グリフィン・ドールハウス(勇気の人形館)   作:チキン

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「1899年 英雄と革命家」「1942年 蛇の継承者」

1899年 英雄と革命家

 

 あら、なんて美青年二人。

 ひょっとして恋人かしら。良いですわね。とても眩しい。

 ええ、どうぞ、ご自由に中をご覧になって。とても綺麗な人形たちでしょう?

 

 ほら、ちょうどこの青年たちの人形、すこしあなた達に面影が似ていません? どこだったかしら、遠い大陸の漁師ね。で、隣の娘の人形、彼女は魔女で、村にいられなくなってしまって――。

 

 ……話を遮ってなんですの? あなた、闇の魔術に関心があるの? ええと、そんなおっかないもの、私は詳しくないわ。私は人形を仕立てることしかできませんもの。 

 そこのあなたは、つまらなそうね。聞こえてるかしら? ほら、この青年、きれいでしょう?

 

 ――ええ。お気づきの通り、招待した皆さんを人形にしているの。こんなに察しが速いなんて、賢いひとは好きですよ。

 

 あなた達には是非、この屋敷の一員になってほしっ――。

 

 ……ちょっと、いきなり屋敷を燃やそうとするなんて、驚きましたわ。とても熱いですね。

 おまけにとても綺麗な炎。赤と金、ゴドリックみたい。

 

 へえ、やっぱり、あなた、あいつの舎弟なのね。あなたがここにいれば、もしかしてゴドリックはここに助けに来てくれるのでしょうか? ふふ、とっくに死んでるなんて嘘は通じませんよ。だってついこの間も元気だったじゃない。

 

 それにしても美しい魔法ですね。こんな魔法を使う人は、あいつ以外に見たことがありません。

 

 でも、残念。この屋敷は当然、あいつの炎に耐えられるように特別に上等な護りを施していますわ。勇気をくべる魔法は、このお屋敷は吸い上げてしまいますもの。 

 

 今度はあなた? これは「悪霊の火」ですか? それも無駄――いや、人形に――? やめなさい! やめて! やめろ! あなた、人形を壊そうとするなんて、この、人でなしっ!! 心が無いのですかっ!!

 

 ――よかった、あなた、そのままその野蛮人を押さえて止めておいてください!杖も奪ってしまいなさい!あなたからも彼に言ってやってくださいな!

 え、何?質問?

 そうですよ、これは元は人間ですけど、そんなことより、こんな綺麗な人形を傷つけるなんて!

 え、まだ何か?人形を人間に戻す方法?知りませんわ。人形を人間に仕立て直すなんて、杖を枝に戻すような、象牙を象に戻すような無謀でないかしら。せっかくの象牙をわざわざ象に変えたいとも思いませんけれど。

 

 もう人形は生きていないのか?そんなことはありません。人形達の「心」はみんな「私」の中で溶け合っていますよ。痛みも苦しみも、人形の「体」とは無縁です。たとえ体が壊れても、失われることはありません。

 

 …………いや、何で彼を放すんですの!あなたも一緒になって人形を燃やそうとしないで!止めておいてと言っているのに!出て行きなさい!!ほら、出てけ!!

 

 

 ――。

 

 ……はあ。人形が燃えなくて良かったです。人形達にもっと上等な防護をかけた方が良いかしら。そんな勇気はとてもまかなえないですわ。

 

 ……まあ、あんなに馬鹿みたいな火力を持つ魔法使い達は、そうそう来ないでしょう。ゴドリックであれば、人形を燃やすとも思えませんし。

 

 

 


 

1942年 蛇の継承者

 

 

 ……いらっしゃい。私、美青年を見慣れていたつもりですけれど、あなたは、信じられないほど、美しいですね。

 

 ああ、言われ慣れているといった表情。素敵ですわ。

 ……お世辞は辞めてください。私なんて、とてもあなたの前に姿を現せません、お恥ずかしいですわ。

 

 っていうかそれよりあなた、サラザールの縁者ですの!?

 あ、睨むのは辞めてくださいな。「閉心術」も「開心術」も、このドールハウスには関係ないですよ。ここは「私」そのものです。あなたの顔が自然と目に入るように、あなたの心も自然と目に入るのです。 

 いや、末裔って、ご冗談でしょう、あなたサラザールが今いくつだと思っているの。せいぜいお孫さんでしょう。

 

 サラザールですか?

 私はあの男をほとんど知りませんわ。二度三度、会ったきり。手持ちの術を、いくつか私に授けてくれました。

 

 でも、とても恐ろしい男でした。お孫さんの前で言うのもですが、なんで()()()はあの男と仲良くしてたのかしら。

 

 ええ、そうですよ、私はあなたを人形に迎えたいと思ってました。が、私も馬鹿ではありませんわ。こないだも人形を燃やされかけましたもの。あなたも人形を燃やしてきそうですものね。いつでも出て行って構いません。

 

 訊きたいこと?

 

 ホー、ク、ラックス? ホークラックス? 何ですか、それ?私はそんなんじゃないですよ、私はただの、ドールハウスですよ?

 生贄(いけにえ)を捧げて自分の「魂」を割く魔法?……そんないかにも黴臭(かびくさ)いおぞましい術なんて知りませんよ。失礼ですわ。

 このドールハウスに生贄なんて――あ、強いていえば、お屋敷を建てるとき、人間の私を薪としてくべましたが。

 

 ……そんな驚いて、どうしたんです?まったく意味無くなんてないですよ! 何を言っているんです! だって「私」はずっと人形でいられるんですから!人形作りだって、とってもうまくなりました!

 

 なんだ、あなた、ずっと生きたいんですか。じゃあ、一緒にここで人形になりましょうよ! 皆たのしく暮らしてますよ! ホークラックスで自分の魂を八つ裂きにしても、何も意味ありません。

  

 力?支配?うーん、そんなの、何になります?穏やかにのんびり過ごすのが一番ですよ。ここは平和で楽しいことしかありませんよ。

 たしかにこのお屋敷からは離れられません。でも、結局人間は皆、どこかに縛られるさだめでしょう?島か、大陸か、星か、はたまた(そら)か。

 そして、このドールハウスは少なくとも、外の大地よりは広いのです。限りなく広がるからです。冒険探検だってし放題!

 

 ……そうですか。やはりお互い考えが合わないようですね。では、残念ですが、さようなら。人形になりたかったら、いつでもどうぞ。

 ……って、また悪霊の火ですか! 人形に向けるなんて! 無礼な! 出ていきなさい! 出てけ!

 

 ――。

 

 ふんっ。非常口の手入れをしていて良かったですわ。まったく、なんて礼儀知らず。べらべら喋るだけ喋って口封じしようとするなんて。親の顔が見てみたいものですわ。ああ、サラザールか。血は争えないですね。

 

 やはり、「悪霊の火」で人形が燃えないように手を打った方が良いかしら。

 それに、他にまだまだ危険な物もありそうです。

 ……そういえば、さっきの奴は、最近サラザールの蛇を手なずけたと得意気なことを心の中で思っていましたわ。危ない毒の対策も必要ですね。またそのうちお客様に相談しましょう。次こそは礼儀正しい方に来てほしいものです。

 

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