カヨコ「拾って下さい……か」   作:千点数

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遅くなり申し訳ない。


カヨコ「おはよう、よく眠れた?」

 朝日のまぶしい光が、瞼越しにフウの目を焼いた。

 

 うめき声と共に、目を覚ます。

 

 遮光カーテンは開かれていて、防弾ガラスの窓が開いており、合金製の網戸から朝の涼しい風が入ってきている。

 ベッドの側から見えるのは、青空と、空に浮かぶ巨大な光輪(ヘイロー)

 

「……きれい」

 

 フウは、元居た「地球」という場所では、名前の通り日本の生まれだ。

 しかし、そこで目にするのは、打ちっ放しのコンクリートと、狭い空、地上の光で打ち消された星明り程度のものだ。

 

 キヴォトスは、広大故に人の手が入りきらない場所が多々存在する。

 故に、開発されず、あるいは再開発計画がとん挫して自然に還る土地があり、自然の原風景が、学区の郊外ともなれば残っているか復活している場所が多い。

 

 彼は、その見たこともない空気に、雰囲気に、風景に思わず感動した。

 

 風が空をないでいる音なのか、さらさらというか、ひゅうひゅうというか。そんな、擬音としてどう言い表せばいいかわからない青い空と風と、無限と形容して差し支えないほどに広がった、風に揺れる緑の草木。

 

 朝焼けのオレンジ色がアクセントになって、一種の芸術作品のようにも見える光景に、フウは心を打たれていた。

 

「おはよう、よく眠れた?」

 

 そのとき、近くからカヨコの声がした。

 見ると、フウの真横に、まるでほほえましいものを見た時のような、優しい表情をしているカヨコがいる。

 

「……うん、おはよう。お姉ちゃん」

 

 先ほどまでの言動を客観視して、フウは羞恥心を感じる。

 どうにも気恥ずかしい。カヨコの前で、ただ景色に目を輝かせていたことが、何故だかどうしても耐えがたいほどにフウにとっては恥ずかしいのだ。

 

 気を抜いているところを見られたからだろうか。今更な気もするが。

 顔をそらし、羞恥か、それとも朝のひんやりとした風を浴びたからか、真っ赤になっている頬と耳を隠す。

 

 しかし、そんな様子すらカヨコにとっては可愛いとしか感じないらしい。

 ますます表情に優しさというか、最早母性と言って差し支えない感情の色が浮かび、フウのことを抱きしめてその頭をさす、さす、と優しくなでる。

 

「うぅ……」

 

 もはや子供というか、これでは幼児扱いだ。

 10近く年の離れた兄弟というのは皆このようなものだろうか。

 

 とにかく、朝のひんやりとした空気の中、カヨコのぬくもりに包まれて、記憶にある限り初めての、フウの朝が始まった。

 

 なーお、と、可愛らしい鳴き声が響く。

 

 どうやら子猫も起きたようだ。

 

 *

 

 カヨコが警戒する中、外に出た。

 簡単な話、洗濯のためだ。

 

 水道はあっても、カヨコたちが拠点にしている廃校には洗濯機と呼べるものが無かった。

 よって、金盥による足踏み洗いである。

 

「んしょ、んしょ」

「そうそう、じょうずじょうず~」

 

 フウはムツキと一緒に金盥に入って、ズボンの足先をまくって水が付かないようにした状態でふみ、ふみと洗濯物を踏みつけて洗っていく。

 

「……なぜ私が……」

「うぅ、つめたい」

 

 ゲヘナ行政官のアコ、ゲヘナ風紀委員の突撃スナイパー少女のイオリも、ソックスや靴を脱いでふみ洗いをしている。

 そう、今、この場にはゲヘナの風紀委員も一緒である。カヨコと一緒に、数人風紀委員の制服の少女たちが拠点の周囲を警戒している。

 何故かと言えば、先生の仕業だ。

 

「先生の報告で聞いていたけど、本当にヘイローが無い」

 

 小さな足で、便利屋の拠点のカーテンをふみ洗いして汚れを落としながら、ゲヘナ最強の風紀委員長であるヒナは、フウの方を見やる。

 フウは、滑って転ばないようにとムツキに両腕を掴まれながら、金盥の中のシーツを踏みつけて洗濯している。

 

「本当に便利屋が保護を?」

「うん、そうだよ。今はカヨコが面倒を見ているんだ。今日はその顔合わせと、便利屋の子たちについて相談があって呼んだんだ……まさか、洗濯を手伝うことになるとは思わなかったけれど」

 

 先生も、スラックスの裾を上げて遮光カーテンを洗っている。

 

 まだ明け方の、涼しい風が吹く青空に洗剤の泡がシャボン玉のように飛んで光る。

 実に平和な洗濯の風景だが、便利屋とゲヘナ学園の風紀委員会は敵対関係だ。

 

 ではなぜ仲良く洗濯をしているか。

 まず、ヘイローが無い子供と、同じくヘイローが無い先生がいること。

 そして、風紀委員会に、便利屋が子供を保護したと聞かされた際に、ゲヘナ学区のパトロールついでに見に行こうという話になったさいに、先生から「フウが銃を怖がるかもしれない」という話をして、今はフウが見えないところに武器を全て隠したから、戦闘が発生する確率がぐんと下がった。

 

 最終的には、風紀委員会が幹部や有力な委員を含めた大人数でやって来たことに大混乱した便利屋社長のアルが、「暇なら洗濯を手伝いなさい!!」と、明らかに暇ではない風紀委員会に提案した結果、現状の結果になっている。

 

 最初こそゲヘナ行政官のアコが断ろうとしていたが、明らかに多い洗濯の量に絶望していたフウが「手伝ってくれるの……!!」と、太陽のように輝かんばかりの笑顔で出迎えたため断り切れなくなってしまったのだ。

 

 アコはぐぬぬとした顔で了承、ヒナも、便利屋に対する敵意を、自分より年下の、それもまだ小学生の子供の前では解いており、今では敵どうしの組織が青空の元で平和な洗濯の時間を過ごしている。

 

 ここにいないアルとハルカだが……ハルカが風紀委員に相対した瞬間、フウに防弾武装をこれでもかと括り付けたうえでショットガンを構えそうになっていたため、アルが必死に宥めて一緒にお買い物に出かけたのだ。

 

「便利屋のこと……つまり、あの子供が便利屋にいる間は、便利屋へ危害を加えないように……ってこと?」

 

 さて、話を戻そう。

 ヒナが先生に質問をする。

 先生は最初から、それが目的であったかのように「そうだね」と言った後、続ける。

 

「フウ君は今、カヨコにだけ心の底から懐いている。信頼を寄せているんだ。彼にとって、カヨコがこの世界で初めて会った頼りになる人……つまりは、自分のヒーローなんだよ」

「そう。初めに言っておくと、彼女たちの校則違反については擁護できないし、その取り締まりには一切手を抜けないわ」

 

 先生に対して、ヒナは告げた。

 当たり前である。校則違反者に情け容赦をかける風紀委員がいてはならない。

 やはり、別の方法を考えるべきか。

 元々ダメもとで声をかけた先生が「そっか、そうだよね」と言いそうになった瞬間。

 

「……でも、そうね。暫くは今までの素行に対する厳重注意と反省文で済ませてあげるわ。いま、風紀委員は万魔殿の狸どもに弾薬費を減らされて無駄遣いをしている場合じゃないもの」

「そっか。ありがとう、ヒナ」

「別に、校則違反の常習犯でも、子供の保護という社会貢献活動に協力している間は厳重に取り締まる理由が無い。本当に弾薬の無駄だからやらないだけ」

 

 白々しく告げるヒナに、それでも、と先生はお礼を言った。

 

「そこまで言うなら、お礼は受け取る。……それに、今の彼女たちは……少し、あのフウって男の子の存在で大人っぽくなった気がするから」

 

 外部を警戒しながら、時折フウを気に掛ける時のカヨコの表情を、

 

 フウを世話するムツキの無邪気で、それでいて彼のことを本気で可愛がっているのだろう仕草を、

 

 風紀委員が大挙して押し寄せた際に、いの一番にフウの近くに駆け寄り、自らを盾にするかのようにフウを防弾武装で包み込みながら抱きしめたハルカの行動を、

 

 そして……暴走しがちなハルカを、いつもとは違って()()()()()()()宥め、風紀委員がやって来た際も矢面に立って「洗濯を手伝え」と大胆不敵に言い放った、アルの成長したカリスマっぽい雰囲気を。

 

 すこし、羨ましそうに思い起こしながらヒナは告げる。

 

「彼女たちの、責任感っていうのか、たぶんそう言うものが、彼によって成長しているんだと、そう信じたいの」

 

 別に、自由放免というわけではない。

 彼女たちはいまでも、企業の設立という校則違反を犯した不良生徒たちだ。

 風紀委員が目を離すなんて、そんなことはありえない。

 

 ただ。

 

 ゲヘナの掲げる、「自由と混沌」。それを「無責任な破壊活動をしてもいい」と読み替えないでいるうちは、見て見ぬふりをしてやってもいい。

 

 アコがフウに絡みに行って、「横乳を出した変態」扱いされている様子を見ながら、ゲヘナ最強の少女は、彼女たちを見守る決心を固めていたのだった。




みんなも、おねショタ、おねロリのブルアカ二次創作を作ろう。

供給が需要に対して足りない可能性があるぜ!!
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