「なーんか静かでありますねぇ……」
「あぁ、こっちの戦力は軒並みD・Uに回してんのかもな」
嫌な予感がする、と言わんばかりの声色を出すオウカ、それに対してネルが死にそうなセリフと共にオウカの側に視線を投げかけてくる。
「最近やけに騒がしいのはもう知ってるよな?ソレ関係で今、ユウカが連邦生徒会に怒鳴り込んでる
セミナーの会計様がいないんじゃミレニアムも盛り上がるってわけだ」
吐き捨てるようにそう言って、ネルはオウカに話題を変える旨を視線で伝えた。
「それよりコレ見ろよ、新しいアタシの銃、ぶっ壊れたツインドラゴンを出来る限りレストアして作り直したんだ、壊れた方と握りも癖もほとんど同じ、全くいい仕事やってくれるよな」
「上機嫌でありますな……愛銃復活おめでとうでございます」
どことなく嬉しそうなネルに祝辞を告げると、ネルはさらにもう一つのブツを出す。
「お前のも持って来てやったぞ」
「おっ、尖月も直ったでありますか、ウタハ先輩に礼を言わないといけないであります」
オウカもそれを受け取ると、ベッドサイドのテーブルに鞘を立て掛けて置き、ネルへと視線を戻す。
「で、本題でありますよ
『
「ふっざっけんな!タイムアップの判定がちょっと有利だったぐらいで勝ち負けが決まるかよ!あのままやってたらKO勝ちはアタシの物だ!」
「ふーんそういうこと言っちゃうんでありますなぁ〜……?勝負の結果を無視して自分の有利な条件での『もしも』ばっかり考えちゃうんでございますなぁ〜〜」
「テッメェェ……またボコされてぇみてぇだなぁ……!」
「ふんふんふぅ〜ん」
お昼寝にちょうどいい場所を探していそうな鼻歌と共にゆっくり視線を逸らしたオウカは、ベッドの上からでも微かに感じた振動に硬直する。
「近い」「おい」
音は聞こえない、わずかな振動ももう消えてしまった
だがあの振動は間違いない、地震などとはまるで違う一瞬で発生する強振動、それは爆発の振動だ。
「立てるな」
「問題ないであります」
「行くぞ」「出撃」
先ほどまでふざけた会話をしていたとは思えないような鋭い視線と共に、ようやく治った足で立ち上がる
ブレードは使わない、流石にこのコンディションで近接戦闘は無理だ。
「普通のライフルとか中距離用の小銃はないでありますか?」
「あぁ?んなモン自分で用意してねぇやつが悪いんだよ」
しかし流石に拳銃単独の装備では、と若干不安を覚えたオウカが一応ネルに声をかけてみるが、帰ってくるのはつれない返事だった。
「それもそうであります」
それにめげずにオウカは病室をサラッと抜け出し、入院着のままでネルと共に廊下を駆け抜けながら怪しい場所にアタリをつけていく。
「部活棟より手前、教室棟か、あるいは特殊教室の可能性が高いであります」
「んなこた分かってる!とにかく手近なところから総当たりするぞ!」
「いやアカネ先輩から座標を探してもらうのではダメでありますか?」
オウカが出した提案を聞いて一瞬考えるが、すぐにNoが出た。
「いや、アカネ相手でも今のお前が戦闘に参加することは説明できねぇ、アイツが聞いたら絶対に協力を拒否してくる、ヘタに肉声だけはクリアに通しちまう最新型の通信機に全く声を届かせないなんてのは不可能だ
仮に完璧に黙ってたとしてもアイツはアタシがオマエの病室に向かったことを知ってる」
ネルの計算ではアカネは絶対にこの状況に勘付く、連絡をしなくても、なんなら今すでに気付いている可能性すらあるだろうとも考えながらそれを端的に説明してきた。
「なら通信はできないでございますね、武器を借りにも行けない、これだけの装備でやるしかないであります」
「お前が大人しく寝てりゃ全部解決する問題だろうがよバァカ」
「酷い!せっかくミレニアムの治安のために勇気を持ってボロボロの身体でもなお立ち上がったヒーローになんて言い草でありますか!?」
「あぁ!?聞こえなかったのか?ボロボロなんだったら大人しく寝てやがれってんだよ!」
全ての問題がオウカに由来しているというのなら、いっそオウカを
それについて行くためにオウカも足を加速させるが、ネルのビル壁を利用した急角度な立体機動についていけずに失速、置いて行かれてしまう。
「先輩が酷いであります……まぁ結局別行動は必須だったし、仕方ないでございますね」
スッと思考と表情を切り替えて冷静になるオウカ、まず必要なのは現場の状況と場所の把握だ、普段ならそんな情報はオペレーターに尋ねるだけなのだが、今戦闘は単独での突発的な物、なんの準備も情報も与えられていない。
「……仕方ない」
ビルをスルスルと飛び降りたオウカは足音を消して爆破の振動の、その発生源と推測した方向へと走って行った……。
「これ、報酬は出るんです?」
「えっ……それはその、リンちゃんに言って欲しいかな、私まだシャーレの事なんにも知らないし、事務とか手を付けてすらいないからね」
「先生、こちらへ」
「わかりました」
するっとユウカの厳しい目線を抜けて、リンに案内されるがままにシャーレビルの地下へ行くと……
「ふぅーーん、これが一体なんなのか、全く分かりませんね、これでは壊そうにも……」
ついさっき撃退したはずの黒髪に豪華な黒のミニスカ振袖セーラー、ガーターベルトの差す太ももの絶対領域だけ剥き出しな狐面の少女、狐坂ワカモが何かをひっくり返したり回したりと弄んでいた。
「…………」
「あら?」
「さっきぶりだね?」
「あら、あらららら…………あぁ……し、しっ……」
「失礼いたしましたー!」
タブレットを放り出して駆け出してしまった彼女を見送って、その自分によほどの自信がなければ着られないだろう美少女専用衣装の翻る裾と揺れる太ももを後ろから眺めていると、正面の階段側からリンちゃんがやってくる。
「何かありましたか?」
「いや、何もないよ」
「そうですか……ここには、連邦生徒会長が残したものが保管されています」
ワカモちゃんがそこを走って行ったよ、などと言おうものなら厄介なことになるだろうと判断した私はそれを敢えてスルー、リンちゃんへと視線を戻す
彼女は彼女で自分のスタイルによほど自信があるのだろうボディラインのクッキリ出る制服の乳袋をゆっさゆっさと揺らしながら棚や机を漁り、そして最後に、テーブルに乱雑に置かれた状態になっているそれを手に取った。
「幸い、傷一つなく無事ですね……受け取ってください」
「タブレット端末?」
「はい、これが連邦生徒会長が先生に残した物、【シッテムの箱】です
普通のタブレット端末に見えますが、実は正体のわからないものです、製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組み全てが不明
連邦生徒会長はこの【シッテムの箱】は先生のもので、先生がタワーの制御権を回復させられるはずだと仰っていました」
リンちゃんはそれを私に手渡すと同時にその正体を、と言っても『不明』としかわからないが説明してくれた。
「私達では起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか……それとも
……では、私はここまでです、後は全て、先生に掛かっています」
「気が重いなぁ……」
「邪魔にならないよう、離れています」
「わかった、気をつけてね」
ワカモちゃんがまだその辺にいるかもしれないから、とは言わずに、私はタブレット、【シッテムの箱】の画面に触れる。
──システム接続パスワードをご入力ください
「いや知らないって……」
とりあえず、ひとまず適当に
……我々は望む、七つの嘆きを。
……我々は覚えている、ジェリコの古則を。
──接続パスワード承認、
現在の接続者情報を確認できました。
『【シッテムの箱】へようこそ、先生
生体認証及び認証書作成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します』
システムメッセージの文章が流れると同時に、私の視界は流れる光で白く染まっていった。