百鬼夜行より連邦へ、弾丸を込めて   作:魚介(改)貧弱卿

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十七発目

「それはそうと、お嬢様、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「!はい!なんでしょう?」

 

「お嬢様は先程、『自動販売機で魚料理を出したい』と仰られましたが、具体的にどのような『魚料理』なのでしょうか

赤身・白身によっても適する調理法や捌き方も変わりますし、例えば煮付けのようなある程度汎用的な調理法もありますが、干魚や醤油漬けのように限定的な調理法もございます

まずは供する料理の具体的な種別をお教えいただけますか?」

 

 黒髪メガネの少女は私の方から少し眼を逸らして、ポツリとつぶやく。

 

「本当は、ミレニアムプライスで売り出すなら、活動実績と呼ぶくらいのものなら、鮭の切り身とかそのくらいで良いんです、鮮度もフリーズドライとか瞬間冷凍とか、それで十分で

自販機ですから、多少大型になっても文句は言われませんし、冷凍機を使って凍結してしまえばなんでも変わりませんから

でも、私は『生の刺身』を提供したいんです!」

 

 うつむいた姿勢から勢いよく視線を上げて、オウカの側を見上げる彼女の瞳は、不可能な壁に直面して絶望しながらも、なお足掻き続ける愚か者の目

諦めることを知らず、どれほどの犠牲を払おうと突き進み続けることを決してやめない勇気あるものの目だった。

 

「と、仰られますと」

「刺身は衛生管理がとても難しく、まずこの時点で『専用に研ぎ・洗った包丁』『その魚専用のまな板』とか『拭き物も魚や卵やと種別を分ける』必要があります、しかし板前職人が捌いてくれるわけでも無しに、そのような事をすれば大型化に歯止めをかけられません

それに保存も難しいです、『魚は冷凍すると味が変わる』とはよく言うもので、生魚のお寿司と冷凍品の解凍寿司は全く違う…

これは魚肉の中の繊維が凍結・解凍によって千切れたり、内外に生じる圧力差で細胞が破壊されることによって歯応えが変わったりする現象で生じるものです、

実際のお寿司も、生簀に入れて捌く直前まで生きている魚を使うように、鮮度十分な魚というのは『絞めた直後』の魚だけなんです』

 

 寿司を初めとした海産物を名産品とする百鬼夜行の出身であるオウカも、魚にはそこまで詳しくない

彼女はどこぞの職人や魚介類を取り扱う業者やらからこれらの情報を手に入れたのだろう。

 

「……」

 

「ですから、『生の魚(なまのさかな)』を提供するなら、『生きた魚(いきたさかな)』を提供する設備が必要なんです、でも流石に衛生的観念やスペースの問題、そもそも長期の完全自動管理ができないということもあって自販機に生簀を設置するわけにもいかず……」

 

 流石に水族館併設・魚料理自販機などというわけには行かないことはオウカにもわかる。

 

「なるほど、話はわかりました」

 

「なにか考えがあるんですか!?」

「生きた魚の鮮度を死んだ状態では保てない、捌いた後の魚は鮮度が落ちる一方である、ということはわかりました

外様の浅知恵かもしれませんが……生きた状態で瞬間凍結するというのはどうでしょう」

 

「スペースや衛生管理の問題は、『冷凍保存』が、鮮度の問題は『生きたままでの凍結』が解決するのではないでしょうか?」

「いえ……それは、もう試したんです、でもやっぱり凍結すると、解凍の時に熱の通りが不均一になって、体細胞が破裂して血漿状になってしまうので、歯応えとかそのあたりが劣化してしまって……」

 

「なるほど……」

「産地直送にも限りがありますし、生きたまま輸送するのも自販機に凍ったマグロやら鮭やらをドサドサということはできません、

なので、やはり結果としては先に捌いた切り身とか刺身を冷凍する、という形に落ち着いてしまって……」

 

「うぅ……む」

 

 そう言われれば他に考えが浮かぶこともない、腕を組んで歩きながら、静かに一つ一つ条件に頭を巡らせる彼女の姿を眺めながらオウカも思考を巡らせる。

 

「やはり、冷凍・解凍のプロセスを工夫することも重要ですが、真空瞬間冷凍がもっとも変質を少なくする凍結法であることは疑いようがないと思います

となると、解凍の方、熱の不均一をどうにかして、細胞の膨張・破裂を抑える方向に考えを向けるべきでしょう、しかし『物質の全体を均一に加熱する』のは、マイクロ派や遠赤外線には困難……」

 

「おいそこぉ!無視してくれてんじゃねえぞ!」

 

 考え込む彼女の目の前に、無粋な手榴弾が投げ込まれる。

 

「ふっ!オラァ!」

 

 咄嗟に前に出たオウカがグレネードを掴み、それが爆発する前に投げ返す。

 

「危険ですよお嬢様、一度お下がりください」

「超音波共振による振動加熱が……え?」

 

「お嬢様、お下がりください」

 

 生徒の中では単価(しょじきんがく)の高いトリニティが優先して狙われるものと思っていたが、ミレニアムも狙われるときはあるらしい

残念な思い違いだ。

 

「なんとかヘルメット団、お前たちには消えてもらう、これは先制攻撃を受けた上での正当防衛だ」

 

「はっ?!言ってろ!アタシ達インテリヘルメット団!ただのメイドにやられるほど落ちぶれちゃいねえんだよ!」

「……相手の実力もわからないなら落ちぶれる先もないというだけでありましょう」

 

 剣は抜かない、銃が一般的な武器・道具となっているキヴォトスでも、刃物が殺意の象徴であることは変わらない

隣でさっきまでお料理の話をしていたメイドさんが人斬り包丁で人肉を捌いているところなど見せられるものではない。

 

「……こちらから」

 

 拳を握り、数人のヘルメット団の中に飛び込む、僅かな間でもネル先輩との格闘訓練やミレニアムの誇る防衛マシーンとの共同訓練、エージェントとしての潜入活動など諸行を経て、オウカも強くなっているのだ

この程度の相手に心配することはない

義眼の解放も保留、神秘のみを解放して跳び上がり、槍のように水平に飛び込む事で遮蔽物ごと蹴り壊して貫通、その裏にいたスナイパーライフル持ちを一撃でノックアウトする。

 

「…………!」

 

 スナイパーの武器を強奪したオウカはそのままライフルを逆持ちしてバットのように振り、近くにいたハンドガン持ちを殴り飛ばす

まさに『飛ぶ』ように吹き飛ばされたそいつの軌道を跳躍して蹴り付け、空中での足場として反動を得る

神仙歩法、神足通として百鬼夜行の修験者達に知られる、舞い散る落ち葉さえも橋梁の如き確たる足場へと変える歩み

かの桃白某も行ったとされるそれで反射跳躍、天井を蹴るように向きを変えて上からの蹴りの一撃がボス格と思しい女へと直撃し、即座に昏倒させる。

 

「ざぁこ、とでも言えば良いでありますか?」

 

 このあいだのナントカヘルメット団とかガードメカと比べたら歯応えも味気もない連中だ、と呟きながらお嬢様の下へと掛け戻る

荒事は知識としては知っていても、流石に自分が襲われる経験はなかったのだろうか、怯えてしまっている彼女に優しく手を伸ばす。

 

「少し汚れてしまいましたね、帰ったら洗いましょうか」

「……はい!」

 

「あ、そうそう、鮮度についてなのですが

ノッキングというのは如何でしょう?」

 

 蹴って気絶させた一人のヘルメット団員を指して、オウカは説明を始める。

 

「大抵の生物は気絶・極度の緊張状態に置かれると、金縛りのように動くことができなくなるのであります

なので外部から刺激を与えて強制的に金縛り状態にし続けるなら、動くわけではないのでスペースも取りませんし、凍結しないので身の状態も良いままに保てると考えたでありますよ」

 

「あっ……なるほど!それなら確かに……!

すぐに試してみます!」

 

 目的地のスーパー側の逆方向、ミレニアム校舎側へと走り出す彼女を慌てて追い止めようとするオウカ、だが新しい技法・視野を与えられた研究者の熱意は時にメイドの完璧な仕事ぶりをも凌駕するのか、先ほどまでとは別日のような動きで走っていく彼女は話を聞いてはくれなかった。

 




初投稿です

ぶっちゃけ内容どうしよう

  • ストーリー重視(このまま)
  • はやく原作入れ(会長失踪)
  • 戦え……戦え…(戦闘重視)
  • 旅しろはよはよ(関係重視)
  • 消えてクレメンス(削除)
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