡し、フランス軍の野戦砲に向けて砲撃を行う。精密な射撃によって、フランス軍の野戦砲は大ダメージを受け、その上で戦車からの歩兵という波状攻撃を受ける。

 この徹底的な攻撃が、フランス軍に致命的なダメージを与えていく。

 フランス陸軍の兵士は、後方にいる指揮所に対して援軍や反撃を行うように指示を乞う。しかし、保守的な考えを持つフランス軍の将校たちだったため、一旦引いて態勢を立て直すことを優先した。

 そこにドイツ軍の突破力が加わることで、ドイツ陸軍はどんどん前線をフランス側に押しやる。わずか数日で前線を数十キロメートルも進めることに成功した。

 依然ドイツ陸軍は止まらない。

 

━━

 

「……以上が、フランスからの報告です」

 六月末に、そのような報告を受ける宍戸。

「やはりそうですか……」

 ドイツがフランスとポーランドに宣戦布告した時点で、十分にあり得る歴史の一ページが刻まれたのを、宍戸は感じていた。

「ついに始まってしまいました……。人類史最悪の戦争、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線が」

 宍戸は席から立ち上がり、窓のそばに行く。

「ここから、全く予想のつかない歴史が始まります」

「我が帝国は大丈夫なのでしょうか?」

 林が宍戸に尋ねる。

「それは、後世の人たちが判断することです。今は、今の考えうる最善の行動をとりましょう」

 そんな緊張感をよそに、梅雨の間の晴れた風が吹き抜けていく。

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