グリフィン・ドールハウス(勇気の人形館) 作:チキン
1990年 詐欺師
ハンサムさんいらっしゃい。ここは魔法のドールハウスです。あなたのように綺麗な人形でいっぱいですの。どうぞ見ていってくださいな。
ええ、あなたはハンサムですよ。だからお呼びしました。
はい。とってもハンサムです。
あの、ちょっと、いったん、こちらの話を――。
…………。
……ああ、はい。そうですよ。はい。
……失礼、あなた。申し訳ないのですが、その、
……そうですか。
……はい。
……はい。
……はいはい。
……へー。
……さすがー。
……しらなかったー。
……すっごーい。
……センスいー。
……そうなんだーってそんなわけないだろお前がゴドリックと同じレベルなわけないだろお前マジ調子乗んなよぶち殺すぞお前、いや失礼、口が滑りましたわ、うふふ。
……。
……あー、もう取り繕うのも面倒ですね。あなた顔だけは美しいから、綺麗な人形にしてさしあげようと思って。あなたの綺麗な左手を見てください、さらに綺麗な蝋になっているでしょう?
人形になりたくなければ、早くお口を閉じて、頑張って脱出してくださいね。はいはい。頑張ってください。
――。
……えっ。ちょっと、もうべそかいて命乞い? 嘘でしょあなた、あれだけ勇ましいこと言ってたじゃないですか。もっとこう、勇気ふりいぼって頑張らないんですか。
自分で呼んでおいてですが、ここまで勇敢な英雄ぶってて中身が伴ってない方、なかなかいないですよ。
……あー、はい。
……もうなんか、あなた人形にしても面倒そうですから、さっさと帰ってください。「私」の中に混ざってほしくないです。はい、お帰りはそちらです、どうぞお気をつけて。はい、黙って出る。はい、よくできました。さようなら。
――。
……嘘でしょ、今の、あの青色女の弟子? いくら性根の腐り具合がお似合いだからといって、あの女はあんなのでも弟子に取るの? ボケた? まさか顔に釣られた? 色ボケ?
……いや。
……あの男、全身が嘘と虚勢だったけれど。ただふたつ、自分の顔と、自分の「忘却術」の腕だけは、心の底から誇っていました。
たぶん、とっておきの一発を寄越すつもりで狙っていました。……あるいは、最初からそのつもりだった。
……そうすると、あの話術も、私が嫌がって追放するのをもくろんでいたのですね。うわべほど馬鹿でも軽薄でもない。
――。
……たかが「忘却術」で「私」が崩れるとも思えませんが。万が一、もしかしたら、危なかったかもしれません。気を付けるとしましょう。やはりあの青色女の息のかかった奴は、ろくなものじゃない。
1992年 ガマガエル
……あらようこそ、魔法のドールハウスへ。綺麗な人形が沢山あります。
…………あなた、一応聞きますが、人形になりたいですか?なりたくない、そうですか。では、適当に帰ってよろしいですよ。私、あなたを人形に仕立てることには興味ありませんので。
帰る前に中を見てみたいのなら、案内しますよ。どうぞどうぞ。
ええ、ええ、言わずともあなたのこれまでの苦労はわかりますよ。人間扱いされない惨めさ、醜い男にも嘲られる屈辱。
美しい人間は羨ましいでしょう? 憎らしいでしょう? でも愛でたくなるでしょう?だって醜い自らも美しい人間のほうが好きなのだから。
みんな楽しそうな顔ですって? ええ、ここの人形はみな幸せに暮らしていますよ。
……苦しんでる顔のほうが好きなの?趣味は合いませんね。苦しい顔は美しくないですもの。
美しい顔を壊したくなるんですか。うーむ、私の美意識には反しますね。より美しい世界に住みたいですもの。
で、こちらはマグルの人形が並んでますの。……あら、お嫌いですか。うーん、でも、あなた、父親はマグルなんでしょう?ああ、触れられたくないのね、ごめんなさいね。
じゃあ、そろそろ見終わりましたから、お帰りになってください。はい、こちらが出口です。ええ、安全ですよ。私、身も心も醜い方にはつい優しくなってしまいますの。それではごきげんよう。
1995年 赤毛とヴィーラ
あら美男美女、いらっしゃい。恋人かしら、夫婦かしら。
ふうん、英語の家庭教師と生徒。へえ、その距離感で。まあ、どちらでも良いですわ。
バカンス中でしたか?招待状を受け取れば、どこからでも来れますわ。小さい人形を見たでしょう?
それにしても銀髪のあなた、綺麗ですね。彼氏のほうもゴドリックみたいに燃えるような赤毛。へえ、ゴドリックの舎弟なの。
ああ、
――。
……ああ、変化に気づくのが早いですね。そうです、あなた達にもぜひ人形になってほしくて。
そう、嫌でしたら勇気を奮って脱出してください。困難を乗り越えたカップルは強い絆で結ばれると言うじゃないですか。まだカップルじゃない?はいはい、そういうのいいから、どうせ時間の問題でしょ。
はぁ、脱出してみるの。だから、ここは呪いのお墓ではなくて、ドールハウスなんですって。あなたの知識や技術でも、攻略は難しいですよ。なんていったって、かび臭い古代の魔法とは違う、最新の魔法ですもの。勇気を出してがんばりましょう! まずは二人で一緒に、そこの穴を飛び越えましょう!
――。
そうそう、その調子。良いですね。ハンサムさん、だいぶ人形になってきましたね。
まあ、休憩してそこらへんで存分に愛し合っても良いですよ。人間の肌も人形の肌も触れられるのは、今のうちですから。
……うーん、銀髪のあなたの方は、人形になるのが遅いのね。あなた、もしかして、ヒトじゃない血が混ざってる?
まあ、良いですわ。ヒトの血のほうが多いのでしょう?ちゃんとした人形になれるから、安心してください。私がこうして今話せているのだから、大丈夫ですよ。
え、急に黙って、どうしたの。
なにか、迷ってるって顔。ほら、はやく勇気を出しなさい。
ほらほら、勇気をもっと出して。
馬鹿女の顔じゃなくなりましたね。良い顔つき。
……。
……良い顔というか、鳥みたいになって――?
――。
見えなくなったわ。いなくなった。
…………男の方も見えなくなるなんて。
…………。
……ヴィーラ、というケダモノを思い出しましたわ。ケダモノに変身されると私は見えない。でも男と「私」の意識のつながりが途絶えたのはなぜかしら。「魅了」を使った?
……。まあ、どうせ、赤毛男の方は、女の顔と体目当てでしょう。女に情けなく守られた挙句に、あんな化け物みたいない醜い姿を見たら、女を捨てるに決まっている。女のほうも男を置いて行けば良かったのに。
……。……老いて醜くなるお互いを惨めに眺めるより、永遠に美しい人形に囲まれるほうが幸せに決まってますわ。まったく。
※ハーフヴィーラやクォータヴィーラが変身能力を持つか持たないか原作に記述は無い