一九三八年三月二十五日。
この日、日米首脳陣が三度集まり、第三回日米対話が行われていた。
『我が帝国は、そちらの要求に応えた。朝鮮半島にいる軍も数少ない。どうにか制裁を緩和してくれないだろうか』
『我々の要求は、大陸からの完全撤退だ。朝鮮半島も例外ではない。それが達成できなければ、制裁は解除できない』
結局、今回も話は平行線をたどり、日本側が無理矢理対話を切り上げることとなった。
「ルーズベルト大統領の頑固さは、異常を超えて称賛に値するな」
対話を終え、片付けを行っている宍戸に向かって話す米内総理。
「ホントですね。妥協点を知らないレベルの強情さですよ」
文句が出てもおかしくないほど、話はすれ違っていた。それだけルーズベルト大統領は、日本に対して良いイメージがないのだろう。
それから数日ほど経った時である。
米内総理から、大本営経由で呼び出された。
「何かあったんですか?」
首相官邸執務室に入るのと同時に、宍戸は米内総理に聞く。
すると、ある人が執務室にいた。在日アメリカ大使のジョセフ・グルーだ。
彼を見た宍戸は、ある程度察する。
「アメリカがまた無茶を言ってきたんですか……?」
「まぁ、そんなところだ」
そう言って米内総理は、とある紙を宍戸に渡す。それを受け取った宍戸は、紙に書かれた内容を読もうとしたが、筆記体の英語と草書体の日本語で書かれており全く読めない。
そんな宍戸の気持ちを汲み取ったのかは定かではないが、米内総理が内容を話す。
「昨晩、米国から通告があった。内容としては、大陸及び朝鮮半島に残留している帝国陸軍を撤退させることを要求する。それができなければ最後通謀を突きつける、とある」
「それは……かなり無茶なことを言いますね……」
「これが最後通謀でないだけマシだ。さて、どうしたものかな……」
米内総理は、ため息をつきながら言う。
「うーん……。大陸に陸軍を配置するのは、中華民国とソ連からの脅威に備えるためでしたよね? ソ連領土は新生ロシア帝国領になってますし、ソ連の脅威は去ったわけでしょう? 中華民国とは直接国境が接していないですし。となれば、大陸から撤退するのはいつでも出来ますよね?」
「そうだな」
「問題は残された朝鮮半島ですけど、この地域に合った……、というか李王家を朝鮮半島に呼び戻して朝鮮王国でも建国すれば、万事解決では?」
宍戸はひらめく。
「そうだな」
「え? 考えてたんですか?」
「当たり前だろう。しかしここまで来ると、いっそのこと独立させるのも一つの手だな……」
米内総理はそう呟く。
「地政学的にも有利ですし、何より連合諸国の要求を満たしている。これはやるべきですよ」
宍戸は米内総理を説得しようとする。
「しかしだな……。実際に建国しようとすると、何かと面倒や問題が起きるのが世の常だ。満州で痛い目を見たじゃないか」
「そ、それは……」
宍戸はちょっとタジタジになる。
「……いや、他に方法はないか」
米内総理は決断する。
「朝鮮王国を建国しよう。そのためにも、陸軍には朝鮮半島にいてもらうことにする」
「ワタシ個人としても、建国には賛成デス。これが出来れば、大統領も納得スルでしょう」
グルー大使も賛同する。
「もしこれで建国が成功すれば、イギリス、フランス、オランダに対して、植民地解放の動機付けにもなりますね」
「それで三ヶ国が納得してくれればいいんだがな」
宍戸の企みに、米内総理が心配する。
(しかし、やらなきゃいけないことが増えてきたな……。そろそろキャパオーバーになりそうだぞ……)
実際に建国するとして、そこに宍戸が関わってくるのは自明だ。そこに対して宍戸は、ちょっとだけ不安を感じるのだった。