「……取り敢えず離れますか?」
ネルの右手、刀身が突き刺さって
オウカも銃身に突き刺さったまま固まってしまったその刀身を残念ながら見捨てることにして、オウカの両手に握った拳銃と打ち合わされたネルの左銃を見つめる
互いの武器は互いの正面を逸れ、そもそもまっすぐにしか飛ばない銃弾は完全にその意義を失っている
近接格闘は身軽なネルに分があるが、オウカの素手格闘術も捨てたものではないことは分かる。
「そうだな……っと!」
飛び跳ねるようにお互い離れる、その瞬間にネルは左銃と鎖で繋がった右銃の残骸を振り回して鎖分銅のように殴りつけてきた
オウカも応戦して拳で残骸を叩きつけ、その突き刺さった刀身の根本、
しかし、背部が鎖で繋がった銃を引き続けなければならないネルと、既に切り捨てた残骸を握り直したオウカ
銃口ではなく背の側が正面になり、手首を捻られる形になったネルに、オウカの左手に握られた南部自動拳銃が向けられた。
「チッ……オラァッ!」
「フンッ!」
ネルは引き合いを放棄してオウカに向けて飛び込み、オウカが握った刀身の先に着いた銃と鎖をハンマーのように振り回してネルの頭を殴り付ける
ゴガァッと人間にぶつかった物が鳴らしていい音ではない硬質な音と共に、ネルの身体が一瞬
「舐めてんじゃ……ねぇよ!!」
額から血を湧かせながらもバネのように立ち上がったネルの拳を受けきれず、直撃してオウカが吹き飛ばされる
ゴムボールか何かのように空を飛んだオウカが、それでもツイン・ドラゴンの片割れを握りしめたままだったため、鎖ごと左銃も遥か遠くへと飛んでいった。
(俺の銃も弾切れ、向こうも銃は手元にない、弾を込め直すこともできない、仕方ない……)
銃身で殴る動きをメインに立ち回ろうとするオウカだが、着地狩りを繰り返すネルの蹴りに数回打ち上げられて地上戦を諦める
最初の打ち上げの最高地点からさらに投げ上げられて遥か向こうの地面に落ちたツイン・ドラゴンがまともに動くわけがないのでネルも拾いに行こうとはしない
そしてオウカが着地地点に回り込んでサッカーボールキックを繰り返してくるネルに蹴り付けられ続け、空中でゴム鞠のようにぽんぽんと跳ね続けている内に規定の時間が経過したのだろう、戦闘終了のブザーが鳴った。
「……今回の評定って、どうなるのであります?」
「あぁ!?」
愛銃の片方は刀が突き刺さって完全破壊、もう片方も修復可能かどうかすら怪しい状態にまで追い込まれてしまったネルはかなり御機嫌斜めなようで、オウカの質問に答える様子はない。
「オウカちゃん、ネル先輩、試合は終了です」
メカニカルな黒光りする外装と、サイバネチックな蒼いストリームラインが走る金属質な箱を持って小走りで寄ってきたノアが二人の前で箱を開く
ガシャガシャと格好いい音と共に開いたそれは中からアームや翼のようにも見える環状のリボルバーチャンバーを展開、その中から出てきたのは消毒液らしきスプレーや小さめなハサミから無数のメス、止血鉗子などなど手術器具と思しいものだった。
「えっと……」「……」
オウカとネルが沈黙する中、キュピーン!という音と共にセンサーが起動し、二人の状態を自動的に診断する。
『打撲7箇所・火傷4箇所・銃創100箇所以上・裂傷31箇所、打撲のうち3箇所に内出血を確認、ダメージ判定ランクC、治療が必要です』
『骨折6箇所・打撲35箇所・銃創100箇所以上・火傷2箇所、骨折のうち粉砕骨折2箇所・複雑骨折1箇所・重大な内出血・ダメージ判定ランクE、手遅れです』
「あの、俺手遅れって……」
「くっ……笑っちまうだろそれはぁ」
俺を見ながらニヤニヤと笑う彼女を見詰め返して睨みつけると、あ?やんのか?と向こうも睨みつけてきたが、ノアがそれを制してちょんちょんと脱脂綿に含ませた消毒液を塗って
突然切り傷に脱脂綿を当てられたネルが悲鳴を上げて、ノアごとオウカを睨みつけた。
「テメェらぁ……」
「うふふっ、意外に可愛い声でしたね」
「可愛い声でありました」
「ぶっ殺されてぇのか!」
「あぁ……ノアどの、俺手遅れだそうなのでがんばって治療お願いするでありますよ」
全身に銃創や打撲痕、大規模な内出血による青痣や骨折などの重傷もあるため本格的な治療が必要になるだろうと判断したオウカはそれを言い残して、気合いで維持していた意識が
「……これ、どっちの勝ちなんだ?」
「えっと、判定としては武器喪失でオウカちゃんの勝ちになります、意識の喪失による敗北判定は決着後なので適用はできませんので、引き分けにはなりませんから」
「チッ……そうかよ」
「ノア!ネル先輩!オウカ!」
ノアが入ってきた入り口の方から、演習場に駆け込んでくるのはユウカだ
彼女も彼女でスプレー缶のようなものを握っている。
「取り敢えず傷を塞ぎますから、じっとしていてください!」
とりあえずネルのスカジャン(ボロボロ)を引っ剥がしたユウカが彼女に付いた切り傷や擦り傷にスプレーを噴いていく
すると傷口の上に吹き付けられたスプレーミストが固化して擬似的な瘡蓋に似た物が形成されていく。
「無理やり傷口を留めただけですから、治っているわけではありませんが少なくとも出血は収まります、ノア、オウカは?!」
「呼吸と脈拍は安定していますが、骨折があっておそらく内臓に骨が刺さっています、臓器に刺さった骨を抜いて内出血を止めるには簡易治療キットよりも本格的な治療を施さないと……」
「ノア、表面の傷を塞いで出血を防いで、それからキットのストレッチャーモードで医務室まで運ぶわよ」
「はい!」
ユウカがオウカの上着を脱がして傷を露出させ、打撲痕が中心になっているその傷を見て眉を顰める。
「これ、どうなってるんです?こんな怪我するなんて普通じゃありません」
「ユウカちゃん、出来る限り!」
簡易治療キットと呼ばれた(元)黒青の箱の円環状に並んだリボルバーチャンバーから冷却油の入った試験管型容器を抜き、ハンカチに包んだそれを火傷している右手に押し当てたノアはそのまま止血帯を巻いて内出血の防止のため特に傷の数が多い右腕を間接止血する。
「キット!ストレッチャーモードを起動して!」
『了解、
機械音声と一緒にガシャンと横倒しになったリボルバーチャンバー、そのクッションの効いた上面の部分が広がり、そこにオウカを横たえる2人
「医務室に向かってちょうだい!」
『了解、移動します』
キャラキャラと音を立てながら演習場の出入り口に向かって走っていく簡易治療キットwith半死人
ミレニアムの科学技術が進んでいるように、ミレニアムの医療もまた機械化が進んでいるのである
ミレニアムに医療系の部活が存在しないのは、そもそもほとんどの傷がこのように簡単に対処可能だからという背景によるものである。
「大丈夫かしら……」
「銃も壊れちゃったみたいですし、ちょっと心配ですね」
「アタシの銃もブッ壊れてんだよ!」
「「でもネル先輩なら武器使わなくてもなんとかなるじゃないですか」」
「ざっけんじゃねえぞテメェら!」
なお、これまでの任務報酬を兼ねてユウカのポケットマネーで武器を作り直すことになった。
たーすけて!だれかインスピレーションちょうだい!
このままじゃまたエタっちまう!