転生一九三六~戦いたくない八人の若者たち~   作:紫 和春

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第70話 鈍化

 一九三七年七月十三日。新生ロシア帝国、ウラジオストク。

 仮の王宮であるアパートの一階にある部屋。そこを仮の皇帝執務室として利用していた。

 その執務室で、アレクセイ一世は現在の新生ロシア帝国の現状を聞いていた。

「簡単にまとめますと、軍事的な人員は五十万人ほどいますが、彼らを支えるだけの財源はありません。現状は食料や水などの物品で経済が回っている状況です」

「なるほど……。そこにソ連との戦闘が行われているから、実質無給で兵士たちは働ていることになるのか」

「はい。今から新しい貨幣を製造するにしても、ソ連ルーブルにして約二億ルーブルほどの予算が必要になるかと」

 二〇二〇年現在のレートでおよそ二五〇億円ほどだ。

「そんな予算、どこから持ってくるんだ……」

 成り行きで建国したが故の弊害が、ここにあるだろう。

「幸いにも、レニングラードに造幣企業があります。しばらくはここで新しい貨幣を製造してもらうことにしましょう」

「だが、それでも貨幣として信用してもらえるか分からないのでは?」

「もちろんです。なので新生ロシア帝国領の銀行が保有している硬貨を合金として捉え、これらを担保にすることで資金を得ます」

「うぅむ。ここはやむなしか……」

「その他、兵器の製造も難しい側面もあります。現状はソ連が二分されたようなものですから、兵器の製造や整備が追いつかない所もあります」

「これもやむなしかぁ。でも、ソ連と同じ規格を使い続けるなら、しばらくは鹵獲品をそのまま流用できるかもしれないな」

「はい。しばらくは問題ないかと思いますが、それでもソ連が新しい兵器を製造し出した時が問題です」

「そうか、そういうこともあるのか……。ソ連が新兵器を出してきたときが、我々の敗北が近づくときか……」

「そうとも言えます」

「我が国も新兵器を設計できるのならいいんだが……」

「しばらくは混乱が続きますから、難しいでしょう」

 そういって事務作業を終えると、アレクセイ一世は寝室に戻る。

「はぁ、疲れた……」

 ちょうどその時、スマホの通知音が鳴る。

 宍戸からのチャットである。

『お疲れ、皇帝様。調子はどうだ?』

『最近は国内の現状を聞いて、結構ギリギリな運営をしているんだなって思ったよ』

『確かに大変そうだな。ところで一つ速報があるんだが』

『速報?』

『さっき日本の首相が新生ロシア帝国のことを、国家承認することを決めたよ』

『本当?』

『あぁ。それに、同盟を結ぶことも検討しているようだ』

『それはありがたい。ソ連に対抗する手段が欲しかったところなんだ』

『それはこっちの内閣でも議論が上がっていたようでね。実際ソ連とは対立状態にあるから、新生ロシア帝国の軍人からソ連の戦い方を教えてもらうことも考えているそうだ』

『それはアリだな』

『そんなわけで、しばらくすればウラジオストクに日本領事館ができるはずだ。その時は受け入れをよろしく頼む』

『了解。後は何かあるか?』

『そうだな……。ソ連との戦闘の様子はどうだ?』

『情報としてはほとんど入ってきてないが、膠着状態にあるらしい。何しろ、東領土と西領土で領地が分断されてしまっているからね。なかなか情報が届きにくいんだ』

『それもそうだな。二〇二〇年代のように、スマホで簡単に情報が届くような時代じゃないし、その辺は少し考えようだな』

『とにかく、戦闘に関しては大きな攻勢は起こってないと認識しているよ』

『了解。どうもドイツのフランス侵攻も鈍化しているらしいし、しばらくは戦闘が起きにくい時期に突入したのかもしれないな』

『まやかし戦争かぁ。そもそも戦争を始めた時期が悪かったのかもしれないし、その辺は軍備によるとしかいいようがないよな』

『そうだな。こっちは、今のうちにアメリカとの戦争に対抗できるように軍拡を進めることにするよ』

『分かった』

 こうして会話は終了した。

「僕も頑張らなくちゃな……」

 そういって、新生ロシア帝国各所に送る指示命令書を片づけだすのだった。

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