「完全復活!パーフェクト憂乃内さまだぜー!」
例の顎は流石に出ないが、退院直後でテンションの上がっているオウカの明るい声が響く
病院着から新品のミレニアム制服に着替えたオウカは今、プレパラートとしての職務から正式に解任された事で若干不安定になった立場から来る不安を意図的にシャットアウトするために無理矢理にでも気分を上げているのだ
ちなみに身元引き受けにはアカネが来てくれた。
「帰りますよ」「はい」
わざわざメイド服ではなくミレニアム制服をもってきたあたりアカネは事情がわかっているらしく、それ以上の言葉はなかった。
「それでは失礼致します」
優雅に一礼したアカネがヘリに乗り込み、そのエンジンを始動させる、
オウカも乗り込んで傍に置いてあったノイズキャンセリング機能付きの高性能タクティカルヘッドセットを掛ける。
「飛びますよー」「了解であります!」
C&Cの任務で使う6人掛けの軍用輸送ヘリではなく、通常の2人乗り偵察ヘリ、一応戦闘用に機銃は備わっているが、普段見るものと比べると2段階ほどグレードの落ちる型落ち品に思える
ミレニアムの空では民生用に払い下げられるような型落ち骨董品でもD・Uでは最先端機種と大差ないのだろう、それを嘲るような視線は飛んではこない。
「連邦よさらば、我が代表堂々退場す……でございます」
飛び上がったヘリはグングンと高度を上げていき、やがて水平飛行に移った。
「それにしても、ミレニアムの部活棟から急に飛び降りた挙句無断で連邦校舎にまで来て血塗れで倒れたなんて、何をどうしたというんですか?ちゃーんと、わけを聞かせてもらいますからね?」
「……申し訳ないであります」
「謝って欲しいとは言っていません、わけを教えて欲しいと言ったんですよ」
「お母様と同じ物言い……」
その瞬間、ヘリが大きく高度を下げる
本来の予定空路をそれて地上に向かっていくヘリはビル群の中を貫いて、いくつかの会社のビルをあっち向いてホイが出来るくらいの距離で擦れ違い、あやうく車のルーフに着地しそうになりながら強度を上げ直すアカネ、最近こういうのが流行っているのだろうか?
「流石に怖いでありますよ!いま怪我をしたらまた病院に送り返されるであります!」
「あら、それは申し訳ありませんね
なにぶん年寄りなもので平衡感覚が鈍くてぇ……」
「ヘリ操縦辞めやがれくださいでございます!」
そんな可愛い声の年寄りがいるか!と危険運転でよそに迷惑を掛けるな!の怒りの
高機能とは一体なんだったのか。
「煮るなり焼くなり蒸すなり漬けるなりご自由にするがよろしいが、潰されるのはごめんでありますから、安全運転で頼むでありますよぉ」
「あらあら、あなたに安全を説かれるなんて心外です、私個人的にはC&Cのメンバーの中で、あなたが一番安全という言葉から程遠い存在だと思っていたのですが」
「はぁ!?」
なお、アコギレは消音された
どうやら人の声とは判定されなかったらしい。
この後しばらく飛び続けてミレニアムへと帰りつき、ビルの屋上のHマークの中心へと綺麗に着地するアカネと、ヘリローターの風切り音が収まるまでヘッドセットを外すのを待つオウカはしばらく沈黙する。
「……………………あの……………ちょっと連邦生徒会内でゴタゴタがあったそうで……職を解任された奴が助けてほしそうにしていたので……急がなくてはならなかったであります」
「それで?」
「向かってみたら連邦生徒会長にそのままボコられたであります……」
「あら、では連邦生徒会長にも理由を尋ねなくてはいけないですね、なぜウチの憂晴オウカにまで手を出す理由があったのか、とね」
「ぜひお願いしたいであります、なんならどこぞの尋問手法みたいに石を膝に乗っけて角材の上で締め上げてでも吐かせてやって欲しいでありますよ
結局全然答えが導けないままやられたのでそのへんわからなかったでありますから」
ヘリのローターの音が収まってきたのだろう、少しずつノイズキャンセリングの範囲から外れ、ローターの音が聞こえ始める
そんな中で俯くように視線を落としたオウカは、最後にそれだけ言い切ってからヘリを降り、タクティカルヘッドセットを外してヘリの座席に置いてアカネが降りてくるのを待つ
結局彼女が降りたのは完全にローターが停止した1分後だった。
「さて、C&Cとセミナーのみんなが待ってますよ」
「こっわ!ボスラッシュのラスボス四天王全員戦でありますな!」
思わずゲーム開発部じみた発言が出てくるが、アカネはそれを完全に無視してオウカを促し、彼女と共にビルへと入っていく
アタシは3日前、授業前に突然部活棟の最上階から飛び降りて姿を消したっていうアホなことをやらかした後輩にヤキを入れに来てやっていた
だけどアカネに連れられて制服姿を見せたアイツはどこか弱っているようだった。
「おい、今日初めて会う先輩に挨拶もしねぇのかお前はよぉ」
「ぴっ!?」
C&C……いやメイド部の部員として当然のマナーの欠落を指摘しただけじゃねえかよ、そんな泣きそうな顔してんじゃねえよ、アタシが泣かしたみたいじゃねえか
もちろんそんなことは言わない、これ以上何を言っても追い詰められてしまうだろうから。
「……いいわ、査問会を始めましょう
被疑者憂晴オウカ女史は本学、ミレニアムサイエンススクールの情報・技術・機密、あるいはそれに類する物を奪取または漏洩する目的で留学してきた、違うかしら?」
「違う、留学目的なら履歴書に書いた通り、機械工学の勉強でありますよ」
リオが初手で突きつけた言葉はあまりにも鋭く、敵意を見せつけるようなものだった
『それはねぇだろ』と遮りたくもなるが、ここは抑える必要がある、今は耐えるんだ。
「ではその機械工学の研究成果を発表して貰いましょう、貴方が研究をしてきた内容を簡潔にね」
「急に言われても発表の体裁がないでありますが……いやわかったであります」
誰にも聞かせないような、小さなあいつの呟きを拾った
そりゃあそうだ、研究発表なんてそのために何ヵ月も準備することさえある、今やれと言われて資料がぱっと出揃うことの方が異常だ
アタシだってC&Cの活動の記録を出せと言われりゃ資料を漁る位はするが、それで今レポートを書けと言われても碌な物にはならないだろう。
「では今期の発表をするであります、まず私の研究テーマは機械工学の七分野、
先行研究は『土壌の改質と気候について』『砂漠を緑化するために必要な要素』『長期自律活動のためのAI開発』など先人の研究を扱わせていただいているであります」
するり、と始まった発表演説
最後の大モニターに映る映像があるわけでも、デモ機がテーブルに置かれているわけでもない
事前に入念な推敲があったわけでもない、文章は全て今この場、この時のアイツの頭ン中でパッと出力されたナマの物だ。
「まず、この機械の目標である『砂漠の緑化』そのために必要なのは自動的な砂漠への植樹植林とその保全であります
私はまずこの機械に組み込む『砂漠の緑化に必要なアイテム』を考えました、
緑化に必要な作業は主に
①地下水の汲み上げによる灌漑農法で水を確保する
②砂を被る事を防止するために砂防堤などを立てる
③植物が根付きやすいように土壌を作る
の3つであり、そのために必要なのは田植え機のように自動的に苗を植える機構と、灌漑のためのスポットを掘る機構、保水性に優れた団粒構造の土を敷く機構になります
私はこれら全てを一気に行うことは残念ながら不可能と結論付け、それぞれの役割を3機に割り振ることにしました。」
その割にはスラスラ出てくる言葉達、流石に言葉選びや文章構成は完璧とは言い難いが、まぁなんとか発表の
よほどに場慣れしているのだろうか。
「大気中の酸水素から水を作ることができる化学合成機を備えた散水朶テラ・ルッタ
逆に全方位へと風を吹き出して砂を押しのけ、種苗を散布する防砂翼テラ・メドー
土砂を積み込み、砂地を爬行しながら土壌を打設する造塁蜥テラ・ルーダニア
そしてそれらを統括運用するためのマスター機が管制駝テラ・ナポリス
4機のテラフォーマシンを連携させることで土壌の設置・植林・防護を完遂する予定であります
なかでもルッタは設計段階に入っておりますので、もう仮設計図はCADに入っております」
「ノア、マスターを」「はい」
ノアが手元のタブレットからマスターCADを呼び出したと思ったら、ノアに近寄って行ったアイツが自分のアカウントにアクセスしてファイルを開いたんだろう
アタシからは見えねぇが仕方ねぇ。
「……これは……」
「ゾウ、でしょうか?」
ちらりと見えた砂漠の中に佇み、全身から水を噴き出す緑色の大象のイメージ図が書かれたそれは脚や頭、肩や腹のパーツごとにブロック分けされた無数のパーツの設計図のファイルだった。
「あっはは!なにこれおっきすぎでしょ!」
リオとノアの後ろから画面を覗き込んだアスナが笑う、そのサイズが実際どうだかはわからないが、アスナがそんな反応をするくらいってことは実物のゾウよりよほどデカいんだろう。
「雑然としていて申し訳ないでありますが、新素材開発部とエンジニア部の皆さんに相談してそれ以上簡略化するのは困難という結論が出ているであります
今出せる成果らしい成果はまぁこれくらいでありますから、これで発表を終わらせていただくでございます」
オウカはお辞儀と共にアタシに近づいてきて、最後にささやいてきた!
「ルッタの全高は60メートルくらいであります」
「はぁ!?デカブツすぎんだろテメェは宇宙戦艦でも作る気かよ!」
「……まぁ、本当に作れるかはともかく、研究自体はちゃんとやっていたことは認めましょう」
アタシの叫びを呆れたようなリオの言葉が遮り止める、そして再び尋問が始まった。