「うにゅぅ……むにゃむにゃ……ぐーすかぴー……げんざいすいみんちゅうであります、」
いちごミルクだのバナナミルクだのと呟き始めそうな、間抜けな表情で寝ているオウカ
結局あの戦いの後、ミレニアムの誇る新雪の如き白皙の美少女(自称)が作った全自動マシニングオペレーターによって肺に刺さっていた肋骨を抜かれて骨を継ぎ直され、内出血で膨れ上がっていた青痣からも血を抜かれなどなど様々な処置が施されて眠っていた。
「幸せそうな顔をしているわね……」
「会長、結局オウカの処分ってどうなるんですか?」
「そうね……」
リオは一度言葉を切り、ありもしない空を眺めながら続けた。
「曲がりなりにもネルに勝利した以上、処分はできないでしょう、そう言う話だったもの
傷を癒してからはいままでどおり、
ぱぁっ!と途端に表情を明るくするユウカから目を逸らして、リオは退散していった。
「よかったであります、これでエージェントとしての活動権限取り上げられたら儲けが無くなってアビドスが終わるところだったでありますから」
「えっ?今の聞いてたの!?」
「すやー……げんざいすいみんちゅうであります……」
「どう見ても起きてるじゃない!」
途中からヘイローが付いていたのにも気づいていなかったユウカから目を逸らして、寝たふりを再開するオウカだが、流石に露骨過ぎたようだ、今度ばかりはバレてしまった。
「もう!心配したんだから!起きてるなら起きてるってちゃんと言いなさいっ!」
「でも起きたらまた騒がしくなるでありますから……」
「言い訳しないっ!」
「ひぃん!であります」
まったく『ひぃん!』らしき表情になっていないオウカが形だけその鳴き声を発して、ユウカの言葉を遮り、それ以上言い募ろうとする彼女を止める。
「とりあえず助かったでありますが、治療費ってその……どのくらいに……」
「なんでエージェントとしての仕事で怪我した治療費を自腹で出す前提なのよ!そんなのは経費よ経費!こっちで支払っとくからあなたは大人しく寝てなさい!」
「あっ、じゃあ頭撫でて欲しいであります、気分よく寝られる気がするでありますから」
再びツノを出そうとするユウカに向けて、オウカがベッドから頭を向けると、ユウカは反射的に手を伸ばしてそっとその頭を撫で始めてしまった。
「落ち着くであります」「そう、よかった……って、なんでナチュラルに頭を撫でさせているのよ!」
「バブみを感じてオギャったら想定以上のママみがあってフィットしたであります、今後ともよろしくお願いするでありますよ」
「私、まだママなんて呼ばれる歳じゃないんだけど!」
「みんな大好き母性ありすぎユウカママであります」
「なんでよーっ!?」
いくら自分で否定していてもミレニアムの生徒たちは大体がユウカを家族内に当てはめるなら『姉』や『妹』ではなく『母親』を選ぶだろうことは間違いない、これは学内アンケートを実際に取れば明らかになることだ
実際にはユウカはそのアンケートは絶対に作ることはないだろうが。
「ん、何か来るであります」
「何かって?」
「ああ!」
論理立てた返答のまもなく迫る何者か、それに対応するためにオウカは無理矢理にでも立ちあがろうとして力を込めるが、折れた脚や肩に無理な力が掛かって激痛が走り、思わず硬直する彼女を尻目に、扉が勢いよく開かれる。
「やっほー♪アスナだよ!なんか起きてる気がしたから……来ちゃった!」
「来ちゃったって……」
「なんだ、先輩でありましたか、よかったであります」
道理を弁えないクズが釘バットでも持ってお礼参りに来でもしたかと警戒していたオウカが安堵のため息を吐き、ユウカは突然病室に入ってきたアスナにお小言を付けようとするが、その前に彼女は左手に提げた小さなバスケットから何かの容器や造花であろう花などを取り出して置いて行く。
「これでよしっと、ちゃんと食欲とかある?一応だけど、擦りリンゴ、作ってきたよ♪」
「いただくであります」
アスナは明るい笑顔のままユウカをそっちのけにしてオウカの頭の横のあたりに自分の椅子を用意して、手元のタッパーを開けるとスプーンでその中身のいくらかをとって差し出してくる。
「はい、あーん」
「……」
首を横に伸ばしてあーんを受けたオウカは、約一週間ぶりの食事に感動していた
アスナは差し出すだけ食べて行く雛鳥のような少女に微笑みながら言葉を続ける。
「食べながらでいいんだけど、オウカがいなかった10日間の間にあった出来事をゆっくり説明していくね?」
「解説のゆっくりアスナ先輩でありますな、聞き手はゆっくりユウカでお願いするであります」
その言葉に対してユウカは顔を
「あはは!じゃあまず一番前のことから話すんだけど、オウカが連邦生徒会に向かってから病院に籠ってるころにね、犯罪率が急にすっごく上がったんだ
ブラックマーケットとかすっごいよ?トリニティの流し物っぽい戦車とか出てきたんだから」
「戦車……まぁこないだの星精密機のアレよりはよっぽどマシでありますな……そういえば、彼女たちはどうなったでありますか?」
スプーンを離したオウカの言葉、前半は笑い話のテンションだが、後半は内容の重さから軽口じみた言葉の勢いは無くなる、そしてそれにはアスナではなく、ユウカが答えた
「今は薬を抜いていってるところよ、成分の調査は終わってるから、化学的に類似した比較的無害な薬成分を合成して、それを投与することで禁断症状を誤魔化しながらね、ゆくゆくは完全に無害な物質までスライドさせていって、『多少それが好き』なくらいに納めたいんだけど、それはまだ先の話よ」
「なるほど、薬中は辛いでありますな」
「そうね」
しかし、アスナに『あーん』されるという全先生の夢のようなシチュエーションを体験しながらも、オウカが考えるのは他人のことばかり、自分がどんな状態かなどは聞いてすらいない
『手遅れです』とまで言われた自分の状態が、気にならないわけがあるだろうか?
それに微かな違和感を覚えたユウカが、話題をオウカ自身へと切り替える。
「それより傷は平気?まだ痛んだりするところはある?」
「大丈夫、骨はまだ軋んだり響いたりするでありますが、肉と皮はもう治っているようでございますから、多分もう動くであります」
「多分じゃいけないのよ?あなたはれっきとしたミレニアムのエージェントなんだから、ちゃんと自覚して自分の体調は把握しなさいよね」
思ったよりちゃんと自己診断をしていたようだ、と内心評価を改めながら、今のオウカのメディカルデータに目を走らせる、
血液検査はオールクリア、血中成分は鉄分にやや不足があるが通常の食生活でカバー可能な範囲、血中のコレステロール値はやや高いが正常値だ
糖尿病や高血圧、血管の閉塞なども見られない
骨密度は明確に不足しているが、それは何度も折れては修復を繰り返した影響だろう、その他様々諸々色々な項目を流し見ても別段特筆するような異常は見られない。
「うん、あと数日、骨が治ったら退院できそうね」
「よかったね、オウカ!また一緒に任務、いこ!」
「んぎゅ!?……よろしくお願いするであります」
アスナの嬉しそうな声と共に多めに口に突っ込まれた擦りリンゴに若干喉を詰まらせながらもなんとか返答するオウカ
この後またしばらく話は続き、そして時は過ぎていった。
「私のミスでした」
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況
結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったこをと悟るだなんて……」
私と相対する女性、水色髪を持つ彼女の独白、それはまるで絵本を語り聞かせるようで、
過去の記憶を述懐するようでもあった。
「……今更図々しいですが、お願いします、先生
きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません、何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……」
夢の中で言葉に返事ができないように、私は何も彼女に言えない
そして彼女もまた、私の返答を期待しない、独り語りは続いていく。
「ですから……大事なのは『経験』ではなく『選択』
あなたにしかできない選択の数々」
「責任を負うものについて、話したことがありましたね。」
話したことなんて、ない
少なくとも今この時点で、彼女の顔に見覚えはない、そのはずだ。
「あの時の私には分かりませんでしたが……今なら理解できます。
大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択、それが意味する心延えも」
責任も義務もこの手に負ったことはある、けれどそれは、少なくとも彼女の目の前ではないはずだ
疑問を覚えた無数の言葉たち、それに対する答えを得られないまま無情に思える時は過ぎて、そして私は、夢の果てで目を覚ます。
「ですから、先生。
私が信じられる大人である、あなたなら。
この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。
そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです。
だから先生……どうか」
「待って!あなたは、あなたは誰!せめて、名前を──
「──い、」
「先生、起きてください」
「先生!!」
鋭い声と共に、私を夢の世界から引き戻したのは、黒い髪を背に流し、白い衣装を纏ったエルフの女性だった。
「……。」
「………………?」
「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。
なかなか起きないほど熟睡されるとは」
よほどに寝ボケた顔をしていたのだろう、私の顔を一瞥するなり目を逸らして言い捨てる。
「夢でも見られていたようですね、ちゃんと目を覚まして、集中してください」
「もう一度、改めて今の状況をお伝えします
私は七神リン、学園都市キヴォトスの連邦生徒会所属の幹部です、そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生、のようですが……」
言い淀む彼女に視線を負けると、彼女は一つ息をついて語りを続けた。
「……。あぁ、推測形でお話ししたのは私も先生がここにきた経緯を詳しく知らないからです」
「そりゃあ困るね」
「こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います、でも今は取り敢えず、私についてきてください」
私は自分が突っ伏していた机から起き上がって、歩き出した彼女の高い背を追って歩き出した。
どんどん書き上がりから投稿までの猶予時間が短くなってきてる
推敲ができなくなってきている
多分誤字も増えているだろう、許してくれ