古明地てんとの明朗   作:ナチュラル7l72

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追記:表現を少し変更しました
追記:ものすごく表現を変更しました


プロローグ
最高の能力


おっす俺てんと!

 

 

長男かつ末っ子な俺はこの世に生まれた瞬間からハードモードが確定だった。なぜならクソほど振り回してくる次女と俺の足をアホほど掬いたがる、嫌味ながらも勝ち気な長女がいるからな。そしてさらに両親からは「男なんだから!」の決まり文句で手伝いまでさせられる始末。ほんとに酷い性別かつ順番で生まれてしまったもんだ。

 

さらに俺に与えられた生はマイナー妖怪の覚り。家族間での嘘はまるで通じず家族に嘘を付けない俺は歳の差という圧倒的理不尽な権利によりいつも論理性皆無の義務を押し付けられていた。やれ洗濯を手伝えだの料理を代われだの…。理論派な大姉上様はともかく電波気質な姉上にまでその態度をとられるのははっきり言ってクソが付くほどムカつく。「弟とか妹っておさがりを貰ったりするもんなんだって。だからこれあげるからその新しいのは私のね」と言われて衣服はぎ取られんの控えめに言ってヤクザすぎやしないか?

 

だがそんな理不尽ながらも楽しい生活を送っていた我が家族は唐突に崩壊した。いや俺が知らなかっただけで元から向かっていたらしい。

 

俺がハイハイを卒業して少したった頃、妖怪界隈全体が人間に排斥、および討伐され始めていた。いやはや人間というものは個としては脆弱極まりないが種としてはなかなか精強らしくふと目を離した途端に何やら知らない謎技術を作り出し俺たちに反撃を仕掛けてきていた。それに対し舐めてかかった妖怪は当たり前のように殺され、徒党を組んでなお我々は人間に押されてきているらしい。当時は一歩外に出歩けばすぐ見つかる程度に妖怪たちが天下を取っていたようだが今やそれは見る影もない。そしてこうなるとますます人間達の勢力は拡大していくわけでして、俺達もかなり危険な状態になり始めてきていた。いやはや生まれる性別と順番をミスったと思いきや年代までもツキが悪いとは。困った困った。

 

 

そしてとうとうその影響が如実に表れ始める。

引っ越しするとだけ伝えられ寒々しい外へと家から出る。だがおかしな事に父さんの姿はどこにもない。ちなみに母はこれより前に遠い場所に行ったとだけ父さんに伝えられ母さんとはそれきりになっているし、今回その父さんも姉からよくわからない理由、支離滅裂な説明で家を離れたと伝えられてしまった。

 

覚りに嘘なんかつけるはずがないのに本心を心の最奥に隠し一時的に俺からそれを隠した姉は素直にすげーって思った。説明の仕方が下手すぎてすぐにわかったけど。

 

そんなこんなで弱冠にしていつの間にか俺は家族のほぼ半数と死に別れることになってしまった。

まだ大して年も重ねてない故に情はそれほどないためその事に関してはまだ大丈夫だが、よりによって稼ぎ頭だった母さんと父さんがいなくなる事態に。俺たち妖怪は別に食事がなくとも死にはしないが飯を食わなきゃ確実に身体能力に支障が出る。飢えた状態で人間に襲撃されたらひとたまりもないだろう。あーあこんなことになるんだったらせめて姉たちか俺が死ぬべきだったな。俺と次女なんて特に足引っ張ってるし。というか足を引っ張る対象すらいなくなってしまったわけだがこれからほんとにどうすればいいんだろうか。長女に関しては足を引っ張らずとも勝手にこけそうだし。

 

そして家庭崩壊はいまだ進行形だ。長女はどんどん目の隈が酷くなっていってるし次女は前と変わらず笑顔が絶えないが目に光がなくなっていっている。心なしかサードアイの瞳が寝起きのように細くなっている気もするし。不謹慎だと自覚していないブラックジョークを何度も口にするようにもなり頻繁に長女と喧嘩するようになっていた。

しかしこれはもうどうしようもないことだ。毎日人間に殺されるかもしれない、そんなストレスを恒久的に受け続けて心が壊れていかない者の方が少ないだろう。

 

ならばその悩み、足ばかりを引っ張ってるわけじゃないんだぞってとこをここらで見せるべくこの古明地てんとが解決してしんぜようではないか。

ようは皆人間が怖いから心が不安定になってるわけだ。

ならば話は超簡単。その原因を物理的に消せばいいってわけだ。

 

 

「おねーさん。そう、そこの人間のお姉さんだよ。なんか表情暗くね?よければ俺に聞かせてくれよ」

 

 

なんで誰もそのことに気が付かないのだろうかと疑問に思いつつ、俺はさっそく村に潜入にいかにも悲しんでいそうな、この村の隙を見つける。

 

 

「よければ聞かせてくんない?」

 

 

もちろん聞かされずとも俺にはこの女性の悩みの種なんぞ当たり前のように見える。ちょっとサードアイに写してみればその中にはくだらない傷心が渦巻いていた。

 

ところで俺は今の状況についてまったく心配していない。育て親は死に、姉たちは病みかけで、生活は破綻しかけ。

けれど俺はある一つの確信を抱いていた。

 

覚りは最強の妖怪である。その信念さえあれば俺はこの程度の逆境なんぞにゃまったく恐れはしないのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

父と母を殺した人間達に混ざり妖怪たちとの闘いで荒れた彼らの土地を起こす作業に参加し銭を稼いでいく。覚りの証である三つ目の瞳を隠すために着ていたダッフルコートを脱ぎ捨て川から汲みあげた冷水を浴びて汗を落とす。そして泥と同化して眠りにつく日々。

 

 

 

「君、顔いいね。こんな土木工事より、値が張る仕事をしていかないかい?」

 

 

 

服で隠した瞳を使わずともわかる、その穢れた心と体。いったい何度私の心は凌辱されればいいのだろうか。

 

 

 

「…いえ、結構です」

 

 

 

仕事を終えもらった給与をポチ袋に放り込み帰り路を汚れた服と煤まみれの手をそのままに行く。

妖怪の強靭な肉体でさえも悲鳴を上げ睡眠と休息をを熱望するが、明日の5時からまた仕事だ。6時間の一時の休憩を挟んだ後また私はシャベル片手に金を稼ぎに行かなければならない。

食料がなければいざというときに逃げられない。けれど働けば働くほど私の存在が露呈する可能性が高くなっていく。どう考えてもリスクとリターンに見合っていないが、わかっているけれど抜け出すことは叶わない。

 

 

 

「あ、帰ってきた。さとりねえちゃん」

 

 

 

眠気と疲れで地に落ちていた視線を上げるとそこには快活な笑顔を携えた私の大事な姉弟の1人、てんとがいた。

 

古明地てんと。

お天道様のような男になるようにと願いが込められつけられたその名は願いに違わず明るい燈色の髪色、愛おしい笑顔を私たちに向けていた。

母が人間の強襲に倒れ、父が遠征に参加し二度と帰ってこなくなり、いつ歪んでもおかしくない弟の精神は奇跡的にまっすぐ成長し続けていた。

 

思わず頬が緩む。

 

 

 

「どうしたの、わざわざ家の前で待ってて。何か私に用でもあったの?」

 

 

 

「んー…。こいしねえちゃんも来るからその時話すよ」

 

 

 

その悠長さに思わず能力を強めて具体的な内容まで見ようとしたが、やめる。サプライズでもないんだろうけれど、せっかくならばその用事とやらを初見で見てみようじゃないか。てんとのどこかウキウキしている気分を感じ取り私はそう思った。

 

眠気を紛らすついでに服についた汚れを手で払っているとひょこひょことした足取りでこいしが玄関から出てきていた。私と同じようなデザイン、その緑の色違いのコートを着込みつつ私たちのもとに寄ってくる。

 

 

 

「あ、お姉ちゃんおかえり。今日もお疲れさま」

 

 

 

「ええ、ありがとうこいし」

 

 

 

濡れたハンカチを私に手渡して労ってくれるのは私のもう一人の大事な姉妹、こいし。そんな妹と未だに共に過ごせているのは奇跡なのかもしれない。

 

覚りは相手の心を読む。それ故に嘘による気遣いなんてむしろ逆効果だ。

そんな当然のことを、阿保でもわかることを昔の私は失念し思わず嘘をついてしまった。母は、父は生きていると。

 

その表情をバレないように観察すると、前よりかは顔色が良くなってきていた。流石にあの時──髪をブチブチと引き抜きながら大粒の涙を流して私の嘘を糾弾してきた時──より悪くなっていたら困るじゃすまなかったから本当によかった。

 

そうこそりとみていたはずだけどこいしはちらりと私と目を合わす。

 

…別にもう気にしてないよ

 

そんな思考が流れてくる。…思わず泣きそうになったのは私だけの秘密だ。

 

 

 

「二人とも揃ったね。じゃあ行こっか」

 

 

 

てんとは私とこいしを見て、そう言って山道方面へと足を向ける。

 

 

 

「どこに行くの?」

 

 

 

「多分、面白いものが見れるよ」

 

 

 

そんなことを言うてんとはこいしに「てんと、サードアイ丸出しじゃ人間じゃないってバレちゃうよ」と言われつつ薄緑の大きめのコートを二人で一緒に上から羽織っている。こいしも成長したものだ。ちょっと前まではてんとと一緒に面倒を見られる側だったはずなのに、少しづつ世話をするようになってきている。

 

テクテクと迷いなく歩いていくその足取りは確固たる目的地が決まっているのだろう。こいしも私も行き先を問わずについて行っていた。

 

 

 

「ここだよ」

 

 

 

ついたのは山道の途中にある崖の端。というよりは広げた腕から察するに見せたかったのは崖から見える何かの風景なのだろう。

 

なにか、わざわざ見せたくなるような風情のある美しい風景なのだろうかと崖下を覗く。

 

 

そこには地獄が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あの売女を殺せえええ!!!」

「やっぱりあいつが俺の地位を盗ろうとしていたんだ!!奴が主犯だ!!」

「やめてええ!!子供もいるのよ!?」

「ハト派の連中はゴミばかりだ!!売国奴どもが!!」

「痛い痛い痛い」

「俺の米が…金が…住居が…」

「なんで…!」

「磔にして燃やせ!骨も残すな!!」

(ああ…燃えていく…この村の大切な思い出が…)

「おばあちゃん!」

「誰か、だれか助けて…」

 

 

 

「……っ」

 

 

滝のように流れだす彼らの思考、言動が瞳を通り脳に突き刺さる。私は思わず地面に尻もちをついた。言葉が出ない。喉から転がり出てくるのは乾いた息だけだ。

 

私がさっきまで恨み言を吐きながら仕事をしていた村からは怨嗟や怒声、恐怖、そして死が蔓延していた。家屋からは炎が燃え上がりそれを燃料にして拡大していく。武士達の手には槍や剣が握られお互いの腸を切り裂きあう。刈り取られた首から上は棒に突き刺され案山子のように立ち尽くしていた。

この思考の間にも何十人もの人間が赤いなにかに濡れていく。

 

風に乗る腐臭が鼻を衝いた。

 

 

 

「この村の村長のお嫁さんがさ、苦しそうな顔してたんだよね」

 

 

 

てんとがなんでもないようにそうつぶやく。

 

酸っぱいものが喉の奥から湧き上がるような感覚。私たちが直接なにかされたというわけではないのに涙がこみ上げ膝が抜けていく。何故てんとはこんなにものんきに会話をできているのか、全くわからない。

 

 

 

「村長が他の女に現を抜かしてるかもしれないんだってさ。そんで村長のところに行って話を聞いてみたら本当に浮気しててさあ」

 

 

 

いや、本当はわかっている。何故てんとは、なんて理由は一つしか存在しない。てんとの言う言葉がサードアイを通して情景と共に伝わってくる。いやでもわかる。主犯はてんとだった。

 

泣き崩れる女の話を聞くてんとはその足で村に向かい、一つ間違えたら殺されるかもしれないというのに村長と対談していた。私のサードアイで見るてんとのそれは私たちのものと比べ影のない快活な瞳をしている。そのせいか幾分精度がいいようだった。

 

 

 

(あいつは俺の地位を狙っている…。俺の金…食い物…女…)

 

 

 

その黒い思考を目の前で受け止めているはずのてんとの心は汚れていない。それどころか、研磨したように輝いていた。

 

 

 

「嫁さんにはそれを脅して浮気をやめさせればってそれとなく伝えて、村長には俺が覚りであることを真正面から言ってみたんだよね。そしたらどうなったと思う?」

 

 

 

てんとは初めて知った豆知識を披露する子供のように、もったいぶった口調で問いかける。

てんとはこいしと一緒に入っていたコートを脱ぎすてる。

 

 

 

『覚り…?覚りだと…?!』

『妖怪だとバラされたくなければ、俺に味方しろ!!ここで殺されたくなきゃな!!』

(こいつを使って、奴らの弱みを握れば俺の地位は確かなものになる…。それどころか隣村の連中も…俺の女も完全に服従させられるぞ…!!)

 

 

 

背を大火に包まれた村に向け私たちに向き直る。てんとの思考を読み終え脳にリソースが空いた私はてんとの様子を視界に収める。この場にいる誰よりも喜びに満ちた笑顔をしていた。

 

 

 

「村長の頭は酷く都合の良かったんだよね。自分の欲が満たせるうちは俺の事を味方だと信用して、いざ俺が裏切るって公言したらそのことさえも信じちゃってさあ。自分の情報が全部盗まれることを危惧したのか、それが火種になって文字通り全部燃えちゃった。結構強かった父さんを殺した連中がだよ?」

 

 

 

当たり前のように言うその言葉に体が強張る。てんとは父の死を知っていた。なんとか誤魔化せたと思っていたけれどまるでそんなことはなかったのだ。

 

客観的に見ればそれは当たり前のこと。覚りに嘘は通用しない。曖昧にして誤魔化せれたと、そんなわけがないのはわかっていた。わかっていたけれどてんとのその屈託ない態度が、笑顔が、仮初の希望、甘えとなり私は目を背けていることを許してしまった。

いつから、いつからてんとは壊れていたの?いつから心が邪悪に目覚めてしまっていたの?

その疑問の答えはすぐに解かれる。

 

何も変わっていない。てんとが生まれてから今までずっと姉として見てきた私が見逃すはずがない。

要は最初からてんとはてんとだったというだけの話だった。

 

 

 

「…さとりねえちゃんはこの能力を嫌ってるけど、そんなに怖がらないでよ。俺達って強いんだからさ」

 

 

 

ただただ呆然とその所業にショックを受け続けていた私はてんとの気遣うような声音には気づかない。

その柔らかな手で私たちの手を取り、森の方へと導いていく。もはや必要のなくなった元の住居へは二度と帰らなかった。




村人さん達、聞こえますか?俺たちから貴方への鎮魂歌です!
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