古明地てんとの明朗   作:ナチュラル7l72

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追記:大幅に表現を変更しました


行脚編
村八分された男


押忍!俺てんと!

いやーなんか色々あった結果収入先の村が全焼して家をでなくならなきゃいけなくなっちゃったぜ。後先考えずさとりねえちゃんのためにやってみたけど、冷静に考えて収入源がなくのはなかなか痛いのでは?と思わなくもない俺なのであった。おかげで前よりも飢餓が酷くなっている始末である。けれど直近の村が滅びたことで少なくとも人間達から襲撃されるリスクは格段に小さくなったのでご飯を買わねばならない原因が塵となったことを考えればギリプラスだろう。そのおかげか、さとり姉ちゃんとこいし姉ちゃんのストレスも幾分か小さくなったような気がする。飢餓になって改善されるとかこれ如何に。

 

現在、使えるかわからない銭と毛布だけを藁の鞄に押し込み姉たちと一緒に放浪をし続けてはや5日。とりあえずの目標は妖怪たちが密かに暮らしているであろうどっかの土地に行って安寧を手に入れること。勿論あるかもわからないけどね。…それとも、自分たちで作らなくちゃいけなかったりするのかなあ。

 

 

 

「足疲れたー…」

 

 

 

「…そうね。一旦休んだ方がいいわ」

 

 

 

いくら妖怪とはいえ体力は無限じゃないし限界はある。昼も夜も歩きっぱじゃ足も腫れ上がるってもの。ただでさえ最近妖怪という種全体が人間に舐められっぱなしな上、元々覚りという妖怪自体あまり恐れられていないことも相まって妖力もまったく回復せず体力ばかりが消費させられていく。見られたら人外バレするから絶対にしないが空を飛ぶほどの妖力もないのは流石に苦すぃ…。しかしいくら苦しんでいようが事態は好転するわけもなく。苦しむことに飽きた俺は幹より上が切り倒されている切り株に目を付け団子3兄弟のように皆で尻を落ち着け足を休ませる。3姉妹だけど。

 

 

 

「…ん?」

 

 

 

その辺の竹と麻紐で作った水筒の水をシェアして飲んでいると前からなにやら挙動不審な何かが歩いてきている。

見窄らしい服装に血色の悪い肌。歳は40過ぎくらいか、一見すると乞食のような男がいた。

 

そんな様相の男が俺たちをパーソナルスペースを無視して妙に凝視してきている。一応サードアイは服の中に突っ込んでいるはずだが、もしや人外バレしてはります?いやバレてたらもう逃げてるはずだしな。それともどっちかの姉に見惚れてるとか?はえー趣味の悪い奴。

 

 

 

「…。…?、ま、まさか、君達は村の外の人間かい?」

 

 

 

「んー?」

 

 

 

その声は俺たちに向いていた。もちろん俺はこの男を知らないしねえちゃん達も不審者を見るような思考をしている。だとすれば随分と馴れ馴れしい奴ということにはなるが。けど俺たちをまるで自分と同じ人間かのように声をかけてくるこの人は何だか面白そうな事情がありそうだなあ。

 

 

 

「…そうですね。私たちは数日前からこの辺りを散策しています。そういう貴方は?」

 

 

 

対外向けの口調になっている姉に会話を任せ男の様子を人目も憚らずにじろじろともう一人の姉と共に嘗め回していく。まるでついさっきまで炭鉱かなんかで働いていたかのような煤汚れた見た目。焦燥感を隠さず俺たちと会話していること自体に喜んでいるかのような...

ふーむ。

 

 

 

「僕は…そうだな、実はここから15里くらい離れた村から僕、村八分されちゃってさあ…。何が原因かは全然わからないんだけど、ずっと無視されてて…。それだと生活もままならないなあって思って、こうして村の外で食べ物や水を探してるんだあ…」

 

 

 

思ったより可哀想な身の上のようだ。けど安心してくれ!もうお前の仇は討ってやったからよ!*1

 

 

 

「君達、どうやらまだ未成年のようだけどどこかの村や町から来てないかい?同郷のよしみ…ではないけれど、よかったら教えてほしいな」

 

 

 

おいおいこいつぁ面白くなりそうだぜ。久しぶりにうまい飯が食えそうだ。さてどうやって調理してやろうか…。とニチャつく俺を横にさとり姉ちゃんはを進めてる。

 

 

 

「その、いい難いんですがあなた、」

 

 

 

とここでさとり姉ちゃんが余計なことを口にしようとしたので肩に手を回して言葉を発する口を塞ぐ。吐息が手のひらに吸い付きくすぐったく感じつつも立ち上がって大振りに腕を振るう。

 

 

 

「そんな遠慮せずとももちろん教えてあげるよ!俺たちも村に帰るとこだったんだよねぇ。旅は道連れ世は情け、一緒にいこうじゃないか!」

 

 

 

汚れをぱっぱと手で叩き落としつつ適当な方向に向け歩を進める。男は嬉しそうに「ありがとう!」と告げ俺の後を追ってきていた。その様子は正に養殖場の魚。男は自分が何のために餌を与えられているかを理解していない表情をしている。

 

 

 

「…嫌な方向に純粋ね」

 

 

 

「てんとってこんなに性格悪かったんだね」

 

 

 

何を言う、真実とは誰の手にも与えられるべき権利だ。それを邪魔することは誰であろうと許されはしない。たとえそれをどのような形で言おうともね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

旅は道連れ。旅行の際道連れがいると助け合うことができ何よりも心強く大切なものであるという意味である。

果たしてこの男にとって私たちとの道連れは良いものなのだろうかと思考せざるを得ない。

 

 

 

「村八分って、よほどのことがないとされないだろうに。どんな大ごとやらかしたの?」

 

 

 

「一応、切っ掛けみたいなものに覚えはあるんだ。僕は炭鉱夫だったんだけど、少し前の崩落事故を切っ掛けにみんなが僕を無視し始めたんだあ。もしかしたら、僕が起こしたとでも思われちゃったのかもね」

 

 

 

とそんなことを考えている合間にも二人は楽しそうにお喋りしながら私たちの先頭を歩いていく。てんとは聞きづらい事もズバズバ質問し男は久しぶりの会話なのか、その答えづらくもある質問にもとても楽しそうに返していた。

 

 

 

「皆怪我無く採掘所を出てこれてるのに、というかそもそも僕原因でもないのに皆が僕を村八分した上に、陰湿ないじめもしだしたんだ」

 

 

 

「虐めねえ。石投げられたりとか?」

 

 

 

サードアイでとっくに視ているはずだというのに敢えて聞くてんと。

その質問を皮切りに男の脳内により詳しいその時の情景が映し出され始める。思わずため息をつきたくなるような光景。サードアイの見たくもないものを自意識に従わずに映し出すその特性は最高でもあり最悪でもあった。

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

「それが…、僕の家を勝手に撤去した上に花瓶に入れられた花も供えていったんだ。いくらなんでも酷すぎると思わないかい?」

 

 

 

村から追い出されて6日。なんとか自然の祝福にありつきながら生き延びている僕は道すがら帰路についている少女達に出会った。

 

欧米人が着るようなスカートとフリルのついた長袖の服、果実のような美しい髪色。見目麗しい顔立ち。

 

そんな美人に会えた縁も嬉しいが、一番に嬉しかったのは僕と会話をしてくれたということだ。

 

僕は今村八分されている。隣人との距離が近い村社会で無視される、いや居ないものとされるのは僕が想像していたものより数段キツイものだった。

 

店では何も買えないし質からお金を借りることもできない。そもそもそのお金自体使えないし入会地に属する水源も使えない。さらには僕の住居は無人と判断され取り壊し、そして畑に改築されてしまった。

 

村というのは横の関係、村の人達と助け合って生きていくのが必須だ。わかっていたとはいえ、僕はその村で生活する権利を失ってしまったのだ。

…そして何よりつらかったのは僕が密かに思いを寄せていた小夜さん、その人にも僕は無視されていることだ。

幾度声をかけても反応されることはない。ただ時々、僕の間違いじゃないのなら、つらそうな、物憂げな表情をしていたので本位ではない、はずだ。

 

村八分はだいたい2年で解除されると聞いたことがある。それまで別の村で過ごすか、もしくは変装して入りなおすか。どちらにせよ一度生活を整える必要があるだろう。

 

けれどようやく僕の運気も上がってきたのか、お先真っ暗だった僕の前に彼女たちが来てくれたというわけだ。どうやら別の村出身のようで、これから帰る所だった彼らを捕まえることができたのは僕にとって本当に最高の出会いだ。

 

 

 

「あ~それは確かに酷いなあ」

 

 

 

「本当だよ!…でもおかしいんだよね。村の人たち、そんな性格の悪いことをするような人たちじゃなかったと思うんだけど」

 

 

 

少女たちの中でも唯一、男の子のてんと君が僕の言葉に同意してくれる。だがハーレムのようなものではなく皆似た顔立ちであることから姉妹であることが伺えた。

 

しかし、彼女たちはどこかおかしい。普通彼女らのような年齢の子供がこんな時間に親不在で出歩いているのは不自然だ。村の外、特にここのような山や林溢れる自然豊かな場所では野党や強盗が出やすい。彼女らが万が一それと出会ってしまえば持ち物をすべて奪われた上、容姿の良さから売り物にされてもおかしくない。

だからなんの用事かは知らないが本来それは大人の仕事のはずだ。…けれど僕は「どうして」と聞くことはできなかった。

今の中年世代は軒並み憎き妖怪との闘いで亡くなっている。だからこの世代で親のいない、家もない子供というのは珍しくないことだから。

 

…家もないのはぼくも同じだったな。明日は我が身とは思っていたけれど、まさか今日だとは思わなかったなあ。

 

 

 

「本当に可哀そうだね。まるで死人みたいだ」

 

 

 

明るい燈色の髪を揺らしててんと君は、何故か少し笑ってその単語を口にする。

 

 

 

「ぇ」

 

 

 

その不謹慎な単語に戸惑い声を詰まらせる。

すぐに言葉を切り返しそれを誤魔化そうと言葉を口から出そうとした。

 

あれ?でも待って。まるで、死人

その言葉を皮切りに様々な記憶が駆け巡る。

 

炭鉱の崩落。そしてどうやって出てきたか覚えのない炭鉱の入り口に立つ僕とそんな僕に話かけない仲間たち。思えばこの時から僕は無視され始めたんだった。

 

まるで、死人 ?

 

村の人たちから無視され続ける日々。店の人に物を買うと言っても聞こえないかのように扱われる日々。家の前に献花され、だんだんと撤去されていく様子を眺める日々。小夜さんの涙が僕の家の前で一滴落ちたのを確かに見たあの日。

 

死人みたいだ。

 

 

 

「どうしたんだよそんなに顔を白くして。いや会った時から元々蒼白だったっけかな」

 

 

 

ポンと肩を押されて、抵抗できずその場に崩れ落ちる。

地に視線を落としてしまって僕は彼の顔を見れなかった。何か彼が、彼らが恐ろしいもののように思えて顔を上げられなかった。

彼は、僕の耳に口を近づけ囁くように言った。

 

 

 

「バカなアンタは自分が死んだことにすら気づかず、未練を残し切って成仏もできずにこの世を一生彷徨い歩くんだ」

 

 

 

目の前が真っ暗になる。物理的にではない。視界に用いるリソースがなくなったの程のこれまでの思い出が脳を埋め尽くしていく。無慈悲なその言葉は僕の記憶が事実だと認めてしまっていた。

 

僕は、死んでいた。死んだ自覚すらなく唐突に人生から投げ落とされていた。

なんだ…?どういう事だ、僕は…誰にも見つけてもらえず生き続けるのか?…死に続けるのか?

 

いやだ。

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

気づけば周りには誰にもいなかった。

美しい少女達も、輝くお天道様のような髪色の彼も、誰もいなかった。

 

 

 

「嫌だ!」

 

 

 

瞳に溜まっていた涙と嫌な汗を拭って僕は立ち上がる。

 

 

 

「嫌だ!!」

 

 

 

周りを見渡しても、どこに行っても、彼女たちはいなかった。僕を唯一その瞳に収めてくれた彼女たちはどこにもいなかった。

 

 

 

「…そうだ、村だ。僕は、帰らないといけないんだ」

 

 

 

彼は僕に未練を残して成仏できないと言っていた。なら未練を断ち切らなければ。

小夜さんに何も伝えていないんだ。

 

 

 

「行かなきゃ」

 

 

 

このままじゃ僕はただの死人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけどそこには地獄があった。

*1
前話参照




太陽が見捨てたのなら誰が彼を見つけるのだろうか。あるのは深海のような闇ばかり。
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