「むにゃむにゃ……うぅん……カステラにはぁ…いちごみるくよりぃ……ばななみるくのほうがぁ……かりかりもふもふ…しあわせぇ」
「………………」
水色の髪、同じ色のセーラーと白いスカートを着た、トップで耳のように結ばれた白いリボンが特徴的な少女、年齢としては小学生くらいだろうか?見た目や雰囲気としてはおそらく可愛いタイプの子だろう。
「…………」
見回す限りの光景は、敢えて単語にすれば『学級崩壊』だろうか?いやその語はつまり教育の体制崩壊であって、物理的に教室が崩落している様ではないはずなのだが
それでもやはり、荒廃し、壁や天井の3割ほどを失い床上まで浸水したインフィニティ・エッジを眺める限りに於いて、それ以上に似合う語は私の語彙には存在していなかった。
「とうきょうばななはぁ…ばななよりぃ……らくがんにちかぃえしゅ……」
「……………」
「うへへぇ……」
ぷにっ、そんな擬音がつくのだろう、少女の頬をつついて見ると、とても柔らかくてほかほか子供体温、それに若さがゆえか、すべすべもちもちの赤ちゃん肌だ。
「すごい、ゆでたまごみたい……」
少女の頬をプニプニしながら思わず溢れた感想は、少女の方にも聞こえていたらしい
それに対する返事はと言うと。
「たまごは……あまいやつがいいです……」
好きな卵焼きの味付けだった、どこかズレているようだが、夢の中ではこんなものだろうと納得した私はそれに同意する旨を伝える。
「私も好きだよ」
「えへへぇ……せんせぁ……わたしもだいすきですぅ……ふぇあっ!?」
もしこれが週刊少年ジャンプだったら、顔の横には確実に『ぱちっ!』という擬音が付くだろうほどの勢いで目を開けて、そのまさにぱっちりとした目を見せてくれる
彼女はすぐさまに伏していた上体を机盤から起こして、こちらに向けた言葉を繋げた。
「この空間に入ってきたってことは……もしかして先生??」
「うん、私が先生……みたい」
「うあぁ……落ち着いて…落ち着いてぇっ!……まずは自己紹介から、こんにちは先生、私はアロナ、このシッテムの箱に常駐しているシステム管理者でありメインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!
やっと会うことができました、私は先生をずっと、ずぅーーっと待っていました!」
えへへぇ、と明るく笑う少女、だが待って欲しい
さっきまで明らかに寝ていた少女が私を待っていたとはどう言うことなのか?
「寝てたわけじゃなくて?」
「あぅぅ!……も……もちろんその、たまに居眠りしたりすることはあるけど……」
「まぁともかく、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」
そっとアロナの頭を撫でると、にぱーっと言わんばかりの純粋な笑顔を見せてくれる彼女は一歩離れると、ぺこりとお辞儀をした。
「まだ体のバージョンが低い状態でして、特に声帯周りの調整が必要なのですが、これから先、頑張って色々な面で先生をサポートさせていただきますね!
あっ、そうだ!ではまず、形式的ではありますが、生体認証を行います……すこし恥ずかしいですが、手続きですから仕方ないんです、こちらの方に来てください」
アロナは私を手招きすると、そのまま右手の人差し指を伸ばして告げる。
「さぁ、この私の指に、先生の指を当ててください」
「えっと……これでいいの?」
彼女の細くて小さい指の腹に、私の人差し指を重ねる、まるで
彼女から声が掛かる。
「うふふ、まるで指切りして約束するみたいでしょう?」
「どっちかと言うと宇宙人の出てくる映画の指先が光るアレみたい?」
思っていたことを見抜かれて焦りながら適当なことを言ってやり過ごすすと、彼女は上瞼だけを器用に閉じるようにして半目になって、じとーっとこちらを見つめてくる。
「実は、これで生体情報の指紋を確認するんです、画面に残った指紋を目視で確認するのですが、すぐ終わります!こう見えて目は良いので!」
「どれどれ……」
空中に残ったそれを見つめて目を細めるアロナ(かわいい)
「んー……」
目を細めながらそっとそれなら顔を近づけて、諦めたように姿勢を戻した彼女は、ぱっと笑顔になって一言。
「はい!確認終わりました!」
「本当?いまなんかよく見えないかも……これでいっかぁ!みたいに適当にしてなかった?」
「えっ?手抜きしてるみたいですって!?えっと……そんなことありません!」
そもそも最近の機械なら指紋認識くらい自動でポンとやってくれるし、10世代前のiPhoneですら数秒掛からずに終わる機能ではあったのだが…。
「最近の機械なら指紋認識くらい自動、ですって?1秒もかからないんですか?私にはそんな最先端の機能は無いですが……そ、そんな能力なくても!目でも確認でますから!アロナは十分役に立ちますから!」
目を> <模様にしてぷるぷるするアロナ(とてもかわいい)
「だったら……その最先端のナントカさんのところに行ってしまったらどうなんですか!」
「いやそんなことはしないよ、アロナはかわいいし、私のために連邦生徒会長が残した物なんでしょ?あっさり切り捨てるなんてことは私にはできないかなぁ」
抱き寄せるようにして頭をなでなでしながら色々と褒めてやり、それで機嫌を直すまで数時間かかった……。
「爆発の場所は……ここか!」
「よう、ちょっと遅かったんじゃないか?美甘ネル!」
「あぁ?ちったぁ気合い入った奴がいるじゃねえか、アタシの名前まで調べてやがんのか?」
ついに現場に到着したネルが、珍しく単独で立っていたヘルメット団らしき生徒に声をかける、これも珍しくネルが会話フェーズから入ってやろうとすると、向こうは問答無用と言わんばかりに銃を抜いた。
「お前も、私の世界には不要だ」
「あぁ?理想に酔ってんなら好きにすりゃいいけどよぉ、テメェ人の学校まで土足で入ってきてその言い草とはどういう了見だオラァッ!」
銃を相手が抜いたなら、もう容赦はしない
ネルは踊り掛かって
速攻でカタを付けて爆発そのもののオトシマエもつけさせるためだ。
「…………ッ!」
様子見はない、手加減こそしても景気良く両手の銃からばら撒かれる銃弾を避けるそぶりも、防ぐ仕草も見せずにそのまま直撃する。
「あぁ?口ほどにもねぇな」
「………………」
手応えはあった、確かにほとんどの弾が直撃したはずだ、それが防がれたり躱されたりしたわけではない、では、なんなのか?
「よかった、
「まさかテメェ……」
ネルの脳裏に浮かんだのは、巨大な鉄壁を備える城塞のごとき威容のイメージ
もはや壁だとか岩だとかそんなレベルではない、『城』だ。
「素であれだけの弾を受け切ったのかよ」
「そう、だといったら?」
「……決まってんだろ、オマエが倒れるまで、撃ち続けてやんだよ!」
再び火を吹くツイン・ドラゴン、流石に向こうも本格的な防御姿勢をとる、銃身に備えられた簡易的な装甲である程度の面積をガードする構えだ。
「どうした、そんなもんかよ!」
「痛みはない、苦しみもない、幻覚も……ない!」
銃弾の雨を振り払って、黒いヘルメットの一部にヒビを刻みながらも突撃してくるヘルメット団の彼女は、なんと右手を回した背後から警棒を取り出して殴りかかってきた!
「甘ぇっ!」
しかし、
「オラよっ!」「ぬくっ!」
振り回された警棒の側面に銃床による打撃を打ち込み、その衝撃で彼女の手から警棒を吹き飛ばす、テコの原理を応用した大きな力を、スイング中の予期せぬタイミングで掛けることで彼女の握力を上回る圧をかけたのだ。
「喧嘩を売る相手を……間違えたなぁっ!」
吹き飛ばした警棒を目で追ったのだろう、一瞬視線がこちらから離れる、その隙にリロードを済ませたツインドラゴンを接射してそいつの体ごと吹き飛ばす。
「さぁて、尋問の時間だ、ここに何しに来やがった?」
応答はない。
「言え」
ガン、と硬質な音を立てて、そいつの腹を蹴り付ける、煙を上がる銃口を腹に押しつけて焼き込みながら何度もトリガーを引いて、口を開きやすくしてやるとようやくそいつは言葉らしい言葉で返してきた。
「さっきのキックで忘れちまったよ」
もう一発。
「ナイスショットだ」
もう一発。
「もう弾切れじゃねえか?」
もう一発。
「アタシは我慢が得意じゃねえんだ、そろそろ喋れよ、でないと死ぬぞ」
普段であれば、よそであれば流石にここまでしない、だが今は場所が悪い、状況も悪い、急激に治安が悪化し、最近には発電所までイカれる事態があった、その中で単身警備をすり抜けて侵入してきたヘルメット野郎、何もかもがコイツを殺してでも尋問する理由を作っている。
「連邦生徒会長が失踪したって話、知ってるか?」「あぁ?知るかそんなこと、関係ねえだろうが」
つまらない戯言を抜かすならもう数発撃つ事を想定に入れながらヘルメット団員の言葉を聞いてやると、ネルは顔面を蒼白にした。
「ふざけてんじゃねえぞ……!」