グリフィン・ドールハウス(勇気の人形館)   作:チキン

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「XXXX年 ドールハウスの来客つまりあなた」

 

 あら久しぶりのお客さん。ようこそ魔法のドールハウスへ。

 あなたとても素敵なお顔ね。美形を選んで招待しているから当然だけれど。

 どこから声が、なんて見回さなくて構いません。私はこの館そのものです。

 ちょっと駄目駄目、怯えて逃げ出そうとしないで。せっかく来たのに。呪いの館だなんて、失礼ですよ。

 ここはただのドールハウスです。美しい人形たちをどうぞご覧になって。

 

 そうそう、それで良いの、館をじっくり見てほしいのです。ここが応接室。マグルの若い娘の人形がたくさんいるの。色んな肌の色、髪の色、目の色――みんな本当に別嬪さんでしょう?ねえ、この()の、お茶をおいしそうに飲む手つきといったら! 

 ……え、マグルを知らない?そうね、あなたマグルでしたね。「マグル」というのは魔法と縁のない人のことです。といっても、全くお気になさらなくて良いですよ。このお屋敷では、マグルも魔法使いも皆を平等に扱います。ほら、この子とこの子は魔女だけれど、マグルの娘と違いなんてわからないでしょう?

 隣のそちらは少年が遊びまわる部屋。もちろん「遊びまわる」というのは言葉の(あや)で、魔法界の人形と違って、ぎこちなく不細工に動くことはありません。至上の美とは、至上の瞬間を切り取って時間を永遠に凍らせることで生まれますもの。

 こちらは中年女性のお(しゃべ)りするお部屋。若い娘の人形ばかりをそろえるのは私の趣味ではないの。男どもや子に煩わされない年頃の女性の伸びやかな美しさ、あなたはもう分かりまして?

 その隣は老人がうたた寝する部屋――って、走らないでくださいまし。ゆっくり見て行ってというのに!  

 

 きょろきょろして、何をお探しですか?

 厨房(ちゅうぼう)でしたら、その角を右手に曲がってください。ここの料理を食べたければご自由にどうぞ。でも夕餉(ゆうげ)にはまだ早いと思いますよ、あなたはまだ、(ろう)はお口に合わないでしょう?

 もちろん肉やパンはありませんよ。だって、人形は肉やパンでできていませんもの。ここは、ドールハウスです。

 

 ――。

 

 この屋敷がどんなところかだなんて。最初から言っていますわ、ここは、魔法のドールハウスです。

 

 あなた、お人形遊びはお好きでなくて?私は大好き。素敵な人形たちに囲まれて、人形たちのお世話をして、人形たちに素敵なお召し物を用意して、人形たちをお喋りさせて遊ばせるの。人形は、いつでもいつまでも美しい。誰かを傷つけたりも傷ついたりもしない。 

 

 だから人形に囲まれたお屋敷を作ろうと決めたの。綺麗なお屋敷を作って、綺麗な人形を沢山集めて、人形をずっと愛でるんだ、って。

 

 そして私は夢を叶えました!()()()は四人がかりで()()()()()の城を建てたけど、私は一人きりでこの素敵なお屋敷をこしらえたの!

  

 ……もう帰りたい?あなたはまだ、この屋敷のほんの少ししか、見ていないじゃないですか。お二階を見ていってくださいな。

 それに、出口なんてありませんよ。そこの玄関を開けても外には出られませんよ、ちょっと、人の話を聞いてくださいな。

 

 ――。

 

 ほら。お帰りなさいませ。

 玄関の扉を開けて、森に出たはずなのに、ですか。ああ、そんなこと言ってないなんて、驚いた顔をなさらないで。口に出さなくても、あなたの心の声は聞こえますので。

 あなたがさっき扉を開けて出た森は、お屋敷の中庭です。つまり、お屋敷の中庭にお屋敷があって、その中庭にお屋敷があって……という具合に、どこまでも入れ子になっているの。本当にすごい魔法でしょう?

  

 失礼、魔法の区別なんてマグルのあなたに言っても分かりませんよね、これは魔法の中でもいっとう難しい上等な魔法なのです。なるべく多くの人形たちになるべく広々と暮らしてもらいたいですもの、頑張りましたわ。

 

 あなたにも、心地よいお部屋をご用意しますから、ご安心くださいな。お気に入りの部屋はありましたか?――はい、もちろん、あなたにもぜひ、このお屋敷で暮らしてもらいたくて、こうして招待しましたの。林の小道で、小さな可愛い人形に会ったでしょう。世界中に、ああして案内の人形を置いています。

 

 やっと気付いていただけましたか。ここの人形たちは、皆さん、もとは人間でした。百年もすれば(みにく)く朽ち果てる、哀れな人間。いまは人形として、永遠に美しく幸せに暮らしています。すごいでしょう。マグルの人形と違って、この人形たちは、百年でも千年でも、綺麗なまま。

 

 帰してくれと言われても。困りましたね。このお屋敷においでくださる方は、皆さん喜んで人形になるのに。たまにあなたのような、人間の姿に未練のある方を招待してしまいますね。

 でもあなた、死ぬのが怖くないんですか。死ぬのが怖いなら、人形になりましょうよ。

 

 ……そんなに、どうしても帰りたいのですか。そうですか。でも、もうあなたは人形になりつつありますよ。ご自身の右手をご覧になってください。綺麗な蝋でしょう?じきに、あなたも完全な人形になれます。

 

 ……ああ、ごめんなさい、怖がらせちゃいましたね。絶望はしちゃだめ。勇気を出してほしいの。

 

 そう、勇気。

 

 嫌がるあなたを人形にするなんて、卑怯ですものね。

 

 あなたはここから出て行きたい、私はあなたをここに迎えたい、そんなときは勝負です。お互い納得するように勝負しましょう。

 あなたが人形になれば、私の勝ち。あなたがこのお屋敷を出られれば、私の負け。今のあなたはまだ、お屋敷に出れば、人間に戻れます。

 

 ええ、あそこの玄関は出口ではありませんが、じつは出口をきちんと用意してあります。それに、私の魔法も完璧でないですから、どこかとんでもないところに、抜け道が隠れているかもしれません。

 

 つまり私と、勇気くらべ、知恵くらべ、根気くらべです。あなたが私に勝てば、ここを出て構いません。

 

 ふふ。勇気が湧いてきかしら。

 

 まずは、そこの傘を持って開いて、あの穴から飛び降りてください。お屋敷の四階に行けますわ。

 あ、傘を持たずに落ちて勝手に死ぬのはやめてくださいね。不細工に腐ったあなたの掃除をするのは嫌ですもの。

 ……その調子。良いですわ、私、勇気のある人は好きですの。

 

――。

 

 この部屋は、天井がだんだん下がってきます。戸棚の羊皮紙の謎を解いてくださいな。

 

――。

 

 そこの箱は、砂時計の砂が落ち切ると、爆発します。赤色の線と青色の線、どちらかを切れば止まります。勇気を出して、どちらかを切ってください。

 ……おめでとう、赤は正解ですわ! ちなみに青も正解でした。

 

――。

 

 そこの廊下の穴は、本当の穴です。勇気を出して飛び越えてください!

 

――。

 

 あなたは仕掛けを押してしまいました。そこの廊下から鉄球が転がってきますわ。ほら勇気を出して! 走って!

 

――。

 

 お屋敷の七階は暗い迷路になっています。勇気を出して進んでください。

 

――。 

 

 もう、頃合いかしら。諦めてしまったみたいですね。

 (ずる)さくらべでも初めからあなたの負けです。この屋敷から出る方法なんてありません。あなたにはぜひ、このドールハウスに来てほしいもの。

 

 最期ですから、このお屋敷について、もう少し話しましょうか。

 

 人形を新しく仕立てるのも、このお屋敷の時を凍らせるのも、相応の()(くさ)が要るのです。 

 マグルは(まき)をくべて暖を取るでしょう? 魔法も万能ではなくて、薪が無いといけません。

 だから私は、お客様の「勇気」を薪にすることにしました。

 恐怖、困難、危険に正面から立ち向かうときの、心で燃え上がる「勇気」のすさまじさといったら!

 

 あなたが人形になりたくないと勇気を絞れば絞るほど、あなたは人形に変わってゆくというわけです。効率的な仕組みでしょう。薪がいくらでもあるなんて思っていそうなあの青色女では考えつかない。

 

 ついでに、他のお人形を美しく保つ魔法、お屋敷を修繕する魔法も、あなたの勇気から取り出しています。

 あなたはなかなか勇気を奮ってくれましたから、ずいぶんとお手入れが進みました。心から感謝します。

 

――。

 

 なんでこんな方法を取っているかなんて、それはもちろん、()()()の、()()()()への仕返しです。

 

 あいつは、ゴドリックは!

 いつまでもお人形遊びするな、だなんて!

 勇敢になれ、だなんて!

 本当に許せない!

 

 あいつは、いつだって世界と戦うのに忙しくて!

 しまいには、あの頭でっかちの女に、別に美人になんて生まれたくなかったですみたいに澄ましてるいけすかない青色女にほだされて!馬鹿みたいな城に立てこもって!

 

 ゴドリックは!!

 なんで私の!私だけの英雄に!なってくれないの! 

 ずっと村にいてくれれば!村のみんなは!私は!

 

 それに、あいつの取り巻き!舎弟!私を、弱虫だとか醜いとか化け物とかさんざん罵ったあいつら!

 何が「勇気」だ、騎士道だ!自分勝手な正義を振りかざして「敵」を燃やして「仲間」と馴れ合う、野蛮な奴ら!

 

 だから私は、「勇気」を薪にするドールハウスを作りました。

 いつかあいつとその舎弟がやって来たら、美しいお人形に仕立ててから、思い切り(わら)ってあげるの。あなた達が大切にしていた「勇気」のおかげで、あなた達は私と同じお人形になるんだよ、って。

 

 そして思い切り抱きしめてあげるの。ずっとずっと一緒ですよって。ずっと楽しく暮らしましょうって。ずっと綺麗なままで、老いることも病むこと死ぬことももなく、お人形遊びするの。

 

 何て言いまして? あなたの声がもうよく聞き取れません。――ああ、もう立派に人形になれたのね。じゃあ、まどろっこしい音声を使う必要は無いですね。

 

 それでは改めて、ドールハウスへようこそ。

 ここは「私」の中。他の人形達の「声」が聞こえますか?あなたの心も皆の心も、「私」と一緒に溶け合ってるの。そこに立っているあなたの素敵な人形が見えますか?あなたは、あなたの人形だけでなく、他のすべての人形も愛でられます。 「私」の人形だけは、いちばん地下に眠らせていますけれど。美しい皆さんを見れるだけで、満足ですの。

 

 

 もう勇気なんて要りません。いつまでも楽しく遊びましょう。

 

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